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Ⅸ 平穏と衝突
⑥
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ジリスは国境に五日かけて到着した。
夏終わりの生ぬるい風が駆け抜ける。ここを見渡せば、白国がここを目指す理由が分かる。
国境は森林や山岳が多い中で、ここは草原であり、体格で勝る白の国としては正面突破しやすいからだ。
森林や山岳地では、黒国が何を仕掛けてくるか読めないのだろう。
広い草原地帯だが、低めの木々がところどころに点在している。
ジリスとアルは、わずかな木陰にテントを設置して待機することとした。
少し先には黒国の結界が見えている。
黒いオーロラのように美しい結界が国境を明確にしている。
「黒国は、美しい国なんだ」
草原を見ながらアルに話しかけた。
「はい。国民の堅実な暮らしぶりと、王族貴族の人柄から、よく分かります」
アルは白国側を見つめた。
「白の国も明るくて、日々の幸せを願う国民の国だよね」
「その通りです。ネモスのような者ばかりではありません」
「素敵な二国が戦うのは、苦しいよ」
「はい」
やるせなくてジリスは目の奥が熱くなった。
「アル、僕は、独りで罪を償う道も考えている」
黒の結界が揺らめく。
「あなたを、独りで行かせるとお思いですか?」
「うん。行かせて欲しい。黒も白も、アルも護りたいから」
「俺はジリス様を護りたい」
「その想いを抱いて、黒国で生きて欲しい。黒の国で幸せに生涯を終えて欲しい。アルなら黒国の騎士にもなれる」
「俺はジリス様と生きる道を諦めません。絶対に」
アルの瞳に強い炎が灯っている。青い瞳に吸い込まれそうだ。
その時、ジリスの腰にアルが腕を回した。アルの表情が険しくなる。
ハッとしてジリスは白国に目を向けた。遠くに砂埃が見える。大きな集団がこちらに向かってくるのが見える。
「ジリス様、愛しています」
アルの言葉が心に響く。どんな会話よりも、今ここで伝えたい言葉はアルと同じだった。
「アル、僕も、愛してる」
それ以上は何も言えずに、白国軍が近づくのを見守った。
ジリスは歯を食いしばった。怖いとか逃げたいとかは口にしたくなかった。アルのために、カザルたちのために、ジリスは立ち向かうと決めたから。
白国軍は黒の結界から少し手前で停止した。
ジリスは意を固めて、前に歩み出た。もし、弓矢で射られたら死ぬ。しかし、そうなればジリスへの制裁は終わり、白国軍は進軍する大義を失う。だから、きっと大丈夫だ。
そう思うが膝が震えた。寄り添うアルが狙われないように、できるだけ密着した。
白国軍は動かずに静止している。ジリスは深呼吸をして声を張り上げた。
「白国よ! 僕は王太子の番、ジリス・イーリーだ。逃げも隠れもしない! 白国国王陛下、並びに指揮官、上位の者がいるのなら、前に願いたい!」
ジリスの声に反応して、数名が前に進み出た。
アルファの威圧を感じてジリスはよろめく。黒の結界は攻撃や威圧を防げるものでは無い。白国軍のアルファが放つ威圧は、遮られることなく黒国側に影響する。
すかさず、アルが守るように威圧を出した。アルの威圧のおかげで正面からの圧が軽くなる。
アルの手をそっと握り、ありがとうと伝わるように願った。
白国から歩み出た者の顔を見た時にジリスは絶望した。
白国軍から出てきたのは、ネモスだった。やはり、生きていた。
怒りを滲ませたネモスが、ジリスとアルに向かって石を投げつけた。
黒の結界をすり抜けて石が飛んでくる。こぶし大のそれを、アルが叩き落した。
「黒オメガぁ! 貴様、オメガの分際でオレを刺すなど、許されると思うなぁ! もっとも苦しむ拷問の末、公開処刑にしてやる! 全裸に剥いて晒してやる! そうだ、公開レイプショーでもするか! オメガなどアルファに跪いていればいいんだ! クソが! 逆賊としてアルも処刑だ! オレに歯向かうとどうなるか教えてやる! 黒国など白の奴隷になればいいのだ!」
怒鳴り散らすネモスの言動に怒りを滲ませたのはアルだった。
アルの威圧が強くなる。ジリスはアルの手をギュッと握り、怒りを抑えてくれるよう祈った。
ネモスは感情を刺激するのが上手い。それに乗ったら足元を取られる。
白国の国王陛下や上流貴族が来ていれば良いと思った。しかし、ここに来ているのはネモスとネモス派の貴族だけのようだ。
これではジリスが捕らわれて終わる。ジリスの訴えを聞いてもらえない。
なんとか戦争回避をしようと思ったけれど、叶わない悔しさにジリスは泣きそうになった。
ジリスの行動は、一か八かの賭けだった。白国国王陛下に訴えることができれば、道が開けると思った。けれど、仕方がない。ジリスがネモスに捕らわれるしか、戦争を回避する方法がない。絶望の思いを抱え、ジリスはアルの腕から抜け出ようとした、が。
突如、ジリスの後方から黒い風が吹いた。
夏終わりの生ぬるい風が駆け抜ける。ここを見渡せば、白国がここを目指す理由が分かる。
国境は森林や山岳が多い中で、ここは草原であり、体格で勝る白の国としては正面突破しやすいからだ。
森林や山岳地では、黒国が何を仕掛けてくるか読めないのだろう。
広い草原地帯だが、低めの木々がところどころに点在している。
ジリスとアルは、わずかな木陰にテントを設置して待機することとした。
少し先には黒国の結界が見えている。
黒いオーロラのように美しい結界が国境を明確にしている。
「黒国は、美しい国なんだ」
草原を見ながらアルに話しかけた。
「はい。国民の堅実な暮らしぶりと、王族貴族の人柄から、よく分かります」
アルは白国側を見つめた。
「白の国も明るくて、日々の幸せを願う国民の国だよね」
「その通りです。ネモスのような者ばかりではありません」
「素敵な二国が戦うのは、苦しいよ」
「はい」
やるせなくてジリスは目の奥が熱くなった。
「アル、僕は、独りで罪を償う道も考えている」
黒の結界が揺らめく。
「あなたを、独りで行かせるとお思いですか?」
「うん。行かせて欲しい。黒も白も、アルも護りたいから」
「俺はジリス様を護りたい」
「その想いを抱いて、黒国で生きて欲しい。黒の国で幸せに生涯を終えて欲しい。アルなら黒国の騎士にもなれる」
「俺はジリス様と生きる道を諦めません。絶対に」
アルの瞳に強い炎が灯っている。青い瞳に吸い込まれそうだ。
その時、ジリスの腰にアルが腕を回した。アルの表情が険しくなる。
ハッとしてジリスは白国に目を向けた。遠くに砂埃が見える。大きな集団がこちらに向かってくるのが見える。
「ジリス様、愛しています」
アルの言葉が心に響く。どんな会話よりも、今ここで伝えたい言葉はアルと同じだった。
「アル、僕も、愛してる」
それ以上は何も言えずに、白国軍が近づくのを見守った。
ジリスは歯を食いしばった。怖いとか逃げたいとかは口にしたくなかった。アルのために、カザルたちのために、ジリスは立ち向かうと決めたから。
白国軍は黒の結界から少し手前で停止した。
ジリスは意を固めて、前に歩み出た。もし、弓矢で射られたら死ぬ。しかし、そうなればジリスへの制裁は終わり、白国軍は進軍する大義を失う。だから、きっと大丈夫だ。
そう思うが膝が震えた。寄り添うアルが狙われないように、できるだけ密着した。
白国軍は動かずに静止している。ジリスは深呼吸をして声を張り上げた。
「白国よ! 僕は王太子の番、ジリス・イーリーだ。逃げも隠れもしない! 白国国王陛下、並びに指揮官、上位の者がいるのなら、前に願いたい!」
ジリスの声に反応して、数名が前に進み出た。
アルファの威圧を感じてジリスはよろめく。黒の結界は攻撃や威圧を防げるものでは無い。白国軍のアルファが放つ威圧は、遮られることなく黒国側に影響する。
すかさず、アルが守るように威圧を出した。アルの威圧のおかげで正面からの圧が軽くなる。
アルの手をそっと握り、ありがとうと伝わるように願った。
白国から歩み出た者の顔を見た時にジリスは絶望した。
白国軍から出てきたのは、ネモスだった。やはり、生きていた。
怒りを滲ませたネモスが、ジリスとアルに向かって石を投げつけた。
黒の結界をすり抜けて石が飛んでくる。こぶし大のそれを、アルが叩き落した。
「黒オメガぁ! 貴様、オメガの分際でオレを刺すなど、許されると思うなぁ! もっとも苦しむ拷問の末、公開処刑にしてやる! 全裸に剥いて晒してやる! そうだ、公開レイプショーでもするか! オメガなどアルファに跪いていればいいんだ! クソが! 逆賊としてアルも処刑だ! オレに歯向かうとどうなるか教えてやる! 黒国など白の奴隷になればいいのだ!」
怒鳴り散らすネモスの言動に怒りを滲ませたのはアルだった。
アルの威圧が強くなる。ジリスはアルの手をギュッと握り、怒りを抑えてくれるよう祈った。
ネモスは感情を刺激するのが上手い。それに乗ったら足元を取られる。
白国の国王陛下や上流貴族が来ていれば良いと思った。しかし、ここに来ているのはネモスとネモス派の貴族だけのようだ。
これではジリスが捕らわれて終わる。ジリスの訴えを聞いてもらえない。
なんとか戦争回避をしようと思ったけれど、叶わない悔しさにジリスは泣きそうになった。
ジリスの行動は、一か八かの賭けだった。白国国王陛下に訴えることができれば、道が開けると思った。けれど、仕方がない。ジリスがネモスに捕らわれるしか、戦争を回避する方法がない。絶望の思いを抱え、ジリスはアルの腕から抜け出ようとした、が。
突如、ジリスの後方から黒い風が吹いた。
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