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選ばれなかった王子
しおりを挟む僕も慌てて頭を垂れると、僕の前に馬車が止まる音がし、次いで扉が開く音やステップを擦る靴音が地面に降りた音がした。
「一同、面を上げ!!」
左側からのルフネさんの声に僕も顔を上げると、目の前には満面の笑みながらも目の下の隈がくっきりとした黒髪短髪の青年が、僕をじっと見ていた。
目が合うと、
「ケイ!!」
僕は首を傾げる。
目の下の隈はダヴィさんよりくっきりと深いし、髪もだいぶ短いし…
だいたい、明るい陽の下でダヴィさんの顔を見たことはないので自信がない。
青年は悠然とした態度で三歩近付くと、僕の手を取る。
それから、胸ポケットから革袋を取り出し、跪くと、
「ケイ! また一緒に風呂に入ってくれないか?」
見上げた顔は、案の定のダヴィさんだった。
「…………………………」
「畏まりました。」
返事をしたのはルフネさんだった。
いつの間にか僕のすぐ後ろまで来ていたルフネさんは、言うと僕の背中を押して、フリーズ状態に近かった僕はダヴィさんの上に倒れ込む。
ダヴィさんは素早く立ち上がり、僕を抱き止めると、
「ありがとう。ケイは借りて行く。」
言って、今しがた降りたばかりの馬車に押し込められた。
ダヴィさんもすぐに乗り込んで、扉が閉まる瞬間だった。
「待て! 私も行く!!」
無人のまま、魔法のように閉まる扉の隙間に滑り込むように、ソーマが入って来た。
そして、御者の掛け声ののち、馬車は走り出した。
「ソーマはついて来なくても、構わなかったのだが?」
「《構わない》ということは、どちらでも良いのだろう?」
「ケイの隣は私が乗るのでソーマはそこを退け!」
「いいえ、王子殿下はお一人でごゆるりとお座りください。」
「ならば、ケイは私の膝へ!」
「いえいえお気になさらず。ケイは意外とずっしりしておりますよ。」
「私も鍛えている」
「ここは臣下にお譲りください。」
「ならばケイに問おうではないか。」
「ケイ、私とダヴィ、どちらが良かった?」
僕はもろもろを思い出して、沈黙のち赤面。
「私(との情事)の方が善かったよな、ケイ。」
「私(の肉体)の方が良かったよな、ケイ。」
今は、僕を膝に乗せるための筋力について、ダヴィさんとソーマが話していると思うのに、別のことに聞こえるのはなぜだ。
でも、それ以前に気になる言葉があったんだった。
「………………王子殿下?」
「なんだい? ケイ。」
呟きに返事をするのは、ダヴィさんだ。
「そうです、ケイ。こちらは《選ばれなかった王子》。ダーヴィレン第一王子殿下です。」
説明はソーマ。
「この国には三人の王子がいらっしゃる。第一王子、ダーヴィレン殿下。第二王子、シュルツォ殿下。第三王子、ピュリュエ殿下。
第二王子殿下と第三王子殿下は双子で、巫女に選ばれ既に解呪済み。数年前に他国から王女を得、既に婚姻されている。」
「ふぅん。」
「しかし、第一王子ダーヴィレン殿下は、巫女から選ばれなかった。そこで、《選ばれなかった王子》と呼ばれているんだ。」
ダヴィさんの方を見れば、彼は遠い目をして車窓を眺めている。
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