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Ⅷ 消えない印
⑤
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「ジリス様、俺は何となく気がついていました。白国軍は優秀です。下位貴族生まれのアルファもいます。それなのに、全く見つからず黒国まで来れたのは、誰かの護りがなくては無理ですから」
アルが国境の結界を越えるときに大丈夫だろうと言っていた意味が分かった。そして、カザルの優しさが嬉しかった。
「兄様!」
ジリスはカザルに抱きついた。
「わわっ」
カザルがよろけるとディンがその身体を支えた。先程と逆の状況だ。
「兄様、ありがとう」
お礼を口にすると、一気に涙が溢れた。
「兄様、帰りたかったよ。すっごい最悪だったんだ! もう、二度と白国に行きたくないよ。もう、嫌なんだ。もう、もう……」
ジリスは子どものように泣いた。今度はジリスがワンワン泣いて、カザルに「よしよし、よく頑張った」とひたすら撫でてもらった。
泣き疲れたジリスはアルに抱きかかえられて宿を後にした。
宿には黒国王室護衛軍と王室獣馬車が迎えに来ていた。
ジリスはアルと馬のキナを連れて、黒国王城に向けて出発した。
再会の興奮から気持ちが落ち着くと、ジリスの頭は疑問でいっぱいになった。
どうしてカザルはジリスが黒国に戻ると分かったのだろう。カザルはジリスの苦境を知っているようだった。
「ジリス様、体調が優れませんか?」
アルの声にジリスは顔を上げた。
「ううん。全然いいよ。ほら、黒国だし。落ち着いた馬車内だからね」
馬車内はアルとジリスの二人きりだ。座り心地の良い座椅子は黒色だ。
シックな色調にジリスは安堵している。アルには白の膝掛と白のクッションが用意されていた。
「アル、兄様と何か話した?」
「はい。少しですが」
「兄様、何か言っていた?」
「王城に着いたら、詳細は国王陛下と共に説明すると言われました。ただ、俺の事は、ジリス様の伴侶として黒国が受け入れると言われました」
「そっか。アルは、どう思う?」
「はい。カザル王太子殿下は王になるに相応しい人材であると感じました。白国では挨拶を交わした程度であったディン妃殿下も、愛情に満ちた人格者です」
この状況をどう思うか聞いたのに、アルからは違う答えが来てモヤモヤする。
「え? ディン様は惚気ばかりじゃない?」
ジリスの言葉にアルがクスクス笑う。
「いいのです。それで良いのだと思います」
笑われるとカチンとくる。全て悟っているような態度が腑に落ちない。
「アル、何か、意地悪だ」
ジリスが拗ねると向かいに座っていたアルがジリスの隣に移動してくる。きっとジリスをなだめるのだろう。
「ジリス様」
優しい声が耳元に響く。ついビクリとジリスの身体が震えた。
「いいのです。ジリス様は、ジリス様らしく、黒に甘えてください。ここはあなた様が愛される黒の国です。カザル王太子殿下はご聡明です。広い見解をもっております。頼っても、いいのですよ」
アルがカザルを信頼しているのが分かる。嬉しくて、少し悔しい。
ジリスもアルに褒められていたいのに。そんな嫉妬心を隠すようにアルに寄りかかった。
「アル、黒の国の王子として命令」
口をとがらせてアルに指示をした。我ながら幼い事をしていると思った。それでも、アルに思いっきり我儘を言いたかった。
「はい、ジリス王子殿下」
笑われると思ったのに、優しい声がする。
「撫でて。いっぱい、撫でて。好きって言って、欲しい。アルの一番が、僕だって、言って」
言ってみて恥ずかしさに身体が強張る。
「ジリス殿下。仰せのままに。俺の全ては、あなた様のために」
急にジリスの身体が持ち上げられる。
「うわっ」
驚きの声を上げたが、ジリスはアルの膝の上に抱き上げられた。膝の上に乗せられて、トントンと背中を撫でられる。
腕の中におさまる安心感と、アルに包まれる喜びが満ちる。
「俺の愛するジリス様。俺だけのジリス様。あなたが望むのなら俺は命でも、何でも差し上げましょう。これほどの想いを抱くのはジリス様にだけです」
ジリスが心に抱く想いと同じだ。
「あなたの頑張りを見ていたからこそ、ジリス様こそ幸せであるべきだと思っています。俺に力があるのなら、俺があなたを幸せにしたい。けれど、無力な男ですみません」
段々謝罪になるアルの口を、そっと塞いだ。唇の温かで伝わるといい。
ジリスもアルを愛している。ジリスの命を捧げても良いくらいに、愛している。
通じ合う想いが嬉しくてジリスは幸せに酔いしれた。
黒国王城に着くと、父王と母は待ち構えたようにジリスを歓迎してくれた。
「ジリス、よく帰って来たね」
「ジリスお帰り」
ぎゅうぎゅうに抱きしめられてジリスは嬉し泣きをした。そして、父と母は、きっと何か知っていると思った。
「父様、母様。怒らないの、ですか? 僕は、白国の王妃に、ならずに戻ってしまったのに。僕は、大きな罪も、犯しました」
ジリスの罪を隠せば後々大事になる。伝えるべきことは沢山ある。ジリスを受け入れてもらえるのか分からない。不安に駆られる。
「知っているよ。案ずるな。さぁ、疲れたろう。話もしたいから、中にお入り。それから、白国侯爵家アル・ダグリー公。ジリスを愛してくれて、ありがとう」
父が愛などと言うからジリスの顔が熱くなる。
「父様! 愛、愛とか! そんな……」
家族から言われると恥ずかしい。
「はい。ジリス様の伴侶として生きることを決めました、アル・ダグリーです。白国侯爵家からは勘当してもらいました。今は、ただのアルです」
堂々と挨拶をするアルがカッコいい。頭を下げる姿に、つい見惚れてしまった。
「承知した。顔を上げて。では、アル殿。黒国はアル殿を歓迎します」
「ありがとうございます」
ジリスはアルと微笑み合った。
「ほら、早く中に行こう!」
後ろからカザルの元気な声がする。
にこやかな笑顔に囲まれて黒国城内に入った。懐かしい賑やかさに胸がジンとした。
アルが国境の結界を越えるときに大丈夫だろうと言っていた意味が分かった。そして、カザルの優しさが嬉しかった。
「兄様!」
ジリスはカザルに抱きついた。
「わわっ」
カザルがよろけるとディンがその身体を支えた。先程と逆の状況だ。
「兄様、ありがとう」
お礼を口にすると、一気に涙が溢れた。
「兄様、帰りたかったよ。すっごい最悪だったんだ! もう、二度と白国に行きたくないよ。もう、嫌なんだ。もう、もう……」
ジリスは子どものように泣いた。今度はジリスがワンワン泣いて、カザルに「よしよし、よく頑張った」とひたすら撫でてもらった。
泣き疲れたジリスはアルに抱きかかえられて宿を後にした。
宿には黒国王室護衛軍と王室獣馬車が迎えに来ていた。
ジリスはアルと馬のキナを連れて、黒国王城に向けて出発した。
再会の興奮から気持ちが落ち着くと、ジリスの頭は疑問でいっぱいになった。
どうしてカザルはジリスが黒国に戻ると分かったのだろう。カザルはジリスの苦境を知っているようだった。
「ジリス様、体調が優れませんか?」
アルの声にジリスは顔を上げた。
「ううん。全然いいよ。ほら、黒国だし。落ち着いた馬車内だからね」
馬車内はアルとジリスの二人きりだ。座り心地の良い座椅子は黒色だ。
シックな色調にジリスは安堵している。アルには白の膝掛と白のクッションが用意されていた。
「アル、兄様と何か話した?」
「はい。少しですが」
「兄様、何か言っていた?」
「王城に着いたら、詳細は国王陛下と共に説明すると言われました。ただ、俺の事は、ジリス様の伴侶として黒国が受け入れると言われました」
「そっか。アルは、どう思う?」
「はい。カザル王太子殿下は王になるに相応しい人材であると感じました。白国では挨拶を交わした程度であったディン妃殿下も、愛情に満ちた人格者です」
この状況をどう思うか聞いたのに、アルからは違う答えが来てモヤモヤする。
「え? ディン様は惚気ばかりじゃない?」
ジリスの言葉にアルがクスクス笑う。
「いいのです。それで良いのだと思います」
笑われるとカチンとくる。全て悟っているような態度が腑に落ちない。
「アル、何か、意地悪だ」
ジリスが拗ねると向かいに座っていたアルがジリスの隣に移動してくる。きっとジリスをなだめるのだろう。
「ジリス様」
優しい声が耳元に響く。ついビクリとジリスの身体が震えた。
「いいのです。ジリス様は、ジリス様らしく、黒に甘えてください。ここはあなた様が愛される黒の国です。カザル王太子殿下はご聡明です。広い見解をもっております。頼っても、いいのですよ」
アルがカザルを信頼しているのが分かる。嬉しくて、少し悔しい。
ジリスもアルに褒められていたいのに。そんな嫉妬心を隠すようにアルに寄りかかった。
「アル、黒の国の王子として命令」
口をとがらせてアルに指示をした。我ながら幼い事をしていると思った。それでも、アルに思いっきり我儘を言いたかった。
「はい、ジリス王子殿下」
笑われると思ったのに、優しい声がする。
「撫でて。いっぱい、撫でて。好きって言って、欲しい。アルの一番が、僕だって、言って」
言ってみて恥ずかしさに身体が強張る。
「ジリス殿下。仰せのままに。俺の全ては、あなた様のために」
急にジリスの身体が持ち上げられる。
「うわっ」
驚きの声を上げたが、ジリスはアルの膝の上に抱き上げられた。膝の上に乗せられて、トントンと背中を撫でられる。
腕の中におさまる安心感と、アルに包まれる喜びが満ちる。
「俺の愛するジリス様。俺だけのジリス様。あなたが望むのなら俺は命でも、何でも差し上げましょう。これほどの想いを抱くのはジリス様にだけです」
ジリスが心に抱く想いと同じだ。
「あなたの頑張りを見ていたからこそ、ジリス様こそ幸せであるべきだと思っています。俺に力があるのなら、俺があなたを幸せにしたい。けれど、無力な男ですみません」
段々謝罪になるアルの口を、そっと塞いだ。唇の温かで伝わるといい。
ジリスもアルを愛している。ジリスの命を捧げても良いくらいに、愛している。
通じ合う想いが嬉しくてジリスは幸せに酔いしれた。
黒国王城に着くと、父王と母は待ち構えたようにジリスを歓迎してくれた。
「ジリス、よく帰って来たね」
「ジリスお帰り」
ぎゅうぎゅうに抱きしめられてジリスは嬉し泣きをした。そして、父と母は、きっと何か知っていると思った。
「父様、母様。怒らないの、ですか? 僕は、白国の王妃に、ならずに戻ってしまったのに。僕は、大きな罪も、犯しました」
ジリスの罪を隠せば後々大事になる。伝えるべきことは沢山ある。ジリスを受け入れてもらえるのか分からない。不安に駆られる。
「知っているよ。案ずるな。さぁ、疲れたろう。話もしたいから、中にお入り。それから、白国侯爵家アル・ダグリー公。ジリスを愛してくれて、ありがとう」
父が愛などと言うからジリスの顔が熱くなる。
「父様! 愛、愛とか! そんな……」
家族から言われると恥ずかしい。
「はい。ジリス様の伴侶として生きることを決めました、アル・ダグリーです。白国侯爵家からは勘当してもらいました。今は、ただのアルです」
堂々と挨拶をするアルがカッコいい。頭を下げる姿に、つい見惚れてしまった。
「承知した。顔を上げて。では、アル殿。黒国はアル殿を歓迎します」
「ありがとうございます」
ジリスはアルと微笑み合った。
「ほら、早く中に行こう!」
後ろからカザルの元気な声がする。
にこやかな笑顔に囲まれて黒国城内に入った。懐かしい賑やかさに胸がジンとした。
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