手に入らないモノと満たされる愛

小池 月

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櫻井嘉人(斗真の弟)編③

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向き合う相手
 「純! 何しているの!?」
佐久間の家で一緒に勉強をしていると、佐久間のお母さんが怒鳴りながら帰宅した。
「え? お母さん? 友達が来てるんだけど……」
驚いている佐久間。佐久間の母親は、鬼の形相で俺を睨んだ。あまりの迫力に、何も言えなかった。
「あなた! 櫻井 嘉人君ね。先生から連絡がありました。あなた、お兄さんに性的暴行したそうね。男性を、しかもお兄さんを犯したそうね。最近、仲がいいみたいで心配ですって連絡があったのよ。同性に性犯罪するような子が、ウチの純と二人っきりなんて!」
「え? え? どういうこと……?」
母親と、俺を交互に見る佐久間。俺は、知られたくない現実を、佐久間に知られたショックで動けなかった。心臓が、はち切れそうなほどドクドク鳴り響いている。耳がキーンと鳴って、何も話せない。高い声で怒鳴り続ける佐久間の母から逃げるように、佐久間の家を出た。

 悲しくて、佐久間の驚いた顔が辛くて、道路で泣いた。隠し通せたらいいと思っていた。佐久間には、嫌われたくなかった。悪いのは、俺だけど、神様に願わずにはいられなかった。
どうか、時間を戻してください。兄を、斗真を大切にする時間を、俺に下さい。やり直させてください。俺が、間違っていました。神様、ごめんなさい。座り込んで泣く俺を、何人もの人が通り過ぎて行った。
暗くなって、泣き疲れて、やっと分かった。これは俺がしたことへの、当然のことなんだ。当然の、罰だ。

 次の日から、佐久間とは一切話をしなくなった。親に禁じられているのか、佐久間の意思か。担任から連絡が行ってもまずい。俺からも話しかけない。佐久間に迷惑をかけたくない。朝の、佐久間の何か言いたそうな顔。苦しそうに目線をそらす佐久間。それだけで、涙がこぼれそうになった。佐久間にそんな顔をしてほしくない。ごめん。佐久間を苦しめてしまって、ごめん。俺に大切な事を教えてくれた佐久間。胸が苦しくて、歯を食いしばって一日を過ごした。

 その日から、佐久間を目で追う。時々合う目線に、心が歓喜に沸き上がった。佐久間も時々俺を見ている。言葉は無くても、今日の体調とか、顔色や表情で分かるようになってきた。目線が合うと、まるで会話したみたいに心が温かくなる。声が聴きたい。話がしたい。高校、どこ受けるのか? 塾、通っているか? このあたりじゃ、兄の通っていた高校がトップの進学校だ。そこだろうな。佐久間、頭良いからな。
 気が付くと佐久間のことばかり考えている。でも、佐久間のためにも絶対に近づかない。佐久間のために、俺が出来ることをする。もう一度、佐久間の傍に立てるように、素行を正そう。俺は佐久間のような芯の強い人間になりたい。

 がむしゃらに勉強した。自分の部屋から、兄の斗真が使っていた部屋に移った。ゲームも漫画も、一切触らない。兄が苦しんだ環境で過ごす。俺はここから逃げない。佐久間が気づかせてくれた大切な事を、俺の両親に気づかせたい。兄は逃げることが最善だったろう。でも、俺には他に出来ることがある。俺は、兄に、斗真に謝るべきだ。だけど、俺だけじゃない。俺の両親も謝るべきなんだ。俺には、きっとそれができる。逃げずに、立ち向かうことが出来るはずだ。それが出来たら、佐久間に会いに行ける。そんな気がした。そのために、俺が親を説得できるだけの証明をする。親に頼らず、甘えずに生きる姿を見せる。そう決めたら、勉強に集中できた。親にも優しくした。俺が体験したから分かる。避けたり、否定したり、無視したりすることは相手を殻に閉じ込めてしまう。人を動かすのは、優しさだ。この大切な事を教えてくれた佐久間。胸を張って会いに行くから、待っていて。

 母に、父に、優しくして、俺の思いを少しずつ伝える。
「ねぇ、嘉人。無理してランクの高いところ狙わなくてもいいんじゃない? サッカーの強いところとか、どう?」
進路についても母と話すようになった。
「俺は、サッカーと関係のないところを受験するよ。出来るだけ頑張る。やるだけやるよ。勉強、兄さんが良く出来たよね。兄さんの部屋にいると、すごく頑張れる。俺には母さんがご飯も作ってくれるし、兄さんより頑張れるはずなんだよね」
母との会話に、兄の影を落とす。母が苦に思わないように気を使う。少しずつ兄も息子であることを知って欲しい。母がしてきたことを、振り返って欲しい。伝わるといい。初めの頃は、兄の事を会話に出すだけで顔をしかめていた母。最近は、頷きながら俺を見るようになった。大きな変化だ。佐久間、俺は上手く出来ていると思うよ。佐久間は何て言うかな? 明日、学校で目が合ったら、この思いが伝わると良いな。

 兄のベッドに入り、ごめんと毎日謝る。俺が、気づかなくてごめん。分かっていなくてごめん。苦しめて、ごめん。殴ってごめん。犯してごめん。死んじまえ、なんて言ってごめん。いつか伝えに行くから。謝りに行くから。俺に出来ることをするから。どこかで見た兄の笑顔を思い浮べて、笑っていますように、と願って眠る。毎日、意識が落ちる前に浮かぶ笑顔は、兄じゃなくて佐久間の笑顔。
 佐久間、大好きだ。じんわりと沸き上がる思いを受け入れて眠る。

 「二度とそんなことを言うな!」
父さんに殴られた。ちょっと失敗したかもしれない。目の前がチカチカした。殴られるってこんなに痛いんだ。兄の孤独を、努力を口にしてみた。兄の存在を褒めてみた。母が受け入れる姿勢を見せていたから、父にもいけると気持ちが早ってしまった。
「父さんが殴りたいのは、誰? 俺? 兄さんにした事を認められない、自分の気持ち?」
つい、口にしてしまった。もう一度殴られた。母さんが泣いている。深呼吸する。この家族を前に向けられるのは、俺しかいない。痛みで頭がガンガンする。佐久間、俺はやってみるよ。歯を食いしばる。
「俺は、父さんも母さんも大好きだ。そこに兄さんも入れたいよ。父さん、目の前のことに向き合おう。斗真は、家族だ」
「お父さん、嘉人を殴らないで。この子は、成長しているの。私たち、嘉人の言葉を聞いてみましょうよ」
助け船を母が出してくれた。嬉しかった。
「母さん、ありがとう」
言いながら、涙が溢れた。

 俺は、学校でのことを話した。孤独になったこと。その中で声をかけてくれた佐久間の事。大切なことに気づけたこと。悪いことを悪いと思えなかった俺の愚かさ。罪を、初めて罪と思えた時の恐怖。ゆっくり伝えた。佐久間に胸を張って向き合いたいことも。そして、父さんと母さんに甘え切っていたことを謝った。俺が兄にしたことも、謝った。下を向いている父と母に、伝わりますように。
「俺は、兄さんに謝りたい。謝るべきことをした。父さんと母さんも、兄に謝るべきじゃないかと思うんだ。俺たち、家族じゃないか」
父も母も泣いていた。
「俺は、兄さんと同じ高校を受験する。滑り止めは、受けない。受からなければ働くつもり。働いたら、給料は兄さんに渡す。受かれば、謝りに行く。その時は、父さんと母さんにも一緒に謝って欲しい」
両親は、ただ泣いていた。両親の涙を受け止めるのは、俺だ。甘えてきた俺が、この二人を支える。どうか、俺の覚悟が伝わりますように。
「……謝っても、何も変わらんかもしれん」
「そうだね。形だけならね。父さん、俺、死ぬ気で勉強してる。これは、父さんと母さんのためでもある。俺が勉強する時間の分、父さんと母さんは斗真の苦しさを考えてよ。しっかり向き合ったら、謝る意味が分かると思う。それが、俺の頑張る意味だと思ってる」
何も言わない両親。どうか、言葉が届きますように。
「お前は、大人になっているんだな」
父の一言が嬉しかった。泣きながら笑いかけると、父も母も笑った。大丈夫。俺はまだ頑張れる。心の中で佐久間に伝えた。

 寝る間を惜しんで勉強した。斗真の、兄の部屋で、兄と佐久間の事を考えていた。苦しいとか、辛いとか全然感じなかった。頑張れば、その分、父と母が俺の考えを認めてくれると思った。
 教室で学力考査の結果が渡された。にこっと笑う目線。そうか、良かったのか。心が温かくなる。ジワリと満たされる。俺も、なかなか良かったよ、視線だけで会話する。佐久間、受験頑張ろうな。すっと外される目線。後姿を目で追った。

 下校時、靴を履こうとしたら、カサリと靴の中に何かある。ゴミか? 入っていたのはノートの切れ端。開いて、メモを抱き締めた。やばい。涙がこぼれそうになる。几帳面な字。少し跳ね方に癖のある字。一緒に勉強していたから、分かる。嬉しかった。高校の名前が書かれている。一緒に受かろう、と言葉が添えてある。やっぱり、思った通りだ。佐久間は、兄が通っていた高校を受験する。がぜんやる気が出た。早足で帰宅する。兄の机で、握りしめたメモを開いて、字をなぞる。こらえきれず、涙が流れた。
 翌朝、ありがとう、一言を書いたメモを、そっと佐久間の靴にいれた。
交わす目線に、お互いに少し照れてしまった。少し頬を染めた佐久間が輝いて見えた。嬉しくて下を向いてそっと笑った。

 合格発表。覚悟を決めていた。出来ることはした。塾の模試では、ギリギリのC判定が出るところまで成績を上げた。B判定は一度も出なかった。十三時。ネットでの受験番号公開を、深呼吸して確認する。飛び上がるほど嬉しかった。床に突っ伏して泣いた。今日は仕事を休んで一階にいる母親のもとに駆けおりた。
「受かった!!」
泣きながら告げると、母親は俺に抱きついて泣いた。
「おめでとう。本当に、おめでとう! すごいわ、嘉人!」
泣き笑いしている母親は、優しい顔をしていた。
「俺、ちょっと出かけてくる」
顔を洗って、自転車に飛び乗る。佐久間は、どうだっただろう? 佐久間の受験番号は知らない。携帯電話はいつの間にか番号もアドレスも変わっていた。佐久間の家に急ぐ。会えるかなんて分からないけど、じっとしていられなかった。
 佐久間の家の近くに行くと、玄関の外に佐久間が立っていた。少し遠くから、佐久間を見つめる。俺に気が付いた佐久間が、走る。その姿を見たら、自転車を放り出して俺も走っていた。抱きつく佐久間を、しっかりと抱きとめる。愛おしくて、触れることが嬉しくて、胸の中に閉じ込めた。優しい佐久間の匂いがした。それだけで、涙が溢れた。我慢できずに、喉から嗚咽がもれる。
「何となく、来る気がした」
腕の中で話す佐久間。顔を見つめた。涙目だ。たまらなくて、もう一度しっかり抱きしめて、一言を告げる。
「受かった」
「同じとこ?」
「あぁ」
「じゃ、同じ学校に通えるね。嬉しい」
腕の中で頬を染める佐久間が愛おしい。心が破裂しそうな思いが溢れる。
「好きだ」
口から言葉が漏れてしまった。一度漏れたら、とめどなく溢れてしまう。
「佐久間が、好きだ。大好きだ」
「うん。僕も、好き。ずっと片思いでいいと思っていた。願いが、かなった」
心臓に声が届く。俺の胸の中で、ずっと聞きたかった声がする。胸の中から好き、と心臓に言葉を運んでくれる。佐久間とゆう存在が、俺を満たす。歓喜で全身が震える。
「佐久間、ありがとう。お前がいなきゃ、俺は何も気づけなかった。全部、佐久間のおかげだ。大好きだ」
「ううん。僕はただのきっかけにすぎないよ。櫻井君の力だよ」
一度抱きしめて、佐久間を解放する。道の往来だった。常識が頭から抜けていた。「ごめん」と謝り周囲を見る。平日昼間で人通りがなかった。胸をなでおろす。二人で顔を見合わせて笑ってしまった。久しぶりの近くで見る笑顔。心臓が嬉しい、嬉しいと叫んでいる。
「俺、高校受かったら、やるべきことがあるんだ。決めていたことがある。全部終わったら、佐久間に全て話す。おばさんにも、きちんと話すよ。佐久間と一緒に高校生活送りたいから。堂々と、まず友人としておばさんに認められたい。上手くいくか分からないけど、やり終えるまで待っていてくれるか?」
「うん。わかった。櫻井君、なんだかすごくカッコよくなったね」
くすっと笑う佐久間を見て、もう一度抱きしめたい気持ちを必死で抑えた。その場で別れて、玄関で振り向いて手を振る佐久間を見送った。
 自転車を押しながら、ゆっくり帰った。今は、この幸せを嚙みしめていたかった。
家に着いたら、今日は父さんと母さんと話し合いだ。俺の家を見上げて、頑張ろうと自分に誓った。

 「よくやりきったな」
父さんが、俺に言う。食卓で、三人で向き合っている。
「父さん、母さん、俺は兄さんに謝りに行く。受かったら行くって気持ちは変わらない。父さんと母さんは、どう?」
「嘉人が、こんなに頑張ると思わなかった。この半年でとてつもなく成長したな。嘉人に言われて、なぜ斗真を可愛がれなかったのか考えてみた。あのあと何度か、母さんとも話していたんだ。斗真は、悪い事をしたのか、母さんに聞いたそうだな。父さんも、そう言われて考えてみた。父さんも母さんも、考えても分からなかった。斗真には、何も非が無かった。これが父さんたちの答えだ。会社でのイラつきや、母さんのイライラが全て斗真に向かってしまっていただけかもしれない。それを全てぶつけられて、斗真は、不幸だったよな。うちには誰もそれを止める者が居なかった。考えれば考えるほど、してはいけないことをしていたんだと分かった。嘉人、殴って悪かった。お前が気づかせてくれたことに、感謝しているよ」
肩を落として話す父と、横で泣いている母がとても小さく見えた。
「俺、兄さんに手紙を書くよ。会って話をしたいって。俺は兄さんに謝りたいけど、兄さんは会いたいか分からない。会ってもらえるなら、父さんと母さんも一緒に行こう。俺は兄さんに優しくしたい。これまでの分、俺たちが出来ることを考えて行きたいんだ」
「斗真は、許してくれるかしら…‥」
「許してもらうことがゴールじゃないよ。まず、謝って気持ちを伝えるんだ。俺は、素直な飾らない友人の気持ちに救われたよ。伝えることが一歩前進ってことだよ」
「そうね。嘉人には教えてもらってばかりね」
落ち着いて話が出来た。嬉しかった。
 今は、二月。兄さんは頭がいいから大学の合格は決まっているだろう。きっと受かっているはず。今なら、負担にならないだろう。その日、何度も書き直して、夜中までかかり手紙を書いた。
宛名に、「小掠 斗真さま」と書いて、櫻井斗真じゃないことに、改めて心が痛んだ。
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