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Ⅸ 平穏と衝突
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白国にはアルファがいる。武力は白国が優位だ。
けれど、黒国には黒魔術がある。
どちらが強いのだろう。ジリスは応えることができずにカザルを見つめた。
「俺は、黒が勝つと確信している。俺がいて白に負ける事は無い。俺は、ジリスもディンも、全てを守る王になる」
席を立ちディンを見つめるカザルは、小柄なのに大きな巨人のように感じた。訓練場から風が吹き、カザルの短い髪がサラサラと流れた。それを気にせず、カザルはディンだけを見つめている。凛と立つ背が恰好良かった。
「兄様……」
「さ、ディンが負けたからなぁ。今日はどんな罰にしようかな」
ジリスに振り向いて笑うカザルは兄の顔だった。リスのように可愛いカザルが頼りがいのある男に見えた。カザルこそが黒国の次期王だとジリスは確信した。
「どんな罰かディン様に聞いてみたいな」
ジリスは微笑みながら聞いた。
「聞いてもアルにはやるなよ。アルが泣くぞ」
そう言われると、楽しそうなカザルの『罰』が気になって仕方なかった。
「ジリス様、カザル様」
アルが汗を光らせてジリスがいるベンチまで来た。
「お疲れ様。アル、頑張ってたね。黒国騎士じゃ相手不足みたいだ」
ジリスが声を掛ければアルはニコリと笑った。
「いえいえ。黒国はスピードと速さにおいて優れた剣技を得ています。武器も開発に余念がなく考え抜かれたものになっています。この勤勉さは尊敬に値します」
「ですね。黒国は生活の知恵も、工夫がいっぱいです。白国の白魔術に頼る生活とは違います」
アルに続いてディンが傍に来た。カザルが嬉しそうに口角を上げた。それを横目に見て、仲良しだよな、と思う。
「ディン、負けたな」
「カザル、やはり見ていましたか」
「当たり前だ。ま、アルが相手では仕方ないか」
カザルの言葉にディンが悔しそうな顔をした。いつも余裕を見せているディンの意外な一面だった。
「言い訳ですが、王妃教育を受けるアルファは軍や内政に関われなかったのですよ。同じアルファでも私とアル様では、教育課程が違うのです」
拗ねたような口調になるディンの頬をカザルがそっと撫でた。
「分かっているって、ディン」
なだめる様にして二人の世界に入ってしまうからジリスは肩をすぼめた。それを見てアルが笑いを堪えて横を向く。
「ジリス、俺たちは居室に戻るよ。じゃ」
カザルとディンが去るのを見送って、アルがジリスの隣に座った。
「人は変わりますね。ディン様はご自分が黒国王妃候補であることを否定的に捉えていましたが」
「え? そうなの?」
「はい。どこか斜に構えていらっしゃる印象でした。アルファなのに国政の中心に入れないことに不満を抱かれていました。それが、あのように幸福そうで」
カザルとディンが去って行った方向に目を向けてジリスは頬杖をついた。
「ディン様は黒国に来た時から兄様にラブラブだったよ。いつも兄様の側でニコニコしている印象だよ」
「番効果、ですかね」
「運命の番、だって。兄様が言うには、僕とアルも運命の番だってさ」
「それは、素敵です。俺とジリス様が運命ですか。いいですね」
アルと目を合わせて微笑み合った。こんな一日がとても幸せだ。
「アル、午後にビワのタルトを食べに行こうよ」
「いいですね。歩いて行きます? 馬なら一緒に乗りましょう」
「キナに乗って行きたい」
「では鞍をつけておきます」
アルが立ち上がりジリスをエスコートして歩く。アルが動くと白が目立つ。
アルは白地に金の刺繍入りの服を着ている。黒国で仕立てたものだ。
形は黒国独特のゆったりとした下ズボンに腰丈までの上着。よく似合っている。
アルの服の左袖は黒い葉牡丹の刺繍が入れてある。これはアルが希望した。
黒国の王妃は白を着るが、服の一部に黒い刺繍を入れる。番のオメガをイメージした刺繍だ。
それをカザルとディンから聞いたアルは、ぜひジリスをイメージして刺繍を入れたいと言った。
ちなみにディンは上着の裾に黒い蔦模様をいれている。常にカザルに身体を抱きしめられているイメージだそうだ。
それを明かすときの嬉しそうなディンと、「バラすな」と真っ赤になって怒るカザルが対照的で面白かった。
そしてアルは黒の葉牡丹を選んだ。その理由は、花言葉の「祝福・慈愛」が気に入ったらしい。
それに葉牡丹は黒い花に見えて、白国で見たジリスのようだから、と言った。白国の中に美しい黒い華が可憐に咲いていた、と真剣に周囲に語るアルの口を、どうやって止めようか、とジリスは汗が出た。
惚気るディンの横でいつも慌てるカザルはこんな気持ちか、と理解した。
左袖にしたのは、ジリスの左腕の火傷痕を忘れないため。アルはこれ以上ジリスを傷つけられることが無いように、自分への戒めだと言った。もう白国でのことは気にしなくて良いのに。
ジリスの左腕に保湿剤を塗るのは毎晩アルがしてくれている。そんなところは白国から変わらない。
アルは真面目で誠実だ。黒国に来ても、アルは変わらずにアルだ。
けれど、黒国には黒魔術がある。
どちらが強いのだろう。ジリスは応えることができずにカザルを見つめた。
「俺は、黒が勝つと確信している。俺がいて白に負ける事は無い。俺は、ジリスもディンも、全てを守る王になる」
席を立ちディンを見つめるカザルは、小柄なのに大きな巨人のように感じた。訓練場から風が吹き、カザルの短い髪がサラサラと流れた。それを気にせず、カザルはディンだけを見つめている。凛と立つ背が恰好良かった。
「兄様……」
「さ、ディンが負けたからなぁ。今日はどんな罰にしようかな」
ジリスに振り向いて笑うカザルは兄の顔だった。リスのように可愛いカザルが頼りがいのある男に見えた。カザルこそが黒国の次期王だとジリスは確信した。
「どんな罰かディン様に聞いてみたいな」
ジリスは微笑みながら聞いた。
「聞いてもアルにはやるなよ。アルが泣くぞ」
そう言われると、楽しそうなカザルの『罰』が気になって仕方なかった。
「ジリス様、カザル様」
アルが汗を光らせてジリスがいるベンチまで来た。
「お疲れ様。アル、頑張ってたね。黒国騎士じゃ相手不足みたいだ」
ジリスが声を掛ければアルはニコリと笑った。
「いえいえ。黒国はスピードと速さにおいて優れた剣技を得ています。武器も開発に余念がなく考え抜かれたものになっています。この勤勉さは尊敬に値します」
「ですね。黒国は生活の知恵も、工夫がいっぱいです。白国の白魔術に頼る生活とは違います」
アルに続いてディンが傍に来た。カザルが嬉しそうに口角を上げた。それを横目に見て、仲良しだよな、と思う。
「ディン、負けたな」
「カザル、やはり見ていましたか」
「当たり前だ。ま、アルが相手では仕方ないか」
カザルの言葉にディンが悔しそうな顔をした。いつも余裕を見せているディンの意外な一面だった。
「言い訳ですが、王妃教育を受けるアルファは軍や内政に関われなかったのですよ。同じアルファでも私とアル様では、教育課程が違うのです」
拗ねたような口調になるディンの頬をカザルがそっと撫でた。
「分かっているって、ディン」
なだめる様にして二人の世界に入ってしまうからジリスは肩をすぼめた。それを見てアルが笑いを堪えて横を向く。
「ジリス、俺たちは居室に戻るよ。じゃ」
カザルとディンが去るのを見送って、アルがジリスの隣に座った。
「人は変わりますね。ディン様はご自分が黒国王妃候補であることを否定的に捉えていましたが」
「え? そうなの?」
「はい。どこか斜に構えていらっしゃる印象でした。アルファなのに国政の中心に入れないことに不満を抱かれていました。それが、あのように幸福そうで」
カザルとディンが去って行った方向に目を向けてジリスは頬杖をついた。
「ディン様は黒国に来た時から兄様にラブラブだったよ。いつも兄様の側でニコニコしている印象だよ」
「番効果、ですかね」
「運命の番、だって。兄様が言うには、僕とアルも運命の番だってさ」
「それは、素敵です。俺とジリス様が運命ですか。いいですね」
アルと目を合わせて微笑み合った。こんな一日がとても幸せだ。
「アル、午後にビワのタルトを食べに行こうよ」
「いいですね。歩いて行きます? 馬なら一緒に乗りましょう」
「キナに乗って行きたい」
「では鞍をつけておきます」
アルが立ち上がりジリスをエスコートして歩く。アルが動くと白が目立つ。
アルは白地に金の刺繍入りの服を着ている。黒国で仕立てたものだ。
形は黒国独特のゆったりとした下ズボンに腰丈までの上着。よく似合っている。
アルの服の左袖は黒い葉牡丹の刺繍が入れてある。これはアルが希望した。
黒国の王妃は白を着るが、服の一部に黒い刺繍を入れる。番のオメガをイメージした刺繍だ。
それをカザルとディンから聞いたアルは、ぜひジリスをイメージして刺繍を入れたいと言った。
ちなみにディンは上着の裾に黒い蔦模様をいれている。常にカザルに身体を抱きしめられているイメージだそうだ。
それを明かすときの嬉しそうなディンと、「バラすな」と真っ赤になって怒るカザルが対照的で面白かった。
そしてアルは黒の葉牡丹を選んだ。その理由は、花言葉の「祝福・慈愛」が気に入ったらしい。
それに葉牡丹は黒い花に見えて、白国で見たジリスのようだから、と言った。白国の中に美しい黒い華が可憐に咲いていた、と真剣に周囲に語るアルの口を、どうやって止めようか、とジリスは汗が出た。
惚気るディンの横でいつも慌てるカザルはこんな気持ちか、と理解した。
左袖にしたのは、ジリスの左腕の火傷痕を忘れないため。アルはこれ以上ジリスを傷つけられることが無いように、自分への戒めだと言った。もう白国でのことは気にしなくて良いのに。
ジリスの左腕に保湿剤を塗るのは毎晩アルがしてくれている。そんなところは白国から変わらない。
アルは真面目で誠実だ。黒国に来ても、アルは変わらずにアルだ。
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