白銀の超越者 ~彼女が伝説になるまで~

カホ

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~領地改革~

マスコットな聖獣

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 日を改め、ユールはヴィクトリア水郷とは別の場所にある、もう一つの聖獣の住処に向かっている。

 目的地はホズの南にある、森に囲まれた霊山アレクサンドリア。スレイプニルのスイ曰く、ここの山には霊鳥ガルダのリンが住んでいるらしい。

 あ、そうそう。今でも時間ができたら古の森とクリステル渓谷は訪れているから、スレイプニルに会ったことをヒッポグリフポッポスフィンクストトに話したら、ポッポは呆れたような笑みを浮かべ、トトは大爆笑した。

 どうやらスレイブニルは、聖獣の間でも有名な変わり者らしい。そうか、有名人だったのか。

 霊山アレクサンドリアはヴィクトリア水郷や、今までユールが立ち入ってきた聖獣の住処より攻略しづらいらしい。なんたってまずは霊山を囲っている森を越え、さらに標高何千mもある霊山を登る必要がある。ガルダは山頂近くに住んでいるらしいから。

 登りたくないな。どうしよう、魔法で登る?しかし働きづめで疲れてるから、莫大な魔力を使って疲労感を増やしたくないな。膨大な魔力を一気に使うと、気だるさが襲ってくるのだ。

 ……いっちょ召喚してみる?

 ユールは自分の左手首につけている銀色のブレスレットを見た。登場回数が少なくて存在感が薄いけど、聖獣たちの忠誠の腕輪である。

 ユールの魔力は、とっくに聖獣を召喚できるほどに成長している。どうせまともに利用したことないし、召喚してみてもいいかしら?

 スフィンクスは人嫌いだから候補からは外しておこう。ユールは腕輪に魔力を流し、心の中でヒッポグリフを呼ぶ。

 腕輪がまばゆく輝き、光があたりを包み込む。光が止んだ時、ユールの前には数日前にも会ったヒッポグリフのポッポがいた。

『呼び出されたな』
「呼び出したわ」
『ユールに召喚されたのは始めてだな。何か用事か?』
「うんと……霊山を登るのが面倒だからポッポに運んでもらおうかと思って」

 召喚した理由を聞いてきたから素直に答えた。理由を聞くと、ポッポはなぜか笑い始めた。何か面白いことを言いましたでしょうか?

『いやいや、ユールは変わらんなと思って。クリステル渓谷にダイブする精神は健在だった』

 ……ポッポさんよ、それまだ引きずってたか。もう3年前の話よ?しかも話の関連性がよくわからない。

『霊山の頂上まで、私がユールを乗せていけばいいのだな』
「うん」
『ちなみにスフィンクスを呼ばなかった理由を一応聞いてもいいか?』
「彼、人嫌いだもの。こういう人里近い場所は苦手でしょ」
『ごもっともだな』

 カラカラと笑い、ユールが乗りやすいようにポッポがその場にしゃがむ。

『乗っていいよ。山頂まで連れてってあげる』





「何これすごい」
『ずいぶんはしゃいでるね』
「はしゃ……はしゃいでるの?これははしゃいでるって言うの?」
『今までのユールに比べたら、これは十分はしゃいでいるよ』
「ふぅーん」

 今、ユールはポッポの背中に乗って空を飛んでいる。

 ポッポは単純に頂上まで一直線に飛ぶのではなく、霊山の周りを飛び回りながら徐々に高度をあげていった。おかげでユールは眼下の景色を思いっきり楽しむことができた。

「霊山の森って、上から見るとずいぶん綺麗な丸なんだね」
『全ては霊山の持つ魔力の影響だろうな』
「あ、ホズの街だ。上から見るといかに小さい街かがよくわかるわ」
『リンから聞いたんだが、新興都市なんだろ?』
「そうなんだけど………ポッポは霊鳥ガルダを知ってるの?」
『ああ。あの子は聖獣の間ではマスコットとして有名だよ』
「マ、マスコット?」
『そう、マスコット』

 聖獣がマスコット?マスコット?聖獣のマスコット……?マスコットな聖獣……?

 ダメだ。ちょっと想像できない。

「どんな聖獣だろう?」
『ユールならきっと気に入るし、気に入られるよ』

 ポッポに自信満々に言い切られた。そんなにかわいいのだろうか?

『ほら、もうすぐ山頂だよ』

 ポッポに言われて視線を正面に戻すと、霊山アレクサンドリアの頂上がすぐそこまで迫っていた。

 特に危なげもなく、ポッポは真っ白で足跡一つない雪の上に降り立つ。霊山アレクサンドリアはだいぶ標高が高いので、頂上には余裕で雪が降り積もっている。

『寒くはないか?』
「平気。温度調整の魔法を使ったから」
『ああ、そうだったな。ユールは魔法の常識知らずだった』

 あたりを見渡してみる。周りには針葉樹と雪しか存在しない。探索魔法を発動させてみるが、周辺にポッポ以外の聖獣らしき姿は見当たらない。

「お留守なのかな?」
『留守ってことはないだろう。聖獣は基本、住処の森や山からは一歩も出ない』
「じゃあお散歩にでも出てるのか…………」

 ポフン!

 上から何かが降ってきた。そしてそれはちょうどポッポとユールの横に落ちてきて、なんとも気の抜ける効果音とともに雪に突っ込んだ。

「………」
『………』

 どう反応していいかわからず、無言で"何か"が突っ込んでいった部分を見つめる。

 "何か"が突っ込んできてちょっと凹んでいた雪がもぞもぞと動き、小さく盛り上がる。やがてその雪の小山のてっぺんから、紅葉色の可愛らしい鳥がポンと頭を出した。

「…………」

 可愛かったので、思わず二度見してしまった。

 紅葉色のその鳥は、非常につぶらでクリッとした赤い瞳をしていた。もはやひよこにしか見えない小動物感あふれる小さな黄色いくちばしとかわいい顔、あと頭のてっぺんに、アホ毛のようにクルッとした飾り羽が2本ついている。

 ………どうしよう、かわいい。

『ピュ?』

 いや………その鳴き声は反則でしょ。可愛すぎるよ……。

『リン、久しいな。私のことは覚えているか?』
『ポーなのー!』
『覚えていたんだな』
『リンね、ちゃんとおぼえてるのー、ぜんぶー』
『そうか。偉いな』
『えへへー♪』

 ユールが目の前の紅葉色の鳥の可愛さにダメージを食らっている横で、ポッポはその子を"リン"と呼んで雑談を始めた。

 ……リン?その子がまさか、霊山アレクサンドリアに住む聖獣ガルダなの!?

 ポッポに呼ばれると、リンと呼ばれた霊鳥ガルダはもぞもぞと雪の中からはい出てきた。

 結論。ものすごくマスコットな聖獣だった。

 サイズとしては、恐らく両手で抱っこできる程度だろう。全身の羽毛はもふもふで、紅葉色と黄色のグラデーションになっている。お尻にはオレンジ系統の色とりどりの飾り羽がついていて、キラキラ光っている。

 ヤダこの子、かわいい。

『ポーポー、このおねえちゃんだぁれ?』
『ああ、この子はユールと言うんだ。リンに会いたくて来たんだよ』
『え!おねーちゃん、あそんでくれるの?』
「え?え、えっと……まあ……」
『ほんと!?やったーぁ!おねーちゃん、だっこしてー!』

 羽をパタパタさせて飛び上がり、ユールの腕の中にスポッと収まるリン。対するユールは、リンのあまりの可愛さにフリーズしていた。





「ユール様?ちょっとユール様?どうしたんです?そんな有らぬ方向を見つめて」
「………可愛かったな……」
「なあ、ノルン。ユール様どうしちゃったんだ?」
「テオ、私に聞かれてもわからないわよ。………聖獣と何かあったのかな?」
「………あれは完全なる癒しだね…お持ち帰りしたいわ……」
「ヴェル姉、ユール様本当にどうしたんだろう?」
「さあ……?ウルズ姉さん、理由わかる?」
「……………ユール様……あんなかわいい生き物に出会ったのですね。それなら仕方ないわ」
「ねえ、兄さん。ユール様だけでなくウルズも変になっちゃったんだけど」
「フレイヤ、それ俺には解決できない問題だから。トールは何か推測できる?」
「……多分お出かけでなんかあったんじゃねえの?」
「………セラと並ぶくらいかわいい生き物が見つかるなんて………」
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