2 / 6
婚姻式前日
婚姻式前日の明け方、俺は妹のシャノンの寝室に忍び込んだ。
シャノンは朝食後に王宮へ向かい、翌日の婚姻式の準備をすることになる。
だから、俺とシャノンが会うのは……これを逃せば、最初の子を出産してからということになる。
王族はその純血を尊び、妃となる者の純潔を重んじる。
だから、たとえ血を分けた兄であっても、婚姻してしまえば異性は会うことが叶わないのだ。
俺は寝室へと移動し、シャノンを起こす。
「もう! お兄ぃったら何よ!」
機嫌はすこぶる悪い。
だが、俺は古ぼけたノートを妹に差し出した。
「シャノン! 実はこれを急いで読んで欲しい。」
「はぁ? 何よこの汚いノート!!」
「これはな…聞いて驚け。俺達の運命が記されたノートだ。この1番最後をよく読むんだ。」
俺がシャノンに開いて見せると、
「……!!」
シャノンは文字を追うなり息を飲んだ。
「これって……お兄ぃ!」
「そう。シャノン、お前婚姻で幸せにはなれないみたいだ。」
「…………は?」
「だから………だから、今からお前は領地へ行け! 俺が代わる。
ジュード!!」
「はっ!」
「え? でも! お兄ぃ!!」
「さぁ、シャノン様、こちらへ…」
「ちょ…ダメだってば、ジュード! 離して!! お兄ぃ!!」
俺は、側近兼護衛のジュードへ命じて妹のシャノンを担いで連れ出させた。
──ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい!!!
私シャノンは、私の初恋の相手である、兄付きのジュードに抱え上げられ揺られながら、今のこの状況を整理しようとしていた。
小さい頃、額に傷を作る怪我をした私は、前世というものを思い出した。
その世界では、なぜか今の私や兄のことがお話になっていた。
ジャンルは私の大好物のBL。
自分が悪役令嬢だったことに愕然としながらも、前世持ちなことにドキワクしてテンションの上がったまま、1冊のノートに記憶の限りを書き留めた。
で、当時かなり幼かったせいもあって、今の今までそのノートの存在を忘れていたのだ。
──ヤバイヤバイヤバイヤバイ……
悪役令嬢であるシャノンは、婚姻後に殿下の性癖を知り、ノルマである子を1人出産すると自害してしまう。
元々兄のことが好きだった殿下はその後、兄を呼び出して力ずくで挿入…
兄は男性を終える術を掛け、以降は女性として過ごすことで、男色の殿下の執着から逃れる……という話だ。
──あのノートが、まさか兄のところにあったなんて!
私は腐女子だから、兄と殿下のチョメチョメ見ながら娘と2人楽しく生きるなんて、パラダイスだったのに……
私は、ジュードの肩で揺られながらだんだん小さくなって行く屋敷の灯りを見ながら、兄の無事を願ったのだった。
「はい。殿下と共に歩み、支え合い、その生涯を終えるまで愛し続けることを、誓います。」
なぜか巧いこと追い出されることなく婚姻式当日を迎えた俺は、心持ち高めの声を意識して、殿下への愛を誓ってみた。
婚姻式の終盤、俺は殿下の方へ体を向ける。
殿下が1歩前へ出るのと同時に俺はかがみ、ドレスに括られた宝石の欠片の数を数え始める。
そうでもしないと緊張で耐えられない。
ヴェールを上げられ、至近距離で殿下に顔を見られればきっとバレる。
そうなれば、王家を謀ったとして我が家はお取り潰しになるかもしれない。
だから冷静でいなければならない。
どんな言いがかりも、全部尤もらしく言い返してやる。
今頃は、俺の手筈通りなら、隣国でシャノンとジュードも婚姻式をしているはずだ。
妹と家族の幸せのために、俺は耐えるんだ!
あなたにおすすめの小説
婚約破棄を提案したら優しかった婚約者に手篭めにされました
多崎リクト
BL
ケイは物心着く前からユキと婚約していたが、優しくて綺麗で人気者のユキと平凡な自分では釣り合わないのではないかとずっと考えていた。
ついに婚約破棄を申し出たところ、ユキに手篭めにされてしまう。
ケイはまだ、ユキがどれだけ自分に執着しているのか知らなかった。
攻め
ユキ(23)
会社員。綺麗で性格も良くて完璧だと崇められていた人。ファンクラブも存在するらしい。
受け
ケイ(18)
高校生。平凡でユキと自分は釣り合わないとずっと気にしていた。ユキのことが大好き。
pixiv、ムーンライトノベルズにも掲載中
愛され少年と嫌われ少年
透
BL
美しい容姿と高い魔力を持ち、誰からも愛される公爵令息のアシェル。アシェルは王子の不興を買ったことで、「顔を焼く」という重い刑罰を受けることになってしまった。
顔を焼かれる苦痛と恐怖に絶叫した次の瞬間、アシェルはまったく別の場所で別人になっていた。それは同じクラスの少年、顔に大きな痣がある、醜い嫌われ者のノクスだった。
元に戻る方法はわからない。戻れたとしても焼かれた顔は醜い。さらにアシェルはノクスになったことで、自分が顔しか愛されていなかった現実を知ってしまう…。
【嫌われ少年の幼馴染(騎士団所属)×愛され少年】
※本作はムーンライトノベルズでも公開しています。
とばっちり男爵令息は幼馴染侯爵の溺愛に気付かない
白世藍
BL
セルディック男爵家の次男であるディオンは、昔から災難な目に遭うことが多かった。
今目の前で断罪されている悪役令嬢の婚約者になったのもつい3日前のことだ。そして、当然のようにディオンは断罪に巻き込まれた。
婚約者を咎めなかった罪で学園を追放され、賠償金を捻出するため男娼専門の娼館に売り払われた。
本人は何もしていないのに。
そして娼館にやってきたのは、2つ年上の幼馴染でもあるシリル・コーディナル侯爵だ。シリルは店にお金を払い、ディオンを引き取ることにした。
溺愛権力持ち年上幼馴染わんこ侯爵×不運な鈍感苦労人男爵令息のお話。
ハッピーエンドです。
※受けは娼館に売り払われていますが、攻め以外とのRシーンはありません。
※ムーンライトノベルズ様にも同時掲載しています。
かわいい王子の残像
芽吹鹿
BL
王子の家庭教師を務めるアリア・マキュベリー男爵の思い出語り。天使のようにかわいい幼い王子が成長するにつれて立派な男になっていく。その育成に10年間を尽くして貢献した家庭教師が、最終的に主に押し倒されちゃう話。
王子様の愛が重たくて頭が痛い。
しろみ
BL
「家族が穏やかに暮らせて、平穏な日常が送れるのなら何でもいい」
前世の記憶が断片的に残ってる遼には“王子様”のような幼馴染がいる。花のような美少年である幼馴染は遼にとって悩みの種だった。幼馴染にべったりされ過ぎて恋人ができても長続きしないのだ。次こそは!と意気込んだ日のことだったーー
距離感がバグってる男の子たちのお話。
弟と妹より劣る僕が自信家を演じてたら、部下にバレた件
ゆきりんご
BL
【重い感情を隠している年下敬語攻め×自己肯定感低い年上受け】
イリアスは職場で「優秀で顔もそこそこ良くて頼りになる上司」を演じているが、本当は自信がない。付き合っていた相手に振られることが続いてさらに自信をなくした。自棄になろうとしていたところを、気になっていた部下に止められて、成り行きで体の関係を持つことになり……?
追放されたおまけの聖女♂は冷徹王太子の腕の中から離してもらえない〜今さら戻れと言われても、もうこの人の魔力しか受け付けません!〜
たら昆布
BL
聖女のおまけで召喚されたと思われて追放された不憫受けが拾われて愛される話