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月の褥に溺れる ② ◆
男性の右手と左手を結び、そのままもう一度唇を重ねる。先ほどは驚くばかりでうまく反応ができなかったが、今度は少しだけ唇を開いて男性の舌を自分から受け入れる。
「ん……っぁ……は……っ」
キスに慣れていないせいか、少しだけ呼吸がしにくい。しかしその苦しさ以上に、熱くやわらかい舌と舌を絡ませ合う感覚が恥ずかしいのに気持ちいい。
ティアナが懸命に舌を動かすと男性も嬉しそうに微笑んで、結んだ手のひらにきゅっと力を入れてくれる。それと同時にさらに深い場所を探るよう舌を動かされるので、ティアナも息苦しさを忘れて夢中でキスに溺れた。
「あ……んぅ……っふ」
最初はそれほど濡れていなかったはずなのに、互いの唇の間から、ぴちゃ、くちゅ……と水っぽい音が溢れ始める。その音と比例するようにティアナの身体がふるふると震え出すと、その様子に気がついた男性が唇を離して、ティアナの様子を心配してくれた。
「……平気ですか?」
「はい……」
優しい声音で訊ねられたので、全身に微熱が巡る気配を感じながらこくこくと頷く。すると男性がふわっとやわらかく微笑んで、ティアナの右頬に小さなキスを落としてくれた。
「ん……」
愛おしむような頬へのキスが、今度は耳の上に落とされる。そこから首と輪郭の境界、喉の右下、右の鎖骨の上、肩から二の腕……とだんだん下へ下りてくる。
「あ……っ……ぅん……」
そっと触れるだけではあるが、濡れた唇が押し当てられる感覚に敏感に反応してしまう。優しい口づけに応えるように、先ほどまで震えるばかりだったティアナの身体が、今度はぴく、ぴくんっと小刻みに跳ね始めた。
(優しくて……もどかしい……)
肌の至るところへ落とされる口づけが、心地よくてじれったい。この優しいキスを全身で受け止め続けていたら、そのうち溶けて消えてしまうかもしれない――
そんなありえない妄想をしていると、肘のすぐ傍に唇を押し当てた男性がふと、動きを止めてその場に固まった。なにか気になることがあったようで、少しだけ身を起こした男性が、ティアナの顔をじっと見つめてくる。
「ほくろが三つ、並んでいるのですね。珍しい」
「あ……はい……」
男性が微笑ましそうに口元をゆるめて訊ねてきたので、こくりと頷く。
彼が指摘するように、ティアナの右肘の内側には黒いほくろが三つ、等間隔で横並びになっている。
物心がつくころにはすでにここに存在しており、妹のミリアにも『お姉さまだけの特別なしるしね』と言われるのだが、痛くもかゆくもないものなので普段はあまり気にしていない。だが改めて言われてみると、たしかに珍しい特徴であると思った。
「ここも敏感なんですか?」
「そ、そんなことは……」
男性にくすくすと笑われ、唐突に気恥ずかしい気持ちを味わう。『も』という台詞は、彼がティアナを敏感な体質だと感じていることを意味する。
キスだけで全身が反応してしまうことをからかわれたように感じたが、彼は悪気があったわけではないらしい。
「……可愛らしいですね」
「んっ……」
ふ、と微笑んだ男性が、ティアナの右肘の内側に再び唇を押しつけてくる。先ほど自分で否定したのに結局声が出てしまったことに恥ずかしさを覚えたが、男性は構わず同じ場所をちゅう、と強く吸い上げた。
「少しずつ触れていきます。嫌だったり、不快だったりしたら、すぐに教えてください」
「は、はい……」
和やかな会話をしているうちにティアナの緊張が薄れたと判断したのか、男性がティアナの左頬を優しく撫でてくる。ティアナがしっかりと頷くとすぐに左の頬や首筋に口づけられたが、今度はそこに手の動きも加わった。
「あっ……あ……ん」
キスと同時に、男性の手のひらが両胸を包み込む。少し骨ばっていてティアナのものとは明らかに異なる男性らしい指先が、やわらかな肌にふわりと沈む。
「ふぁ……ぁ……だめ……っ」
「痛いですか?」
「いえ……そうではなく……んっ……」
痛くはない。
怖くもないし、嫌でもない。
ただ普段は誰にも見られることがない場所に直接触れられることが恥ずかしいのと、そこをゆっくりと揉みしだかれる感覚がもどかしいだけ。しかしティアナは、この感情を『だめ』以外の言葉でどう伝えていいのかわからない。
「申し訳ありません……力加減が、わからなくて」
ふれあいに戸惑っているのは、ティアナだけではなく男性も同じようだ。困ったように謝罪されたのでふるふる首を振ると、男性が少しだけ身を屈めてティアナの耳元にそっと問いかけてきた。
「ここに触れられるのは、嫌ですか?」
「い……いえ……」
「では、怖い?」
「だ……大丈夫、です……」
「そうですか、よかった」
ティアナの答えを確認すると、男性がほっと胸を撫でおろす。明確な返答から、ティアナが負の感情を抱いているわけではないことを読み取ったらしく、先ほどよりも慎重かつ丁寧に胸を揉み撫でられた。
「あ……っ……んぅ」
優しくゆったりとした動きの中に、胸の中心で存在を主張する頂をきゅぅ、と摘ままれる動きが混ざる。その刺激に全身がびくんと飛び跳ねて腰が浮く。
しかしそれは嫌がっているからではなく、強い刺激で身体が勝手に反応してしまうため。男性もそれを理解したらしく、もう手の動きが止められることはない。
「ん……んっ……ふぁ……」
固くなった乳芯を親指の腹でくりくりと転がされる。再び唇を重ねられて、口内に溢れる蜜と舌を絡ませながら、胸も存分に可愛がられる。甘美な刺激に酔って思考がとろりと歪んでくると、身体の奥もじわりと熱を帯び始めた。
(優しい、撫で方……気持ちいい……)
両胸を愛撫されるたびに生じる熱が、なぜか胸ではなく下腹部に集まり始める。股の間がきゅう、きゅん、と疼くことに、密かに困惑してしまう。
ティアナの変化に気づいたのか、それともただの偶然か、男性の手がふと左胸から離れる。そのまま下に移動した指先がショーツの結び目をしゅるりとほどくと、レースの下に隠れていた秘部が空気に晒される。
長い指の先が股の窪みに滑り込んだ瞬間、ティアナの腰がびくんっと激しく跳ね上がった。
「やっ……そこは……!」
秘所を直に見られ、さらにそのまま触れられたことに驚いたティアナは、つい驚愕の声を発してしまった。だがティアナも目の前の男性も、ここに触れないことには先へ進めないことを理解している。
「痛いですか?」
「ち、ちがいま……っん――!」
「では触れますね。……ゆっくり慣らしますから」
「あっ……あ、ぅ……」
相変わらず穏やかな声音と口調ではあるが、彼の宣言の奥には少し焦れて急いているような気配も見え隠れする。それを証明するようにティアナの脚をぐいっと持ち上げてシーツの上へ立てた男性は、中央でふるりと揺れる蜜芽にそっと指先で触れてきた。
「っ……ひぁっ……!?」
敏感な場所に直接触れられ、ティアナの身体が再度びくん、と飛び跳ねる。
過剰な反応をしてしまったことにまた羞恥を覚えるティアナだったが、男性に驚いた様子はなく、むしろ恥ずかしがるティアナを宥めるようにその場所を優しく丁寧に撫で始めた。
「あっ……あ、あっ……ん!」
いつの間にか固く芯を持っていた秘芽を上下にゆるゆると揺さぶられる。
誰にも触れられたことのない場所を愛撫されたせいか、強烈な恥ずかしさと未知の感覚がぶわりと全身を駆け巡る。
だがティアナの腰が逃げるように上擦っても、男性は簡単に逃がしてくれない。ただ秘芽を撫でるだけでなく、それまでシーツの上についていた手でティアナの腰を掴まえ、がっちりと固定された上でさらに強めに擦り撫でられる。
「ん……ふぁ……ぁん」
男性の指の腹がぐりぐりと押すように蜜芽を愛撫する。その刺激でまた全身が震えるティアナだが、自分でもこれが羞恥によるものなのか緊張によるものなのかはわからない。
もしかしたら、そのどちらでもないのかもしれない。……そう感じて恥じ入るティアナの耳に、男性の感心したような声が響く。
「すごい……ぬるぬるしてきた……」
「! い、言わないでくださいぃ……っ」
男性に恍惚と呟かれるが、ティアナは恥ずかしくてたまらない。たしかに快感を覚えると女性も『濡れる』ことは親友に聞いて知っていたが、今の自分がまさにその状態にあると――陰核を愛撫される気持ちよさに昂って性的に興奮していると示されることが、ひたすらに恥ずかしい。
「ああ、申し訳ありません」
ティアナが慌てて首を振ると、男性が小さな声で謝罪をしてくれた。ただしうっすらと目を開けて男性の表情を確認すると、その口元には楽しげな笑みが浮かんでいるし、指の動きも止まることはない。
優しい彼だが、実は意地悪な一面もあるのかもしれない。ティアナが気持ちいいと感じているのなら、さらなる快感を与えたい、と主張するかのように、蜜芽を扱く速度を急激に速められる。
「あっ、あ……あんっ……ふぁ、あ――」
まじまじと観察されながら敏感な場所を激しく擦られ続けたせいか、ティアナの下腹部の奥に生まれた熱の気配が、突然大きな波へと変わった。じゅわりと溢れるような感覚に気づき、その熱を解放させたい衝動に駆られて無意識に腰を浮かせる。
だが男性にはまだティアナを解放させるつもりがないらしく、そこでスッと手を引くと、濡れそぼった陰核ではなくその下にある蜜口に指を這わせた。
「……指、挿れますね」
強烈なもどかしさを感じながらも、こくこくと頷いて同意を示す。
そう、大事なことはここで快感を極めて、ティアナがひとりで達することではない。ティアナは目の前の男性をその身に受け入れ、乙女を失わなければならない。その準備のためには、まだ必要な行為があるのだ。
「ん、んん……っ」
とろりとした熱液が溢れる蜜口の周辺を、くるりと指でなぞられる。その感覚にも背中がぞくぞくっと反応する。
ティアナの様子を確認した男性が、そこに指の先を埋めてくる。つぷっと小さな音が響くと下腹部の中央に違和感を覚えたが、今度は拒絶の声を発しないよう喉にぐっと力を入れた。
「あ……っふ……はぁ……ん」
「っ……中、とても熱い、ですね……」
「ひぁ、っ……あ……ッ」
男性が感心したように頷いているが、ティアナは中を前後する指の動きにはしたない声をあげてしまわないよう、とにかく必死だった。
思ったほどの痛みや苦しみはないが、彼の指が奥へ進むたびに耐えるような声が、内壁を擦るたびに恥ずかしい吐息が、指を引き抜かれるたびに甘えたような声が溢れそうになってしまう。
「ふぅ……ぁ、あ……っん」
そんなティアナの葛藤を砕くように、長い指が蜜孔の中をぬちゅぬちゅとかき混ぜる。いつの間にか指が一本から二本に増やされ、さらに拡げるようぐいぐいと押されている。
「っぁ、そこ……!」
「ここ?」
「なんか……へん……っ……!」
先ほどからどこに触れられても気持ちいい。だがその中でも、特に最奥の突起を中指の腹で擦られると、蜜癖がきゅうきゅうと収縮してしまう。
それに少しずつだが、身体の奥から奇妙な感覚がせり上がってくるように思う。決定打に欠けるため崩壊するほどではないが、中をぐりぐりと擦られるたびに、男性の指を受け入れた蜜口からぬちゅぬちゅと卑猥な音が溢れるたびに――黒い仮面の奥から青い瞳にじっと見つめられるたびに、強い快楽の波がティアナの理性を削っていくような気がするのだ。
「あ、あ……だめ、も……う……っ」
それが突然顕著化したように、ざわりとした感覚が全身を襲う。ぐりぐりと深い場所を擦られると、越えてはいけない境界を飛び越えてしまいそうになる。
ああ、でもこの恐怖とも快感ともいえぬ強烈な快感に身を委ねてしまえたら、きっと……。――と、ティアナが力を抜こうとした瞬間だった。
――コンコン。
淫らな水音と甘やかな空気に満ちたベッドルームの中に、部屋の扉をノックする高い音が響き渡った。
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