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【二】
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「ごめんなさいね、お姉様」
お家に戻り、顔を合わせるなり――妹は私に、勝ち誇ったような表情を向けて、謝罪になっていない謝罪を口にしました。
私はそれに小首を傾げて――その反応が気に食わなかったのか、オリーブは少し鼻の頭に皺を寄せました。
「レーゼマン伯爵を取っちゃって、ごめんなさいね」
まるで子供に言い聞かせるように、滑稽なほど一言一句の強調された語調で口にされたその言葉に、私は曖昧に頷きました。
私の、打ちのめされたような表情が見たかったのでしょうか?
けれど期待には沿えず、私はやはり――小首を傾げたくなる思いを抱き続けるのでした。
オリーブ、貴方は、レーゼマン伯爵と共になって――そしてその後、どうするつもりなのですか……?
意趣返しのつもりではなく、純粋な思いとして、疑問を抱かざるを得ませんでした。
オリーブは今まで、お世辞にも真面目と言えぬ奔放をもって、素行を捨てた自由を謳歌してきた。
社交界などの交流の場でも、勤勉や礼節といった、お家の責を背負う尽力とは無縁であったはず。
そんな態度で、未だ立場が不安定であるレーゼマン伯爵の元へ出向けばどうなるか――。
何か、考えがあるのでしょうか……?
そんな私の内心の疑問を、一笑に付すように。
オリーブは私に蔑みの目を向けると、嘲笑の窺える高圧的な意思のこもった、嘲りの言葉を向けてきました。
私の在り方を、抉るような言葉を。
「お姉様、分かる? どうしてレーゼマン伯爵があなたを捨てたのか。あのねぇ、あなたの傍にいる人間はいつだって、言葉で言い表しようのない圧迫を感じているの。抑圧されているような気分になる。どうして、そう毎度、自分が正しいとでもいうような態度を振り撒けるの?」
自身の正しさを殊更誇示しているような気はありませんでしたが――続く嘲りは、存外、納得してしまうような説得力があるように、聞こえました。
「どれだけ自分が正しいと思っているのか知らないけど、その無駄な主張の強さが、いつだって他者を圧迫してるのよ。お姉様、気付いてた? レーゼマン伯爵が一度だって、あなたに愛など向けていなかったことに。――一人で生きていられる人間は、独りで生きていけば? あなたを好くモノ好きがいたとしても、三日後には愛想を尽かしていると思うけれど……その圧迫で、例外なく」
――それは、そうなのかもしれない。
そう、思ってしまいました。
意思が強い。
歓談の間に、そう承ることも度々ありましたが――もしかしたら、より近くにいる者にとってそれは圧迫となり、その者に息苦しさを与えていたのかもしれない。
また、そのような可能性をふと考える事があろうと――私は自分の中に咲く意思を信じ続けた。
今も。
そういった意味では、妹の言った通り――私は、自分が正しいと信じていたのでしょう。
「…………」
「――フン」
オリーブは、自身では窺えぬ私の表情、その変化を見ると――ニヤリと、粘り気のある笑みを浮かべました。
「まあ、お姉様、レーゼマン伯爵のことは任せてください。十全に、彼との関係を築いていきますから。どうか、ご心配なさらずに」
言うと、勝ち誇った笑みを私へ残すようにして背を向けて、オリーブは足音高らかに去っていきました。
残された私は、ただ静かに、ぶれるように揺れる内の心を見つめていました。
確かに、オリーブの言うことにも正しい側面はあり――もしかしたら、妹の振る舞いのほうこそが、人間味という観点から見た自然であるのかもしれない。
揺れる心が指差したその主張を、じっと、考え込んで。
そうかもしれぬと、小さく、頷くのでした――。
お家に戻り、顔を合わせるなり――妹は私に、勝ち誇ったような表情を向けて、謝罪になっていない謝罪を口にしました。
私はそれに小首を傾げて――その反応が気に食わなかったのか、オリーブは少し鼻の頭に皺を寄せました。
「レーゼマン伯爵を取っちゃって、ごめんなさいね」
まるで子供に言い聞かせるように、滑稽なほど一言一句の強調された語調で口にされたその言葉に、私は曖昧に頷きました。
私の、打ちのめされたような表情が見たかったのでしょうか?
けれど期待には沿えず、私はやはり――小首を傾げたくなる思いを抱き続けるのでした。
オリーブ、貴方は、レーゼマン伯爵と共になって――そしてその後、どうするつもりなのですか……?
意趣返しのつもりではなく、純粋な思いとして、疑問を抱かざるを得ませんでした。
オリーブは今まで、お世辞にも真面目と言えぬ奔放をもって、素行を捨てた自由を謳歌してきた。
社交界などの交流の場でも、勤勉や礼節といった、お家の責を背負う尽力とは無縁であったはず。
そんな態度で、未だ立場が不安定であるレーゼマン伯爵の元へ出向けばどうなるか――。
何か、考えがあるのでしょうか……?
そんな私の内心の疑問を、一笑に付すように。
オリーブは私に蔑みの目を向けると、嘲笑の窺える高圧的な意思のこもった、嘲りの言葉を向けてきました。
私の在り方を、抉るような言葉を。
「お姉様、分かる? どうしてレーゼマン伯爵があなたを捨てたのか。あのねぇ、あなたの傍にいる人間はいつだって、言葉で言い表しようのない圧迫を感じているの。抑圧されているような気分になる。どうして、そう毎度、自分が正しいとでもいうような態度を振り撒けるの?」
自身の正しさを殊更誇示しているような気はありませんでしたが――続く嘲りは、存外、納得してしまうような説得力があるように、聞こえました。
「どれだけ自分が正しいと思っているのか知らないけど、その無駄な主張の強さが、いつだって他者を圧迫してるのよ。お姉様、気付いてた? レーゼマン伯爵が一度だって、あなたに愛など向けていなかったことに。――一人で生きていられる人間は、独りで生きていけば? あなたを好くモノ好きがいたとしても、三日後には愛想を尽かしていると思うけれど……その圧迫で、例外なく」
――それは、そうなのかもしれない。
そう、思ってしまいました。
意思が強い。
歓談の間に、そう承ることも度々ありましたが――もしかしたら、より近くにいる者にとってそれは圧迫となり、その者に息苦しさを与えていたのかもしれない。
また、そのような可能性をふと考える事があろうと――私は自分の中に咲く意思を信じ続けた。
今も。
そういった意味では、妹の言った通り――私は、自分が正しいと信じていたのでしょう。
「…………」
「――フン」
オリーブは、自身では窺えぬ私の表情、その変化を見ると――ニヤリと、粘り気のある笑みを浮かべました。
「まあ、お姉様、レーゼマン伯爵のことは任せてください。十全に、彼との関係を築いていきますから。どうか、ご心配なさらずに」
言うと、勝ち誇った笑みを私へ残すようにして背を向けて、オリーブは足音高らかに去っていきました。
残された私は、ただ静かに、ぶれるように揺れる内の心を見つめていました。
確かに、オリーブの言うことにも正しい側面はあり――もしかしたら、妹の振る舞いのほうこそが、人間味という観点から見た自然であるのかもしれない。
揺れる心が指差したその主張を、じっと、考え込んで。
そうかもしれぬと、小さく、頷くのでした――。
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