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番外編
王子殿下の専属侍女 後編 R
しおりを挟むエドアルドの言う『奉仕』の意味はリリアが知る意味とは大きく異なっていた。
奉仕とは、男性の陰茎に女性が手で触れたり、舌で舐めたり、口に含んだりして男性を官能の極みへと誘うこと。または昂ぶった陰茎に刺激を与えて、その熱を放出させることを示すらしい。
そう説明されてもリリアには背徳の行為にしか感じられない。だがエドアルドはリリアからの『奉仕』を望んでいる。
それを『男の夢だ』と言われれば『何故?』としか思えないが、リリアは女性なのでその思考や感情を本質的に理解することはできないのだろう。
普通なら嫌だと思ってもおかしくない。けれどエドアルドはリリアが嫌がることを強要したり、辱めたりしようとしているのではない。それはちゃんと、わかっている。
やわらかく大きなクッションに上半身をゆったりと預け、リリアの身体を抱き寄せたエドアルドと口付けを交わす。いつも眠っているふたりのベッドなのに、見つめ合う温度がいつもより高い気がしてしまう。
「嫌だと感じたら、いつでも途中で止めていい」
「……はい」
エドアルドに優しく頭を撫でられ、リリアはそっと顎を引いた。身体の位置を下へずらすと、自ら下衣を寛げたエドアルドの股の間が視界に入った。
改めて考えてみれば男性の股間をちゃんと見たことはない。あるはずがない。今日はエドアルドの望みに従い直視を許されているが、本来はまじまじと見る場所ではない。
「触れてみるか?」
「は、はい……」
エドアルドの下肢の間にぺたんと腰を下ろして熱心にそこを観察していると先の行動を促された。確かに見つめているだけでは彼の望みは叶えられない。
意を決して股の間に息づくものへ指を伸ばす。普段は衣服の中へ収められているそれは、リリアが予想していたものよりもずっと小さいものだった。人差し指と中指の先が触れると、そこも驚いたようにピクリと反応する。
視線をあげるとエドアルドの口の端がわずかに持ち上がる。気にせず続けて良い、ということなのだろう。
更に右手の指の全て這わせ、痛みを感じることがないように優しく触れる。すると小さかったはずの陰茎がむくむくと質量を持ち始めた。
「大きくなって、きました」
リリアの言葉に、エドアルドが短く頷く。だが特に制止の言葉はないので、やはり続けて構わないのだと解釈する。
「やわらかい……? でも……芯は固い、です」
「握って、そのまま手を動かせるか?」
「……?」
握ったまま動かす、とはどういう事だろう。その方向が上下なのか左右なのか前後なのかがわからず動きが停止すると、リリアの手の上にエドアルドの手が重なった。そのまま動きを誘導するように、彼の手がゆっくりと上下に動き出す。
動かし方を理解して教えられた通りに撫でていると、陰茎がまた大きく変貌してきた。いつの間にか先端部分にはくびれが生じており、手を離しても倒れないほどの硬さと角度が存在している。
その変化を目の当たりにして、リリアはごくりと息を飲んだ。これならば、いつも最初の挿入時に痛みや圧迫感を感じるのも頷ける。こんなに大きくて固いもので貫かれても身体が壊れないなんて、初めて間近で見る剛直と同じぐらいに、自分の身体も不思議に感じてしまう。
そのまま手を動かし続けていると、エドアルドの喉から小さな吐息と呻き声が零れ始めた。
「わ、……蜜が……!」
息や声とほぼ同時に、陰茎の先端から透明の蜜が溢れてきた。びっくりして顔を上げると、エドアルドは額と首筋にうっすらと汗をかいていた。
「女性の身体が官能的に気持ちがいいと濡れるのと同じだ。男性の場合はそこが濡れてくる」
「で、ではエドさまは、気持ちがいい……のですか?」
「……もちろん」
エドアルドの色のあるほほえみに、胸の高鳴りを覚える。汗をかいている姿は辛そうに感じたが、実は気持ちがいいらしい。熱の籠った瞳で見つめられ、リリアも侍女服の下にじわりと汗の気配を感じた。
剛直を握った手を上方へ擦ると、まるで押し出されるように濡れた蜜が珠を作る。とろりと粘りのある白蜜をじっと見つめていると、エドアルドに驚きの提案をされた。
「舐めてみるか?」
「え……」
「あまり美味いものではないだろうが……リリアに興味があるなら」
リリアの意思を確認するように付け足された言葉に、一瞬、返答に困る。興味の有無で言えば『ない』とは言わないが、先端から溢れる蜜を口にするのはあまりにも品のない行為なのではないだろうか。
「……はしたないと、言われてしまいます……」
「俺以外は知らない事だ」
「ですから、エドさまに……」
「させてる俺が言うはずないだろう」
淑女としての品位と貞操がちらつき遠慮しようとしたが、エドアルドには気にしなくていいと言われる。その上で『ほら』と優しい言葉をかけられると、自分の興味とエドアルドの要望が一致していることに気が付いた。
「ん……不思議な香りがします」
反り立つ剛直に顔を近付けると、甘い香りと苦い香りを同時に感じる気がした。すん、と鼻を鳴らしても香りの正体には辿り着けない。さらに顔を近付けて先端から溢れる蜜珠をぺろ、と舐めると、エドアルドの腰がビクリと跳ねた。
「――……っ!」
「あ、味はあまり……」
少量しかない蜜に少しの苦みを感じた気がしたが、実際は味らしい味はほとんどなかった。
蜜が溢れるくびれを舐めても味はしない。ならば他の場所はどうなのだろう、と顔の位置をずらす。先端はつるりとしていたが、芯の部分には血管が浮いていて、少し禍々しさも感じた。
けれど恐怖はない。嫌悪感もない。他の肌よりもやや色の濃い皮膚に唇を落とすと、張り詰めた剛直がびくっと震えた。
そういえば最初の説明で、舐めるだけではなく口に含むとも言っていた。この大きさが全て口に入るとは思えないので、つるりとした先端部分だけを口に含んでみる。
「ん……んぅ、っ」
「……は、……」
歯が当たると痛そうなので、舌を動かせる範囲だけを舐めていく。口が完全に閉じないせいで喉の奥からはどんどん唾液が溢れてきて、含んだものをさらに淫らに濡らしていった。
顎が疲れてきたら、最初に教えてもらった通り手を使って擦る。口には含まずに唇や舌を使って舐めたり吸ったりする。疲労が回復したらまた口に含む。単に『奉仕』と言っても、リリアがエドアルドに出来ることは意外と多いのだと気が付く。
「そう……上手だな」
「ん、………む、ぅっ……」
エドアルドの言う通り、自分は少し好奇心が旺盛なのかもしれない。
つい先ほどまで淑女としての品位と貞操を気にしていたのに、今は生き物のように蠢いて、ぴくぴくと痙攣して、常に大きさと角度が変化する雄竿に興味が尽きない。口に含んでも確かに美味しいものではないが、嫌悪感でいっぱいになるわけでもない。
伸びてきたエドアルドの手が優しく頭を撫でてくれる。その指遣いは、まるでリリアの『奉仕』を褒めるようだ。
「っん、……は、ふ、……ふ」
「浅はかだった、な……。こんなに、気持ちがいいとは……思わなかった」
途切れ途切れの言葉が、エドアルドが気持ちいいと感じてくれることの何よりの証拠だ。それが嬉しくてさらに舐めたり吸ったりを繰り返すと、呼応するようにそこがより硬く反っていく。
「あまり奥まで含むとむせるぞ。それに、俺も……もう保たない」
息を詰まらせながら悩ましげな声を零すエドアルドに、リリアも不思議な気分になる。いつもこの大きな塊に身体を貫かれ、灼けそうなほどの熱を放出される。
きっと今日もこれから……そんな想像をするとリリアも自分の下腹部がむずむずする気がしてきた。
濡れた先端から少しずつ零れる蜜を舐めとっていると、突然上半身を起こしたエドアルドに肩を掴まれて身体を引き剥がされた。ちゅぷ、と濡れた音が聞こえると同時に、腕を引っ張られて身体の位置がくるりと反転する。
「あっ……! えっ……!?」
視界がひっくり返ったことに驚く時間はなかった。
ベッドの上に身体を押し倒されたかと思うと、エドアルドの手が侍女服の中へ侵入してきて性急にショーツだけを剥ぎ取った。
太腿の上をスルスルと通過し、足先から抜き取られたショーツは、すぐにリリアの視界から消えていく。代わりに膝を立てて開かれた間に、エドアルドの身体が割り入ってきた。
「興奮したか?」
「やっ、や……!」
「いつもより濡れている。解さなくても挿入りそうだ」
その言葉にはっと顔を上げると、先程よりも汗の量が増えたエドアルドがリリアを見下ろしながら薄く笑っていた。
「ち、ちがいます……これは……っぁああッ!」
反論しようとした言葉は、一気に挿入された衝撃に流されてしまう。エドアルドもグッと表情を歪めたが、一呼吸置くと腰はゆっくりと引けて行った。
「っふぁ……ん」
引いた腰がまた奥まで入り込んでくる。今日は全くほぐしていないというのに、すんなりと受け入れてしまった。
けれど埋められた熱塊はいつもより張り詰めていて、その後の圧迫感はむしろ普段より強いほどだった。
苦しさに耐えようと身を縮めていると、エドアルドの唇が近付いてきた。気付いたリリアは、思わずエドアルドの唇を指先で遮ってしまう。
「エドさま、口付けは……」
リリアは先ほどまで、エドアルドの陰茎を舐めて吸っていた。それは確かにエドアルドに望まれたことだったが、本来口に含むべき場所ではないところに触れていたのだ。
その後の口付けは嫌なのではと考えたリリアだったが、エドアルドは手を退けると簡単に唇を奪ってきた。
「気にしない。リリアはこの口で俺に奉仕してくれたんだ。……愛しくてたまらない」
「ん、……んっ」
返答より早く、再度深く口付けられる。エドアルドはリリアがキスが好きなことを知っている。だからこれも、頑張って要望をきいてくれたリリアに対する褒美なのかもしれない。
もしくはいつもより威勢のいい凶器を受け入れることへの褒美だろうか。優しいキスに酔い痴れているうちに、再び腰が動き出した。
何度も口付けられて頭を撫でられているうちに、少しずつ圧迫感が緩和していく。
「んぅ、あ、あッ……!」
「今日は、一段と絞まるな。狭くて、気持ちいい……が、もう無理だ」
「っぁ、だめぇ、っあ、あ、……っや、やぁ……ッ」
「っ――……は、ッ」
「やぁ……あぁぁ、エドさまぁっ」
エドアルドの腰の動きが急速に速まり、いちばん深いところへ熱の楔を打ち付けられる。その動きはあまりにも激しく強烈だった。
与えられる快感に心も身体も酔わされていたリリアは、エドアルドと同時に容易く絶頂の壁を超えてしまった。
最後に残されていた侍女服まで汗と白濁液で汚してしまったと気付いたのは、果てた余韻から帰って来た後だった。
*****
「本当に身近でお世話する方は必要ないのですか?」
リリアの頬を撫で続けているエドアルドに、腕の中からそっと問いかける。一瞬驚いた顔をしたエドアルドとじっと見つめ合うと『……はぁ』と呆れた溜息をつかれた。
「というより、リリアは俺の傍に他の女性がいる状況が嫌ではないのか?」
「……え?」
「俺は嫌でたまらない。どうしても必要な場合は我慢しているが、護衛だとしてもリリアに他の男と二人になってほしくない。リリアは俺に対して、そう思ってくれないのか?」
憮然としたように言われてしまう。
エドアルドは意外と嫉妬深い。もうすぐ全ての国民へ向けて婚約者として発表される身だと言うのに、こうして他の男性の存在を心配したり、男性使用人や騎士に対して嫉妬心を見せたりする。
もちろんエドアルドが心配しているようなことなど一切ない。ある訳がない。
「わかりました。もう、この話はいたしません」
だからこの話は、もうするべきではないのだろう。いくら確認してもエドアルドは専属の侍女などいらないと言うし、身支度は自分で出来ると言う。
リリアとしては、セイラのように自分の為だけに仕えてくれる存在はありがたいと思うが、エドアルドが不要だと言うのならこれ以上は意味のない話だ。
「ですが、もしエドさまが専属の侍女が欲しいと思ったら遠慮せず仰って下さいね」
リリアは何でも出来るわけじゃない。完璧な侍女として立ち回れるわけじゃない。けれど私室と寝室の中だけなら、エドアルドのささやかな望みを叶えることぐらい出来るはず。
「その時は、私がエドさまの侍女になりますから」
なんて言ったら、また今日のような行為を求められるのかもしれない。と思いつつ。
顔を上げるとエドアルドが嬉しそうに頬をすり寄せてくる。それならたまには彼の侍女に変身するのもいいかもしれない、とリリアは順調に絆されていくのだ。
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