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◆ 第6章

37. 偽装から始まる溺愛婚 中編 ◆

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「まさとさ……まさと、さぁ……んっ」
「ん……可愛い反応。もっといじめて、啼かせてやりたくなるな」
「や、やぁ……っぁん」

 キスや囁きだけでは飽き足らず、今度は舌で耳の中を舐られる。さほどざらついているわけでもないのに、舌の表面と耳殻が擦れ合って鼓膜を直接震わせる音は、ざわざわ、ぞるる、と低い振動音を含んでいる。

 本来なら不快に思ってもおかしくないはずなのに、今の七海の身体はその音を快感に変換してしまう。耳朶や耳尖を将斗の熱い舌が恥ずかしく責めるたび、どうしようもなく全身で感じて気持ち良くなってしまうのだ。

「ああ、もうトロットロだな……すげぇ濡れてる……」
「や、ぁあ……ちが……ぅん」

 耳への刺激に聴覚と理性を奪われていた七海は、将斗の手がいつの間にか顎先を離れていたことに――首筋から鎖骨、胸の膨らみ、脇腹から腰のラインを撫でられていたことに、まったく気づけなかった。

 ようやく顔を離してくれた彼の感嘆を耳にしたとき、七海は熱を含んだ息を吐いて呼吸をするだけで精いっぱいだった。

 酸素を求めてはふはふと浅い呼吸を繰り返していると、くたりと弛緩した身体をぐいっと開いて暴かれる。脚を左右に大きく拡げられた瞬間、秘裂にぬとりと濡れた気配を感じた。

「こんなに濡れてたらそのままでも……って、七海?」

 七海の反応に色気たっぷりに微笑んでみせる将斗だが、七海だって弄ばれっぱなしでいるわけにはいかない。

 七海は将斗の誕生日を祝って、これまで彼の愛情に気づけなかったことに対する謝罪と恩返しがしたいと思っていた。

 だから彼が七海を好きに可愛がってくれるのは構わない。けれどその分、否、彼の誕生日を祝いたいと思うからこそ、七海も積極的になりたかった。一途に愛してもらっているだけ、七海も自分の気持ちを返したかった。

 将斗の大きな愛に比べたら七海の恋愛感情はまだまだ発展途上中だが、その経過も含めて知ってほしい。――私もあなたが好きです、と。

 だからベッドに横たわって将斗の行為をただ待つのではなく、自分から将斗と見つめ合う。この喜びが少しでも伝わればいいと思いながら。

「……仕返し、です」

 身体を起こして将斗の肩を押すと、彼をシーツの上へ座らせる。それから大きな肩に手を添えて、顔をそっと近付ける。

 驚いている将斗の頬にちゅ、とキスする。

 仕返し、というのは半分本当だが、半分は照れ隠しだ。素直に言葉に出すのはまだ少し恥ずかしい……と静かに照れていると、将斗が幸せそうに笑顔を綻ばせた。

「頬にキスなんて、随分かわいい仕返しだな」

 口では七海の行動が幼稚で子どもっぽいと言うが、表情はしっかりと嬉しそうである。だからその後に続いた、

「このまま上に乗ってみるか?」

 という提案には、七海も素直に首肯した。

 いつもと同じ場所から避妊具を取り出して準備を終えた将斗の上に跨り、ゆっくりと腰を下ろす。

 直前で少し膣内をほぐして慣らされたが、挿入の瞬間はやはりどうしても緊張する。それでも固く膨張した自らの屹立を軽く握り、反対の手で七海の身体が倒れないように支えてくれる将斗の優しさがあるから、七海も頑張れる。

「あっ……あ、う……」

 ちゅく、と先端が触れ合うと、将斗の存在を直に感じた蜜口がひくんと収縮する。だが最初の接触による反応が収まるのを待てばあとは案外スムーズで、将斗を受け入れたい気持ちが勝ると、腰を落としていくことに躊躇いはなかった。

「ん、んっ……」

 ずぷぷっ、ぬぷ、と湿った猥音が響く。その音をかき分けながらぬかるみの中へ熱棒を受け入れる。

 少しずつ腰を落とし、中間地点を過ぎて自らの陰茎を支える将斗の手が離れると、七海の膣壁を圧迫するようにさらに挿入が深まっていく。

「あ、ん……ん」
「大丈夫か、七海?」
「へ、ぃき……です……。将斗さんは……?」
「最高にイイ。すげぇ気持ちよくて……今、動きたいの一生懸命我慢してる」

 額に小さな雫を浮かべながら口角を上げる様子を見るに、彼は本心から気持ち良いと感じているのだろう。

 ならば雄の本能のままに腰を振って果てたい欲望もあるはずなのに、将斗は今日も七海のペースに合わせてくれる。優しく丁寧に愛してくれる。夫の愛情が強すぎて、深い繋がりの中でまた恋の罠にかかったような気分だ。

(これ、深い……。抜かなきゃ、いっちゃう……)

 最奥に到達したことを感じ取ると、少しずつ腰を浮かせて陰茎を引き抜いていく。

「あっ……ん、んぅ……」

 屹立を奥へ押し込む際も圧迫から快感を得られるが、それと同じぐらいこの引き抜く動きにも感じてしまう。将斗の雄々しい屹立は膨らんだ雁部も大きく、引き抜くときに蜜壁をごりごりと削られると新たな刺激と快感を得てしまうのだ。

「はぁ……ん……んぁ、ぅ」
「っ……」

 いつもは将斗に身を任せるしかないが、彼の股の上に向かい合って座った今の体勢だと、七海に主導権がある。股を大きく開いて自ら挿入するのは恥ずかしいが、自分の思い通りに動けるので少しは余裕がある。はずだったのに。

「ふあっ!? あ、ぁああっ……!」

 自ら腰を浮かせて落とすゆったりとした律動は数往復で終わりを迎える。七海の腰を掴んだ将斗が突然下から腰を突き上げ、抽挿のスピードを速めたからだ。

「ああっ……ん、んっ……!」

 どうやら将斗はゆるい快感に痺れを切らしたらしい。突然激しくなったスピードに驚いて顔を上げると、目が合った将斗の瞳の奥にはぎらついた強い光が宿っていた。

 口の端と舐めて微笑む姿からは『余裕』の二文字が消え去っている。代わりに彼の全身からは強すぎて目眩を覚えるほどの色香が溢れ出していて、見つめ合うだけで思わず背中がぞくんっと痺れる。

「ひぁ、あっ……あ……!」
「頑張る、七海も、可愛いぞ? けど、悪いな……もう、限界だ……!」
「ああ、ああぁっ……ん」

 快感を堪えているせいか、将斗の確認と宣言も途切れ途切れだ。その言葉に同意を示すように将斗の首へ腕を絡めて、激しい律動と衝撃に耐える。

 腰を支えられていても彼の身体にしっかり密着していなければ、後ろに倒れてしまう気がした。だがその行動が、七海の身体に新たな刺激をもたらした。

「あっ……だめっ……胸、擦れちゃ……っ!」
「ああ……七海の胸……柔らかい、な」
「ふ、ぁん……や、ぁ……あぁっ」
「これだけで、出そうだ」

 スポーツジムに通って鍛えた将斗の硬い胸板と七海の胸が触れ合う。すると膨らんだ突起も強く擦れ合う。

 先ほど耳を責められながら愛撫されていたせいか、肌同士が触れて乳首が刺激されると、ぱちゅぱちゅ、じゅぷじゅぷと淫らな音を響かせる結合部がさらにきつく収縮する。

「あ、だめ……まさと、さ…っ」
「七海……っ」
「ああ、ぁ、ああっ……」

 その刺激が将斗の腰の速度をさらに上昇させると、巡り巡って七海の身体が快感をもたらす。

 将斗の首にぎゅっと掴まって耐えようとした七海だったが、最奥を潰すようにどちゅ、ぐちゅ、ずちゅっ、と突き上げられているうちに、身体はあっさりと限界を迎えた。

 子宮の中央から噴き出た深い快感が全身を駆け巡る。血液が沸騰しているのかと思うほどの熱い温度を感じた瞬間、秘部がきゅうっと縮こまって腰がびく、びくんっと震え出した。

「ふぁ、あっ……あぁ、あッ……あ、ん」
「っく、ぅ……」
「ひぁ、あっ……あぁあっ――!」

 七海が深い快楽を得て絶頂を迎えた瞬間、将斗の唇からも短いうめき声が零れた。その直後に淫花に収まっていた剛直がぶるるっ……と激しく震え、薄い膜の中でそれが激しく暴れ回る。

「はぁ、は……ぁ」

 七海の絶頂と将斗の絶頂がほぼ同時だったことを知ると、気恥ずかしさと嬉しさが押し寄せてくる。けれど感情とは裏腹に身体はまったく言うことをきかない。

 激しく果てた反動で全身がくたりと弛緩する。上手く動かせない身体を将斗が抱きしめてくれたので、されるがままになる。

 将斗の温度に包まれたまま、七海はいつか彼が口にした『俺たちは相性がいい』との言葉を思い出していた。

 確かにそうかもしれない。こんな風に同時に果てて、こんな風に気持ち良くなれるなら、きっと二人の相性は最高なのだ。

「わっ!?」

 将斗の台詞を思い出してさらに照れていると、七海の背中に手を回した将斗が、上に乗っていた七海の身体をゆっくりと横たえてくれた。

 急に視界が反転したので思わず驚きの声を上げてしまったが、実際はそれほど急な動作だったわけではない。むしろシーツに体重を預け、ぼんやりと視線を動かして見つけた将斗の下半身の方が、よほど驚くべき状態だった。

(出し……た、よね……?)

 精を吐き出した避妊具を陰茎から外し、口をくるりと回して丁寧に縛っている。見れば薄膜の中にも白濁の液がたっぷりと含まれていて、彼もちゃんと出したのだと……『気持ち良くなれた』のだと理解できる。だが。

(なんで大きいままなの……!?)

 さらに視線を下げてみると、将斗の屹立はまだまだ元気なまま。それどころか横たわる七海が絶頂の余韻を味わう表情を見てさらに興奮を覚えたように、一瞬で回復したそこは尖端が腹につきそうなほど凶悪にそそり立っている。

「七海……」
「や、ま……って……?」
「俺、今日、誕生日だよな?」
「誕生日は何しても許される日じゃないです……っ」

 にやりと微笑みながら訊ねられたので文句を言ってみるが、次の避妊具を取り出して袋の端を犬歯で噛んで破く将斗に止まる気配はない。

 七海の足を開く将斗は「次はこのままの体位でいいぞ」と笑顔を向けてくるが、違う。そうじゃないのに。

「待って、ま、将斗さっ……っぁああん」

 しかし七海の拒否――せめて休息したいと訴える気持ちが言葉になる前に、一度達した膣内に先端を埋められる。

 すでに一度彼の雄竿を受け入れているため挿入がスムーズなのか、今度は一気に最奥まで押し込まれる。ごちゅん、と激しすぎる音が響くと、凶暴な鋼鉄で全身を貫かれたような気がした。

「あ……っ、ああっ……!」
「ああ、中うねって、気持ちいいな……少し、痙攣してる」
「ふぁ、あっ……ああ、あっ」
「はぁ……これはこれで、やばいな」

 将斗の感嘆に首を振ることも頷くこともできない。ゆったりと動き出して腰を動かし始める将斗に驚きを感じていたはずなのに――気づけばまたその気にさせられて、彼の欲望を受け入れるよう仕向けられている。

 深すぎる愛欲を受け止めるように、心も身体も仕込まれていく。

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