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Ⅸ 平穏と衝突
⑧
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白国国王の顔が青ざめた。
「何という事だ。ネモスよ! これでは白の国が侵略国となってしまう。神の逆鱗に触れるのは我らだ。ネモス、お前は、我々に虚偽の報告をしたのか?」
白の国王がネモスに厳しい目を向けた。
「いや、それは……。そうだ! あいつらはオメガなんだ! 卑しい奴らです! アルファの力で叩き潰せばいいのです!」
「ネモス! まだ分からんか! そのアルファが、いないではないか!」
白の国王の言葉にジリスはハッとした。そうだ。この違和感は、白国のアルファの気配が消えたからだ。
「え? どういうこと?」
ジリスの呟きに、カザルが答えた。
「白国に向けて、強力な黒魔術を展開した。白国のアルファを全てベータに変えた」
ジリスは血の気が引いた。互いの王族には魔術をかけられないが、白国全体に対しての魔術は展開できる。確かに理論上は可能な事だ。
しかし、それほど巨大な魔術には、多人数同時の高度技術が必要だ。それに代償が大きすぎる。カザルがジリスに軽く微笑んだ。すっと見せたカザルの左腕は、黒く焼けていた。
「兄様!」
ジリスが叫ぶと、周辺の黒国の皆が腕を見せた。皆の左腕が黒く変色している。
後ろを振り向けば黒魔術隊の皆が左腕を掲げた。皆の左腕は、ジリスと同様に変色していた。あまりの出来ごとに言葉が出ない。
「に、兄様、痛み、は?」
「うん。有事だからな。事が済んだら痛みを受ける、と神に誓った。苦痛は目の前のコレが解決してからだ。それに、ディンとアルが、苦痛が軽くて済むように白魔術をかけてくれた。黒国の魔術隊全員にも、だ」
知らないところで皆が動いていたことに感動して、ジリスは打ち震えた。
「ジリス様、今は白国を向いてください」
アルに促されてジリスは頷いた。皆の想いを無駄にしてはいけない。
ジリスはアルにも、黒国にも、優しく包まれている。
「黒国の戯言など聞いてはなりません! 父上、このまま進軍を!」
ネモスが狂ったように声を上げた。
「ネモス! 進軍どころではない! 白国からアルファがいなければ、白国を治める王がいなくなる! それよりも、この場でハッキリさせるべきことがある。ネモス、お前は、国王である私や国家に対して、虚偽の事実を報告し、戦争を起こそうとしたのか?」
厳しい白国王の声だ。顔面蒼白になったネモスがガタガタと震える。
「う、うるさい! オレは次期王なんだ! 白国はオレのものだ! オレが言うことが全て正しいんだよ! 虚偽とか関係ない! オレの言うことを聞け、クソジジイが!」
怒り散らすネモスを白国王が冷めた目で見つめた。白国王が右手を上げて兵に指示を出した。
「ネモスを捕らえよ! ここに宣言する。ネモスを王家から廃嫡とし、王位継承権を剥奪する。戦争を誘発した反国罪として、生涯を幽閉の塔で過ごすことを命じる!」
周囲にいた兵士がネモスを捕らえた。
心から願っていた状況だ。ジリスは嬉しくてアルの服を握りしめた。その手にアルの手が重なる。優しい温かさが伝わってくる。
ネモスは罵詈雑言を吐き、抵抗しながら兵に連れられていった。
白国王は少し悲しそうだった。
これで、全てが終わった。
ジリスの瞳から涙が零れた。寄り添うアルに寄りかかって顔を隠した。
「黒の国王よ。我が子の愚行により引き起こされた、この度の出来事の全てを詫びる。ジリス殿下にも、申し訳なかった。白国軍はすぐに撤退する。侵略はしないと誓う。ジリス殿下がネモスを刺したことも罪に問わない。そこで、相談なのだが、我が国のアルファをもとに戻してもらえないだろうか」
「白の国王、それは出来ない。魔術で変えたものを魔術で戻すことは、出来ないのだ。我らは決死の思いで黒魔術を使う。代償を覚悟して、苦痛を覚悟して、だ。これが黒国の闘い方だ。身を挺してでも護りたいものが、ある」
黒国王は黒く変色した左腕を見せた。
「なるほど。互いに痛み分けという事か。進軍したのは白の国だ。受け入れるしかないであろう。しかし、黒の国王よ。白の国からアルファが消えれば、そちらも困るであろう。アルファとオメガの番が君臨していなければ神の怒りに触れる。今、黒国にいるアルファには魔術はかかっていないのだろうか?」
「その通り。黒国にいるアルファは、アルファのままだ」
「ならば、アルを白国に返して欲しい。今、白国の国王として立てるのは、アルしかいない」
アルがジリスの手を強く握った。
「いえ! 俺は、ジリス様と共に生きると決めました!」
ジリスはそっと首後ろの噛み後に触れた。ネモスが噛んだ痕は残っている。番は解消されていない。
ネモスはアルファで無くなっても、ジリスを苦しめる。
アルが震えているのが繋いだ手から伝わってくる。アルは責任感の強い男だ。白の国を守りたい気持ちがあるだろう。
しかし、白の国に王として立つのなら、オメガの王妃を得なくてはいけない。ジリスは、アルの番になれない。ジリスは、アルの隣に立てない。
アルの決断が白国の運命を左右する。
アルの混乱が繋いだ手から染みこむようだった。
「アル・ダグリーよ。白の国を救ってはくれないか」
白の国王の言葉に、アルはただ立ち尽くしていた。
「何という事だ。ネモスよ! これでは白の国が侵略国となってしまう。神の逆鱗に触れるのは我らだ。ネモス、お前は、我々に虚偽の報告をしたのか?」
白の国王がネモスに厳しい目を向けた。
「いや、それは……。そうだ! あいつらはオメガなんだ! 卑しい奴らです! アルファの力で叩き潰せばいいのです!」
「ネモス! まだ分からんか! そのアルファが、いないではないか!」
白の国王の言葉にジリスはハッとした。そうだ。この違和感は、白国のアルファの気配が消えたからだ。
「え? どういうこと?」
ジリスの呟きに、カザルが答えた。
「白国に向けて、強力な黒魔術を展開した。白国のアルファを全てベータに変えた」
ジリスは血の気が引いた。互いの王族には魔術をかけられないが、白国全体に対しての魔術は展開できる。確かに理論上は可能な事だ。
しかし、それほど巨大な魔術には、多人数同時の高度技術が必要だ。それに代償が大きすぎる。カザルがジリスに軽く微笑んだ。すっと見せたカザルの左腕は、黒く焼けていた。
「兄様!」
ジリスが叫ぶと、周辺の黒国の皆が腕を見せた。皆の左腕が黒く変色している。
後ろを振り向けば黒魔術隊の皆が左腕を掲げた。皆の左腕は、ジリスと同様に変色していた。あまりの出来ごとに言葉が出ない。
「に、兄様、痛み、は?」
「うん。有事だからな。事が済んだら痛みを受ける、と神に誓った。苦痛は目の前のコレが解決してからだ。それに、ディンとアルが、苦痛が軽くて済むように白魔術をかけてくれた。黒国の魔術隊全員にも、だ」
知らないところで皆が動いていたことに感動して、ジリスは打ち震えた。
「ジリス様、今は白国を向いてください」
アルに促されてジリスは頷いた。皆の想いを無駄にしてはいけない。
ジリスはアルにも、黒国にも、優しく包まれている。
「黒国の戯言など聞いてはなりません! 父上、このまま進軍を!」
ネモスが狂ったように声を上げた。
「ネモス! 進軍どころではない! 白国からアルファがいなければ、白国を治める王がいなくなる! それよりも、この場でハッキリさせるべきことがある。ネモス、お前は、国王である私や国家に対して、虚偽の事実を報告し、戦争を起こそうとしたのか?」
厳しい白国王の声だ。顔面蒼白になったネモスがガタガタと震える。
「う、うるさい! オレは次期王なんだ! 白国はオレのものだ! オレが言うことが全て正しいんだよ! 虚偽とか関係ない! オレの言うことを聞け、クソジジイが!」
怒り散らすネモスを白国王が冷めた目で見つめた。白国王が右手を上げて兵に指示を出した。
「ネモスを捕らえよ! ここに宣言する。ネモスを王家から廃嫡とし、王位継承権を剥奪する。戦争を誘発した反国罪として、生涯を幽閉の塔で過ごすことを命じる!」
周囲にいた兵士がネモスを捕らえた。
心から願っていた状況だ。ジリスは嬉しくてアルの服を握りしめた。その手にアルの手が重なる。優しい温かさが伝わってくる。
ネモスは罵詈雑言を吐き、抵抗しながら兵に連れられていった。
白国王は少し悲しそうだった。
これで、全てが終わった。
ジリスの瞳から涙が零れた。寄り添うアルに寄りかかって顔を隠した。
「黒の国王よ。我が子の愚行により引き起こされた、この度の出来事の全てを詫びる。ジリス殿下にも、申し訳なかった。白国軍はすぐに撤退する。侵略はしないと誓う。ジリス殿下がネモスを刺したことも罪に問わない。そこで、相談なのだが、我が国のアルファをもとに戻してもらえないだろうか」
「白の国王、それは出来ない。魔術で変えたものを魔術で戻すことは、出来ないのだ。我らは決死の思いで黒魔術を使う。代償を覚悟して、苦痛を覚悟して、だ。これが黒国の闘い方だ。身を挺してでも護りたいものが、ある」
黒国王は黒く変色した左腕を見せた。
「なるほど。互いに痛み分けという事か。進軍したのは白の国だ。受け入れるしかないであろう。しかし、黒の国王よ。白の国からアルファが消えれば、そちらも困るであろう。アルファとオメガの番が君臨していなければ神の怒りに触れる。今、黒国にいるアルファには魔術はかかっていないのだろうか?」
「その通り。黒国にいるアルファは、アルファのままだ」
「ならば、アルを白国に返して欲しい。今、白国の国王として立てるのは、アルしかいない」
アルがジリスの手を強く握った。
「いえ! 俺は、ジリス様と共に生きると決めました!」
ジリスはそっと首後ろの噛み後に触れた。ネモスが噛んだ痕は残っている。番は解消されていない。
ネモスはアルファで無くなっても、ジリスを苦しめる。
アルが震えているのが繋いだ手から伝わってくる。アルは責任感の強い男だ。白の国を守りたい気持ちがあるだろう。
しかし、白の国に王として立つのなら、オメガの王妃を得なくてはいけない。ジリスは、アルの番になれない。ジリスは、アルの隣に立てない。
アルの決断が白国の運命を左右する。
アルの混乱が繋いだ手から染みこむようだった。
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