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【本編】
11 変わりゆくもの
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「……って、わけだ」
三日間の内にあった浩誠との出来事を、マサはありのまま、ルイとレイにぶちまけた。最初は驚いて聞いていた二人だったが、次第に優しい表情へと変わっていった。
「遠距離恋愛なんて、大変だね」
「付き合ってねェけどな」
「会えなくて寂しくない?」
「アメリカなんて近いんだから、愛があればいつでも会いに来れるだろ」
マサは浮かれて言った。胸の奥にちくりと走った違和感を、冗談で塗り潰すみたいに、わざと肩をすくめて。
しかし、オーディエンスの二人は途端に黙りこくってしまった。拍子抜けしたマサは、冗談に冗談を重ねるため、言葉を続ける。
「ま……金は掛かるけどな。それも愛があれば──」
「マサ。ちゃんと恋してるんだね。安心したよ」
遮られたことに眉を顰めるが、レイに悪気はなさそうだ。空気の読めない男でもない。
「……何、気持ち悪いこと言いやがる」
訝しげに問うと、レイは儚げに笑った。それ以上は何も言わなかった。
苦々しい気持ちをかき消すため、煙草を取り出す。次に胸ポケットに入っていたZIPPOを見て、マサは安心なのか、縋りなのか分からない笑みを浮かべた。
ほどなくして、ルイとレイが日本に行きたいと言い出した。前回三人で日本へ行ってから、一ヶ月と少ししか経っていない。
「またかよ。ルカに会うのはもうやめとけよ」
「会わないよ。その代わり、行きたいところがあるんだ」
「マサも一緒に来る?」
途端に思い出すのは、あの夜の浩誠の顔。また暫く会えないかと思ったが、こんなに早く機会が訪れるとは。
「……じゃ、保護者として着いて行ってやるか」
「浩誠に会いたいだけのくせに」
「うるせェ」
とはいえ、三人の仕事のスケジュールを調整しなくてはいけなくて、やっと都合が着いたのは十二月に入った頃だった。
「うわー、寒いねぇ」
「さみぃ」
前回日本に来た時は、まだ暑かったのに。成田空港を出て、白い息を吐きながら、ぼやく。
「にしてもレイ、厚着し過ぎじゃねェ?」
「君たち二人は、厚い筋肉で守られてるからね」
「レイももっと鍛えたらいいのに」
そう言って、ルイがレイに抱き着いた。
ほどなくして、二人と別れる。
ルカの所には行かないと言い切る二人を見送りながら、マサの足は迷いなく、Nova寮へと向かっていた。
その傍ら連絡を入れていた雪乃に、鍵を開けてもらう。開いた扉の先、雪乃は悪戯な笑みを浮かべた。
「貸し二、ね」
「やべ、早く返さねェと」
すぐに引っ込んでしまった雪乃と別れ、マサは階段を上がった。ちょうどここで、浩誠のケツに後ろから蹴りを入れたことがあったな、と思い出す。えらく怒っていた気がする。
(昔から怒りっぽいやつだったな、あいつは)
廊下に出た瞬間、背後から靴音が重なった。反射的に足を止め、嫌な予感に肩越しで振り返る。
「マサ……?」
呼ばれた名に、わずかに眉が動く。そこに立っていたのは、浩誠の元恋人──本郷ルカだった。数か月ぶりに見る顔は、以前よりも硬く、警戒の色を隠せていない。
「勘違いすんな。お前に用はねェよ。浩誠に会いに来ただけだ」
マサが即座に言い切ると、ルカはわずかに目を細めた。
「浩誠に? 今、仕事行ってると思うけど」
「……そうみたいだな」
短いやり取りのあと、会話は途切れた。
マサは足を止めたまま、ルカから視線を外さない。誰が先に口を開くでもなく、ただ沈黙だけが廊下に溜まっていく。
「……ルカ。あのチビとは続いてんのか」
「櫻井のこと? 勿論」
即答だった。その様子を見て、マサはほんの僅か、口の端を持ち上げる。
「そうか。じゃあ、遠慮なく──浩誠は、俺が貰ってくぜ」
ルカの表情がはっきりと揺れた。驚きと困惑が入り混じったまま、言葉を失っていた。
やがてルカは、何かを慎重に選ぶように口を閉ざした。そして、難しい顔のまま、わずかに首を傾げる。
「──それはそうとして、これは不法侵入……」
「あ、マサくん。本郷さんと一緒だったんだ」
言葉を重ねるように割り込んだ声に、二人の視線が揃って向く。
「……雪乃」
「本郷さんごめん、俺が入れたんだ。マサくん、少しお話しようよ」
軽い調子でそう言いながらも、その立ち位置は明確だった。マサとルカの間に、さりげなく割って入る。
「……あんまり、好き勝手歩かせるなよ」
「はぁい」
ルカは一度だけマサ見てから、雪乃に背中を押されるように、その場を去ってゆく。その背中を見送ってから、雪乃がマサに向き直り、舌を出して笑った。
「貸し、三」
「……欲しいもん、考えとけよ」
三日間の内にあった浩誠との出来事を、マサはありのまま、ルイとレイにぶちまけた。最初は驚いて聞いていた二人だったが、次第に優しい表情へと変わっていった。
「遠距離恋愛なんて、大変だね」
「付き合ってねェけどな」
「会えなくて寂しくない?」
「アメリカなんて近いんだから、愛があればいつでも会いに来れるだろ」
マサは浮かれて言った。胸の奥にちくりと走った違和感を、冗談で塗り潰すみたいに、わざと肩をすくめて。
しかし、オーディエンスの二人は途端に黙りこくってしまった。拍子抜けしたマサは、冗談に冗談を重ねるため、言葉を続ける。
「ま……金は掛かるけどな。それも愛があれば──」
「マサ。ちゃんと恋してるんだね。安心したよ」
遮られたことに眉を顰めるが、レイに悪気はなさそうだ。空気の読めない男でもない。
「……何、気持ち悪いこと言いやがる」
訝しげに問うと、レイは儚げに笑った。それ以上は何も言わなかった。
苦々しい気持ちをかき消すため、煙草を取り出す。次に胸ポケットに入っていたZIPPOを見て、マサは安心なのか、縋りなのか分からない笑みを浮かべた。
ほどなくして、ルイとレイが日本に行きたいと言い出した。前回三人で日本へ行ってから、一ヶ月と少ししか経っていない。
「またかよ。ルカに会うのはもうやめとけよ」
「会わないよ。その代わり、行きたいところがあるんだ」
「マサも一緒に来る?」
途端に思い出すのは、あの夜の浩誠の顔。また暫く会えないかと思ったが、こんなに早く機会が訪れるとは。
「……じゃ、保護者として着いて行ってやるか」
「浩誠に会いたいだけのくせに」
「うるせェ」
とはいえ、三人の仕事のスケジュールを調整しなくてはいけなくて、やっと都合が着いたのは十二月に入った頃だった。
「うわー、寒いねぇ」
「さみぃ」
前回日本に来た時は、まだ暑かったのに。成田空港を出て、白い息を吐きながら、ぼやく。
「にしてもレイ、厚着し過ぎじゃねェ?」
「君たち二人は、厚い筋肉で守られてるからね」
「レイももっと鍛えたらいいのに」
そう言って、ルイがレイに抱き着いた。
ほどなくして、二人と別れる。
ルカの所には行かないと言い切る二人を見送りながら、マサの足は迷いなく、Nova寮へと向かっていた。
その傍ら連絡を入れていた雪乃に、鍵を開けてもらう。開いた扉の先、雪乃は悪戯な笑みを浮かべた。
「貸し二、ね」
「やべ、早く返さねェと」
すぐに引っ込んでしまった雪乃と別れ、マサは階段を上がった。ちょうどここで、浩誠のケツに後ろから蹴りを入れたことがあったな、と思い出す。えらく怒っていた気がする。
(昔から怒りっぽいやつだったな、あいつは)
廊下に出た瞬間、背後から靴音が重なった。反射的に足を止め、嫌な予感に肩越しで振り返る。
「マサ……?」
呼ばれた名に、わずかに眉が動く。そこに立っていたのは、浩誠の元恋人──本郷ルカだった。数か月ぶりに見る顔は、以前よりも硬く、警戒の色を隠せていない。
「勘違いすんな。お前に用はねェよ。浩誠に会いに来ただけだ」
マサが即座に言い切ると、ルカはわずかに目を細めた。
「浩誠に? 今、仕事行ってると思うけど」
「……そうみたいだな」
短いやり取りのあと、会話は途切れた。
マサは足を止めたまま、ルカから視線を外さない。誰が先に口を開くでもなく、ただ沈黙だけが廊下に溜まっていく。
「……ルカ。あのチビとは続いてんのか」
「櫻井のこと? 勿論」
即答だった。その様子を見て、マサはほんの僅か、口の端を持ち上げる。
「そうか。じゃあ、遠慮なく──浩誠は、俺が貰ってくぜ」
ルカの表情がはっきりと揺れた。驚きと困惑が入り混じったまま、言葉を失っていた。
やがてルカは、何かを慎重に選ぶように口を閉ざした。そして、難しい顔のまま、わずかに首を傾げる。
「──それはそうとして、これは不法侵入……」
「あ、マサくん。本郷さんと一緒だったんだ」
言葉を重ねるように割り込んだ声に、二人の視線が揃って向く。
「……雪乃」
「本郷さんごめん、俺が入れたんだ。マサくん、少しお話しようよ」
軽い調子でそう言いながらも、その立ち位置は明確だった。マサとルカの間に、さりげなく割って入る。
「……あんまり、好き勝手歩かせるなよ」
「はぁい」
ルカは一度だけマサ見てから、雪乃に背中を押されるように、その場を去ってゆく。その背中を見送ってから、雪乃がマサに向き直り、舌を出して笑った。
「貸し、三」
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