【本編完結】番殺しの黒オメガが背負う愛は

小池 月

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Ⅸ 平穏と衝突

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「えっと。ミーナが、アルと、寝たって」

「はぁぁ⁉ あの女と、俺が? ジリス様、それは嘘ですから。俺は、神に誓ってジリス様しか知りません」

「いや、そうだと分かっているよ。けど、アルと離れているときに、そんなこと言われて……」
 アルの心を疑ったわけじゃない。けれど、孤独で辛い時期だからこそ、ミーナの言葉に気持ちが揺れたのだ。

「ジリス様、それを知って、どう思われました?」

「え、どうって……。もう、怒りのような、ショックのような。憎しみ、みたいな。言い表せないよ」

 あの時のどす黒い感情を思い出して、ジリスはため息をついた。肩を落とすジリスとは反対に、アルの頬が緩んでいる。その意味が分からない。

「えっと、嫉妬して、くれたのですか?」
 嫉妬、と聞いてジリスは目を見開いた。
「し、嫉妬? これが⁉」

「はい。例えばですが、ミーナがネモスと性交していることを、どう感じますか?」
「ああ、勝手にしろって思うね。アホがって」

「ですよね。けれど、俺とミーナがそうなったら、と考えたときは?」
 ジリスはハッとした。
「許せないような、嵐のような感情だった……」

「ああ、そんな風に思ってくださって嬉しいです!」
 アルが感極まってジリスを抱き締めた。自分が嫉妬していたなど思いもしなかったが、人を愛するって色々な感情が生まれるのだとジリスは知った。

「ですが、ジリス様。もう二度と俺の想いを疑わないでください」
 アルの胸に包まれていると頭の上に声が落ちて来た。ジリスはフフっと笑ってから、「もちろんん」と返事をした。

 胸のつかえが取れてジリスは気持ちが楽になった。やはりアルはアルだ。

 手を繋いで遊歩道を歩いた。ジリスの歩幅に合わせてくれて、のんびりとした時が流れた。キラキラと木漏れ日がアルの髪に落ちる。白銀の髪が輝く。穏やかに微笑むアルは綺麗だった。


 その後に試してみたが、黒の国でも白魔術は使えた。相変わらずジリスはほんの少ししか白魔術が発動できなかった。
 でも、これで目標ができた。

 ジリスはアルにプレゼントを贈りたい。ジリスはいつもアルに貰ってばかりだから。優しさも、強さも、愛することも。

 ジリスは左腕にアルから贈られたブレスレットをつけている。これはジリスの宝物だ。だからお返しに、ジリスからアルに、白魔術をかけたブレスレットを贈りたい。
 ジリスは白魔術が未熟で、高度な願いは無理だろう。せめて、ジリスの想いがいつもアルに届きますように、と願いを込めたい。

(早くアルにプレゼントしたいな。もっと白魔術を頑張るぞ! アル、喜んでくれるかな)
 そんな事を考えると心がポカポカした。


 愛情深い家族がいて、隣に愛するアルがいて、ジリスは幸せだ。
 夜にはアルと疑似性行為をして愛し合っている。
 全てが満たされた日々だった。

 そして、王城に戻ってから迎えたジリスの発情期は、抑制剤の効果で以前ほど辛い欲情では無かった。
 荒れ狂う熱ではなく、くすぶる熱だ。記憶が飛ぶほどではなかった。しかし、理性が残りながらネモスを求めてしまう自分に心が疲弊した。

 アルは優しくジリスを慰めてくれた。アルの愛と忍耐強さを感じた。アルを苦しめる発情期ではなくて良かった。これなら、何とか乗り越えて行けると思えた。



 ――けれど、幸せの日々が長く続くわけでは無かった。


 夏の終わり。黒の国に一報が入った。

「白国軍が黒国に向けて進軍しました!」

「進路は西十三国境区と思われます! 国境に着くまでに十日ほどかと!」

 国境警備からの報告に城中がざわめいた。恐れていたことが起きてしまった。
 ジリスは全身の血の気が引く思いがしてアルにしがみ付いた。

「来たか! 黒国全軍に戦闘準備を命じる! 黒魔術隊は前線へ! 我が黒国は全力で白に立ち向かう! 国境を越えた時点で迎撃せよ!」
 カザルは見たことも無い、怖い顔をして叫んだ。

「はっ! カザル王太子殿下!」

「今、この時より、黒国軍指揮は、このカザルがとる! 俺は、今ここで神と黒国に勝利を誓う!」
 カザルの宣誓に、その場にいた者は全て膝をついた。

 カザルと横に立つディンがその場を支配する神のように見えた。静寂が広がった。

 少しして歓声が沸き上がった。
「カザル殿下に忠誠を誓います!」
「カザル王太子に忠誠を!」
「黒国とカザル様に勝利を!」

 喝采の中に凛と立つカザルを、ジリスは震えながら見ていた。

(僕のせいで、戦争に、なるの? 僕の、せいで……)

 足がガクガクして立っていられない。ジリスの様子に気が付いたアルが背を支えてくれる。

「アル……」
 小声で呼びかければアルが腕に力を込めた。アルも青ざめている。
 歓声と熱気の中で、ジリスとアルだけが場違いなほど震えおののいていた。
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