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◆ 第6章
36. 偽装から始まる溺愛婚 前編 ◆
しおりを挟む「なんでこんなにサイズぴったりなんだ?」
七海の上に跨ってシャツを脱ぎ捨てた将斗は、衣服の着脱時にどこにも引っかからず、けれど指にしっかり馴染む真新しい『結婚指輪』に疑問を抱いたらしい。
不思議そうに自分の左手を眺める将斗に、ふふふ、と勝ち誇ったような笑みを零す。
「実は将斗さんが寝た後に、こっそり測ったんです」
衣服を剥ぎ取られてベッドに押し倒された七海の身体に残っているのは、上下の下着のみ。この防御力が低い状態で得意げな顔をするのはおかしいかもしれないが、慣れないはずの指輪がやけに肌に馴染む理由を将斗に教えてあげたい気持ちが勝る。
「色々と実験というか、試行錯誤してみたんです。将斗さんは私が背中を向けて寝てるときに後ろから抱っこして眠る体勢が、一番安眠できるみたいですね」
「そうなのか? まあ確かに、七海を抱いて寝ると落ち着くが……」
「その状態になると将斗さんの手が私の顔の前に来るので、指のサイズを測るのにうってつけなんです」
ぴったりと合う指輪をオーダーするなら、指のサイズの確認は必須だ。将斗に内緒で結婚指輪を用意しようと考えていた七海は、彼の指のサイズをどう把握すればいいのかと密かに悩んだ。
自分一人で悩んでも答えが出なかったので素直にジュエリーショップの店員へ相談したところ、紐や紙を巻きつけてその長さを測ればおおよそのサイズがわかる、細かいサイズは後から直すこともできる、と教えてくれた。
だからその方法で将斗が寝ている間にサイズを測ろうと計画した七海だったが、実際は予想よりもずっと簡単に指のサイズを計測できた。
なぜなら将斗は、七海が背を向けて寝ると必ず後ろから身体を抱きしめてくる。しかも七海の身体を抱いていると入眠が早く眠りも深くなるようで、手を握ったり爪を撫でたり、指を絡めてみたりしてもまったく起きない。手に触れたまま振り返って名前を呼んでも起きないので、七海を抱っこしている間の将斗が相当リラックスして眠れているのだとわかった。
「だから将斗さんが眠ったことを確認したあとに、ゆっくり動いて、こっそり測りました」
「俺が寝た後に、そんな可愛いことしてたのか」
「あ……え、えっと」
将斗に真顔で尋ねられ、言葉に詰まる。
ふうん、へえ? と頷きながら七海の顔と左手薬指の指輪を交互に見比べる将斗の仕草に、なんとなく墓穴を掘った気がして目が泳いだ。それをどうにか誤魔化そうと、さり気なく話題のすり替えを試みる。
「で、デザイン……気に入らなかったですか?」
「いや? 気に入ったよ」
ジュエリーブランドや指輪のデザイン、石の種類や数も、七海が自ら吟味し熟考したうえで決定したもの。どちらかというと即断即決タイプの七海にしては珍しく、かなり時間をかけて真剣に悩み、自分の希望と将斗の指に似合いそうなデザインを兼ね備えたものを選んだつもりだ。
けど将斗が気に入らなかったらどうしよう……と心配になりつつ尋ねたが、七海の心配は即座に否定された。
「ただ俺が贈るつもりだったのに先を越されて悔しいというか、負けた気がするのに嬉しいというか……なんか不思議な気分だな」
将斗が悔しさと喜びを織り交ぜたようにそう呟くので、してやったりという気持ちで微笑む。すると手を伸ばしてきた将斗が七海の身体に突然触れて、胸の前にあった下着の留め具をぷつりと外してしまった。
これも将斗の誕生日を祝うつもりで新調した下着だが、さすがにフロントホックのものは止めておけばよかった、と少し後悔する。
「七海、欲しいものないのか?」
「ありません」
「即答かよ」
「聞かれるだろうと思っていたので……んっ」
恥ずかしい部分が丸見えにならないよう腕を抱いて胸を隠しながら将斗の質問に答えたが、大きな手に手首を掴まえられて退かされると、返答の語尾が少しだけ揺れる。
「っ……ぁ」
それでもどうにか平常心を保つつもりだったが、身を屈めた将斗が鎖骨の上に口づけてきたのでつい甘えるような声が零れてしまった。
「あ、で、でも……旅行には、行きたいです」
「旅行って、新婚旅行か?」
「はい、えっと……将斗さんと行けるなら、どこでもいいので……っあ、ん……ぅ」
将斗のさらなる質問に答える七海だったが、指先で顎をくいっと持ち上げられて丁寧に口付けられたせいか、返答の台詞が甘え声に途切れる。
そのまま深くなっていくキスに、徐々に思考が奪われていく。恥ずかしさを紛らわせる言葉も紡げなくなる。
「はぁ……七海がデレてる……。普段は警戒されてるからか、甘えられるとほんと破壊力やばいな……」
「は、破壊力、って」
「ツンデレの猫がようやく心を開いてくれた気分だ」
「や、あの……私、猫ちゃんじゃない、ので……喉撫でるの、やめてください!」
将斗が嬉しそうに語る言葉を途中まではちゃんと聞いていた七海だが、恥ずかしさのあまりつい大きな声を出してしまう。だが将斗に動じる様子はなく、「じゃあ、どこなら撫でていい?」と七海の顔を覗き込んでくるだけだ。
なにも言えずに口籠もっていると、にやりと笑った将斗に脱げかけのブラを剥ぎ取られる。その下から現れた膨らみを横から持ち上げ、頂点にそっと口付けられた。
七海の胸を支える将斗の左手にはプラチナの輝きが煌めいている。七海の左手を彩る煌めきと同じ色だ。
「将斗さ……ん」
「ああ――俺の七海が、今夜も可愛い」
そう呟いて再度唇を奪われると、今度こそ本当に何も言えなくなってしまう。
「んぅ……ふ、ぁ……あ」
将斗のキスはいつも情熱的だ。もちろんキスだけではなく七海を優しく撫でる指先も、七海の心を射貫くような視線も、七海に語る言葉も、すべてが愛情深く思いやりに溢れていていつも彼のすべてに満たされている。
しかも自分の想いを明確に口にするようになってからは、なおさら情熱的になったような気がする。もしくは七海が将斗の想いを知り気持ちを重ね合わせるようになったことで、相乗効果的に彼の愛と欲を感じやすくなったのかもしれない。
と、ここ最近の二人の関係や自分の気持ちの変化について考察できているうちは、まだ余裕があった。
その余裕は将斗の舌が口内を蹂躙し、互いの舌の表面が擦れて淫らに絡み合うようになると、あっという間にどこかへ消え去った。
「ふぁ、ぁ……っん、ぅ……ん」
熱い塊がぬるぬると滑って絡むたびに、全身が敏感に反応する。互いに裸になり、七海の顔の横に腕をついて逃げ道を塞ぐように覆い被さられ、そのまま深く口づけられると、将斗のこと以外何も考えられなくなっていく。
口の中まで性感帯になったように錯覚する。優しいキスに甘くとろけると、理性も感情も身体の自由も奪われて、すべてがとろとろにぐずぐずにほどけていく気がする。
「ひぁ……ぁ……っ」
舌先で優しく丁寧に口内を探られ、貪るように深いキスを繰り返される。唇の隙間からくちゅ、ちゅるる、と水の音が漏れるたびに性感が高まって、口の中がさらに濡れていくことを自覚する。
二人の熱が混ざり合うと、その蜜液が全身の感度を上げていく。まるで二人で作った新種の媚薬みたいだ。
「ん……ぅん……? 将斗さ……?」
甘い秘薬を二人で分け合っていると、頭を撫でてくれていた将斗の指先が動き出した。七海の髪、頬、輪郭を優しく辿っていたと思ったのに、突然顎の先を捕らえられ、首が動かないように顔から輪郭のラインを指先で固定される。
急に強い力で顔を押さえられ、しかも気持ち良かったキスまで止まってしまったことに疑問を感じて、視線だけで将斗を見上げる。
しかし彼の行動を理由を確認する前に、七海の耳元へ将斗がふっ、と息を吹きかけた。
「ふぁ!? あ……っぅ」
「ん。やっぱりな」
七海の身体がびくんと強張ると、それを見た将斗が満足げに微笑む。顔の向きを固定されて耳元で喋られているので表情まではわからないが、くすりと零れる声から、彼が七海の反応を楽しんでいることはすぐに理解できた。
「っ……ぁ、ん……ぅ」
「七海、実はすげぇ耳弱いだろ?」
「だめ、みみ……っぃあ、あ」
「ここ舐めたらどういう反応するか、気になってたんだよなぁ」
将斗が呟いた驚きの悪戯に、首から背中、腰の辺りまでの間にざわりと甘い電流が走る。
彼の言う通り、実は七海は耳が弱い。自分で手で触れる分には問題はないし、今までそこが弱いと思ったこともなかったが、将斗の低く甘い声を至近距離で感じるとなぜか全身が反応してしまう。
将斗が七海に秘密の話を耳打ちするとき、『惚れてくれ』『好きだ』『愛している』と低い声で囁かれたとき――実は七海の身体はいつも緊張して、首の後ろや背中までぞくぞくと痺れて反応していた。
これまでは上手に隠してきたつもりだった。だが将斗に知られていたなんて。恥ずかしい身体の反応を、実は見抜かれていたなんて。
「ふゃぁ、あぁっ……!?」
顎を固定されて顔を動かせないままドキドキと緊張していると、宣言通り将斗が耳にキスを落としてきた。彼の低い声を耳元で感じるだけでも背筋が震えるのに、唇で耳朶に直接触れられるともうたまらない。
ぞくぞくっ……と背筋に電流が走ると同時に甘え声が零れたが、その過剰な反応が将斗の悪戯心に余計に火をつけた。
「好きだ、七海。……可愛い俺の妻」
「ああぁ、あっ……だめ……、しゃべっ、っゃ、ぁあっ」
わざと耳の中へ愛の言葉を囁かれると、それだけで身体が大きく跳ねる。まだ触れられていない胸や秘部にまでぴりぴり、じくじくと電流が伝わり、あっという間に七海の身体を濡らして蕩けさせていく。
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