2 / 9
子猫と婚約者どの
1
しおりを挟む
12歳 ラライラ・1
それは、12歳の誕生日の朝食の席だった。
「ララよ。今日はお茶の時間にお前の婚約者がお見えになるぞ。」
「は?」
父の一言には、私の返答として一文字に収める…しかないと思うの。
だって、完っ全に寝耳に水だもの。
私は大好きなナッツ入りのパンに齧り付きながら、無言で父を見た。
「なんだ? 喜ばないのか? 王子だぞ? お前が小さい時からよく言っていた、金髪碧眼の!」
この父は、何を言ってくれてるんだろう。
確かに小さい時の私は、『私にもいつか白馬の王子様が迎えに来てくれないかしら』が口癖だった時がある。
が、それはもう覚えているだけで8年前の、しかも個人的に遊んでいた、《虐げられて使用人同然の暮らしをしているお嬢様ごっこ》のセリフである。
それと『王子といえば金髪碧眼なのに腹黒いとかのギャップに萌える』という一般論。
父は何故かその2つをいっしょくたに覚えていたようだ。
なぜ…?
パンを咀嚼しながらそこまで記憶を辿っていた私は、飲み込むと父に言った。
「お父様。私の好みは細マッチョに赤髪の騎士です。《金髪碧眼の王子》みたいなヒョロそうなのは、私の好みではありませんわ!」
今度は、父が言葉に詰まる。
それから顔を青くしてから白くして、言った。
「父は…父は、お前が『白馬に乗った王子を待っている』などと言うからてっきり…」
「頼んでません。」
「あ、理想は頭の切れるモノクルのドS宰相だったか。」
「それは、《弄ばれるなら》です。」
「ララちゃん、お父さん、弄ばれるのはちょっとよした方が…」
「何も、本当に《弄ばれよう》だなんて、思っておりませんわ。」
「……? んー?」
「分からないのでしたら、私の相手のことなどお考えにならないでください。もう口を聞きませんよ!」
「んー…それは嫌だぁ…」
「でしたらもう、お断りあそばせ!」
「でもさぁ、もう城を出たって言うんだよ。ほら、ここってド田舎じゃない?」
「……まぁ、そうですわね。ですが、この国の王子はたったお一人ではないですか? ならばまさか隣国の?」
「いいや、この国の。ホラ、王太子殿下だよ!」
「えぇーーーーーーー!!!」
父は膝の上にあったナフキンで口元を拭うと、立ち上がる。
「それじゃララ、お茶の時間にね。もうちょっとしたらリリーも到着するから、君も早く支度しなさいよ。」
その言葉に、私が知らされたのは家族の中で一番最後だったと知る。
嫡男であるお兄様の朝は元々早く、夜明けから鍛錬をしている。その後は水浴び→朝食、朝の執務を終え、私が起きる頃には領地の見回りに単騎で旅立つ。
何しろ、父が領主になった時にはどちらかと言うと貧乏な伯爵家だったのだが、兄が成人間近となった頃から領地のとある柑橘が爆売れするようになった。
そしてあれよあれよという間に領地は潤い、そのうちそれが国をも潤わせ、その功績で公爵家にまで上り詰めてしまったので、領主を引き継いだ兄はメチャメチャ忙しいのだ。
ちなみに、既婚で子どもも2人居る。
甥っ子達は本当にかわいいが、とにかく体力が有り余っているため、兄は定時で仕事を終わらせてそこからは育児パパに変身するの。
夜は夜で奥さん愛でて、だから奥さんは間もなく3人目を出産です。
で、母様は、リメイクと手仕事が大好きなオシャレ番長。
お洒落していい日が少ないからね、当日は必ず早起きしてお洒落に余念がない。
だから、お洒落できる前の日は早く寝るのだ。
そういえば昨日の母が部屋に戻ったのは早かった。
つまり、今日お客が来ることを知っていたのだろう。
城を挟んだ向こう側の伯爵家に嫁に行った姉のリリーも来るだなんて、どれだけ私に隠していたのやら…
父の消えた扉に向かって力いっぱいの《あっかんべー》をお見舞いしたのは言うまでもない。
それは、12歳の誕生日の朝食の席だった。
「ララよ。今日はお茶の時間にお前の婚約者がお見えになるぞ。」
「は?」
父の一言には、私の返答として一文字に収める…しかないと思うの。
だって、完っ全に寝耳に水だもの。
私は大好きなナッツ入りのパンに齧り付きながら、無言で父を見た。
「なんだ? 喜ばないのか? 王子だぞ? お前が小さい時からよく言っていた、金髪碧眼の!」
この父は、何を言ってくれてるんだろう。
確かに小さい時の私は、『私にもいつか白馬の王子様が迎えに来てくれないかしら』が口癖だった時がある。
が、それはもう覚えているだけで8年前の、しかも個人的に遊んでいた、《虐げられて使用人同然の暮らしをしているお嬢様ごっこ》のセリフである。
それと『王子といえば金髪碧眼なのに腹黒いとかのギャップに萌える』という一般論。
父は何故かその2つをいっしょくたに覚えていたようだ。
なぜ…?
パンを咀嚼しながらそこまで記憶を辿っていた私は、飲み込むと父に言った。
「お父様。私の好みは細マッチョに赤髪の騎士です。《金髪碧眼の王子》みたいなヒョロそうなのは、私の好みではありませんわ!」
今度は、父が言葉に詰まる。
それから顔を青くしてから白くして、言った。
「父は…父は、お前が『白馬に乗った王子を待っている』などと言うからてっきり…」
「頼んでません。」
「あ、理想は頭の切れるモノクルのドS宰相だったか。」
「それは、《弄ばれるなら》です。」
「ララちゃん、お父さん、弄ばれるのはちょっとよした方が…」
「何も、本当に《弄ばれよう》だなんて、思っておりませんわ。」
「……? んー?」
「分からないのでしたら、私の相手のことなどお考えにならないでください。もう口を聞きませんよ!」
「んー…それは嫌だぁ…」
「でしたらもう、お断りあそばせ!」
「でもさぁ、もう城を出たって言うんだよ。ほら、ここってド田舎じゃない?」
「……まぁ、そうですわね。ですが、この国の王子はたったお一人ではないですか? ならばまさか隣国の?」
「いいや、この国の。ホラ、王太子殿下だよ!」
「えぇーーーーーーー!!!」
父は膝の上にあったナフキンで口元を拭うと、立ち上がる。
「それじゃララ、お茶の時間にね。もうちょっとしたらリリーも到着するから、君も早く支度しなさいよ。」
その言葉に、私が知らされたのは家族の中で一番最後だったと知る。
嫡男であるお兄様の朝は元々早く、夜明けから鍛錬をしている。その後は水浴び→朝食、朝の執務を終え、私が起きる頃には領地の見回りに単騎で旅立つ。
何しろ、父が領主になった時にはどちらかと言うと貧乏な伯爵家だったのだが、兄が成人間近となった頃から領地のとある柑橘が爆売れするようになった。
そしてあれよあれよという間に領地は潤い、そのうちそれが国をも潤わせ、その功績で公爵家にまで上り詰めてしまったので、領主を引き継いだ兄はメチャメチャ忙しいのだ。
ちなみに、既婚で子どもも2人居る。
甥っ子達は本当にかわいいが、とにかく体力が有り余っているため、兄は定時で仕事を終わらせてそこからは育児パパに変身するの。
夜は夜で奥さん愛でて、だから奥さんは間もなく3人目を出産です。
で、母様は、リメイクと手仕事が大好きなオシャレ番長。
お洒落していい日が少ないからね、当日は必ず早起きしてお洒落に余念がない。
だから、お洒落できる前の日は早く寝るのだ。
そういえば昨日の母が部屋に戻ったのは早かった。
つまり、今日お客が来ることを知っていたのだろう。
城を挟んだ向こう側の伯爵家に嫁に行った姉のリリーも来るだなんて、どれだけ私に隠していたのやら…
父の消えた扉に向かって力いっぱいの《あっかんべー》をお見舞いしたのは言うまでもない。
0
あなたにおすすめの小説
やり直しの王太子、全力で逃げる
雨野千潤
恋愛
婚約者が男爵令嬢を酷く苛めたという理由で婚約破棄宣言の途中だった。
僕は、気が付けば十歳に戻っていた。
婚約前に全力で逃げるアルフレッドと全力で追いかけるグレン嬢。
果たしてその結末は…
行き場を失った恋の終わらせ方
当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」
自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。
避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。
しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……
恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。
※他のサイトにも重複投稿しています。
彼女が望むなら
mios
恋愛
公爵令嬢と王太子殿下の婚約は円満に解消された。揉めるかと思っていた男爵令嬢リリスは、拍子抜けした。男爵令嬢という身分でも、王妃になれるなんて、予定とは違うが高位貴族は皆好意的だし、王太子殿下の元婚約者も応援してくれている。
リリスは王太子妃教育を受ける為、王妃と会い、そこで常に身につけるようにと、ある首飾りを渡される。
完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました
らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。
そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。
しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような…
完結決定済み
私も処刑されたことですし、どうか皆さま地獄へ落ちてくださいね。
火野村志紀
恋愛
あなた方が訪れるその時をお待ちしております。
王宮医官長のエステルは、流行り病の特効薬を第四王子に服用させた。すると王子は高熱で苦しみ出し、エステルを含めた王宮医官たちは罪人として投獄されてしまう。
そしてエステルの婚約者であり大臣の息子のブノワは、エステルを口汚く罵り婚約破棄をすると、王女ナデージュとの婚約を果たす。ブノワにとって、優秀すぎるエステルは以前から邪魔な存在だったのだ。
エステルは貴族や平民からも悪女、魔女と罵られながら処刑された。
それがこの国の終わりの始まりだった。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる