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桃太郎
09 華麗に鬼を退治しろ
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「桃先輩だけの勝手な意見じゃないですよ」
不意に、後ろから聞こえた澄んだ声に、桃は振り返る。純平がつかつかと歩み寄り、鬼村の机の上に、ホチキスで留められた紙の束をいくつも投げ置いた。
「俺らが集めた、校則改正に反対する人たちの署名です」
「全校生徒のほとんどが賛同してくれたよ」
「……っ馬鹿な」
鬼村が狼狽えた。桃はわけも分からずその様子を眺めていた。
──署名……? いつの間に……?
鬼村は机の上の紙の束を床に落とした。それをなかったことにするように。
「またママの兄さんにお願いすんのか?」
「!?」
祐樹の一言に、鬼村の表情が強ばったのが分かった。祐樹はなおも言葉を続ける。
「おかしいと思ったんだよ。何でこんな校則が通ったのか。でも、学校のホームページ見て気付いたよ。理事長、お前の伯父だよな? そりゃ身内に頼んだらすんなりだよな」
鬼村は黙ったまま祐樹を睨み付ける。否定しないということは、そのことが事実だということだ。
「でもさー、この校則、矛盾してるぜ? うちの校風は“自由闊達”。自由にのびのびと、だ。生徒の個性を育てるためだって書いてあったぞ。だから今までの校則だってあんなに緩かったわけだ。生徒がこんなに縛られてていいわけ?」
祐樹はプリントアウトしてきた校風のページをひらひらと提示した。確かにそのプリントには大きく“自由闊達”と書いてある。
「あとさー、ネットの評判とか見てみたけど、制服の着こなしがかわいいって意見が大半。偏差値がそこまで低くないのに倍率高いのは、そこにも理由があるわけだ。でも、この校則で志望者めっきり減るかもな。だってお前の着こなし超ダサいもんな」
祐樹は鼻で笑う。嘲笑されて腹が立ったのか、鬼村は小さく震えていた。
「だから俺に勝てねーんだよ。万年二位の鬼村くん?」
そういえば祐樹は万年一位だった。忘れていた事実を思い出すと同時に、「貴様っ……!」と言う声が聞こえた。鬼村が勢い良く立ち上がると同時に、荒々しく生徒会室の扉が開かれた。
「雉田ぁっ! これはどういうことだ!」
息を切らして入ってきたのは、一真をお供にする際に説教を食らった体育教師だった。純平はやっと来たよ、という顔で体育教師を見やる。体育教師の手には紙が握られている。体育教師は純平の両肩を掴むと、前後に揺らした。
「冗談だよな!? 退部なんて冗談だよな!?」
「たっ……退部!?」
驚いたのは桃もである。そんな話は聞いていない。
「だって、新校則によると、赤点とったら休みは補習なんですよね? そしたら俺、成績よくないし、部活も参加できないです。もしかしたら大会も参加できないですし。だったら、いっそ辞めてしまおうかなと。両親とも話し合いましたが、最悪転校も考えてます」
「て、転校!? そんな……」
体育教師は世界の終わりを見たかのような顔だ。期待の新人を失うのは、どうしても避けたいのだろう。
「校則が元に戻れば、取り消せるんですが……」
そう言いながら、純平はちらりと鬼村を見た。体育教師も合わせて鬼村を見る。
しかし、やはり理事長の肉親には何も言えないのか、体育教師は何かを言いたげな表情のまま固まっていた。
「……っ! うるさい! うるさい! うるさい!」
鬼村が髪を掻き毟りながら、机を叩く。その様子に、桃は体を強ばらせた。
「ふざけるな! これは決定事項なんだ! 僕は、僕は!」
鬼村はギロリと桃を睨み付け、指を差した。
「こういうチャラチャラした馬鹿みたいな女が大嫌いなんだよ! だからわざわざ校則も変えたんだ! 見てるだけで反吐が出る! 今すぐ消えろ!」
──は……?
桃は一瞬何を言われたのか理解できなかった。「馬鹿」「大嫌い」「反吐が出る」「消えろ」──酷い言葉で貶されていると気付いて、力が抜けた。
「てめぇっ!」
「はい、ストップ」
桃の体を支えてくれた祐樹が、鬼村に食って掛かろうとするのを、一真がそっと制した。ニコニコと鬼村に歩み寄り、ポケットから小さな機械を取り出す。
──あれは。
「今の罵詈雑言、バッチリ録音してあるからね。生徒会長が生徒を罵るなんて、酷いね。放送部の友人に頼んで昼の放送で流してもらうよ。御愁傷様」
「なっ……」
ICレコーダーを手で弄びながら、笑顔を崩さない。ジリジリと歩み寄る一真に、鬼村の顔はどんどん青くなっていく。
「君がギャル系な子を嫌ってるのは友人から聞いて知ってたよ。中学生の頃にギャル系の子たちに小遣いふんだくられたんだって? でもそれこそすごい勝手な言い分だよね。君の都合じゃん」
「あ……」
「まぁ、これで信用がた落ちだね。学校をよくしたいなんて綺麗事並べたのも無駄だったね。おめでとう」
室内が静まり返った。笑顔が怖すぎて、誰も何も言えなかったのだ。鬼村はガタガタ震えながら、涙目で言った。
「それだけは……許してくれ……!」
「許す許さないは俺が決めることじゃない。まず最初に謝らなきゃいけない人がいるんじゃないの? さっさと──桃に謝れ」
初めて見た一真の真顔に、桃は息を飲んだ。
──超怖い……!
「かっ……数々の罵詈雑言、すすすすみませんでした!」
ほぼ直角に勢い良く頭を下げられて、桃はぽかんと口を開けた。さっきまでの偉そうな態度が嘘のようだ。
「ただで許すわけにはいけないよね? 桃」
一真に言われて、はっとする。そうだ。ここまでやってきた理由、それは──。
「校則を──元に戻して!」
ただ、それだけだったのだ。
* * *
不意に、後ろから聞こえた澄んだ声に、桃は振り返る。純平がつかつかと歩み寄り、鬼村の机の上に、ホチキスで留められた紙の束をいくつも投げ置いた。
「俺らが集めた、校則改正に反対する人たちの署名です」
「全校生徒のほとんどが賛同してくれたよ」
「……っ馬鹿な」
鬼村が狼狽えた。桃はわけも分からずその様子を眺めていた。
──署名……? いつの間に……?
鬼村は机の上の紙の束を床に落とした。それをなかったことにするように。
「またママの兄さんにお願いすんのか?」
「!?」
祐樹の一言に、鬼村の表情が強ばったのが分かった。祐樹はなおも言葉を続ける。
「おかしいと思ったんだよ。何でこんな校則が通ったのか。でも、学校のホームページ見て気付いたよ。理事長、お前の伯父だよな? そりゃ身内に頼んだらすんなりだよな」
鬼村は黙ったまま祐樹を睨み付ける。否定しないということは、そのことが事実だということだ。
「でもさー、この校則、矛盾してるぜ? うちの校風は“自由闊達”。自由にのびのびと、だ。生徒の個性を育てるためだって書いてあったぞ。だから今までの校則だってあんなに緩かったわけだ。生徒がこんなに縛られてていいわけ?」
祐樹はプリントアウトしてきた校風のページをひらひらと提示した。確かにそのプリントには大きく“自由闊達”と書いてある。
「あとさー、ネットの評判とか見てみたけど、制服の着こなしがかわいいって意見が大半。偏差値がそこまで低くないのに倍率高いのは、そこにも理由があるわけだ。でも、この校則で志望者めっきり減るかもな。だってお前の着こなし超ダサいもんな」
祐樹は鼻で笑う。嘲笑されて腹が立ったのか、鬼村は小さく震えていた。
「だから俺に勝てねーんだよ。万年二位の鬼村くん?」
そういえば祐樹は万年一位だった。忘れていた事実を思い出すと同時に、「貴様っ……!」と言う声が聞こえた。鬼村が勢い良く立ち上がると同時に、荒々しく生徒会室の扉が開かれた。
「雉田ぁっ! これはどういうことだ!」
息を切らして入ってきたのは、一真をお供にする際に説教を食らった体育教師だった。純平はやっと来たよ、という顔で体育教師を見やる。体育教師の手には紙が握られている。体育教師は純平の両肩を掴むと、前後に揺らした。
「冗談だよな!? 退部なんて冗談だよな!?」
「たっ……退部!?」
驚いたのは桃もである。そんな話は聞いていない。
「だって、新校則によると、赤点とったら休みは補習なんですよね? そしたら俺、成績よくないし、部活も参加できないです。もしかしたら大会も参加できないですし。だったら、いっそ辞めてしまおうかなと。両親とも話し合いましたが、最悪転校も考えてます」
「て、転校!? そんな……」
体育教師は世界の終わりを見たかのような顔だ。期待の新人を失うのは、どうしても避けたいのだろう。
「校則が元に戻れば、取り消せるんですが……」
そう言いながら、純平はちらりと鬼村を見た。体育教師も合わせて鬼村を見る。
しかし、やはり理事長の肉親には何も言えないのか、体育教師は何かを言いたげな表情のまま固まっていた。
「……っ! うるさい! うるさい! うるさい!」
鬼村が髪を掻き毟りながら、机を叩く。その様子に、桃は体を強ばらせた。
「ふざけるな! これは決定事項なんだ! 僕は、僕は!」
鬼村はギロリと桃を睨み付け、指を差した。
「こういうチャラチャラした馬鹿みたいな女が大嫌いなんだよ! だからわざわざ校則も変えたんだ! 見てるだけで反吐が出る! 今すぐ消えろ!」
──は……?
桃は一瞬何を言われたのか理解できなかった。「馬鹿」「大嫌い」「反吐が出る」「消えろ」──酷い言葉で貶されていると気付いて、力が抜けた。
「てめぇっ!」
「はい、ストップ」
桃の体を支えてくれた祐樹が、鬼村に食って掛かろうとするのを、一真がそっと制した。ニコニコと鬼村に歩み寄り、ポケットから小さな機械を取り出す。
──あれは。
「今の罵詈雑言、バッチリ録音してあるからね。生徒会長が生徒を罵るなんて、酷いね。放送部の友人に頼んで昼の放送で流してもらうよ。御愁傷様」
「なっ……」
ICレコーダーを手で弄びながら、笑顔を崩さない。ジリジリと歩み寄る一真に、鬼村の顔はどんどん青くなっていく。
「君がギャル系な子を嫌ってるのは友人から聞いて知ってたよ。中学生の頃にギャル系の子たちに小遣いふんだくられたんだって? でもそれこそすごい勝手な言い分だよね。君の都合じゃん」
「あ……」
「まぁ、これで信用がた落ちだね。学校をよくしたいなんて綺麗事並べたのも無駄だったね。おめでとう」
室内が静まり返った。笑顔が怖すぎて、誰も何も言えなかったのだ。鬼村はガタガタ震えながら、涙目で言った。
「それだけは……許してくれ……!」
「許す許さないは俺が決めることじゃない。まず最初に謝らなきゃいけない人がいるんじゃないの? さっさと──桃に謝れ」
初めて見た一真の真顔に、桃は息を飲んだ。
──超怖い……!
「かっ……数々の罵詈雑言、すすすすみませんでした!」
ほぼ直角に勢い良く頭を下げられて、桃はぽかんと口を開けた。さっきまでの偉そうな態度が嘘のようだ。
「ただで許すわけにはいけないよね? 桃」
一真に言われて、はっとする。そうだ。ここまでやってきた理由、それは──。
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ただ、それだけだったのだ。
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