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【本編】
07 ツーショット(浩誠視点)
しおりを挟むスタッフの視線が一斉に集まっても、マサはまるで舞台の中央に立っているかのように、堂々としていた。
「俺も着いてってやるよ」
「本当ですか、マサさん! 撮っていいですか?」
「おう、高いぜ?」
「その分、最高にカッコよく撮りますって! ファンも泣いて喜びますよ!」
軽口が飛び交い、スタッフは一瞬で打ち解けた雰囲気になる。遅刻した本人である浩誠の存在など、半歩後ろに追いやられてしまったかのようだった。
(なんでだよ……部外者だろ、こいつ)
「勘弁してくれよ……」
「ま、よろしく頼むぜ」
マサの腕が、何気ない調子で浩誠の肩に回された。反射的に全身が跳ね上がる。
──咄嗟に思い出すのは、昨日の距離。肩口からじわりと熱が走り、コートを羽織る浩誠の額に汗が滲んだ。
「や、やめろバカ、触んな!!」
「あ? 何一人で騒いでんだ」
マサは首を傾げ、わざとらしく無邪気な顔をしてみせた。薄らと開いた唇から、犬歯が覗く。
(くそ……振り回されるな、俺……)
自動ドアが開いた瞬間、ナイフのように研ぎ澄まされた冷気が、ロビーの微睡を切り裂いた。
「……っ、さむ……」
浩誠は思わず肩をすくめ、コートの襟を口元まで引き上げた。
マサは、フードを深く被って、ポッケに手を突っ込んだ。鼻先だけを少し赤くして、眠そうにロケバスのステップを上がっていく。スタッフが指示するよりも先に、当然の顔で先に乗り込み、隣の席をぽんぽんと叩いた。
(……こいつ、本当に部外者か?)
「ほら、早く乗れよ。遅刻組は一番奥な」
「堂々としやがって……お前も遅刻組だからな」
口では噛みつきながらも、浩誠は言われるまま奥へ進む。狭い車内、肩が触れる距離。横に腰を下ろすと、マサの体温がすぐ隣で主張してきた。
胸の鼓動だけが、自分にだけ聞こえるように速くなる。息を浅く整えながら、視線を窓に逃がした。
「いいねぇ、その席順」
雪乃が楽しそうに目を細める。事情を知らないはずなのに、何かを面白がっている顔だった。
移動中。揺れる車内で、浩誠は窓際に身体を向け、無表情のままスマホをいじっていた。SNSの通知を流し見しながら、意識のどこかでは隣に座るマサの気配ばかりを気にしている。
そんな浩誠の胸中を見透かすように、マサがひょいと顔を寄せてスマホを覗き込んできた。
「何見てんだよ」
「仕事の確認」
「へぇ。貸せ」
言い終わらないうちに、マサの大きな手がひょいと伸びてくる。油断していたせいで、スマホはあっけなく奪われてしまった。
「おいっ! 返せ!!」
「静かにしろよ。揺れるからブレる」
そう言った瞬間、マサは肩をぐいっと寄せ、浩誠の頬の横に顔を並べた。
カシャ、と軽いシャッター音が鳴る。
「……は?」
「おっ、仲良さそうに写ったぞ」
マサが満足そうに画面を見せつけてきた。
目の前のスマホに表示された写真には、至近距離の二人。笑っているマサと、完全に面食らった顔の自分が写っている。肩と肩が触れて、その距離はほとんどゼロだった。
心臓が跳ねる。画面もだが、にっこり笑うマサの顔も、まともに直視できない。
「待ち受けにしていいぜ?」
ニマニマと楽しそうな表情。
一拍置いて、浩誠はようやく、いつものように茶化されてるのだと気がついた。してやったり、とでも言いたげなその顔が、どうしようもなく愛らしくて癪に障る。
(……は!? 違う、可愛くなんかねぇ!)
「どうした? 待ち受け、設定してやろうか?」
「誰がするか! 返せ! 消す!!」
声が裏返った。おまけに、スマホを取り返そうと伸ばした手は躱され、マサの大きな背中に阻まれてしまう。
無理矢理押せば取り返せる距離なのに、マサに触れると思うと、指が動かなかった。
そんな二人を、雪乃が振り返り、ニコニコと見つめた。
「上手に撮れた? 俺、撮ってあげよっか?」
「要らねぇ!」
「ありゃあ、ご機嫌斜めだ、すまねェな雪乃くん」
「いーえ」
落ち着いた声のマサと雪乃。
浩誠だけが一人、動揺していた。
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