白銀の超越者 ~彼女が伝説になるまで~

カホ

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~東への旅~

愉快なチートたち

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 次の日の朝、ユールが目を覚ました時、太陽はすでに地平線から顔を出していた。珍しく寝過ごしたらしい。

  時計を見ると7時。朝食は9時までだが、ユールは寝ぼけ眼で洗面所に向かい、顔を洗う。そのあと着替えて他の二人を起こす。なかなか起きないので、食事抜かれても知らないよ、と言ったらあっさり起きた。現金な奴らめ。

  朝食をとったあと、ユールたちは昨日の打ち合わせ通り、最初にテオのギルド登録をしに冒険者ギルドに向かった。なんか道中いろいろあって、ノルンも登録し直すことになってしまったが、どうしてこうなったかはユールにもイマイチよくわからない。

  タイミングが微妙だったようで、ギルドの中は人でごった返しになっていた。小さな子供3人は人ごみを縫うように通って行き、カウンターにたどり着く。

 「すみません、ギルド登録をしたいのですが」

  テオがそう声をかけると、受付嬢は二人に登録用紙を渡し、説明を始めた。ノルンは二回目だけど、とりあえず聞いているふりをしているようだ。

  ユールは年齢制限で登録できないので、二人の登録と説明が終わるのをぼーっとして待っていたら、人相も悪い男たちに囲まれた。

 「おおっ、かわいいお嬢ちゃんじゃねえか」
 「おい、嬢ちゃん。ここはお子様がくるところじゃねえぜ」
 「おじさんたちとくれば気持ちいいことしてやるよ」
 「お子ちゃまは家に帰って、ママのおっぱいでも吸ってるんだな」

  口々に何か言っているようだが、どうでもいいし眠いユールは、あくびをかみ殺しながらこのあとの売却はどうしようと考えていた。

 「俺たちはなぁ……って聞いてるのか?ガキ」
 「………」
 「おい、このバルガン様を無視してんじゃねえ!!」
 「誰?」

  さっきからやかましいんだけど、誰?これ。

 「この街で斧使いのバルガンを知らないだと!!」
 「知りませんけど?」
 「ガキ!この鉄拳のトーグルを知らないとは言わせんぞ!」
 「だから知らないって」
 「こ、このガキ、調子に乗ってんじゃねぇぇぇ!!」

  なんか急にキレた男Bがユールに向かって腕を振り上げた。しかしユールの目の前まで振り下ろしたところで止まった。

 「あぁ……危ないですねぇ」

  薄ら笑いを浮かべて男の背後からやってきたテオが手をぐいっとひねると、男Bの腕がメキメキッと音をたてて、折れた。すごい力だ。笑えない笑えない。

 「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!」

  悲鳴をあげて転げ回っている男は無視して、ユールは二人を振り返る。

 「あら、終わったの。いきなりだったからびっくりしたよ」

  全く驚いた様子のないユールがそう言う。

 「申し訳ありません。ですが俺のいない間になんだか不愉快なゴリラがユール様のそばにいるように見えたので、つい」
 「この害虫どもはレベルいくつで処分すべきですか?」

  二人とも目が笑っていない。ゾーーという効果音が聞こえそうな勢いでギルド内の音が消えていく。

 「レベル?ノルンの攻撃にレベルとかあったの?」
 「もちろんですよ。軽く懲らしめるだけのレベル1、軽い傷で終わらせるレベル2、骨折りとか内蔵破損のレベル3、体の一部を切り取る………」
 「あーー。もういいわ。怖い。そのレベル概念は完全に抹消なさい」
 「ユール様のご命令ですね」
 「うん。記憶から完全に消去せよ」
 「わかりました!」

  これ以上ここにいると面倒なことになるだろうと思い、ユールはさっさと出口に向かう。

 「ま、待ちやがれ!!」

  案の定面倒なのがきた。さっきテオに骨を折られたやつだ。

 「骨が折れたんだぞ!!どうしてくれんだ!!」

  そんなこと知らないよ。

 「賠償金を請求する!!」

  男がそんなことを喚く。すでに自分を見るギルド内の視線が軽蔑のものになっているのに全く気づいていない。

 「賠償?何バカなこと言ってるんですか?そもそもそっちが先にユール様に手を出したんですよ?返り討ちにして何がいけない」

  テオが冷え冷えとした眼差しで男を見る。男の顔がみるみる蒼白になっていく。

 「むしろこっちが謝罪を求めたいですね。先にちょっかいかけてきて、打ち負かされただけのカスに、支払うような金は一銭もないな」

  テオは男を鼻で笑い飛ばしてそう吐き捨てた。

 「さあ、ユール様。あんなカスなど放っておいて、次に行きましょう」
 「あなたも大概言うようになったわね」
 「ですがテオが言っていなければ私が言っていましたよ。あんなゴミが」

  公爵家での生活のせいで、底辺と判断した人間に対してどんどん容赦なくなって行く二人です。

  暴言の嵐に魂魄を飛ばしている男に背を向け、ユールたちはさっさとギルドを出る。

 「さて、ゴミの処理も終わりましたし、次はどこ行きます?」
 「そうね。質屋に行こう」

  ユールがそう言うと、いつの間にどこかに行っていたテオが戻ってきて、質屋の場所を教えてくれた。テオは相変わらず優秀な付き人です。

  テオに教えてもらった質屋へ向かう。道中いろいろな屋台があったので、買い食いもしつつ店を目指す。

 「こんにちわ。買取をお願いしたいのですが」

  やってきた質屋、"ジルバの買取屋"は、少し古めかしい感じの一軒家だった。店内は薄暗く、装飾品の類もない。あるのは店の奥にあるカウンターだけだ。

 「いらっしゃい。で、どれを買い取って欲しいんだい?」

  カウンターに座っていた初老のおじいちゃんが言う。ユールは事前に用意してあった品々をカウンターに置いていく。例の公爵家の旅用品から持ってきた品だ。

  多すぎるのは逆に不自然だから、5つだけに絞った。剣が2本と盾が1つ、それからハンカチが1枚とポーチが1つ。

 「ほぅ……いい質のものばかりですな」
 「家からの餞別でして」

  間違ってはいないはず。

 「ふむ………少し待っておれ」

  そうして金額の勘定を始めたおじいさん。終わるまで店内をぶらついて時間を潰す。しかし何もない店だな。

 「終わったよ、嬢ちゃん。どれも質がいいものばかりだから、全部で光金貨1枚と白金貨5枚だよ」
 「ありがとうございます」

  仕事の早いおじいさんから代金を受け取り、一礼して店を出る。

 「テオ、もう少し円滑に商売できる方法ってないかしら?」

  この三人の中で一番社交性があるテオに聞く。やっぱりいちいち質屋で売るのは手順が面倒だし、値段も向こうによって定められてしまう。

 「そうですね……商業ギルドに登録するのが一番いいでしょうね」
 「商業ギルド?」
 「はい。一年単位で税金などを納める必要はありますけど、一員になっておけば屋台は自由に開けますし、申請すれば店舗も開けます。その場合物件はギルドの紹介になりますけど……」
 「登録に行こう」

  即決。そんな方法があったのなら質屋で売ったりしなかったのに。

  再び大通りに戻ってきた三人は、冒険者ギルドの反対側にあるう商業ギルドに向かった。

  商業ギルドは冒険者ギルドと比べてだいぶ落ち着いた雰囲気だった。様々な人がごった返す冒険者ギルドと違い、商業ギルドはガランとしている。ここに登録している人はみんな商売をしている商人だから用がない限りここにはこないのだろう。

 「登録したいのですが」

  一つしかない長いカウンターに向かい、そこの受付嬢に要件を伝える。

 「登録ですね。かしこまりました。3名様でよろしいですか?」
 「だって。どうする?」
 「俺は登録します。登録しておけば何かと便利ですから」
 「ユール様が登録するなら私も登録します」
 「わかった……では3名で」
 「かしこまりました。ではこちらの用紙に必要事項をご記入ください」

  冒険者ギルドの受付嬢と比べたら良い意味で雲泥の差である商業ギルドの受付嬢の丁寧な案内に従い、用紙に必要事項を書き込む。

 「では確認します………はい、結構です。それではカードを作成します。待っている間に商業ギルドの説明をしてしまいますね」

  曰く、商業ギルドとは商業に携わる、あるいは携わりたい人が加入するギルドで、冒険者ギルドと同じく世界規模の組織である。ギルド内にランクの制度はなく、全て申請式で案件を取り扱う。店舗物件や賃貸の回旋も取り持つ。所属する人は行う商売などによって決められた額の税金を毎年納税する決まりになっている。ちなみに商売をしていないただの役員は年間銀貨1枚である。

 「こちらが商業ギルドのギルドカードになります」
 「ありがとうございます。ところでこちらで買い取りは受け付けていますか?」

  普通の黄色いカードを受け取り、ついでに聞いてみる。

 「はい。どちらを売却なさるのですか?」
 「こちらです」

  そう言ってカバンから何点か品物を取り出す。

 「これは……どれもとても性能がいい旅道具ですね」
 「ええ。つてがありまして」
 「買取の役員を呼んできますので少々お待ちください」

  受付嬢がカウンター奥に引っ込み、しばらくしてもう一人役員を連れて戻ってきた。

  職員さんがあれよこれよと議論をした結果、買取料金として白金貨7枚と金貨8枚を提示された。それを了承して代金を受け取り、ついでにこの場で税金も支払ってしまう。

  ミミールの街を一日観光し、三人が宿に戻ったのが夕方。宿に戻ると、女将さんから金貨83枚入った袋を渡された。ユールたちが出かけている間に盗賊たちを売ったお金がきていたようだ。

  その後は部屋で夕飯まで自由にし、夕飯のあとにはいつものように自分のことに打ち込み、お風呂に入って明日のために早く寝るのだった。

  セラ、とりあえずベッドシーツをかじるのはやめなさい。
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