おとぎ日和

天乃 彗

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桃太郎 番外編

ギャル嫌いを克服しよう!

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 テスト期間で、部活がない平日のある日。その作戦は、実行に移された──。


 * * *


「どういうことなんですか、これは!」

 怒気を含んだ声音で叫んだのは、豊木高校生徒会長、鬼村碧──もとい、うらちゃんである。
 そう叫ぶのも無理はないかもしれない。なぜなら彼は今、因縁の相手である三人、戌井一真、猿山祐樹、雉田純平により、空き教室へ連行されたところなのだ。テスト期間はいつも、図書室で施錠時間まで残って勉強していた。だから今日も同じように、図書室の扉を開けようとした瞬間だった。両腕を祐樹と純平に拘束され、そのまま近くの空き教室へ連れていかれたのである。どこから用意したのか、あっという間に縄で手足と椅子を繋がれ、抵抗する暇もないまま逃げられなくなった。

「まぁまぁ、そう怒らないでよ、うらちゃん」
「そうだよ落ち着けよカルシウム不足だぞ?」
「これが冷静でいられますか!」

 じたばたしようとするも、体は動かない。つかつかと歩み寄ってきた一真が、鬼村に目線を合わせてにっこりと笑った。一真の笑顔には嫌な思い出しかないので、思わずぞっとする。

「ちょーっと強行突破だったけど、これはうらちゃんのことを思ってのことなんだよ?」
「意味がわかりません! これのどこが僕を思っての行為だ! 僕を思ってるなら縄を外してテスト勉強をさせてください!」
「はっ、心配しなくてもお前は二位だから大丈夫だよ」

 祐樹は鼻で笑う。その余裕の態度に腹を立てるが、楯突くと長くなりそうだから黙っておく。

「俺らさー考えたのよ。どうにかして、うらちゃんのギャル嫌いを克服させられないかな? って。だって、そんなんじゃ彼女も出来ないでしょ?」
「余計なお世話です!」
「で、方法を考えてみて……」
「無視か!」

 早くも息切れしそうだ。ここまで話が通じないとは、こっちがおかしくなってしまいそうである。
 すると、教室へ連行されてからさっきまで姿が見えなかった純平が、なにやら大きな鏡を持ってきて近くに置いた。わけが分からず眉をしかめていると、一真が悪魔の微笑みを浮かべた。

「この際うらちゃんがギャルになっちゃえば、少しは慣れるんじゃね? って」

──は? 

 鬼村は、もう一度一真が発した言葉を考えてみる。

 うらちゃん=自分。ギャル=憎むべきもの。
 自分がギャルになる。自分=ギャル……? 

「はぁぁぁぁぁ!!??」
「はい! というわけで、特別メイクアップアーティストの川崎桃さんでーす」

 一真がニヤニヤしながら言うやいなや、教室の扉が開き、どや顔の桃が入ってきた。手には──大きな大きなメイクボックスを持って。

「天才メイク人、桃ちゃん登場っ★」
「やめろぉぉぉぉお!」
「心配しなくても、すっごい可愛く変身させてあげるよ?」
「くるなぁぁぁぁぁあ!」

 可愛くするとかそこが問題じゃない。手足は拘束されて動けないため、せめてもの抵抗で頭を全力で動かす。じっとしていなければ化粧なんかできまい。体力は奪われるが、化粧されるよりはマシである。

「一真ぁ……これじゃメイク出来ないよ」
「これは困ったねぇ」

 少しも困ったように見えない一真が、やっぱり楽しそうににやにやと笑いながら近づいてきた。隙を見せてはいけない。鬼村は警戒しながら一真を睨む。

「……俺の知り合いにうらちゃんと同中の奴がいるんだけど」

 ぴくり、と体が反応してしまう。中学時代……ギャルたちによってたかっていじめられていた暗黒の時代だ。わざわざ遠方の高校を選んだというのに、何でそんなに顔が広いんだ! 

「うらちゃんと仲良しだった女の子たちの連絡先、教えてもらっちゃった」
「……!」

 言葉を失った。やっとあいつらから解放されたと思ったのに。

「メイクさせてくれたら、何も言わず削除するけど、どうする?」

──あぁ、やっぱりこいつは極悪の魔王だ。

 笑顔が怖いと思うのはこいつだけだ。ある意味、あいつらよりたちが悪い! 

「……これは脅迫だ!」
「やだなぁ、相談だよ、相談」

 そして一真はにっこりと笑いながら携帯を開く。くるりと鬼村に画面を見せた。メールの本文に、鬼村のメールアドレスが書かれている(どこで手に入れた!)。宛先は、見たことのないアドレス。一真の笑顔に、「今すぐにでも送れるぞ」と書いてある。

──もうイヤだこの人たち……。

 がっくりと肩を落とした。もう無理だ。今の自分に出来ることといえば、諦めてこいつらが飽きるのを待つしかない。鬼村は長い長いため息を吐いたあと、生気のない声で言ったのだった。

「……手短に、お願いします……」


 * * *


「はい、出来たよっ」

 桃の声で目を覚ました。どうやら眠ってしまっていたらしい。鬼村は寝呆けた目をこすろうとしたが、慌てて桃が腕をつかんだ。「ダメ! メイクとれちゃう!」と必死な物言いに、別にとれてもいいのにとため息を吐いた。
 キョロキョロと辺りを見回すと、メガネがないからぼやけてはいるが、吹き出すのをこらえてプルプルと体を震わす一真と、ただただ唖然とする祐樹と純平、“自信作”に満足気な桃が目に入った。

「……っ、もう無理、純平、鏡見せてやって」

 そう言いながら背を向けた一真は、次の瞬間大爆笑をし始めた。予想はしていたが、そこまで酷いものか。純平はさっき持ってきていた鏡をどっかりと前に置く。近づかないと見えないため、鬼村はずいと鏡に顔を近付ける。

「──……!」

 誰だ、これは。
 目の前に、知らない奴が立っている。ムカデみたいなバサバサの睫毛を付けた、知らないギャルだ。髪型もいじられたらしく、普段7:3で分けられた髪もワックスでふわふわにされていた。
 知らないギャル、と言っても、元は自分である。その顔に所々ある面影に気付く度、鳥肌がたった。

 鏡に映る顔=自分=ギャル
 ギャル=憎むべきもの
 自分=憎むべきもの……? 

 あたまのなかが、まっしろだ。

「さすがあたし! うらちゃんちょーかわいい!」
「……っ、そうだね、かわいい……ふっククク!」
「大変身だな……」
「……女の子のメイク術、怖いですね……」
「これは桃もとったらすげーかもしれないな」
「考えたくないですね……」
「ねぇ一真、写メ撮っていいかな、写メ!」
「いや……それはさすがに本人に確認、て、あれ」

 一同は一斉に目をぱちくりとさせた。

「気ぃ失ってる……」


 * * *


 それは、テスト期間のある日の出来事だった。自分の新たな一面を見つけてしまった鬼村は、時折ギャルになった自分を夢に見るらしい。鏡を見るのも躊躇うようになった。もちろんギャル嫌いは悪化した。
 テストの結果が散々だったことは、言うまでもない。
 また、ギャルメイク後の写メを一真に撮られて、いい強請りのネタにされることになるのは、また別のお話。

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