3 / 9
子猫と婚約者どの
2
しおりを挟む
王子 12歳・1
数日前に城に迷い込んだ子猫に、こっそりエサをやっていた。
昨日は、翌日に婚約者との面談があると聞き、少し憂鬱な気持ちを抱えながら子猫のところへ行った。
現在、未来の王妃となる婚約者選びが佳境に入っているというのは知っていた。
けれど、できることなら親の爵位や本人の能力に関係なく、自身の目で見、声を聞き、心で感じて決めたかったと、何だか鬱々とした気分でいたのだ。
すると雨が降ってきて、それがどんどん本降りになってきた。
僕は子猫を服の下に隠すと、城内の自室まで走った。
子猫を自室に隠し、その晩は一緒に寝る。
温々でもふもふで、僕はいつもよりぐっすり眠ることができた。
目が覚めると、なぜか子猫は居なくなっていた。
バルコニーへ続く窓が僅かに開いており、ここは3階だけれど子とは言え猫だし庭育ちだから、きっと出て行ってしまったのだろうと安易に考え、起こしに来た侍従に、
「王子、そんなに婚約者様にお会いするのが楽しみだったのですか? 王子にも可愛いところがありますね。」
なんて、変な誤解をされると身支度をして朝食を食べた。
婚約者との顔合わせは午後のお茶の時間。
いつもより少ない午前の予定を恙無くこなし、時間になって馬車に乗る。
馬車が走り出す。
僕は少し憂鬱な気持ちになりながら、車窓を眺めていた。
「ナ~~ォッ」
足元から昨日の猫の鳴き声がした。
着飾られて身動きの取りにくい僕は、視線だけで猫の姿を探した。
暫くは鳴き声だけだった猫。
けれど、一面の小麦畑を抜け、どこからか柑橘の爽やかな香りに包まれ始めた頃、ようやく椅子の下から顔を覗かせてくれた。
僕が手を伸ばせば、それを伝って上がってきた仔猫。
しかし、直後に停まった馬車、ノックの後ゆっくりと開く扉を見ると、仔猫はするりと僕の腕を滑り降り、あっという間に扉をすり抜けて行ってしまった。
僕が慌てて馬車から跳び下りようとすると、慌てた侍従に抱き留められる。
その間にも猫はどんどん、屋敷の建物の左側を進むのが、上に伸ばした尻尾でわかる。
「公爵家の皆様、エントランスでお待ちとのことです。」
侍従の言葉に、着飾った重い衣装で屋敷のエントランスを目指していた僕だったが、突如しっぽが見えなくなった。
こんな広大な屋敷の中で迷子になったら、まず連れ帰るのは無理だろう。
だいたい、この邸の者が猫嫌いだったらどうする? 嫌いな猫を持ち込んだ王家の人間との縁談などもちろん壊れるし、公爵と父王との関係にもヒビが入るやもしれぬ。
短い時間でもろもろ考えた僕は、気付けば仔猫を追って走り出していた。
数日前に城に迷い込んだ子猫に、こっそりエサをやっていた。
昨日は、翌日に婚約者との面談があると聞き、少し憂鬱な気持ちを抱えながら子猫のところへ行った。
現在、未来の王妃となる婚約者選びが佳境に入っているというのは知っていた。
けれど、できることなら親の爵位や本人の能力に関係なく、自身の目で見、声を聞き、心で感じて決めたかったと、何だか鬱々とした気分でいたのだ。
すると雨が降ってきて、それがどんどん本降りになってきた。
僕は子猫を服の下に隠すと、城内の自室まで走った。
子猫を自室に隠し、その晩は一緒に寝る。
温々でもふもふで、僕はいつもよりぐっすり眠ることができた。
目が覚めると、なぜか子猫は居なくなっていた。
バルコニーへ続く窓が僅かに開いており、ここは3階だけれど子とは言え猫だし庭育ちだから、きっと出て行ってしまったのだろうと安易に考え、起こしに来た侍従に、
「王子、そんなに婚約者様にお会いするのが楽しみだったのですか? 王子にも可愛いところがありますね。」
なんて、変な誤解をされると身支度をして朝食を食べた。
婚約者との顔合わせは午後のお茶の時間。
いつもより少ない午前の予定を恙無くこなし、時間になって馬車に乗る。
馬車が走り出す。
僕は少し憂鬱な気持ちになりながら、車窓を眺めていた。
「ナ~~ォッ」
足元から昨日の猫の鳴き声がした。
着飾られて身動きの取りにくい僕は、視線だけで猫の姿を探した。
暫くは鳴き声だけだった猫。
けれど、一面の小麦畑を抜け、どこからか柑橘の爽やかな香りに包まれ始めた頃、ようやく椅子の下から顔を覗かせてくれた。
僕が手を伸ばせば、それを伝って上がってきた仔猫。
しかし、直後に停まった馬車、ノックの後ゆっくりと開く扉を見ると、仔猫はするりと僕の腕を滑り降り、あっという間に扉をすり抜けて行ってしまった。
僕が慌てて馬車から跳び下りようとすると、慌てた侍従に抱き留められる。
その間にも猫はどんどん、屋敷の建物の左側を進むのが、上に伸ばした尻尾でわかる。
「公爵家の皆様、エントランスでお待ちとのことです。」
侍従の言葉に、着飾った重い衣装で屋敷のエントランスを目指していた僕だったが、突如しっぽが見えなくなった。
こんな広大な屋敷の中で迷子になったら、まず連れ帰るのは無理だろう。
だいたい、この邸の者が猫嫌いだったらどうする? 嫌いな猫を持ち込んだ王家の人間との縁談などもちろん壊れるし、公爵と父王との関係にもヒビが入るやもしれぬ。
短い時間でもろもろ考えた僕は、気付けば仔猫を追って走り出していた。
0
あなたにおすすめの小説
やり直しの王太子、全力で逃げる
雨野千潤
恋愛
婚約者が男爵令嬢を酷く苛めたという理由で婚約破棄宣言の途中だった。
僕は、気が付けば十歳に戻っていた。
婚約前に全力で逃げるアルフレッドと全力で追いかけるグレン嬢。
果たしてその結末は…
行き場を失った恋の終わらせ方
当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」
自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。
避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。
しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……
恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。
※他のサイトにも重複投稿しています。
彼女が望むなら
mios
恋愛
公爵令嬢と王太子殿下の婚約は円満に解消された。揉めるかと思っていた男爵令嬢リリスは、拍子抜けした。男爵令嬢という身分でも、王妃になれるなんて、予定とは違うが高位貴族は皆好意的だし、王太子殿下の元婚約者も応援してくれている。
リリスは王太子妃教育を受ける為、王妃と会い、そこで常に身につけるようにと、ある首飾りを渡される。
完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました
らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。
そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。
しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような…
完結決定済み
私も処刑されたことですし、どうか皆さま地獄へ落ちてくださいね。
火野村志紀
恋愛
あなた方が訪れるその時をお待ちしております。
王宮医官長のエステルは、流行り病の特効薬を第四王子に服用させた。すると王子は高熱で苦しみ出し、エステルを含めた王宮医官たちは罪人として投獄されてしまう。
そしてエステルの婚約者であり大臣の息子のブノワは、エステルを口汚く罵り婚約破棄をすると、王女ナデージュとの婚約を果たす。ブノワにとって、優秀すぎるエステルは以前から邪魔な存在だったのだ。
エステルは貴族や平民からも悪女、魔女と罵られながら処刑された。
それがこの国の終わりの始まりだった。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる