辺境の国のダルジュロス

蜂巣花貂天

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千年の夜の覚めぬ夢

第5話「完全勝利」

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月子と男はテーブルを挟んで対峙する。

「このゲームのルールは、テーブルに手の甲を着いたら負け、そして肘をテーブルから離したら負け。」

「ふむ……どうなったら勝ちなんだ?」

「つまり、肘を離さずに相手の手の甲をテーブルに着けさせたら勝ちよ」

 ルール自体は、なんの変哲もない普通の腕相撲だ。

「このガタガタのテーブルでやるのか? 」

「えぇ、場所を変更してもいいわよ」

男は少し思案して、自分の側にテーブルが傾く側面に位置を選んだ。

「よし、俺はここがいい」

「ふーん、そっちでいいんだ」

月子は、その正面に陣取る。

 2人は腕を組合い、微妙な位置を修正する。

「準備はいい? 」

「いつでも」

「では、ゲーム開始!」

掛け声と同時に男は腕に力を入れる。

様子を見るつもりでだいたい60%くらいの力だ。

月子の細い腕は、全く動かない。

「ふむ」

お互いの表情には、まだ余裕がある。

 不安定な机は月子側の3点の支柱にしっかり体重がかかっている。

 男はさらに力を強める。

 すると、机の均衡が崩れ男の側に天板が傾き月子の手の甲が少し板に近づいたように見える。

 しかし、腕はそのまま止まっている。

「ぐっ」

テーブルが傾く事で、男は逆に肘が離れそになり焦りを見せる。

 思わずもう片方の手でテーブルを支えてしまう。

「別にルールには違反してないだろ? 」

「もちろん」

 月子にとっては想定内のようだ。

「じゃあこれはどう? 」

 月子は腕ではなく指先に力をこめる。

「ぐっ痛たたたっ」

 異常な握力で握られた男の指先がボキボキと音を立て、悲鳴がもれる。

「てめぇ」

「別にルールには違反してないわ」

「力で押し切ってやる」

 男は全身を使って腕に力を込める。

「なかなかやるわね……でも」

 流石の月子も押し負け始める。

「ぐぁ、ぐぐっ」

 力を入れようとするが、男は痛みに悶絶する。

「はぁー」

 月子は息を大きく吸い込み、渾身の力を一気に注ぐ。

 男の手は手首ごとあり得ない角度に曲がり、同時に腕が倒れ始める。

「手が……手が……」

 手甲がつくより早く、男の肘はテーブルから離れる。

「はい、私の勝ちね。じゃあ、次は利き腕でやりましょうか 」

 月子は男の姿をみて笑う。

「化物め……」

「では、約束通り質問に答えてもらいましょうか」

「仕方がない、何でも聞きやがれ」

 完全に心を折られた男は腹をくくった。


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