歌姫聖女は、貴方の背中に興味があります

325号室の住人

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代わりの聖騎士との3人暮らし

代替の聖騎士

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16歳の誕生日、夢を見たの。
私はまた、あのお胸の重い、前の私になっていたわ。

ある日、ステージに上る前に女性スタッフと一緒にトイレへ向かうと、ちょうど隣の男性用にトムが入って行くのが見えたの。

用を足し終えて個室から出ると、男性用の方角から、男声の鼻歌が聞こえてきたの。
それが、どこかで聞いたことのある歌だったのだけど、私のリストにはない歌だったし全然思い出せなかった。

──あとでトムに訊こうかしら。

でも出番だと呼ばれて、私はそのままステージに向かってしまったの。


曲のタイトルを思い出したのは、世界ツアーの只中、日本でのステージの全てのリストを終えて、賛辞を浴びている時だったわ。

立ち上がって『ブラボー』なんて叫ぶ大人の真ん中で、5歳くらいの怯えきった表情の女の子がいることに気付いてね…
私は舞台袖に引っ込むと、中の階段から客席へ移動したの。

下手手前の扉から出た私は、近くの座席の人々のどよめきに出迎えられたわ。
そして女の子のところに辿り着くと、私はその子を抱き上げたの。

女の子や両隣のご両親はもうパニックね。
でも、誰が1番のパニックかと言えば女の子よ。
大熱狂の母親の悲鳴なんて、本当パニック以外にないわよね。

女の子は、お守り代わりの猫のお人形(ちゃんと片耳にリボンを結んで花柄のワンピースを着てる子よ)を胸にぎゅうぎゅうと抱き締めていたわ。
ソレを見て思い出したのよ。

トムの鼻歌は、こんな子猫ちゃんが出てくる童謡だったの。

私は気付いたらその歌を口ずさんでいて…
1回目のAメロの最初に表情を緩めてくれた女の子もBメロからは一緒に歌ってくれたの。
すると、その歌が何の歌か気付いてくれたコンダクターがタクトでスタンドをコンコンと叩き、楽譜もないのにみんなで演奏してくれたのよ。

私は女の子とサビまで歌うと、間奏で女の子を座席に下ろして舞台へ走ってコンダクターの横へ移動したの。

2番の歌詞はそこまで浸透してない歌だから、2回目のからは1番の歌詞を繰り返し。結局ホール全体で大合唱になったわ。

そうして、最後に私が2番を歌ってフィナーレを迎えてそのステージは終演となった。

楽屋に戻ってくると、トムが扉の横の壁に凭れていた。
私が近付けば、モノ言いたそうな表情でこちらを見る。

扉を開くのと同時に、トムが口を開く。

「…聞いていたのですね。」

私は無言で扉を閉じると、ドレスを脱いだところで笑いが込み上げて大笑いした。

もちろん、目が覚めた今の私セアリアも、失恋ホヤホヤだったのに笑っちゃったの。






ダドゥと離れて1週間が過ぎたわ。
私はその日も日課の散歩に出ていて、鼻歌まじりに田畑を回りながら、5年の間に覚えたいろいろな歌を歌っていたの。

今は顔を見ていないからかもしれないけれど、失恋のショックなんてどっか行ってしまったわ。

日課の散歩から戻る途中で、今日も村人たちからたくさんの差し入れをもらって、借りた背負子で担いで山道を上っていると、不意に荷物が軽くなったの。
振り返れば、聖騎士の制服を纏った背の高い若い男が、深い青の瞳で私を見下ろしていて…

瞳の色で、幼馴染のウルを思い出したけれど、ウルと違って髪は黒に近い茶だし、肌だってよく日に灼けていたから絶対に別人ね。

長い髪を首の後ろで縛っていて、
「行くぞ。」
低い声でボソリと呟くと、借りた背負子を左腕に提げて私の前を歩き始めたの。

「え? 貴方誰なの?」
訊ねれば、返事をするつもりか立ち止まって振り返る。
「挨拶は上でする。」
またボソリと呟くと、またスタスタと歩き始めてしまった。






私が神殿に到着した時には、先に到着していた男はギリアン爺と楽しげに話していたの。
まるで昔からの知り合いだったみたいによ。
あんなにぶっきらぼうだった男なのに、笑い顔は少年みたいだったわ。

いつまでも私の帰宅に気付かないみたいだから、

「ただいま!」

大声で叫んでやったの。すると、ギリアン爺が男を紹介してくれたの。

「彼はラウ。今日からダドゥの代わりでセアリアにつく聖騎士じゃぞ。」

男は、いつかのダドゥみたいに私の前で膝をついたわ。

「ラウと申します。本日より、どこかへ行かれる際には同伴させていただきます。」
「わかりました。わたくしは…」
「存じております。《歌姫聖女》セアリア様。」
「えぇ、宜しく。」

言えば、ラウは私の右手を掬うように持ち上げ、手の甲に唇を押し当てた。

チュッ…

広くて天井の高い神殿内に、思いの外大きな音でリップ音が響く。
私は恥ずかしさに顔が真っ赤だけれど、顔を上げて立ち上がるラウは、平然とした表情をしていたの。


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