婚約破棄?本当によろしいのですか?――いいでしょう、特に異論はありません。~初めて恋を願った彼女の前に現れたのは――~

銀灰

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【三】

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 それはお役目であり、是か否かなど考えるまでもないことでしたが――私はレーゼマン伯爵のことを、はたして愛していたでしょうか?
 ふと、そのような思いが思考の底から、ぷかりと泡のように浮かんできました。

 乾燥花のように乾いた関係に悲嘆するも、思いがけず湧き出た恋慕に焦がれるも、全て自らの選択次第。
 そのような心持ちを見つめて、私はお役目に臨んでいた。
 しかし今振り返り、冷静に考えれば――あのまま連れ添っていたとしても、私はきっと、彼のことを最後まで、真実の意味では愛せなかったに違いありません。

 彼の人柄を理解しようと努めた。しかし――。
 彼が自慢するお屋敷の薔薇園にも、心の底では理解を示さず、その過ぎた耽美に悪趣味さえ感じていて。
 私が素敵だと感じていたのは、もっと別の――例えばお庭の隅に、まるで苛烈な意思を示すが如く堂々とその華を広げ咲き誇っていた、紫陽花の花だったりしました。

 ――別段、今更愚痴のように不満を吐き出すつもりなどなく。
 これはそういった種の、思いの独白ではありませんでした。

 不思議なもので、あなたには無理だと否定されたあの蔑みを受けてから――僅かながらに、そのような恋慕に憧れるような気持ちが、じわりと湧いてきたのです。

 レーゼマン伯爵に婚約破棄を突き付けられたそのとき、それを承諾すればレーゼマン伯爵がどのような末路を辿るかということに、言わずもがな、気付いていた。
 私は、レーゼマン伯爵を見限ったのでしょう。
 だというのに、その後だというのに――その後だからか……。

 世迷い事です。
 ただの空想。それ以上の何でもありません。
 

 ただ――願わくば。
 願わくば、私に、その人を好きになる努力を許してくれるお方と出会いたい――……。


 ――なんて、幼い少女の描く絵空事のような祈りを。
 僅かな間のしばし、じっと、思っていました。

 きっとそれは、私が切り捨てた選択の一つなのでしょう。
 ただ、少し憧れる気持ちを、抱いただけです――。

 
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