【本編完結】番殺しの黒オメガが背負う愛は

小池 月

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Ⅸ 平穏と衝突

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 白国国王の顔が青ざめた。

「何という事だ。ネモスよ! これでは白の国が侵略国となってしまう。神の逆鱗に触れるのは我らだ。ネモス、お前は、我々に虚偽の報告をしたのか?」

 白の国王がネモスに厳しい目を向けた。

「いや、それは……。そうだ! あいつらはオメガなんだ! 卑しい奴らです! アルファの力で叩き潰せばいいのです!」

「ネモス! まだ分からんか! そのアルファが、いないではないか!」

 白の国王の言葉にジリスはハッとした。そうだ。この違和感は、白国のアルファの気配が消えたからだ。

「え? どういうこと?」
 ジリスの呟きに、カザルが答えた。

「白国に向けて、強力な黒魔術を展開した。白国のアルファを全てベータに変えた」

 ジリスは血の気が引いた。互いの王族には魔術をかけられないが、白国全体に対しての魔術は展開できる。確かに理論上は可能な事だ。

 しかし、それほど巨大な魔術には、多人数同時の高度技術が必要だ。それに代償が大きすぎる。カザルがジリスに軽く微笑んだ。すっと見せたカザルの左腕は、黒く焼けていた。

「兄様!」
 ジリスが叫ぶと、周辺の黒国の皆が腕を見せた。皆の左腕が黒く変色している。

 後ろを振り向けば黒魔術隊の皆が左腕を掲げた。皆の左腕は、ジリスと同様に変色していた。あまりの出来ごとに言葉が出ない。

「に、兄様、痛み、は?」

「うん。有事だからな。事が済んだら痛みを受ける、と神に誓った。苦痛は目の前のコレが解決してからだ。それに、ディンとアルが、苦痛が軽くて済むように白魔術をかけてくれた。黒国の魔術隊全員にも、だ」

 知らないところで皆が動いていたことに感動して、ジリスは打ち震えた。

「ジリス様、今は白国を向いてください」
 アルに促されてジリスは頷いた。皆の想いを無駄にしてはいけない。
 ジリスはアルにも、黒国にも、優しく包まれている。

「黒国の戯言など聞いてはなりません! 父上、このまま進軍を!」
 ネモスが狂ったように声を上げた。

「ネモス! 進軍どころではない! 白国からアルファがいなければ、白国を治める王がいなくなる! それよりも、この場でハッキリさせるべきことがある。ネモス、お前は、国王である私や国家に対して、虚偽の事実を報告し、戦争を起こそうとしたのか?」

 厳しい白国王の声だ。顔面蒼白になったネモスがガタガタと震える。

「う、うるさい! オレは次期王なんだ! 白国はオレのものだ! オレが言うことが全て正しいんだよ! 虚偽とか関係ない! オレの言うことを聞け、クソジジイが!」

 怒り散らすネモスを白国王が冷めた目で見つめた。白国王が右手を上げて兵に指示を出した。

「ネモスを捕らえよ! ここに宣言する。ネモスを王家から廃嫡とし、王位継承権を剥奪する。戦争を誘発した反国罪として、生涯を幽閉の塔で過ごすことを命じる!」

 周囲にいた兵士がネモスを捕らえた。

 心から願っていた状況だ。ジリスは嬉しくてアルの服を握りしめた。その手にアルの手が重なる。優しい温かさが伝わってくる。

 ネモスは罵詈雑言を吐き、抵抗しながら兵に連れられていった。
 白国王は少し悲しそうだった。

 これで、全てが終わった。

 ジリスの瞳から涙が零れた。寄り添うアルに寄りかかって顔を隠した。

「黒の国王よ。我が子の愚行により引き起こされた、この度の出来事の全てを詫びる。ジリス殿下にも、申し訳なかった。白国軍はすぐに撤退する。侵略はしないと誓う。ジリス殿下がネモスを刺したことも罪に問わない。そこで、相談なのだが、我が国のアルファをもとに戻してもらえないだろうか」

「白の国王、それは出来ない。魔術で変えたものを魔術で戻すことは、出来ないのだ。我らは決死の思いで黒魔術を使う。代償を覚悟して、苦痛を覚悟して、だ。これが黒国の闘い方だ。身を挺してでも護りたいものが、ある」

 黒国王は黒く変色した左腕を見せた。

「なるほど。互いに痛み分けという事か。進軍したのは白の国だ。受け入れるしかないであろう。しかし、黒の国王よ。白の国からアルファが消えれば、そちらも困るであろう。アルファとオメガの番が君臨していなければ神の怒りに触れる。今、黒国にいるアルファには魔術はかかっていないのだろうか?」

「その通り。黒国にいるアルファは、アルファのままだ」

「ならば、アルを白国に返して欲しい。今、白国の国王として立てるのは、アルしかいない」

 アルがジリスの手を強く握った。
「いえ! 俺は、ジリス様と共に生きると決めました!」

 ジリスはそっと首後ろの噛み後に触れた。ネモスが噛んだ痕は残っている。番は解消されていない。

 ネモスはアルファで無くなっても、ジリスを苦しめる。

 アルが震えているのが繋いだ手から伝わってくる。アルは責任感の強い男だ。白の国を守りたい気持ちがあるだろう。
 しかし、白の国に王として立つのなら、オメガの王妃を得なくてはいけない。ジリスは、アルの番になれない。ジリスは、アルの隣に立てない。

 アルの決断が白国の運命を左右する。

 アルの混乱が繋いだ手から染みこむようだった。

「アル・ダグリーよ。白の国を救ってはくれないか」

 白の国王の言葉に、アルはただ立ち尽くしていた。
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