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Ⅷ 消えない印
④
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発情期は五日で終わった。その間、ジリスはネモスを求めて暴れた。
以前のようにアルは悲しい顔でジリスを慰めてくれた。アルとジリスが身体を繋げたのは、ほんの一瞬だけだった。
発情期後はアルが徹底して甘やかしてくれた。ジリスがネモスを求めたことにアルは触れてこない。
「ジリス様、宿の者に食事を部屋に持ってきてもらいましょう」
発情期が明けて三日目になると、ジリスの食欲は戻った。
「うん。あ、キナはどうしたの?」
「宿の者に世話を頼んであります。馬屋に入れてもらいました。先ほど見てきたら元気でしたよ」
「そっか。あの、アル。番になれなくて、ごめん」
一言だけ伝えたかった。けれど、アルと番になれない現実を口にするのは辛い。ジリスは唇を噛みしめて床を見た。
「ジリス様」
アルが傍に寄るのが分かる。ジリスの身体がビクリと震える。
「俺は、あなたと番になる事が目的ではないのです。愛するあなたと想いが繋がっていることが大切だと思います。俺とジリス様は、心の伴侶なのです。それで充分です」
アルがジリスに膝をつく。顔を覗き込まれて、嫌でもアルと目が合う。アルがジリスの頬に手を添える。大きな手だ。
「うん。僕も、それで十分だ。心の伴侶っていいな。僕はアルがいてくれたら大満足だ。そうだ。黒国には発情を抑える薬があるから、もう苦しい事はない」
「はい。せっかく白国から抜け出たのです。楽しい事を考えて、俺と幸せに生きることを考えましょう」
アルの太陽のような笑顔に吸い寄せられるようにジリスはアルに抱きついた。
「わっ! ジリス様」
よろけながらもアルはジリスを抱き留めてくれる。あはは、と声を出して二人で笑った。
本当だったら考えなくてはいけない事はある。
黒国でジリスとアルが受け入れられるか分からない。ネモスが生きていたら、ジリスを探すだろう。
黒国に戻れただけでは解消できない問題がある。
でも、この瞬間は全て忘れてアルとの幸せに浸っていたかった。
「さあ、行こう。僕が生きてきた場所は黒国王城だ。そこにしか、行くところがない」
発情期後の回復を待って、宿から出発を決めた。ジリスは不安で仕方がなかった。
万が一、黒国で神の掟を破った反逆者だとされたら、ジリスには生きる道がない。
そうなったら、ジリスは黒魔術でアルを助けると決めている。
アルには世界で一番の幸福を与えたい。ジリスを忘れて、幸せに生きる道をあげたい。命を引き換えにしても良い。
アルの幸福にジリスの命が使われるのなら本望だと思えた。
「はい。行きましょう、ジリス様」
ニコリと微笑むアルと触れるだけのキスを交わした。なんだか「行ってきます」のキスのようで照れくさい。
ガチャリと部屋のドアを開けた、その時。
「ジリス‼」
弾丸のようにジリスに抱きつく人がいた。
「うわ!」
よろけるジリスをアルが支えてくれた。
「え、ええ? 兄様?」
ジリスと同じ体格の、よく知る相手にジリスは驚愕した。
「ああ、ジリス! 可愛いジリスだぁ。ちゃんと戻れた! 神に感謝します。ジリス! よく頑張った!」
興奮のままに叫ぶ兄のカザルに圧倒されて、ジリスは呆然とした。
その内にワンワンと泣き出すカザルをどうして良いのか途方に暮れると、カザルの番のディンが頭を下げてから、カザルを引きはがしてくれた。
ジリスから離れたカザルは泣き顔でグシャグシャだった。
「えっと、どういうこと?」
首を傾げるジリスの背をアルが抱き留めた。
「数日前から、黒国のカザル殿下とディン妃殿下がこちらに来ております」
アルの落ち着いた声にジリスは顔をしかめた。
「アル! 僕を嵌めたな! 兄様がいるのを教えてくれても良かったじゃないか!」
つい大声が出た。するとカザルが声を上げて笑った。
「あはは! 俺がお願いしたんだ。ジリスを驚かせたかったし。アル公には感謝申し上げる。おかげでサプライズ成功だ」
アルがクスッと笑って頭を下げた。
「さすがジリス様の兄上殿下です」
「だろ!」
満足そうに笑うカザルの髪は、肩上に切り揃えられている。黒国の者で短髪は、黒魔術を使った事を意味する。
「兄様、髪は、どうされたのですか?」
再会の挨拶もせずにジリスは聞いた。
「うん。ジリスが無事に黒国に戻れるために黒魔術を使った」
ジリスはハッとした。白国から脱走の間、白国軍には見つからなかった。国境の結界をアルと通り抜けた。その全ては、カザルの黒魔術によるものだったのだ。
以前のようにアルは悲しい顔でジリスを慰めてくれた。アルとジリスが身体を繋げたのは、ほんの一瞬だけだった。
発情期後はアルが徹底して甘やかしてくれた。ジリスがネモスを求めたことにアルは触れてこない。
「ジリス様、宿の者に食事を部屋に持ってきてもらいましょう」
発情期が明けて三日目になると、ジリスの食欲は戻った。
「うん。あ、キナはどうしたの?」
「宿の者に世話を頼んであります。馬屋に入れてもらいました。先ほど見てきたら元気でしたよ」
「そっか。あの、アル。番になれなくて、ごめん」
一言だけ伝えたかった。けれど、アルと番になれない現実を口にするのは辛い。ジリスは唇を噛みしめて床を見た。
「ジリス様」
アルが傍に寄るのが分かる。ジリスの身体がビクリと震える。
「俺は、あなたと番になる事が目的ではないのです。愛するあなたと想いが繋がっていることが大切だと思います。俺とジリス様は、心の伴侶なのです。それで充分です」
アルがジリスに膝をつく。顔を覗き込まれて、嫌でもアルと目が合う。アルがジリスの頬に手を添える。大きな手だ。
「うん。僕も、それで十分だ。心の伴侶っていいな。僕はアルがいてくれたら大満足だ。そうだ。黒国には発情を抑える薬があるから、もう苦しい事はない」
「はい。せっかく白国から抜け出たのです。楽しい事を考えて、俺と幸せに生きることを考えましょう」
アルの太陽のような笑顔に吸い寄せられるようにジリスはアルに抱きついた。
「わっ! ジリス様」
よろけながらもアルはジリスを抱き留めてくれる。あはは、と声を出して二人で笑った。
本当だったら考えなくてはいけない事はある。
黒国でジリスとアルが受け入れられるか分からない。ネモスが生きていたら、ジリスを探すだろう。
黒国に戻れただけでは解消できない問題がある。
でも、この瞬間は全て忘れてアルとの幸せに浸っていたかった。
「さあ、行こう。僕が生きてきた場所は黒国王城だ。そこにしか、行くところがない」
発情期後の回復を待って、宿から出発を決めた。ジリスは不安で仕方がなかった。
万が一、黒国で神の掟を破った反逆者だとされたら、ジリスには生きる道がない。
そうなったら、ジリスは黒魔術でアルを助けると決めている。
アルには世界で一番の幸福を与えたい。ジリスを忘れて、幸せに生きる道をあげたい。命を引き換えにしても良い。
アルの幸福にジリスの命が使われるのなら本望だと思えた。
「はい。行きましょう、ジリス様」
ニコリと微笑むアルと触れるだけのキスを交わした。なんだか「行ってきます」のキスのようで照れくさい。
ガチャリと部屋のドアを開けた、その時。
「ジリス‼」
弾丸のようにジリスに抱きつく人がいた。
「うわ!」
よろけるジリスをアルが支えてくれた。
「え、ええ? 兄様?」
ジリスと同じ体格の、よく知る相手にジリスは驚愕した。
「ああ、ジリス! 可愛いジリスだぁ。ちゃんと戻れた! 神に感謝します。ジリス! よく頑張った!」
興奮のままに叫ぶ兄のカザルに圧倒されて、ジリスは呆然とした。
その内にワンワンと泣き出すカザルをどうして良いのか途方に暮れると、カザルの番のディンが頭を下げてから、カザルを引きはがしてくれた。
ジリスから離れたカザルは泣き顔でグシャグシャだった。
「えっと、どういうこと?」
首を傾げるジリスの背をアルが抱き留めた。
「数日前から、黒国のカザル殿下とディン妃殿下がこちらに来ております」
アルの落ち着いた声にジリスは顔をしかめた。
「アル! 僕を嵌めたな! 兄様がいるのを教えてくれても良かったじゃないか!」
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「あはは! 俺がお願いしたんだ。ジリスを驚かせたかったし。アル公には感謝申し上げる。おかげでサプライズ成功だ」
アルがクスッと笑って頭を下げた。
「さすがジリス様の兄上殿下です」
「だろ!」
満足そうに笑うカザルの髪は、肩上に切り揃えられている。黒国の者で短髪は、黒魔術を使った事を意味する。
「兄様、髪は、どうされたのですか?」
再会の挨拶もせずにジリスは聞いた。
「うん。ジリスが無事に黒国に戻れるために黒魔術を使った」
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