白銀の超越者 ~彼女が伝説になるまで~

カホ

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~領地改革~

期待

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 フィヨルギンの農業地帯としてのチートっぷりを目の当たりにした次の日、ユールたちは早朝に出発して街道を進んでいた。フレイに聞いた話では、この街道(使われなさすぎて今にも消え去ってしまいそうにわかりにくい)をずっと進んでいくと、この地方の領都に行けるとのことだ。

「この地方に聖獣っているのかな?」
「どうしたんです?いきなり」
「いや……進行方向に聖獣が住んでそうな場所を探知したから」

 次の街まではだいぶ遠いようだが、その道中に一箇所、聖獣が住んでいてもおかしくないような、濃い魔力が濃縮された場所を見つけたのだ。

「聖獣って、あの伝説の?」
「フレイ、知ってるんだ」
「伝説っすからね。聞いたことくらいありますよ。興味はないけど」
「いいね。そういう聖獣に無関心な姿勢は素晴らしいわ」
「は?」

 公爵領でも男爵領でも、人間(主に欲ばりな権力者)たちは聖獣の気を引こうと躍起になってたからね。でもヴァルハラでは人間も生き残るのに精一杯だから聖獣に構ってられないのね。

「でも寄ってる時間はないかな。タイムリミットまであと5日だもの」
「そうですね。聖獣を尋ねるのでしたらブラズニルの人たちとの約束を果たしてからです」

 唯一ユールの言っている意味を理解しているノルンがコクコクと頷いている。今の仲間内で、聖獣と対面したことがあるのはノルンだけなのだ。

「今から行くところは岩山が多そうね」
「そうですね。今からもう岩がゴロゴロし始めてますからね」
「この地方って面白いよね。地形がいろいろコロコロ変わっててさ」
「多分ちょっと特殊な土地なんですよ」

 さっきまで農業適応地だったのが、もう岩山地帯に突入しようとしている。この調子だと、別の方角では突然森林地帯になっていそうだ。

 え?フレイヤたちがいないって?大丈夫、彼女たちは馬車の中で女子トークに花を咲かせているよ。窓越しでもわかるくらいきゃっきゃしています。





 次の街に到着したのは、今回も遅かった。空に月がかかり始めた頃にようやくボルギという街に着いた。

「今日はもう休もう」
「明日の予定は?」
「多分いつも通りだから明日考える」
「しかしこの辺は冷えますね」
「だって岩山地帯だもの。あったかくはないよ」

 ボルギの街が近づくに連れて、岩山はどんどん増えて行った。この街、食料を生産するの大変そう。岩山に生える山菜ぐらいじゃないかな?この街が食料に一番困ってるんじゃないの?

 ……とそんなことを思っていた時がユールにもありました。

「儂らはっ!決してっ!貧しいいっ!生活などっ!送ってはっ!おらぬのじゃっ!」
「は、はぁ………そうですか」

 次の日街に入ったら、なんだか熱血な雰囲気のがりひょろのおじいちゃんに捕まってしまった。え?なんか元気そうなんですけど。いや、見た目は全然元気そうじゃないけど。

「儂もっ!この街の奴らもっ!お主にはっ!感謝しておるっ!」
「はぁ………感謝されるようなことをした記憶はまだないのですが」
「何を言うっ!お主はブラズニルでっ!一週間後に助けるとっ!言ってくれたではないかっ!」
「はい?」

 ちょっとこのおじいさん、なんでそんなこと知ってるの?

「フォッフォッフォ!儂らにっ!知らぬことなどっ!ないのじゃっ!」
「えっと……それは、すごいですね」
「お主がっ!新しい領主だってこともっ!知っておるぞっ!」
「なんですか?その無駄に広い情報網は?」

 心底不思議に思ってます。どうやって情報を集めてるんだろう?

「岩山に生きる儂らにっ!できぬことはないのじゃっ!」
「その理屈はよくわかりませんね………」
「とにかくっ!儂らの未来もっ!この地方の繁栄もっ!お主の手にかかっているっ!」

 いつの間にすごい人が集まっている。この街の人ってどうなってるの?みんなフィヨルギンやブラズニルの人たちよりもやせ細ってるのに、なんでそんなに目をキラキラさせてるの?ちょっと怖い。

「「「「期待していますっ!我らが領主様っ!!」」」」
「え、えっと…………応援、ありがとうございます………」

 大合唱された。

 ユールは、顔を引きつらせなかった自分を褒めてやりたいと割と本気で思った。

 その後、あれよあれよと言っているうちに、さっきのおじいちゃんがユールたちに街を案内することになってしまった。

「ん?儂らが元気じゃぁ?そらぁそうじゃ!なんたって非常にすごい力を持った領主がきたのじゃ!期待するに決まっておる!え?この情報を入手する前はどうだったかって?フォッフォ!みんな死んだ魚のような目をしておったぞっ!フォッフォ!」

 ……やばい。岩山で過酷な環境と戦ってきた人たちってすごい。このタフさはきっと誰にも真似できないよ。

 今回、街の調査はすごい楽だった。だってウルズたちに視てもらうまでもなく、おじいちゃんが全部話してくれたんだもん。

 この街は昔、住人の頑丈さや強さなどを武器に、男が出稼ぎに行き、女が家を守る、いわゆる派遣都市だった。男手はほとんど街からいなくなっていたが、留守をする女性もタフで強いので、警備隊などおく必要もなかったとか。

 うん、この街の復興が一番簡単かもしれない。

 街の周りも案内された。ボルギの周りはどこを見ても岩山で、作物が育ちそうな場所は見つからない。おじいちゃんに、いかにこの街の立地と岩山が素晴らしいかを聞かされたが、申し訳ないけどよくわからなかった。

「あの、皆さんはどうやって食いつないできたのですか?」
「儂らか?なぁに、簡単なこった!岩山のてっぺんの盆地に生えてる植物を食ってただけじゃ!」
「盆地?」

 岩山の上に盆地?くぼみの間違いじゃない?あと、そのやせ細った体でこの岩壁登ったの?やばい……すごすぎる。ユールは飢餓の意味を一回調べ直したくなった。

 遠視の魔法を使って見ると、確かに岩山の上にはかなりの数のくぼみがある。大きさや深さもそこそこある。

「あのくぼみに土を入れたらちょっとした農業ができそうな気がするのは私だけ?」
「ユー様ユー様。それなら土壌の栄養が失われないよう、定期的に肥料をまく必要があるよ」
「試す価値はありそうね」

 公爵領で園芸用の土を売ってる商人たちは大忙しになるな。ユールの脳内では、すでに園芸土ドカ買いの図が完成していた。

「………すごい量の鉱山ね」
「領主様?何かおっしゃいましたかの?」
「いや、この辺りってものすごい数の鉱山に恵まれてるな、と思って」

 探索・鑑定魔法を使いながら周りを探っていると、10個ほど鉱山を見つけた。この街はずっと出張都市として回っていたから、誰も鉱山に気づかず、手もつけなかったのだろう。じゃないとこの鉱山の数は異常だ。

「鉱山ですかい?」
「ええ。多分数千年間誰も手をつけてなかったんでしょうね。埋蔵量がすごいわ」
「儂らの街の発展が見込めるのう!!」

 おじいちゃんの目がより一層輝く。うん、期待していますよ。

 一日街を見て回った結果、この街を真っ先に復興した方が後々にも良い影響がある、とユールは悟った。鉱山から出る石とか金属とかを使えば、木造建築ではなく石造りの家を作れるし、こっちの方が丈夫。

 この街の人は食べればすぐに元気になりそうだから作業も早く進むだろう。男性たちは体力が有り余っているらしいので、元気になった方から他の街に出張に行ってもらえば、他の街の復興もうまくいくだろう。

 この街を養える農業法も、お試し前だが見つかった。フィヨルギンを田園都市にした場合、作物が実るまでの時間を食いつなぐことができそうだ。足りないならこっちで食料を援助すればいい。どうせ異次元収納の中には食料が有り余ってるから。

 あ、どうしよう。いいことずくめだ。

 ボルギの住人がユールに期待しているのと同じように、ユールもまたこのボルギの街と住人に多大な期待を寄せていた。
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