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325号室の住人

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はじまり・ウィルソン伯爵家だったとある朝

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「あーーーーー!!!!!」

朝食中、第3子である次女の叫びに、朝食会場は一瞬固まる。
ただし、固まるのは一瞬だ。
なぜなら、彼女の叫びは今日に始まった訳では無いからである。

これまでも、何度か叫びはあった。

抱っこした私が臭かった時、夕食に出された肉が生臭かった時、昼食のスープの味が薄かった時、お茶が濃すぎた時、メイドのププの手荒れを見つけた時、嫡男の婚約者候補達とのお茶会の時…
上げればキリがないのだけれど、でも、彼女の叫びは必ず我が家・我が領に富をもたらした。

だから、また今回も。
この食堂に居る者は全員、そう考えたに違いない。

そして彼女は動き出した。

彼女は、徐ろに靴を脱いでテーブルの上によじ登ると、そのままセンターのフルーツ盛りのてっぺんで鳳凰の役をしていた黄色い皮の柑橘に手を伸ばした。

そして、

「レモンーーーー!!!」
と叫ぶと、なぜかその柑橘に髪を擦り付け始めたのだ。

みるみるうちに艶の出てくる彼女の髪。

以来、我が領の特産はヘアケア製品となる。
それが王国内で大ウケし、領どころか国の大人気輸出商品になり、そして我が家は伯爵家ではなく公爵家となったのだった。


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