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Ⅷ 消えない印
⑦
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ジリスはもともと使っていた部屋に戻った。アルがいても十分すぎる広さがある。
「僕の部屋がそのままだ!」
部屋に戻るとバタバタと居室内を見て回った。部屋にいた侍女がクスクスと笑った。全てそのままで残してくれてある。
「ほら、アル! 案内するよ。ここがダイニングで、リビングはこっち。僕はリビングソファーがお気に入りなんだ。ここで寝転がってお菓子を食べるんだ」
いつもしていたようにドサリとソファーに倒れ込んで慌てた。つい、左腕が自由に動かせないことを忘れていた。身体の勢いが止められない。
「わぁっ!」
「ジリス様!」
ソファーから転がり落ちそうになり、アルが支えてくれた。すっかり油断していた。以前の自分とは違うのだ。心臓がバクバク鳴っている。
「お怪我は? どこかぶつけましたか?」
アルが青い顔をする。
「アルが支えてくれたから、大丈夫。ごめん。つい」
白国に行く前のように振舞ってしまったことが恥ずかしい。照れ笑いをすると、アルの手に両頬を包まれた。
「ジリス様、そんなに愛らしいと俺に食べられちゃいますよ」
アルはニッコリ笑って優しく唇を重ねた。
「ジリス様が心から笑っているのが嬉しいのです。生き生きしているお顔が見れて幸せです」
ジリスの姿勢を直しながらアルが隣に座る。ソファーなど椅子がある場でアルが隣に座るのは珍しい。正面か斜め前に座るのが、いつもの位置なのに。
「アル?」
「俺も、少し我慢せずに恋人みたいにしたくなりました」
「うん」
アルは動かずに隣に座っている。
「うん?」
意味が分からずアルを見た。
「ソファーに横並びです。恋人座りです」
顔を赤くして前を向くアルを見て、ジリスは首を傾げた。
「え? これ、どういう状況?」
ジリスの手が大きな手に捕らわれる。指が絡まる。
「恋人つなぎです」
「あ、うん」
「俺の夢が、ひとつ叶いました」
「はぁ⁉」
発情期では大胆にジリスを慰めていたアルが、顔を赤くして手を繋いでいる。もっとすごい事をしているじゃないか、とツッコミを入れたくなる。
けれど、アルが純情でジリスは嬉しくなった。恋人並びに恋人つなぎか。悪くないな、と思う。
ジリスはアルの肩にチョコンと頭を預けた。
「あはは。これ、いいね」
「はい。いいですね」
笑い合うと身体の振動が伝わりあってくすぐったい。
しばらく二人でソファーに座って過ごした。そんなひと時に幸せを感じた。
「ジリス様のご家族は、温かいですね」
「うん。まさか僕のことを見守っているとは思わなかった」
「そうですね」
「僕は、独りに思えて、独りじゃ無かった。アルにも出会えたし」
「はい」
二人でのんびり座っているとアルにもっと甘えたくなる。アルの首に抱きついて膝に乗った。
「ジリス様?」
落ちないように、とジリスの背に腕を回して支えてくれる。ふと室内を見れば侍女は下がっている。
気を遣ってくれたと思うと少し笑えた。アルの首に顔を埋めた。
ゴクリと唾液を飲む動きを感じる。アルの匂いだ。感じるはずのないアルファの匂いがする。
こんなのジリスの勘違いだろう。番を持ったオメガが他のアルファフェロモンを感知することなど無いのだから。
それでも、アルは自分のアルファだと身体に教え込みたくて、目の前の匂いに酔いしれた。
「アルの匂いは、優しい深緑の香りだ。深い豊かな森」
アルがジリスの頭に鼻をすり寄せて、お返しとばかりに匂いを嗅ぐ。
「ジリス様は完熟の果実です。甘くて、俺の脳がとろけそうな匂いです」
アルもジリスのフェロモンを感じているのだろうか。
「アルと番になっていたら、アルのフェロモンは僕が独占できたのにな」
ぽつりとこぼした一言にアルの身体がビクリと反応する。
「俺も、あなたの匂いを独占したかった」
アルがジリスの向きを変える。
横抱きにされて、アルを見上げた。じっと見つめられて心臓がドキドキ鳴り出す。真剣な青い瞳が綺麗に輝いている。太い首に逞しい身体。アルはアルファなのだと改めて感じる。
そっとアルが近づく。優しく唇を重ねる。
角度のせいもあるだろうが、アルの舌が深く入る。重なる粘膜の音がクチュリと生じる。
艶めかしい音に心臓がドクドクと早くなる。舌が動く感覚が妙にリアルだ。口で愛し合っていると実感する。アルの熱が注ぎ込まれる。
発情期では無いのに下半身がジンジンし始めた。もじもじと腰が動いてしまった。
アルがクスッと笑うのが分かった。緩やかに力を持ち始めたジリスの下半身に気がついているくせにキスを止めてくれない。
ジリスは焦りが生まれてアルの厚い胸をドンドンと叩いた。そんな抵抗をさらりと受け流してアルは身体を密着させる。
はっとした。アルも固くなっている。むくりと起き上がっている部分をアルの身体に擦りつけてくる。
「ジリス様、発情期でなくては、そういう行為はしてはいけませんか?」
ジリスの耳に吐息を注ぐような声が響く。
「いや、いい、けど……」
「よかった。繋がるだけが愛し合う行為ではありません。発情期だけじゃない。俺たちの愛し合い方を見つけましょう」
「うわっ」
アルがジリスを抱き上げて寝室に向かった。侍女がいなくて良かった。こんな姿は見られたくない。
「僕の部屋がそのままだ!」
部屋に戻るとバタバタと居室内を見て回った。部屋にいた侍女がクスクスと笑った。全てそのままで残してくれてある。
「ほら、アル! 案内するよ。ここがダイニングで、リビングはこっち。僕はリビングソファーがお気に入りなんだ。ここで寝転がってお菓子を食べるんだ」
いつもしていたようにドサリとソファーに倒れ込んで慌てた。つい、左腕が自由に動かせないことを忘れていた。身体の勢いが止められない。
「わぁっ!」
「ジリス様!」
ソファーから転がり落ちそうになり、アルが支えてくれた。すっかり油断していた。以前の自分とは違うのだ。心臓がバクバク鳴っている。
「お怪我は? どこかぶつけましたか?」
アルが青い顔をする。
「アルが支えてくれたから、大丈夫。ごめん。つい」
白国に行く前のように振舞ってしまったことが恥ずかしい。照れ笑いをすると、アルの手に両頬を包まれた。
「ジリス様、そんなに愛らしいと俺に食べられちゃいますよ」
アルはニッコリ笑って優しく唇を重ねた。
「ジリス様が心から笑っているのが嬉しいのです。生き生きしているお顔が見れて幸せです」
ジリスの姿勢を直しながらアルが隣に座る。ソファーなど椅子がある場でアルが隣に座るのは珍しい。正面か斜め前に座るのが、いつもの位置なのに。
「アル?」
「俺も、少し我慢せずに恋人みたいにしたくなりました」
「うん」
アルは動かずに隣に座っている。
「うん?」
意味が分からずアルを見た。
「ソファーに横並びです。恋人座りです」
顔を赤くして前を向くアルを見て、ジリスは首を傾げた。
「え? これ、どういう状況?」
ジリスの手が大きな手に捕らわれる。指が絡まる。
「恋人つなぎです」
「あ、うん」
「俺の夢が、ひとつ叶いました」
「はぁ⁉」
発情期では大胆にジリスを慰めていたアルが、顔を赤くして手を繋いでいる。もっとすごい事をしているじゃないか、とツッコミを入れたくなる。
けれど、アルが純情でジリスは嬉しくなった。恋人並びに恋人つなぎか。悪くないな、と思う。
ジリスはアルの肩にチョコンと頭を預けた。
「あはは。これ、いいね」
「はい。いいですね」
笑い合うと身体の振動が伝わりあってくすぐったい。
しばらく二人でソファーに座って過ごした。そんなひと時に幸せを感じた。
「ジリス様のご家族は、温かいですね」
「うん。まさか僕のことを見守っているとは思わなかった」
「そうですね」
「僕は、独りに思えて、独りじゃ無かった。アルにも出会えたし」
「はい」
二人でのんびり座っているとアルにもっと甘えたくなる。アルの首に抱きついて膝に乗った。
「ジリス様?」
落ちないように、とジリスの背に腕を回して支えてくれる。ふと室内を見れば侍女は下がっている。
気を遣ってくれたと思うと少し笑えた。アルの首に顔を埋めた。
ゴクリと唾液を飲む動きを感じる。アルの匂いだ。感じるはずのないアルファの匂いがする。
こんなのジリスの勘違いだろう。番を持ったオメガが他のアルファフェロモンを感知することなど無いのだから。
それでも、アルは自分のアルファだと身体に教え込みたくて、目の前の匂いに酔いしれた。
「アルの匂いは、優しい深緑の香りだ。深い豊かな森」
アルがジリスの頭に鼻をすり寄せて、お返しとばかりに匂いを嗅ぐ。
「ジリス様は完熟の果実です。甘くて、俺の脳がとろけそうな匂いです」
アルもジリスのフェロモンを感じているのだろうか。
「アルと番になっていたら、アルのフェロモンは僕が独占できたのにな」
ぽつりとこぼした一言にアルの身体がビクリと反応する。
「俺も、あなたの匂いを独占したかった」
アルがジリスの向きを変える。
横抱きにされて、アルを見上げた。じっと見つめられて心臓がドキドキ鳴り出す。真剣な青い瞳が綺麗に輝いている。太い首に逞しい身体。アルはアルファなのだと改めて感じる。
そっとアルが近づく。優しく唇を重ねる。
角度のせいもあるだろうが、アルの舌が深く入る。重なる粘膜の音がクチュリと生じる。
艶めかしい音に心臓がドクドクと早くなる。舌が動く感覚が妙にリアルだ。口で愛し合っていると実感する。アルの熱が注ぎ込まれる。
発情期では無いのに下半身がジンジンし始めた。もじもじと腰が動いてしまった。
アルがクスッと笑うのが分かった。緩やかに力を持ち始めたジリスの下半身に気がついているくせにキスを止めてくれない。
ジリスは焦りが生まれてアルの厚い胸をドンドンと叩いた。そんな抵抗をさらりと受け流してアルは身体を密着させる。
はっとした。アルも固くなっている。むくりと起き上がっている部分をアルの身体に擦りつけてくる。
「ジリス様、発情期でなくては、そういう行為はしてはいけませんか?」
ジリスの耳に吐息を注ぐような声が響く。
「いや、いい、けど……」
「よかった。繋がるだけが愛し合う行為ではありません。発情期だけじゃない。俺たちの愛し合い方を見つけましょう」
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