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Ⅸ 平穏と衝突
③
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「ビワの時期ですか。もう初夏ですね」
「うん。一年か。アルに出会った季節だ」
「そうですね。俺は騎士として、獣馬車の中をのぞくなど、普段決してしないのです。ですが、あの出迎えの日は、なぜか惹かれたのです。どうしても見たくて馬車内を見ました。ジリス様と目が合って、心臓が変な動きをしました。黒い瞳の美しいジリス様が脳裏に焼き付きました」
「うん。お互いに意識していたんだね」
ジリスはアルに甘えるように寄りかかった。
こうしてキナに二人で乗ると、白の国から逃げてきた時のようだ。ジリスが落ちないように片腕で支えながらアルは器用に馬を操作する。
「そういえば、あの時、僕は突発的にネモスを刺してしまったのに、脱走するってよく分かったね」
「白魔術をかけておきました。ジリス様が室内の避難口を開ければ、知らせが届くようにしてありました。それが偶然にも王城にいるときでした。すぐに駆けつけると、王太子宮殿の騒ぎが耳に入りました。何があったのか、それで察しました」
「あぁ。それで井戸の外にいたのか。僕はどんな魔術を使ったのかと思ったよ」
「全ては神の導きです。こうして二人でいるのも、神の意志ですよ」
「うん。そうかもね」
カポカポとキナに揺られた。
ジリスを支えるアルの左腕が目の前に見える。黒い葉牡丹の刺繍が白の中に煌めいている。
背中をアルに預ける心地よさを味わい、ゆっくりと城下街を散策した。
城を出てから五十分で目的の洋菓子店に着いた。
「これは、意外なお店です」
「だろ?」
ジリスが案内したのは、高級店ではなく、街外れの小さな店舗だ。
「まさか、ジリス様がこれほど庶民派とは知りませんでした」
「うん。僕は好きなものを好きに味わうんだ」
「黒国王室護衛の皆さんが、警護が大変だ、と言う理由がわかりました」
「え? そんなこと言ってるの?」
「いえ、いいですよ。知らなくて」
「もう喋ってるじゃん」
ケラケラと笑いながらビワのタルトを二つ購入した。
「ここのスイーツは果物の扱いが上手なんだ。食べれば分かるよ」
「どこで食べましょう。城まで持ち帰ります?」
「飲み物買って公園で食べよう。で、久々に白魔術やろう」
「本気ですか? 黒の国で白魔術の特訓ですか。それは面白いですね」
キナを護衛に任せてアルと二人で公園まで歩いた。街はずれの緑地公園は森林浴ができる公園として作られている。
木漏れ日の遊歩道が心地いいところだ。
二人で木陰に座ってタルトを食べた。果物のフレッシュ感が生かされた素晴らしい味だ。
「これは美味しいですね。いくつでも食べられそうです」
アルの感嘆の声が嬉しい。
「だよね。帰りにメロンタルト買っていこうか」
「ええ」
初夏の日差しが葉の影からキラキラ地面を照らす。黒国の変わらない風景が心に染み入る。
そう考えて、ジリスが黒国を離れていたのはたった一年だから、景色が変わるワケがない、と笑いが込み上げた。
隣を見ればアルがタルトをぺろりと平らげていた。
これから白魔術をやると考えると、嫌でも白国を思い出す。
ネモスやミーナが頭に浮かぶ。ミーナはアルと寝たと言っていた。だが、今になれば嘘だと思えるが。その真相はアルだけが知っている。
地面に揺れる木漏れ日を見つめて、ジリスは意を決した。
「アル、お見合いで、その、性行為も、したの?」
急な質問にアルがむせ込んで咳をする。驚いてジリスはアルの背中を撫でた。
「アル、大丈夫?」
「いえ、急に、どうされたのですか。ゲホっ」
アルが少し涙目になりジリスを見た。
「あ、うん。あの、女性とか、経験したのかなって」
言いながら、こんな事を聞く自分が下品で嫌になった。
「していません。俺はジリス様しか心にいません。ネモスからの紹介女性には、俺は愛する人がすでにいること、もし結婚しても立場上の妻になるだけだ、と伝えました」
青い瞳が真っすぐにジリスを見つめる。この誠実さを疑い、ミーナの言葉を信じた自分が恥ずかしい。ジリスはフイっと下を向いた。
「ジリス様、何か、ネモスから言われましたか?」
「あ、いや。何でもない。ごめん、変な事を聞いて」
「ジリス様。誤魔化さないでください。俺を見て。何を不安に思っているのですか」
下を向いたジリスの顔を大きな手が包む。そのままアルを見る様に誘導されて、ジリスは困る。
アルを傷つけてしまいそうな気もする。
「ミーナが、さ」
「は? ネモスの愛人、ですか」
アルが怪訝な顔をする。心からミーナを軽蔑している顔だ。
こんな表情を見たら、言うのが苦しい。穴があったら入りたい気持ちだ。しかし、ジリスの言葉をアルは待っている。話題にしなければ良かったと反省するが、もう遅い。
「うん。一年か。アルに出会った季節だ」
「そうですね。俺は騎士として、獣馬車の中をのぞくなど、普段決してしないのです。ですが、あの出迎えの日は、なぜか惹かれたのです。どうしても見たくて馬車内を見ました。ジリス様と目が合って、心臓が変な動きをしました。黒い瞳の美しいジリス様が脳裏に焼き付きました」
「うん。お互いに意識していたんだね」
ジリスはアルに甘えるように寄りかかった。
こうしてキナに二人で乗ると、白の国から逃げてきた時のようだ。ジリスが落ちないように片腕で支えながらアルは器用に馬を操作する。
「そういえば、あの時、僕は突発的にネモスを刺してしまったのに、脱走するってよく分かったね」
「白魔術をかけておきました。ジリス様が室内の避難口を開ければ、知らせが届くようにしてありました。それが偶然にも王城にいるときでした。すぐに駆けつけると、王太子宮殿の騒ぎが耳に入りました。何があったのか、それで察しました」
「あぁ。それで井戸の外にいたのか。僕はどんな魔術を使ったのかと思ったよ」
「全ては神の導きです。こうして二人でいるのも、神の意志ですよ」
「うん。そうかもね」
カポカポとキナに揺られた。
ジリスを支えるアルの左腕が目の前に見える。黒い葉牡丹の刺繍が白の中に煌めいている。
背中をアルに預ける心地よさを味わい、ゆっくりと城下街を散策した。
城を出てから五十分で目的の洋菓子店に着いた。
「これは、意外なお店です」
「だろ?」
ジリスが案内したのは、高級店ではなく、街外れの小さな店舗だ。
「まさか、ジリス様がこれほど庶民派とは知りませんでした」
「うん。僕は好きなものを好きに味わうんだ」
「黒国王室護衛の皆さんが、警護が大変だ、と言う理由がわかりました」
「え? そんなこと言ってるの?」
「いえ、いいですよ。知らなくて」
「もう喋ってるじゃん」
ケラケラと笑いながらビワのタルトを二つ購入した。
「ここのスイーツは果物の扱いが上手なんだ。食べれば分かるよ」
「どこで食べましょう。城まで持ち帰ります?」
「飲み物買って公園で食べよう。で、久々に白魔術やろう」
「本気ですか? 黒の国で白魔術の特訓ですか。それは面白いですね」
キナを護衛に任せてアルと二人で公園まで歩いた。街はずれの緑地公園は森林浴ができる公園として作られている。
木漏れ日の遊歩道が心地いいところだ。
二人で木陰に座ってタルトを食べた。果物のフレッシュ感が生かされた素晴らしい味だ。
「これは美味しいですね。いくつでも食べられそうです」
アルの感嘆の声が嬉しい。
「だよね。帰りにメロンタルト買っていこうか」
「ええ」
初夏の日差しが葉の影からキラキラ地面を照らす。黒国の変わらない風景が心に染み入る。
そう考えて、ジリスが黒国を離れていたのはたった一年だから、景色が変わるワケがない、と笑いが込み上げた。
隣を見ればアルがタルトをぺろりと平らげていた。
これから白魔術をやると考えると、嫌でも白国を思い出す。
ネモスやミーナが頭に浮かぶ。ミーナはアルと寝たと言っていた。だが、今になれば嘘だと思えるが。その真相はアルだけが知っている。
地面に揺れる木漏れ日を見つめて、ジリスは意を決した。
「アル、お見合いで、その、性行為も、したの?」
急な質問にアルがむせ込んで咳をする。驚いてジリスはアルの背中を撫でた。
「アル、大丈夫?」
「いえ、急に、どうされたのですか。ゲホっ」
アルが少し涙目になりジリスを見た。
「あ、うん。あの、女性とか、経験したのかなって」
言いながら、こんな事を聞く自分が下品で嫌になった。
「していません。俺はジリス様しか心にいません。ネモスからの紹介女性には、俺は愛する人がすでにいること、もし結婚しても立場上の妻になるだけだ、と伝えました」
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「ジリス様、何か、ネモスから言われましたか?」
「あ、いや。何でもない。ごめん、変な事を聞いて」
「ジリス様。誤魔化さないでください。俺を見て。何を不安に思っているのですか」
下を向いたジリスの顔を大きな手が包む。そのままアルを見る様に誘導されて、ジリスは困る。
アルを傷つけてしまいそうな気もする。
「ミーナが、さ」
「は? ネモスの愛人、ですか」
アルが怪訝な顔をする。心からミーナを軽蔑している顔だ。
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