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Ⅲ 人殺しの竜人皇子と孤独な竜人貴族の絆愛
キリヤの秘密
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<リン子爵家>
「殿下には、このような遠方にご来訪いただき、大変光栄至極に存じます」
頭を下げて、玄関で出迎えるリン子爵夫婦。使用人も出迎えに並んでいる。
「急いでいる。早く話をしたい。挨拶はいい」
キリヤが急にいなくなった。城の上階から竜体で飛行することは禁じられている。城周囲を飛行できるのは王族だけ。そのため、まさか左の宮上階から飛んでいるとは思わなかった。城の外警備が、黒い小さな竜体が飛んでゆくのを見た、と証言した。確かに防犯カメラにも映っていた。キリヤだろう。なぜ?どこに向かったのか。飛んだ方向は、キリヤの生家リン子爵邸がある。すぐに連絡を入れて、訪問した。
客間に通される。
「急な訪問となり申し訳ない」
リン子爵に状況を説明する。
「そうですか。キリヤがご面倒をおかけして申し訳ありません。城の規律を破ったこと、キリヤに代わり謝罪いたします。どうか、御寛大な処遇をお願いいたします」
「そんなことは、どうでもいい。それより、キリヤが心配だ。どこにいるか、思い当たるなら、うかがいたい。そのために来た」
欲しい情報を早くくれ。イライラする。
「いつか、キリヤが思い出すのではないかと危惧しておりました。自ら失踪したのであれば、キリヤはもう……」
夫人が涙ぐむ。
「どうゆうことだ?」
「少し、聞いていただけますか? そのうえでキリヤをどうするか、お考えください」
子爵がゆっくり話し出す。
「キリヤには双子の兄がいました。十七歳で事故死しております。兄のフェイは、キリヤを愛していました。私たちの目から見ても、フェイのキリヤへの愛は異常なほどでした。キリヤに誰も近づけない。友達も作らせない。一方のキリヤは兄弟としてしかフェイを意識していなかったと思います。その愛情の違いが、キリヤには分からなかったのでしょう。フェイが血の絆でキリヤを縛りたいのは分かっておりました。私たちは、成人するまで待つようにフェイに伝えておりました。しかし、二人は十六歳で血の絆を結んでしまいました。私たちの見ていないところで、フェイが勝手にしたのは明白でした。せめてキリヤが愛を知るまでは、身体の繋がりはしてはいけないと厳しく伝えておりました。十七歳のある日、フェイがキリヤと身体を繋げました。我慢できなかったのでしょう。キリヤの腕には縛られた跡がありました」
うぅっ、と夫人が涙を流す。
「朝に、強烈な血の匂いで、私たちがフェイの部屋に向かうと、血だらけで倒れている裸の二人を見つけました。二人とも意識がなく、すぐに医師を呼びました。フェイは、心臓をナイフで一突きされて絶命しておりました。キリヤは、外傷はないものの、性行為を強要された様子がわかりました」
「待ってくれ。キリヤは血の絆を結んでいたのだろう? なぜ、生きていられる?」
竜人が血の絆を結ぶと、片方が死ねば片方も衰弱して死んでしまう。
「数日は、キリヤは気が狂ったように、怖がり、震え、パニックを起こし、泣いて謝り、手が付けられない状態でした。このまま二人とも失うのは、私たちには辛すぎました。フェイもキリヤも大切な、たった二人の我が子です。人間の医者の中に催眠をかけて記憶を忘れさせる者がいると聞き、頼ったのです。結果、キリヤは兄が事故死した、としか覚えておりません。辛いことは封じ込め、みるみる生きる力に満ちました。催眠の医師に、何かのきっかけで思い出したら、再度催眠で封じることはできない、その時は心の傷に向き合うしかない、と言われております」
一息をついて、そして続ける。
「成人したキリヤは、兄の希望した騎士団に入ることを望みました。まるで兄の道を代わりに歩むように。第四分隊の隊長は知り合いなのです。隊長に事情をお伝えし、できるだけ刺激が少ないよう雑用程度でお願いしておきました。キリヤは竜人として美しい。竜体も珍しい黒です。キリヤを見かけた貴族からの誘いも多くありましたが、恋愛ごとなど記憶を思い出させることから遠ざけたかったのです」
「万が一、キリヤが記憶を戻したら、絆の相手がいないことに狂ってしまうでしょう。私たちは、子供を二人とも失う現実を受け入れる時間が欲しかったのです。少しずつ覚悟はできておりました」
子爵も涙する。
心が怒りに赤く染まる。キリヤは、俺のモノだ。兄の後を追わせたくない。必ず救い出す。
「それで、キリヤはどこに? 思い当たる場所は?」
「丘の上の桜の木があります。そこからフェイとよく空の散歩を楽しんでいました。そこか、奥の林の中か。あとは、フェイの墓地かもしれません。家には戻っておりません。念のため敷地内を探します」
夫人が発言する。
「キリヤを、お願いできますか?」
頭を下げられる。
「当たり前だ」
一言、伝える。すぐに席を立つ。
血の絆を結んだ伴侶と死別した場合、助ける方法はひとつだ。俺は、心を決めた。
「殿下には、このような遠方にご来訪いただき、大変光栄至極に存じます」
頭を下げて、玄関で出迎えるリン子爵夫婦。使用人も出迎えに並んでいる。
「急いでいる。早く話をしたい。挨拶はいい」
キリヤが急にいなくなった。城の上階から竜体で飛行することは禁じられている。城周囲を飛行できるのは王族だけ。そのため、まさか左の宮上階から飛んでいるとは思わなかった。城の外警備が、黒い小さな竜体が飛んでゆくのを見た、と証言した。確かに防犯カメラにも映っていた。キリヤだろう。なぜ?どこに向かったのか。飛んだ方向は、キリヤの生家リン子爵邸がある。すぐに連絡を入れて、訪問した。
客間に通される。
「急な訪問となり申し訳ない」
リン子爵に状況を説明する。
「そうですか。キリヤがご面倒をおかけして申し訳ありません。城の規律を破ったこと、キリヤに代わり謝罪いたします。どうか、御寛大な処遇をお願いいたします」
「そんなことは、どうでもいい。それより、キリヤが心配だ。どこにいるか、思い当たるなら、うかがいたい。そのために来た」
欲しい情報を早くくれ。イライラする。
「いつか、キリヤが思い出すのではないかと危惧しておりました。自ら失踪したのであれば、キリヤはもう……」
夫人が涙ぐむ。
「どうゆうことだ?」
「少し、聞いていただけますか? そのうえでキリヤをどうするか、お考えください」
子爵がゆっくり話し出す。
「キリヤには双子の兄がいました。十七歳で事故死しております。兄のフェイは、キリヤを愛していました。私たちの目から見ても、フェイのキリヤへの愛は異常なほどでした。キリヤに誰も近づけない。友達も作らせない。一方のキリヤは兄弟としてしかフェイを意識していなかったと思います。その愛情の違いが、キリヤには分からなかったのでしょう。フェイが血の絆でキリヤを縛りたいのは分かっておりました。私たちは、成人するまで待つようにフェイに伝えておりました。しかし、二人は十六歳で血の絆を結んでしまいました。私たちの見ていないところで、フェイが勝手にしたのは明白でした。せめてキリヤが愛を知るまでは、身体の繋がりはしてはいけないと厳しく伝えておりました。十七歳のある日、フェイがキリヤと身体を繋げました。我慢できなかったのでしょう。キリヤの腕には縛られた跡がありました」
うぅっ、と夫人が涙を流す。
「朝に、強烈な血の匂いで、私たちがフェイの部屋に向かうと、血だらけで倒れている裸の二人を見つけました。二人とも意識がなく、すぐに医師を呼びました。フェイは、心臓をナイフで一突きされて絶命しておりました。キリヤは、外傷はないものの、性行為を強要された様子がわかりました」
「待ってくれ。キリヤは血の絆を結んでいたのだろう? なぜ、生きていられる?」
竜人が血の絆を結ぶと、片方が死ねば片方も衰弱して死んでしまう。
「数日は、キリヤは気が狂ったように、怖がり、震え、パニックを起こし、泣いて謝り、手が付けられない状態でした。このまま二人とも失うのは、私たちには辛すぎました。フェイもキリヤも大切な、たった二人の我が子です。人間の医者の中に催眠をかけて記憶を忘れさせる者がいると聞き、頼ったのです。結果、キリヤは兄が事故死した、としか覚えておりません。辛いことは封じ込め、みるみる生きる力に満ちました。催眠の医師に、何かのきっかけで思い出したら、再度催眠で封じることはできない、その時は心の傷に向き合うしかない、と言われております」
一息をついて、そして続ける。
「成人したキリヤは、兄の希望した騎士団に入ることを望みました。まるで兄の道を代わりに歩むように。第四分隊の隊長は知り合いなのです。隊長に事情をお伝えし、できるだけ刺激が少ないよう雑用程度でお願いしておきました。キリヤは竜人として美しい。竜体も珍しい黒です。キリヤを見かけた貴族からの誘いも多くありましたが、恋愛ごとなど記憶を思い出させることから遠ざけたかったのです」
「万が一、キリヤが記憶を戻したら、絆の相手がいないことに狂ってしまうでしょう。私たちは、子供を二人とも失う現実を受け入れる時間が欲しかったのです。少しずつ覚悟はできておりました」
子爵も涙する。
心が怒りに赤く染まる。キリヤは、俺のモノだ。兄の後を追わせたくない。必ず救い出す。
「それで、キリヤはどこに? 思い当たる場所は?」
「丘の上の桜の木があります。そこからフェイとよく空の散歩を楽しんでいました。そこか、奥の林の中か。あとは、フェイの墓地かもしれません。家には戻っておりません。念のため敷地内を探します」
夫人が発言する。
「キリヤを、お願いできますか?」
頭を下げられる。
「当たり前だ」
一言、伝える。すぐに席を立つ。
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