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最後の一歩
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「卒業証書、授与」
各クラスのクラス委員長が代表して前へと出る。壇上へ続く階段を登ると、去年足を震わせながらひったくり犯を追い払った時、ゴールデンウィークに溺れていた男の子を助けた時など度々この壇上に上がった事を思い出した。こうして最後のおめでたい日に代表して壇上に上がれる事を素直に喜んだ。校長先生から卒業証書を渡された際に「最後ですね」と小さい声で言われた時は、確かにと思いながらも寂しくなった。壇上から振り返り、クラスの方へと視線を送る。真面目な表情、口元に少し笑みがある表情、泣いている表情の様々であった。みんなが自分を見守ってくれている気がした。個性的であり、本当に恵まれたクラスだった。
「誰だよ五十円返せってアルバムに書いた奴!」
戻った教室では城島が卒業アルバムの寄せ書き欄を見て叫んでいた。
「俺だ!返せ!」と笠原が答えた。
「絶対返さねー!」
寂しさに包まれる事なく、いつも通りのクラスかと思いきや、その賑やかさの中には終わりを受け入れたくない、どこかそんな雰囲気も感じられた。
「これからも踏み出そう!本当にありがと」
宮間さんが書いてくれた寄せ書きのメッセージを読み返す。感謝したいのは自分の方だと思う。もうすぐ暖かい春が迫る事を教えてくれる空を少し窓から見上げて、再び教室を見渡すとこの光景が最後だという寂しさが自分にも感じられた。
「あーうるせーな最後まで!席に着けー」
大杉先生が賑わう教室内に入って来た。そしてゆっくりと席に着いた全員を見渡してから、一つ息を吐いた。
「一番最初にこのクラスの全員をここから見渡した時、こいつらが三年間どうなっていくんだろうって楽しみ半分、不安が半分ってところだった」
静かに話し出す大杉先生の言葉を誰もが真剣に聞いていた。高校生活最後の担任の先生の言葉だからだ。
「目つきが悪くて手を焼きそうな奴もいたしな」
「それ俺?」と城島がすぐに反応すると笑いが起こる。
「でも曲がった奴はいないし、意地の悪い奴もいない。クラスの仲間を想う人間が多かった。出来ていなくても途中から出来るようになった奴もいた」
一瞬、大杉先生と目が合った。今のは自分も含まれているのだろう。
「お前らにはよく怒ったりしたけど、本気で馬鹿野郎と思った事は無かった。はっきり言えるがこの三年間、本当にお前らは成長した」
ところどころで鼻を啜る音が聞こえ始めた。平良もいつものように頬杖をついているが、大杉先生をじっと見る目は少し潤んでいるようにも見えた。
「お前らが楽しんだ三年間、俺も負けないくらい楽しかった!ありがとう。本当に卒業おめでとう」
大杉先生が頭を下げると、教室内に拍手が響いた。半分以上のクラスメイトは涙を流していた。高木さんも宮間さんも、水嶋さんも涙を浮かべていた。驚いたのは本田が号泣していた事だ。
「泣かせんなよ先生よー!ありがとうよー!」と言いながら涙を流していた。笑いと涙に包まれた最後のホームルームは、教室内で全員が笑顔の集合写真を撮って終わった。
教室を出てから二十分が経った。夕方六時からはクラスメイト全員が参加する「最後の打ち上げ」がカラオケの大部屋にて開催される。それまでの時間は太一の家で俊哉と三人で時間を潰す約束をしている。ただその前に、少し時間をもらっていて遅れて行く事になっている。人気の無い体育館の裏でその時を待っていた。
「ごめーん!てか体育館の裏とか怖いから!」
クラスメイトとの教室内での最後の会話を終えて、宮間さんが小走りで来てくれた。
「ごめん、ここくらいしかなくて」
まだ生徒が残る校舎内や駐輪場では人目があり、卒業式を終えて、部活での使用も今日は無い体育館の裏が最適だった。
「大丈夫!」と宮間さんは両手で頭の上に輪っかを作っていた。それを見て少しだけ緊張が解れたが、まだまだ心音は忙しいままだ。宮間さんの目を見た。宮間さんは微笑みながら自分が話し出すのを待っていた。
「あ、あの」
「遠くない?」
「え?ああ」
確かに五メートル近く宮間さんと離れていた。きちんと爪先までぴったりに揃った自分の足元を確認した。そして少し春を感じる暖かい空気を吸い込み、大きく息を吐いた。右足からゆっくり、そして大きく前へ出し、左足もそれに続くように前へ出した。一歩、前へ踏み出すと宮間さんとの距離がぐっと縮まった。これまでの宮間さんとのやり取りや思い出が頭を巡っていた。この人には感謝しかない。思い出せば出すほど、色鮮やかに鮮明に色濃く今後も決して忘れる事の無い日々が蘇る。
「大丈夫ー?」
宮間さんが下から覗き込む。
「うん、大丈夫」
鼻から大きく息を吸った。
「宮間さん!あなたの事が」
高校生活最終日の最後にして、大きな大きな一歩を踏み出した。
各クラスのクラス委員長が代表して前へと出る。壇上へ続く階段を登ると、去年足を震わせながらひったくり犯を追い払った時、ゴールデンウィークに溺れていた男の子を助けた時など度々この壇上に上がった事を思い出した。こうして最後のおめでたい日に代表して壇上に上がれる事を素直に喜んだ。校長先生から卒業証書を渡された際に「最後ですね」と小さい声で言われた時は、確かにと思いながらも寂しくなった。壇上から振り返り、クラスの方へと視線を送る。真面目な表情、口元に少し笑みがある表情、泣いている表情の様々であった。みんなが自分を見守ってくれている気がした。個性的であり、本当に恵まれたクラスだった。
「誰だよ五十円返せってアルバムに書いた奴!」
戻った教室では城島が卒業アルバムの寄せ書き欄を見て叫んでいた。
「俺だ!返せ!」と笠原が答えた。
「絶対返さねー!」
寂しさに包まれる事なく、いつも通りのクラスかと思いきや、その賑やかさの中には終わりを受け入れたくない、どこかそんな雰囲気も感じられた。
「これからも踏み出そう!本当にありがと」
宮間さんが書いてくれた寄せ書きのメッセージを読み返す。感謝したいのは自分の方だと思う。もうすぐ暖かい春が迫る事を教えてくれる空を少し窓から見上げて、再び教室を見渡すとこの光景が最後だという寂しさが自分にも感じられた。
「あーうるせーな最後まで!席に着けー」
大杉先生が賑わう教室内に入って来た。そしてゆっくりと席に着いた全員を見渡してから、一つ息を吐いた。
「一番最初にこのクラスの全員をここから見渡した時、こいつらが三年間どうなっていくんだろうって楽しみ半分、不安が半分ってところだった」
静かに話し出す大杉先生の言葉を誰もが真剣に聞いていた。高校生活最後の担任の先生の言葉だからだ。
「目つきが悪くて手を焼きそうな奴もいたしな」
「それ俺?」と城島がすぐに反応すると笑いが起こる。
「でも曲がった奴はいないし、意地の悪い奴もいない。クラスの仲間を想う人間が多かった。出来ていなくても途中から出来るようになった奴もいた」
一瞬、大杉先生と目が合った。今のは自分も含まれているのだろう。
「お前らにはよく怒ったりしたけど、本気で馬鹿野郎と思った事は無かった。はっきり言えるがこの三年間、本当にお前らは成長した」
ところどころで鼻を啜る音が聞こえ始めた。平良もいつものように頬杖をついているが、大杉先生をじっと見る目は少し潤んでいるようにも見えた。
「お前らが楽しんだ三年間、俺も負けないくらい楽しかった!ありがとう。本当に卒業おめでとう」
大杉先生が頭を下げると、教室内に拍手が響いた。半分以上のクラスメイトは涙を流していた。高木さんも宮間さんも、水嶋さんも涙を浮かべていた。驚いたのは本田が号泣していた事だ。
「泣かせんなよ先生よー!ありがとうよー!」と言いながら涙を流していた。笑いと涙に包まれた最後のホームルームは、教室内で全員が笑顔の集合写真を撮って終わった。
教室を出てから二十分が経った。夕方六時からはクラスメイト全員が参加する「最後の打ち上げ」がカラオケの大部屋にて開催される。それまでの時間は太一の家で俊哉と三人で時間を潰す約束をしている。ただその前に、少し時間をもらっていて遅れて行く事になっている。人気の無い体育館の裏でその時を待っていた。
「ごめーん!てか体育館の裏とか怖いから!」
クラスメイトとの教室内での最後の会話を終えて、宮間さんが小走りで来てくれた。
「ごめん、ここくらいしかなくて」
まだ生徒が残る校舎内や駐輪場では人目があり、卒業式を終えて、部活での使用も今日は無い体育館の裏が最適だった。
「大丈夫!」と宮間さんは両手で頭の上に輪っかを作っていた。それを見て少しだけ緊張が解れたが、まだまだ心音は忙しいままだ。宮間さんの目を見た。宮間さんは微笑みながら自分が話し出すのを待っていた。
「あ、あの」
「遠くない?」
「え?ああ」
確かに五メートル近く宮間さんと離れていた。きちんと爪先までぴったりに揃った自分の足元を確認した。そして少し春を感じる暖かい空気を吸い込み、大きく息を吐いた。右足からゆっくり、そして大きく前へ出し、左足もそれに続くように前へ出した。一歩、前へ踏み出すと宮間さんとの距離がぐっと縮まった。これまでの宮間さんとのやり取りや思い出が頭を巡っていた。この人には感謝しかない。思い出せば出すほど、色鮮やかに鮮明に色濃く今後も決して忘れる事の無い日々が蘇る。
「大丈夫ー?」
宮間さんが下から覗き込む。
「うん、大丈夫」
鼻から大きく息を吸った。
「宮間さん!あなたの事が」
高校生活最終日の最後にして、大きな大きな一歩を踏み出した。
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