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【本編】
06 寝坊(浩誠視点)
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シャワーを終えてバスルームを出ると、マサはソファに腰掛けたまま、浩誠のキャリーケースを無遠慮に開けていた。
「おい、何してんだよ」
「ん? 土産探してる」
悪びれもなく、タオルを頭に被った浩誠を一瞥する。
心臓が、さっきよりもうるさくなる。ただ座ってるだけのはずなのに、マサの存在がやけに近く感じた。
そう広くもないホテルの一室に、二人きりなのだ。意識すればするほど、耐えかねない距離に感じる。
「……勝手に漁んな」
「減るもんでもねぇだろ」
そう言いつつ、マサはZIPPOを取り出さないまま、わざとらしく指で弾いて遊んでいた。
キャリーの中身には、もう興味を失ったらしい。
(気づいてるな……絶対)
浩誠の様子がおかしいことに、気づいていないはずがない。なのにマサは、何も言わない。追及もしない。助け舟も出さない。ただ、泳がせるみたいに笑っている。
「顔赤いぞ。湯、熱すぎたか?」
「……うるせぇ」
こいつは可愛くなんてない、そう自分に言い聞かせる。そうだ、可愛いとは正反対。興奮するはずがない。好きと思うはずもないのだ。
「ベッド一個か。狭ぇな」
「……ッ!?」
マサが何気なく言った一言が、頭に刺さる。
(ベッド、一個……)
さっきまで頭の中で暴れていた想像が、再び現実味を帯びて押し寄せてくる。マサが近寄ってきて……ほんのり紅くなった頬で、わざと上目遣いにこちらを見つめてきて……指先が触れたら最後、理性なんて──。
(ッ、何考えてんだ、俺!)
「明日も早いだろ。もう寝とけよ」
そう言って、マサがリモコンで照明を少し暗くした。何も起きていないのに、空気だけが勝手に深くなる。
「……マサは?」
「こんな時間に帰ろうとしたら、浩誠が心配しちゃうからな?」
軽い声。冗談めかした笑い。
それなのに、その言葉だけが異様に重たく響いた。
(ふざけんなよ……、弄びやがって)
「テメェのガタイで心配もクソもねぇよ。さっさと帰れ」
浩誠は心の違和感に気づかないふりして、そう冷たく言い放つ。マサはすぐに言い返さず、暫く無言が続いた。
そして。
「……独りだと、寂しいンだよ」
そんな声で甘えられたら、浩誠はもう、太刀打ちできなかった。低く落とされた声が、妙に耳に残った。目を合わせられないまま、喉だけが鳴る。
(可愛くない。決して可愛くない)
そう自分に言い聞かせるので精一杯だった。明日も早いんだから、早く寝なければ。
──そうだ、これは早く寝るための、最善の選択なのだ。
「……分かった、俺はソファで寝る」
「は? 明日撮影なんだろ。腰やったらどうすんだよ」
「じゃあお前がソファで……」
「嫌。俺も疲れてんの」
そんな会話を経て、ひとつのベッドの中、並んで眠る191cmと183cm。
頑張って触れ合わないようにしても、寝返りを打つと、どこかしらが触れてしまう。それに、呼吸音だって、ハッキリと聞こえてくる。
しかし、前回の睡眠は飛行機の中で、それから緊張続きの慣れないロケ。疲れの溜まっていた浩誠はすぐに、眠りへと落ちていった。
◾︎
目覚ましが鳴り響いた。最初に手を伸ばして止めたのは浩誠だった。音が消えた途端、そのままスヤスヤと眠りに戻る。
二度目のアラームが鳴る。うるさい、と今度止めたのはマサだった。
集合時間は五時。現在、五時十分。
浩誠を起こしに来たのは、入ってまだ日の浅い若手のADだった。
「あ、あのっ、浩誠さん! 出発のお時間なんですけど……!」
ドアの前で、困ったような声を出す。控えめなノック音を響かせた後、暫くして、扉が開いた。
そこに居たのは、バスローブ姿で、不機嫌そうに髪をかくマサだった。
「うるせぇなぁ……」
「ひ、ひぃっ!?」
「……時間か。十分だけ待ってろ」
「わ、わかりました……!」
ちゃんと時間通りにやってきた雪乃が、ロビーでスタッフと共にふたりを待つ。責任者代わりとして任命されたはずの浩誠が遅れるなんて、と呆れ半分でため息をついた。
ようやく現れた浩誠は、血の気の引いた顔。その隣で、マサだけが場違いなほど機嫌よく笑っていた。
「申し訳ございません!」
「もー、イチャイチャするのはいいけど、翌日に響かないようにしてよね」
「イチャ……!?」
顔を上げた浩誠が固まった。
「悪い悪い、雪乃くん、スタッフのみんな。俺が付いていながら……」
マサは相変わらず笑顔のまま、軽い調子でそう言った。
──誰も否定しない沈黙だけが、妙に重く落ちた。
「おい、何してんだよ」
「ん? 土産探してる」
悪びれもなく、タオルを頭に被った浩誠を一瞥する。
心臓が、さっきよりもうるさくなる。ただ座ってるだけのはずなのに、マサの存在がやけに近く感じた。
そう広くもないホテルの一室に、二人きりなのだ。意識すればするほど、耐えかねない距離に感じる。
「……勝手に漁んな」
「減るもんでもねぇだろ」
そう言いつつ、マサはZIPPOを取り出さないまま、わざとらしく指で弾いて遊んでいた。
キャリーの中身には、もう興味を失ったらしい。
(気づいてるな……絶対)
浩誠の様子がおかしいことに、気づいていないはずがない。なのにマサは、何も言わない。追及もしない。助け舟も出さない。ただ、泳がせるみたいに笑っている。
「顔赤いぞ。湯、熱すぎたか?」
「……うるせぇ」
こいつは可愛くなんてない、そう自分に言い聞かせる。そうだ、可愛いとは正反対。興奮するはずがない。好きと思うはずもないのだ。
「ベッド一個か。狭ぇな」
「……ッ!?」
マサが何気なく言った一言が、頭に刺さる。
(ベッド、一個……)
さっきまで頭の中で暴れていた想像が、再び現実味を帯びて押し寄せてくる。マサが近寄ってきて……ほんのり紅くなった頬で、わざと上目遣いにこちらを見つめてきて……指先が触れたら最後、理性なんて──。
(ッ、何考えてんだ、俺!)
「明日も早いだろ。もう寝とけよ」
そう言って、マサがリモコンで照明を少し暗くした。何も起きていないのに、空気だけが勝手に深くなる。
「……マサは?」
「こんな時間に帰ろうとしたら、浩誠が心配しちゃうからな?」
軽い声。冗談めかした笑い。
それなのに、その言葉だけが異様に重たく響いた。
(ふざけんなよ……、弄びやがって)
「テメェのガタイで心配もクソもねぇよ。さっさと帰れ」
浩誠は心の違和感に気づかないふりして、そう冷たく言い放つ。マサはすぐに言い返さず、暫く無言が続いた。
そして。
「……独りだと、寂しいンだよ」
そんな声で甘えられたら、浩誠はもう、太刀打ちできなかった。低く落とされた声が、妙に耳に残った。目を合わせられないまま、喉だけが鳴る。
(可愛くない。決して可愛くない)
そう自分に言い聞かせるので精一杯だった。明日も早いんだから、早く寝なければ。
──そうだ、これは早く寝るための、最善の選択なのだ。
「……分かった、俺はソファで寝る」
「は? 明日撮影なんだろ。腰やったらどうすんだよ」
「じゃあお前がソファで……」
「嫌。俺も疲れてんの」
そんな会話を経て、ひとつのベッドの中、並んで眠る191cmと183cm。
頑張って触れ合わないようにしても、寝返りを打つと、どこかしらが触れてしまう。それに、呼吸音だって、ハッキリと聞こえてくる。
しかし、前回の睡眠は飛行機の中で、それから緊張続きの慣れないロケ。疲れの溜まっていた浩誠はすぐに、眠りへと落ちていった。
◾︎
目覚ましが鳴り響いた。最初に手を伸ばして止めたのは浩誠だった。音が消えた途端、そのままスヤスヤと眠りに戻る。
二度目のアラームが鳴る。うるさい、と今度止めたのはマサだった。
集合時間は五時。現在、五時十分。
浩誠を起こしに来たのは、入ってまだ日の浅い若手のADだった。
「あ、あのっ、浩誠さん! 出発のお時間なんですけど……!」
ドアの前で、困ったような声を出す。控えめなノック音を響かせた後、暫くして、扉が開いた。
そこに居たのは、バスローブ姿で、不機嫌そうに髪をかくマサだった。
「うるせぇなぁ……」
「ひ、ひぃっ!?」
「……時間か。十分だけ待ってろ」
「わ、わかりました……!」
ちゃんと時間通りにやってきた雪乃が、ロビーでスタッフと共にふたりを待つ。責任者代わりとして任命されたはずの浩誠が遅れるなんて、と呆れ半分でため息をついた。
ようやく現れた浩誠は、血の気の引いた顔。その隣で、マサだけが場違いなほど機嫌よく笑っていた。
「申し訳ございません!」
「もー、イチャイチャするのはいいけど、翌日に響かないようにしてよね」
「イチャ……!?」
顔を上げた浩誠が固まった。
「悪い悪い、雪乃くん、スタッフのみんな。俺が付いていながら……」
マサは相変わらず笑顔のまま、軽い調子でそう言った。
──誰も否定しない沈黙だけが、妙に重く落ちた。
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