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二章 双子沼(ホラーもの)
二章 2
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「さて、そろそろ行くとするか」
食事が終わって落ち着いたころ、おもむろに光仙は立ち上がった。
今日は神たちによる会合があるそうだ。八百万といわれるほど神はたくさんいるので、意識の共有が必要なのだろう。特に光仙は土地神の中でも地位が高いと見えて、頻繁に会合に呼ばれていた。
神も大変だなあと小藤はのんきに思うのだった。
「神様、お土産を持って早く帰ってきて。オレ甘いのが食べたい」
「よしよし、今度の場所は駿河だから、名物の兎餅がよいだろう」
尻尾をぶんぶんと振りながら「やったあ」と阿光が喜ぶ。
「吽光はなにがほしい」
「神様が無事に帰ってきてくれたら、それで十分です」
「そうか。おまえにも土産を用意するから安心しなさい。もちろん小藤にもな」
光仙に頭をなでられると、吽光は嬉しそうに目を細めた。
小藤は光仙に礼を言いながら「本当に二人は光仙さまが大好きなのね」と心の中で思っていた。
「二人とも、そして小藤、留守を頼む」
行ってらっしゃいと手を振る三人に見送られて外に出た光仙は、足を止めて振り返った。
「阿光、吽光。くれぐれもあの件には触れないように」
「わかってるよ」
「勝手はしません」
今度こそ光仙は出かけて行った。阿光と吽光は神の後ろ姿が見えなくなるまで見送り、しょんぼりと耳と尻尾を下げた。
「あの件ってなに?」
小藤は二人に尋ねる。
「オレたち、同じ夢を見るんだ」
「暗い森にある沼が見えるんです」
その沼に、ぷくり、ぷくりと泡が浮いてくる。
そして水面で泡がはじけるたびに、少女の声が聞こえるのだ。
――暗いよ。
――寒いよ。
――怖いよ。
――助けて。
――苦しい。
――出たい。
――誰かここから出して。
「……怪談話?」
小藤はぞっとした。
「夢だって言っただろ。毎日のように同じ夢を見るんだよ」
「あまり気持ちのいい夢ではありません」
それはそうだろう。これは悪夢だ。
「小藤も参拝者から似た話を聞いてるだろ」
「そんな怖い話を聞いたら忘れないよ。……あ、でも」
阿光に言われて思い出した。
――神様、最近同じ悪夢を何度も見るんです。気持ち悪いです。助けてください。
そんな悩みを複数人から聞いていた。
その参拝者たちの顔を思い出して、はたと気づく。
「みんな双子だった気がする。そういえば、阿光と吽光も双子だもんね」
赤い袴をはいた阿光のほうが活発で、青い袴をはいた吽光は控えめなので大人びて見えるものの、造形はそっくり同じだった。
「オレたちは神使だから、双子というのとはちょっと違うけどな」
違うのか、と小藤は小首をかしげた。
「でも、双子みたいなものだから同じ夢を見るのかな。以心伝心するってよく言うもんね」
「それも違います」
吽光が否定する。
「兄弟姉妹は生まれたときから長い時間を共にすごしているため、行動や思考が似るだけです。片方の考えが伝わっているのではなく、同時に同じことを思いつくのです。だから他人同士が結婚して夫婦になると、考えや行動が似てくるでしょう?」
そういうものか、と小藤は思う。
「もちろん、それは一般的な考え方で、理屈では説明できないことだってあるでしょうけど」
「双子といっても色々あるもんな。もう一人自分がいるみたいで一緒にいて楽だってやつもいれば、自分と似すぎているからこそ些細なことを比較して毛嫌いするとかな」
そう言って阿光は腕を組んだ。
吽光は「ともかく」と話を戻す。
食事が終わって落ち着いたころ、おもむろに光仙は立ち上がった。
今日は神たちによる会合があるそうだ。八百万といわれるほど神はたくさんいるので、意識の共有が必要なのだろう。特に光仙は土地神の中でも地位が高いと見えて、頻繁に会合に呼ばれていた。
神も大変だなあと小藤はのんきに思うのだった。
「神様、お土産を持って早く帰ってきて。オレ甘いのが食べたい」
「よしよし、今度の場所は駿河だから、名物の兎餅がよいだろう」
尻尾をぶんぶんと振りながら「やったあ」と阿光が喜ぶ。
「吽光はなにがほしい」
「神様が無事に帰ってきてくれたら、それで十分です」
「そうか。おまえにも土産を用意するから安心しなさい。もちろん小藤にもな」
光仙に頭をなでられると、吽光は嬉しそうに目を細めた。
小藤は光仙に礼を言いながら「本当に二人は光仙さまが大好きなのね」と心の中で思っていた。
「二人とも、そして小藤、留守を頼む」
行ってらっしゃいと手を振る三人に見送られて外に出た光仙は、足を止めて振り返った。
「阿光、吽光。くれぐれもあの件には触れないように」
「わかってるよ」
「勝手はしません」
今度こそ光仙は出かけて行った。阿光と吽光は神の後ろ姿が見えなくなるまで見送り、しょんぼりと耳と尻尾を下げた。
「あの件ってなに?」
小藤は二人に尋ねる。
「オレたち、同じ夢を見るんだ」
「暗い森にある沼が見えるんです」
その沼に、ぷくり、ぷくりと泡が浮いてくる。
そして水面で泡がはじけるたびに、少女の声が聞こえるのだ。
――暗いよ。
――寒いよ。
――怖いよ。
――助けて。
――苦しい。
――出たい。
――誰かここから出して。
「……怪談話?」
小藤はぞっとした。
「夢だって言っただろ。毎日のように同じ夢を見るんだよ」
「あまり気持ちのいい夢ではありません」
それはそうだろう。これは悪夢だ。
「小藤も参拝者から似た話を聞いてるだろ」
「そんな怖い話を聞いたら忘れないよ。……あ、でも」
阿光に言われて思い出した。
――神様、最近同じ悪夢を何度も見るんです。気持ち悪いです。助けてください。
そんな悩みを複数人から聞いていた。
その参拝者たちの顔を思い出して、はたと気づく。
「みんな双子だった気がする。そういえば、阿光と吽光も双子だもんね」
赤い袴をはいた阿光のほうが活発で、青い袴をはいた吽光は控えめなので大人びて見えるものの、造形はそっくり同じだった。
「オレたちは神使だから、双子というのとはちょっと違うけどな」
違うのか、と小藤は小首をかしげた。
「でも、双子みたいなものだから同じ夢を見るのかな。以心伝心するってよく言うもんね」
「それも違います」
吽光が否定する。
「兄弟姉妹は生まれたときから長い時間を共にすごしているため、行動や思考が似るだけです。片方の考えが伝わっているのではなく、同時に同じことを思いつくのです。だから他人同士が結婚して夫婦になると、考えや行動が似てくるでしょう?」
そういうものか、と小藤は思う。
「もちろん、それは一般的な考え方で、理屈では説明できないことだってあるでしょうけど」
「双子といっても色々あるもんな。もう一人自分がいるみたいで一緒にいて楽だってやつもいれば、自分と似すぎているからこそ些細なことを比較して毛嫌いするとかな」
そう言って阿光は腕を組んだ。
吽光は「ともかく」と話を戻す。
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