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お許しあそばして。お嬢様なんて柄じゃございませんの。
お祖父さんの昔話
しおりを挟む「私が話しているのは、お前の父・政文が小学生の頃に亡くなった、実母のことだ」
「…血の繋がったお祖母様とですか」
二階堂パパの実母は早世したんだったね。
とは言われても、実のお祖母さんの写真を見たことがないのでピンとこない。二階堂パパがあまり実家での話をしないからあまりよく知らないし……
前に1度聞いたことがあるのが、上の3姉弟が実のお母さんと一緒に撮影した写真をすべて、継母であるお祖母さんに処分されてしまったということ。
「…古い写真になるが…」
そう言ってお祖父さんが懐から手帳を取り出した。そこに挟まれていたのは古い写真だ。若かりし頃のお祖父さんらしき男性と、エリカちゃんを大人っぽくした美女が写っていた。
ほぉ、似てるね。パパはお母さん似なんだろうなと思っていたが、パパよりもエリカちゃんのほうが亡くなった実のお祖母さんに似ているかもしれない。まさに生き写しと言っても過言ではない。
「これだけは肌見離さず持ち歩いていたから残っていた。他の写真はアレに燃やされてしまったが…」
あ、ホントだったんだ。継母のお祖母さん手ずから写真を燃やしたんか。
あれかなぁ、亡くなった前妻に嫉妬して燃やす……さてはあのお祖母さんも昼ドラ属性だな?
「鈴子を亡くした後、私は抜け殻のようになってしまい、失った悲しみを仕事に没頭することで埋めた。周りに勧められるがまま再婚したはいいが……上の3人とアレは歩み寄ることなく…。私が間に入ってなんとかするべきだったが……言い訳にしかならんな。後悔しても何もかもが遅すぎる」
それもあるかもしれないけど、継母のお祖母さんもやりすぎだね。いくらなんでも人の思い出を燃やしちゃダメだよ。いくら家族になったからと言って、人の思い出を奪う権利は無いんだ。
……写真がないから、実のお母さんの顔を思い出せないって二階堂パパが寂しそうに話していたんだよ。小学生の時だもの、そりゃそうだよ。
継母でもうまくいく家庭はあるだろうけど、子どもたちにとっては実母がお母さんであるから……受け入れるのはかなり難しいと思う。だけどそれは仕方ないと思う。
お祖父さんにしても……大事な伴侶である奥さんを亡くした悲しみは計り知れないであろう。すべてお祖父さんの責任かと言われたら、難しい問題だと思う。
二階堂3姉弟もお母さんを亡くして大変な時に継母が新しくやってきたら戸惑うに違いないし、相性が悪かったらもうどうしようもない。実際のところは継母のお祖母さんと3姉弟達の問題だろうから、私はなんとも言えない。
しかも私は、親よりも先に死んだ親不孝者だから、お祖父さんを責めるような言葉を投げかけることも出来ない。そんな権利もない。
お祖父さんもなにか言葉を投げかけて欲しかったわけではないようだ。手元の写真を見つめてしんみりした顔をしていた。
「鈴子に生き写しのお前が不幸になることはどうしても許せない。…はじめの婚約の際にもう少し私が調査を進めておけば、お前が恥をかかされることはなかったはずなのに」
「お祖父様、婚約破棄のことはもう気にしておりません。それに破棄できたからこそ、慎悟さんというかけがえのない人と出会えたのです」
お祖父さんが自分を責め始めたので、私は慌ててフォローする。
むしろ中の人が私の時点で宝生氏との婚約が継続されていても…多分、相性が合わなかったと思うんだ。エリカちゃんにとっては宝生氏が全てでも、私にとっては違うんだ。むしろ苦手の部類にいるぞ。
宝生氏には公衆の面前で恥をかかされたことはあるが、その件は謝罪を貰ったし、既に過去のこと。もう良いんだよ、その婚約破棄の話は。
お祖父さんは「そうか…」と呟いたっきり沈黙してしまった。
場を沈黙が支配した。食事の途中だったのだが、食べても良いのだろうか。美味しそうなサバの竜田揚げが目の前にあるが、お祖父さんのしんみりした空気を察知しまって、食べるのを躊躇ってしまう。
シリアスな話をされたのに、こんなに美味しそうな食べ物を前にした私は食欲が抑えられない。
でもここで食べたらはしたないって思われちゃうかもだから我慢。今の私はお嬢様、私はお嬢様……
部活あと何も食べていないからお腹が空いて仕方がない……! だめよ、私はおじょう…サバの竜田揚げ美味しそうだなぁ…
「失礼いたします、お連れ様がお見えです。お通ししてもよろしいでしょうか?」
私が自分に向けてお嬢様の暗示をかけていると、個室の外から従業員の声がかかった。
お連れ様?
私が首を傾げていると。お祖父さんが「通して差し上げて」と返事をしていた。
ママが来たのかな。急遽来ることにしたのかなと思っていたのだが、開かれた襖の奥から現れた“お連れ様”の姿に私は目を丸くした。
「遅くなりました」
「いや、こちらも急に呼び立ててしまい、申し訳ない…エリカの隣に座ってくれ」
「はい」
先程まで話題になっていた、私の恋人である慎悟が現れたからだ。彼はお祖父さんに軽く挨拶をすると、私の隣の席に着いていた。
なんで? なんでここにいるの? そこの席、慎悟の席だったんだ?
「用事は大丈夫なのか?」
「はい、時間を前倒しにして済ませてきたので」
「済まなかったな。こちらの都合に合わせてしまって。来てくれてありがとう」
2人が会話をしているのを私は黙って見ていた。もしかして婚約話を当事者込みで話すつもりで私達を呼び出したの? お祖父さん。
慎悟が入室したのに続いて、仲居さんたちがずらずらと食事を運んでくる。お祖父さんが食事を再開していたので、私はようやくサバの竜田揚げにありつけた。美味しい。少し冷めちゃったけどそれでも美味しい。
その後しばらく慎悟とお祖父さんの二人の対談が続いており、私はいらんことを言ってボロを出さぬよう、水を向けられたときのみ返事をしていた。
「レンコン入り鶏つみれ鍋でございます」
小さなお鍋に入ったつみれ鍋。これも美味しそう。私は嬉々として手を付けた。だが私はお嬢様だ。しっかり行儀作法を守ってお上品に食べる。がっついたりはしないぞ。
おとなしく食べていると、お祖父さんが私に目を向けてきた。
「…エリカお前、椎茸を食べられるようになったんだな」
「んぐふっ」
お祖父さんの指摘にビックリしてしまって、椎茸が喉につっかえた。慌てて側にあった水で流し込む。
あー危なかった…
「み、味覚が変わりましたの」
「…大丈夫か?」
「ピチピチ活きの良い椎茸でしたの」
口元を懐紙で抑えてウフフと笑って誤魔化した。エリカちゃん椎茸苦手だったんだ…知らなかった。
慎悟に「バカ」とほんの小さな声で言われたけど、仕方ないでしょ。私は咳払いした。
「お祖父様も召し上がってみてください。このつみれ鍋、とても美味しいですよ」
お祖父さんは孫娘の好き嫌いを把握しているのか。つい動揺してしまったではないか。お嬢様の仮面が剥がれてしまいそうだったわ。
私がつみれ鍋をすすめると、お祖父さんは箸をつけていた。なんとかごまかせたかな?
「…お前は美味しそうに食べるんだな。…鈴子もそうだった」
ポツリと呟いたおじいさんの言葉に、私は何だか罪悪感に襲われた。
鈴子お祖母さんと中の人は全くの赤の他人なんです、あなたの孫娘に憑依した他人なんです私! と懺悔したい気持ちを抑えて、笑顔を作った。
「鈴子お祖母様の好きな食べ物はなんだったのですか? 鈴子お祖母様のお話を聞かせてください」
「……私は若い頃貧乏でな、いつも安い店にしか連れて行ってやれなかった。当時通っていた大学の側に安い食堂があったんだが、鈴子はそこのサバの味噌煮が好きで…」
お祖父さんは、エリカちゃんを通して鈴子お祖母さんの事を思い出しているのであろうか。昔話をしているお祖父さんはいつもの厳しい顔立ちではなく、懐かしそうに綻んでいた。
他人である私にも、お祖父さんが鈴子お祖母さんの事を本当に大切に想っていたんだなぁとすごく伝わって来た。
彼が継母であるお祖母さんの事を「アレ」と呼んでいるのは…鈴子お祖母さんとの大切な想い出を葬り去るような真似をしたせいで、埋められない溝が出来てしまったのかなと私は察してしまった。
私だって、もう会う事の出来ない大事な人の写真燃やされたら、お祖父さんと同じく心を閉ざしてしまうかもしれない。
継母のお祖母さんにも事情があったかも知んないけど、なんと言うかやり方がねぇ……夫婦にも色々あるんだろうが…
私が口出ししないほうがいい事だと判断して、その件には触れない事にした。
料理が一通り届き、最後に花の形をした練りきりと濃茶が届いたので、私は早速お菓子に手を付けた。
慎悟がお茶を飲んで一息ついたタイミングで、お祖父さんは本題を切り出した。
「加納君は、このエリカとの将来を真剣に考えていると聞いたが…それは下心があってか? 話を聞くには、石油会社を経営する丸山家の娘との縁談の話もあったと聞いたが」
「折角のお話でしたが、僕の心は既に決まっておりましたので、丸山家の方には丁重にお断りさせて頂きました」
お祖父さんと慎悟の間に緊張が走った。お祖父さんはいつもの厳しい雰囲気に逆戻りしているし、慎悟もいつになく真剣だ。
空気がピリッとした事で、練りきりを食べていた私は息をするのを躊躇ってしまったのである。
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