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元治元年
幕間:街中の出会い
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ある日の昼下がり、私は財布片手に京の街をぶらついていた。後ろからはてくてくとほむろがついてきている。
ちなみに池田屋で死んだあと、ほむろは三毛猫から真っ白いペルシャ猫みたいな見た目になった。何、ほむろって力が戻るたびに姿変わるの?え、そういう仕様?
池田屋事件のあと、私はなぜか土方さんに外出許可をもらった。ちょっと意味がわからない。私は外出を許可してもらわないといけない立場だったのかな?
そもそも私は銭湯に行くためにしょっちゅう屯所を脱走してるから、外出許可をもらっても、うーんって感じなんだけど。
(でも、たまには真昼の街を堂々と買い物しながら歩くのも悪くないわね)
『お主、脱走してるといってもいつも夜だったからのう』
おっしゃる通りで。
(でも自重しないと。これで入山の追っ手に気づかれちゃあ本末転倒だもの)
『うむ。男装しているとはいえ、油断は禁物じゃ』
ここんとこ静かすぎて不気味だけど、京の街で私たちを探して目を光らせていないとは限らないからね。
通りを歩きながら、私は見かけた薬問屋に片っ端から入ってみた。これでも薬学部生のはしくれ、この時代の薬についても興味があるのですよ。
(へえ。これって、こっちでは軟膏に使うんだ。意外)
『別の使い方があるのか……?』
(これは煎じ薬?そういう使い方しちゃうの?もったいない)
『この時代では普遍的な薬なんじゃが………』
(なんか、いろいろと違うなぁ)
「あの………お客様。本当にこの量を買うんですか?」
平成の世と違って、江戸時代は薬問屋が少ないようだ。街中をだいぶ歩いてるが、まだ何軒しか見かけていない。
『しかしずいぶん買ったな。店の者も仰天しておったぞ』
(いいじゃん、財布の中身はまだジャラジャラなんだし。しばらく外出はしないから、ドカ買いくらい許してよ)
大きな風呂敷を抱えてほむろとそんなことを話しながら歩いていると、曲がり角の先で見知った顔を見つけた。
(あ、斎藤さんだ)
通りの向こうの茶屋の前に、浅葱色の隊服を着た斎藤さんがいた。確か今日の市中見廻は斎藤さんの三番組だったな。
しかし、なんかトラブってますね。
「んだと、壬生狼風情が!」
「俺たちに意見するってのか!」
どうやらお取り込み中のようだ。近くに行って邪魔しちゃうのもなんだし、ここから見守ることにする。
(初めて来た時も思ってたけど、京の街って賑やかだよね。いろんな意味で)
『否定できんな。最近は長州の輩が京をうろつき回っておるからなおさらのう』
(あー、あれか。池田屋で仲間斬られたから逆ギレしたってやつね。)
『逆……?ま、まぁそういうことじゃろう』
(そもそもあーいうやつってさ、勤王の志士とか言って偉そうにしてるけど、ようするに定職に就いてないゴロツキなんでしょ?)
『お主も言うな………』
私とほむろがそんなことを話している間にも、向こうでトラブルは続行中なわけでして……。
「てめえ、面白え。やるか!?」
「壬生狼風情が、俺たちに勝てると思ってんのか!?」
「武士気取りの幕府の犬が!」
おうおう、すごい言いようだね。
逆上したらしい浪士たちが、一斉に抜刀する。
(街中で刀を抜くとか、物騒な人たちだね)
『言えておる』
(みんな怯えて逃げてるじゃない)
まあ、斎藤さんの相手じゃないだろうけど。斎藤さんって、沖田さんや永倉さんと並ぶ剣豪だもん。右差しだけど。
そして私の予想通り、捕物と呼ぶにはあっけなさすぎるほど早く、斬り合いは終わった。結果はもちろん、新選組の圧勝。
(負ける勝負なんて、最初から申し出なければいいのに)
『本当だよな』
隊士さんたちが浪士をぐるぐる巻にしている。どうやらひと段落ついたようなので、私は斎藤さんに近くまで行った。
「ん?ああ、御影か。今日は外出しているのだな」
私はコクリと頷く。
私の耳が聞こえるようになったことは、幹部連中には隠し通せませんでした。ショックで聴力が戻ったってことで一応納得はしてくれたけど。
そもそも、これをバラしたのが新選組一の問題児である沖田さんじゃあ、私の手には負えるわけもないんだが。
その時、問題が起きていた茶屋から一人の男性が出てきた。少しだけ淡い黒色の髪で、いかにも優男みたいな穏やかで優しそうな美青年だ。
なんか会う会う人みんなイケメンなんだけど。幕末にはなんでこんな無駄にいっぱいイケメンがいるの?
「あんたはここの客なのか」
「ええ、そうです」
「そうか。迷惑をかけてすまないな」
「いいえ。むしろ食い逃げを捕まえてくれて感謝していますよ」
斎藤さんがそう言うと、優男さんは困ったように微笑みながら首を振った。さっきの人たちは食い逃げだったのか。
なんか一人だけ突っ立ってるのも変な気がして、私はぺこりとお辞儀をした。口が利けないからこれで勘弁してください。
顔をあげると、優男さんはなぜか私を見て目を見開いている。
「君は………」
(……?)
そんなに人の顔をガン見して、どうした?私の顔になんかついてるのかな?
「この少年が、どうかしたのか」
口が利けないからどうしようと内心あわあわしていると、斎藤さんから助け舟が入った。ナイスです!斎藤さん!
「……………いいえ。とても綺麗な子だな、と思っただけです」
優男さんは斎藤さんの問いに微笑みながら答え、私に向き直った。
………今の間がすごい気になったんだが。
「僕は白川 光夜と言います。縁があったら、またどこかでお会いしましょうね」
そう言って、なぜか私の頭をポンポンと撫で、不思議な雰囲気の優男……白川さんは去って行った。
………なんだったの?
ちなみに池田屋で死んだあと、ほむろは三毛猫から真っ白いペルシャ猫みたいな見た目になった。何、ほむろって力が戻るたびに姿変わるの?え、そういう仕様?
池田屋事件のあと、私はなぜか土方さんに外出許可をもらった。ちょっと意味がわからない。私は外出を許可してもらわないといけない立場だったのかな?
そもそも私は銭湯に行くためにしょっちゅう屯所を脱走してるから、外出許可をもらっても、うーんって感じなんだけど。
(でも、たまには真昼の街を堂々と買い物しながら歩くのも悪くないわね)
『お主、脱走してるといってもいつも夜だったからのう』
おっしゃる通りで。
(でも自重しないと。これで入山の追っ手に気づかれちゃあ本末転倒だもの)
『うむ。男装しているとはいえ、油断は禁物じゃ』
ここんとこ静かすぎて不気味だけど、京の街で私たちを探して目を光らせていないとは限らないからね。
通りを歩きながら、私は見かけた薬問屋に片っ端から入ってみた。これでも薬学部生のはしくれ、この時代の薬についても興味があるのですよ。
(へえ。これって、こっちでは軟膏に使うんだ。意外)
『別の使い方があるのか……?』
(これは煎じ薬?そういう使い方しちゃうの?もったいない)
『この時代では普遍的な薬なんじゃが………』
(なんか、いろいろと違うなぁ)
「あの………お客様。本当にこの量を買うんですか?」
平成の世と違って、江戸時代は薬問屋が少ないようだ。街中をだいぶ歩いてるが、まだ何軒しか見かけていない。
『しかしずいぶん買ったな。店の者も仰天しておったぞ』
(いいじゃん、財布の中身はまだジャラジャラなんだし。しばらく外出はしないから、ドカ買いくらい許してよ)
大きな風呂敷を抱えてほむろとそんなことを話しながら歩いていると、曲がり角の先で見知った顔を見つけた。
(あ、斎藤さんだ)
通りの向こうの茶屋の前に、浅葱色の隊服を着た斎藤さんがいた。確か今日の市中見廻は斎藤さんの三番組だったな。
しかし、なんかトラブってますね。
「んだと、壬生狼風情が!」
「俺たちに意見するってのか!」
どうやらお取り込み中のようだ。近くに行って邪魔しちゃうのもなんだし、ここから見守ることにする。
(初めて来た時も思ってたけど、京の街って賑やかだよね。いろんな意味で)
『否定できんな。最近は長州の輩が京をうろつき回っておるからなおさらのう』
(あー、あれか。池田屋で仲間斬られたから逆ギレしたってやつね。)
『逆……?ま、まぁそういうことじゃろう』
(そもそもあーいうやつってさ、勤王の志士とか言って偉そうにしてるけど、ようするに定職に就いてないゴロツキなんでしょ?)
『お主も言うな………』
私とほむろがそんなことを話している間にも、向こうでトラブルは続行中なわけでして……。
「てめえ、面白え。やるか!?」
「壬生狼風情が、俺たちに勝てると思ってんのか!?」
「武士気取りの幕府の犬が!」
おうおう、すごい言いようだね。
逆上したらしい浪士たちが、一斉に抜刀する。
(街中で刀を抜くとか、物騒な人たちだね)
『言えておる』
(みんな怯えて逃げてるじゃない)
まあ、斎藤さんの相手じゃないだろうけど。斎藤さんって、沖田さんや永倉さんと並ぶ剣豪だもん。右差しだけど。
そして私の予想通り、捕物と呼ぶにはあっけなさすぎるほど早く、斬り合いは終わった。結果はもちろん、新選組の圧勝。
(負ける勝負なんて、最初から申し出なければいいのに)
『本当だよな』
隊士さんたちが浪士をぐるぐる巻にしている。どうやらひと段落ついたようなので、私は斎藤さんに近くまで行った。
「ん?ああ、御影か。今日は外出しているのだな」
私はコクリと頷く。
私の耳が聞こえるようになったことは、幹部連中には隠し通せませんでした。ショックで聴力が戻ったってことで一応納得はしてくれたけど。
そもそも、これをバラしたのが新選組一の問題児である沖田さんじゃあ、私の手には負えるわけもないんだが。
その時、問題が起きていた茶屋から一人の男性が出てきた。少しだけ淡い黒色の髪で、いかにも優男みたいな穏やかで優しそうな美青年だ。
なんか会う会う人みんなイケメンなんだけど。幕末にはなんでこんな無駄にいっぱいイケメンがいるの?
「あんたはここの客なのか」
「ええ、そうです」
「そうか。迷惑をかけてすまないな」
「いいえ。むしろ食い逃げを捕まえてくれて感謝していますよ」
斎藤さんがそう言うと、優男さんは困ったように微笑みながら首を振った。さっきの人たちは食い逃げだったのか。
なんか一人だけ突っ立ってるのも変な気がして、私はぺこりとお辞儀をした。口が利けないからこれで勘弁してください。
顔をあげると、優男さんはなぜか私を見て目を見開いている。
「君は………」
(……?)
そんなに人の顔をガン見して、どうした?私の顔になんかついてるのかな?
「この少年が、どうかしたのか」
口が利けないからどうしようと内心あわあわしていると、斎藤さんから助け舟が入った。ナイスです!斎藤さん!
「……………いいえ。とても綺麗な子だな、と思っただけです」
優男さんは斎藤さんの問いに微笑みながら答え、私に向き直った。
………今の間がすごい気になったんだが。
「僕は白川 光夜と言います。縁があったら、またどこかでお会いしましょうね」
そう言って、なぜか私の頭をポンポンと撫で、不思議な雰囲気の優男……白川さんは去って行った。
………なんだったの?
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