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Ⅹ 白の国王と王妃
⑨
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身体がガタガタ震えて寒かった。だから嫌な夢を見た。
「いつか、ジリスは白国の王妃になるんだ」
そう言うカザルはもう白髪のおじいちゃんだ。寄り添うディンも年老いている。
ふと鏡を見れば、ジリスもすっかり老体になっている。
「兄様、いつかって、いつ? だって、もう僕は、こんな、老人だ」
「いつか、だよ」
空から父王の言葉も響く。
「そうだぞ。ジリスは、いつかは幸せになれるから、そのために頑張るんだ」
「父様、ずっと、ずっと頑張っても、ダメなら、どうするの?」
「頑張るしかないんだよ」
「ジリスは、頑張るんだ」
『頑張れ頑張れ』という声に押しつぶされそうになる。苦しい。頭が痛い。
いつの間にかカザルがいない。暗闇の中にジリス一人だ。
「アル? どこ?」
大好きなアルを呼んでみた。
「はい、ジリス様」
すぐに声が聞こえてホッとした。
けれど、目の前に現れたアルは、女性と一緒だ。女性は、ミーナだ。
ジリスの心が一瞬で怒りに満ちた。
アルを問いただしたいのに、ジリスはその場に縛り付けられていて動けない。
「アル! どういうことだよ!」
必死に叫ぶが、アルは女性と去って行ってしまう。
「アル!」
置いて行かないで、と悲しくなる。
人の気配にゾクリとした感覚がして振り返れば、ジリスを縛り上げているネモスが立っていた。
青白い顔で、怒りを滲ませてネモスがジリスに覆いかぶさる。
「逃げられるワケがないだろう。黒オメガは、オレの番なのだからなぁ」
首にネモスが噛みつく。
「やめろ! やめろぉ!」
必死に叫びを上げて飛び起きた。目が覚めて、ベッドの上であることを確認し、ジリスは顔を手で覆った。
夢で良かった。その安堵感に涙が零れた。
ジリスの肩に掛物が優しく掛けられた。顔を上げれば、カザルが心配そうにジリスを見ている。
夢の中のカザルが重なり、一瞬ビクリと身体が揺れた。
「ジリス、悪い夢でも見た? 唸っていたよ」
「うん。すごい、ヤな夢」
ジリスはゴシゴシと涙を拭った。
「そっか。大丈夫。夢だ」
「うん」
「ジリス、大丈夫だ」
背中を撫でてくれる手が優しくて、ジリスの目からまた、ポロポロと涙が零れた。
「兄様、僕はいつまで待てばいいの? いつまで、頑張れば、アルに会えるのかなぁ。もう、苦しいよぉ」
泣き言が漏れてしまった。
カザルは「よしよし」と背中を撫で続けてくれた。カザルに伝えても困らせるだけだ。分かっていても、ジリスはなかなか涙が止まらなかった。
「ほら、ジリスが泣いたときは、ハチミツたっぷりの黒茶」
しばらく泣いた後にカザルが温かい飲み物を持ってきてくれた。頭はスッキリしているし、体はもう辛くない。
「ありがと。覚えていてくれたんだね」
温かいカップを受け取って、もう陽が落ちていることに気が付いた。ジリスの記憶をたどれば、朝の雪かきの後に倒れたから、一日中寝ていたことになる。
雪かきで思い出すことがもう一つあった。
「あ、兄様、アルからの手紙! そうだ! どこ?」
「枕元だ。見てごらん」
サイドボードには布張りの箱に鎮座した手紙があった。宝物に触れる様にジリスはそっと手に取りった。
しかし、カザルがいるところで開けるのも気が引けて、布団の中に仕舞い込んだ。
「直ぐに読まないのか?」
「あ、うん。えっと、後で読むよ」
手紙を入れた部分を布団の上からポンと叩いた。手紙は逃げないし、一人でゆっくり読みたい。
「俺のことは構わなくていいから」
カザルは黒茶をコクリと飲んでいる。なんだか、手紙を読むのを待っているようだ。
ジリスも黒茶を飲んで、ハチミツの甘さに一息ついた。
「じゃ、えっと。兄様、あっち向いてて」
「ブッハ! 子どもかよ!」
堪えたように笑いながら、カザルは窓の外に目を向けた。本当はジリスだって直ぐに読みたかったのだ。
布団から手紙を取り出す。カザルがこちらを見ていないことを確認して、ジリスは手紙に匂いを思いっきり嗅いだ。アルの匂いを胸いっぱいに吸い込む。
そうすると悪夢もどうでも良くなる。数回、手紙の匂いを嗅いで、封を開けた。いつもながらに胸がドキドキする。
アルが書いてくれることは、白国の様子や、美味しいお菓子の事。ジリスを想って何をしたか、を丁寧に記してくれている。ジリスにとってこの手紙は一番の楽しみだ。
中の紙を開いて、見た瞬間に手が震えた。声を掛けずにはいられなくて、カザルを呼んだ。
「兄様、に、兄様! これ、これって……」
「ほら、俺がいたほうが良かっただろ? ジリス、おめでとう!」
「兄様!」
「よく頑張った! 本当に、良く耐えた! お前は、最高の弟だ! 最高の白国王妃だ!」
抱きついてくるカザルと一緒に、ジリスは声を上げて泣いた。
アルからの手紙には短い文が書かれていた。
『愛するジリス様
やっと神の許しが得られました。
長く苦しい想いをさせて、申し訳ありません。
アル・ダグリーの番として、ジリス様を白国にお迎えします。
ジリス様と別れた国境で、待っています。
あなたを早く抱きしめたい。この腕の中に、ジリス様を感じたい。
アル・ダグリー』
「白の国に、行っておいで」
優しいカザルの言葉が心に届いた。
「いつか、ジリスは白国の王妃になるんだ」
そう言うカザルはもう白髪のおじいちゃんだ。寄り添うディンも年老いている。
ふと鏡を見れば、ジリスもすっかり老体になっている。
「兄様、いつかって、いつ? だって、もう僕は、こんな、老人だ」
「いつか、だよ」
空から父王の言葉も響く。
「そうだぞ。ジリスは、いつかは幸せになれるから、そのために頑張るんだ」
「父様、ずっと、ずっと頑張っても、ダメなら、どうするの?」
「頑張るしかないんだよ」
「ジリスは、頑張るんだ」
『頑張れ頑張れ』という声に押しつぶされそうになる。苦しい。頭が痛い。
いつの間にかカザルがいない。暗闇の中にジリス一人だ。
「アル? どこ?」
大好きなアルを呼んでみた。
「はい、ジリス様」
すぐに声が聞こえてホッとした。
けれど、目の前に現れたアルは、女性と一緒だ。女性は、ミーナだ。
ジリスの心が一瞬で怒りに満ちた。
アルを問いただしたいのに、ジリスはその場に縛り付けられていて動けない。
「アル! どういうことだよ!」
必死に叫ぶが、アルは女性と去って行ってしまう。
「アル!」
置いて行かないで、と悲しくなる。
人の気配にゾクリとした感覚がして振り返れば、ジリスを縛り上げているネモスが立っていた。
青白い顔で、怒りを滲ませてネモスがジリスに覆いかぶさる。
「逃げられるワケがないだろう。黒オメガは、オレの番なのだからなぁ」
首にネモスが噛みつく。
「やめろ! やめろぉ!」
必死に叫びを上げて飛び起きた。目が覚めて、ベッドの上であることを確認し、ジリスは顔を手で覆った。
夢で良かった。その安堵感に涙が零れた。
ジリスの肩に掛物が優しく掛けられた。顔を上げれば、カザルが心配そうにジリスを見ている。
夢の中のカザルが重なり、一瞬ビクリと身体が揺れた。
「ジリス、悪い夢でも見た? 唸っていたよ」
「うん。すごい、ヤな夢」
ジリスはゴシゴシと涙を拭った。
「そっか。大丈夫。夢だ」
「うん」
「ジリス、大丈夫だ」
背中を撫でてくれる手が優しくて、ジリスの目からまた、ポロポロと涙が零れた。
「兄様、僕はいつまで待てばいいの? いつまで、頑張れば、アルに会えるのかなぁ。もう、苦しいよぉ」
泣き言が漏れてしまった。
カザルは「よしよし」と背中を撫で続けてくれた。カザルに伝えても困らせるだけだ。分かっていても、ジリスはなかなか涙が止まらなかった。
「ほら、ジリスが泣いたときは、ハチミツたっぷりの黒茶」
しばらく泣いた後にカザルが温かい飲み物を持ってきてくれた。頭はスッキリしているし、体はもう辛くない。
「ありがと。覚えていてくれたんだね」
温かいカップを受け取って、もう陽が落ちていることに気が付いた。ジリスの記憶をたどれば、朝の雪かきの後に倒れたから、一日中寝ていたことになる。
雪かきで思い出すことがもう一つあった。
「あ、兄様、アルからの手紙! そうだ! どこ?」
「枕元だ。見てごらん」
サイドボードには布張りの箱に鎮座した手紙があった。宝物に触れる様にジリスはそっと手に取りった。
しかし、カザルがいるところで開けるのも気が引けて、布団の中に仕舞い込んだ。
「直ぐに読まないのか?」
「あ、うん。えっと、後で読むよ」
手紙を入れた部分を布団の上からポンと叩いた。手紙は逃げないし、一人でゆっくり読みたい。
「俺のことは構わなくていいから」
カザルは黒茶をコクリと飲んでいる。なんだか、手紙を読むのを待っているようだ。
ジリスも黒茶を飲んで、ハチミツの甘さに一息ついた。
「じゃ、えっと。兄様、あっち向いてて」
「ブッハ! 子どもかよ!」
堪えたように笑いながら、カザルは窓の外に目を向けた。本当はジリスだって直ぐに読みたかったのだ。
布団から手紙を取り出す。カザルがこちらを見ていないことを確認して、ジリスは手紙に匂いを思いっきり嗅いだ。アルの匂いを胸いっぱいに吸い込む。
そうすると悪夢もどうでも良くなる。数回、手紙の匂いを嗅いで、封を開けた。いつもながらに胸がドキドキする。
アルが書いてくれることは、白国の様子や、美味しいお菓子の事。ジリスを想って何をしたか、を丁寧に記してくれている。ジリスにとってこの手紙は一番の楽しみだ。
中の紙を開いて、見た瞬間に手が震えた。声を掛けずにはいられなくて、カザルを呼んだ。
「兄様、に、兄様! これ、これって……」
「ほら、俺がいたほうが良かっただろ? ジリス、おめでとう!」
「兄様!」
「よく頑張った! 本当に、良く耐えた! お前は、最高の弟だ! 最高の白国王妃だ!」
抱きついてくるカザルと一緒に、ジリスは声を上げて泣いた。
アルからの手紙には短い文が書かれていた。
『愛するジリス様
やっと神の許しが得られました。
長く苦しい想いをさせて、申し訳ありません。
アル・ダグリーの番として、ジリス様を白国にお迎えします。
ジリス様と別れた国境で、待っています。
あなたを早く抱きしめたい。この腕の中に、ジリス様を感じたい。
アル・ダグリー』
「白の国に、行っておいで」
優しいカザルの言葉が心に届いた。
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