お嬢様なんて柄じゃない

スズキアカネ

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お許しあそばして。お嬢様なんて柄じゃございませんの。

私達の仲を反対しているのかそうでないのか、どっちだ。

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 お祖父さんはいつもの二階堂家当主の顔に戻り、私の隣にいる慎悟をじっと真剣に見つめていた。

「…もう既に、うちと加納家は縁がある。新たに丸山家と縁を結べば、加納家は更に隆盛を極める事になるとは考えなかったのか?」
「…以前の僕であれば、それを考えていたでしょう。ですけど彼女を失いそうになった時に気づいたんです。その選択をすれば僕はきっと後悔すると」

 練りきりの甘さにお茶が恋しくなった。私は音を立てないようにお茶を啜る。
 この状況で呑気に飲食するなと後で慎悟に注意されるかもだが、練りきりを食べたタイミングでお祖父さんが話を切り出したもんで…。口の中を湿らせると私は食べるのをやめて、2人の会話を静かに見守った。

 お祖父さんは厳しい表情で慎悟の話を聞いていた。お祖父さんは私達の交際に反対なのだろうか。それとも慎悟の人柄を見極めたいだけなのだろうか。…その辺りがわからない。
 エリカちゃんと宝生氏の件があったから慎重になっているのだろうと慎悟は話していたが、慎悟ほどのハイスペック男子でもなかなか首を縦に振らないのね。

「…二階堂との縁を更に強固にしたいという考えならば、美宇もいるぞ。あの孫娘は大層君にご執心で」
「いえ、僕はロリコンではないので」

 お祖父さんが8歳下の美宇嬢をプッシュしようとしたら、慎悟が速攻拒否していた。
 お祖父さん、この会話の流れでそれはわざとなのか? 本気のボケなのか?

 お互いが20代30代とかになれば8歳差は大したことないように見えるだろうけど、10代のうちはキツイよね…主に周りの目が。ロリコンさんなら本望だろうから平気だろうけどさ。
 しかも慎悟は美宇嬢を苦手にしているようだ。以前、本人に小学生女子が苦手なのかと質問したら「小学生限定ではないが…会話が通じない相手が苦手」と言われたが、それは誰でもそうだと思う。肉食系女子には多少耐性があっても、それが幼い少女になると更に扱いに困るのかな。

 ていうか私達が想い合っているのに何故、他の孫を紹介しようとするんだお祖父さん! 慎悟の気持ちを試しているのか? もしもそうならめちゃくちゃ下手くそな試し方だな!
 ちょっとムッとしたが、相手はお祖父さんなので我慢する。
 何だよお祖父さんたら、エリカちゃんよりも一番下の娘が産んだ美宇嬢のほうが可愛いからってそっちの恋心を優先しちゃうのか!
 末っ子は可愛いとはいえ、それはあんまりだぞ!

「僕は」

 私が言いたいことを我慢していると、慎悟が何かを言おうとしていたので、そちらに視線を向けた。
 先程までお祖父さんを見ていた慎悟は、私をまっすぐ見つめていた。

「逆境にも耐えて、前向きに一生懸命に生きる“彼女”が好きなんです」

 慎悟の真っ直ぐな気持ちが私の胸に直撃した。…その瞳やめて? エリカちゃんの中の私を見つめるようなその真剣な眼差しで見られちゃうと心臓ドコドコしちゃうの。お祖父さんの前で醜態晒せないでしょう?
 私は慎悟の視線から目を離せないでいた。

「…僕は二階堂の娘として彼女が好きなわけではなく、彼女が彼女だから好きなのです。…彼女が中流家庭で育った、ただのバレー馬鹿だったとしてもきっと、僕は彼女を好きになっていたはずです」

 ちょっと……
 ここで松戸笑わたしに対する告白やめて!? 好きになるかとかそんなんわかんないじゃん! あの事件がなかったら私と慎悟が巡り合う可能性は皆無だったと思うよ!? 
 あぁでも慎悟にそんな事言われると、本当にそんな気がしてきてしまう。…すごく嬉しい。
 私は真っ赤になってしまった顔を見られたくなくて、サッと手のひらで隠した。だって嬉しくて恥ずかしくてなんだか泣いてしまいそうになったんだもん。  
 慎悟は何でお祖父さんの前で私を口説こうとするのか。ときめきでどうにかなりそうだよ!

「そうか…よくわかった」

 私がただひたすら口説かれていただけのような気がするけど、これは試されていたの…? 
 心臓の暴走を抑えようと胸を抑えて深呼吸していた私は、これで私と慎悟は認められたのかとホッとした。
 何故なら、お祖父さんの表情は先程よりも和らいだものに変わっていたから。

「だが、返事はもうしばらく待ってくれ。もう少し、様子を見たい」
「……わかりました」

 しかしそう思ったのもつかの間。お祖父さんは返事を先延ばしにした。それには私も拍子抜けしたが、慎悟は重々しく頷いて返事をしていた。
 えぇ? 今、よくわかったって言ったじゃないの。散々慎悟の熱い告白を聞いたじゃないの。それでもダメなの!?

「誤解しないで欲しい。加納君のことはこちらで色々調査させてもらった。エリカの相手としての条件はしっかり満たされていた。…強いて言えば、女性に好かれやすいというところが引っかかっているが…」

 確かに慎悟は女の子にモテてる。
 お祖父さんがどんな報告を受けたかは不明だが、慎悟は決して不誠実な男ではないぞ!

「お祖父様、慎悟さんはとても一途なんです。私が自分の気持ちに気づくその前からまっすぐ私に気持ちをぶつけてくれました。私が辛いときは寄り添ってくれる優しい人なんです。彼がとても誠実な人だと私はよく理解しております」

 しばらく沈黙を守っていた私だが、私は口を挟んだ。
 慎悟は超イケメンだ。そりゃこんなキレイな顔していたら誘蛾灯のように女子が群がってくると思う。
 だけど慎悟は思わせぶりな態度は取らない。中途半端に優しくしたりしない。浮気な態度をとったりなんかしない。一途に私だけを想ってくれている。それは私が保証する。

「もしも彼が他の女性にフラッとしていたら、私が平手打ちして目を覚まさせますから大丈夫です!」

 例えば慎悟が血迷ったら、私が引っ叩いて戻してやる! もっと惚れさせるから大丈夫!
 
「……逞しくなったな、エリカ」

 ポカーンとした顔のお祖父さんに言われて私はハッとした。私の脆弱なお嬢様の仮面はいとも簡単に崩れてしまったようである。

「ウフフ! 言葉の綾ですわぁ」

 笑って誤魔化したけど、隣から慎悟の呆れた視線が突き刺さって来てる気がする。また関西のオッサンみたいなイントネーションで喋ってしまった。

「両家に関わるお話ですもの、恋とか愛だけで済ませるようなものじゃないとわかっているんです。…ですが私は、相手が慎悟さんだから今こうして頑張れているのです」

 咳払いをして、話を無理やり戻した。
 お祖父さんに認めてもらえないと、まず話が進まない。慎悟も頑張ってきたけど、それでもお祖父さんは返事を先延ばしにする。
 ならば孫娘の立場からアピールする他ない。
  
「彼が隣にいてくれるから、今こうして私は笑えているんです。…彼は私を支えてくれています。私も、彼を支えたいのです」

 私にできることは高が知れているだろうけど、今の努力がきっといつか実になると信じている。慎悟の側にいたいから私は頑張るのだ。
 
「…僕はまだ学生です。まだ何も成していない立場ですので、二階堂様が慎重になってしまうのは重々理解しております。ですが僕は本気です」

 慎悟が深々と頭を下げてお願いすると、お祖父さんは目を細めていた。腕を組んで居丈高に問いかけてきた。

「…もしも許さんと言ったらどうする?」
「許して頂けるまで、お願いし続けます」

 この流れ、なんだかドラマみたいだなぁ。と思いつつ、私も慎悟にならって頭を下げた。
 婚約のお願いのはずだが、結婚のお願いみたいでなんだか変な感じ。だけど慎悟はそれほど真剣に将来を考えてくれているんだよね。
 私も黙っているわけには行かない。

「彼との婚約を最後まで認めてもらえなかったら…私は、一生独身を貫き通します!」

 私の脅し文句にお祖父さんはギョッとしていた。わりかし本音なんだけどな。私はその覚悟はしているよ。
 


 2人で改めてお願いはしたが、返事はやはり引き伸ばしだ。
 お祖父さんはなぜそんなに頑ななんだ。西園寺さんは良くて、慎悟の事は渋るのがどうにも解せない。容姿性格タイプは異なるものの、双方とも成績優秀品行方正なお坊ちゃんである。
 ……まさか、「うちの娘はやらん」の孫娘バージョンを楽しんでるとかないよね…。やっぱり、西園寺さんとの縁談断ったことを根に持ってるの?

 お祖父さんだけが先に退室してしまい、残された私たちは料亭の個室内で食後のお茶を貰っていた。
 隣で考え込んでいる慎悟は先程から沈黙してしまっている。お茶も飲まずに机を睨み続けていた。
 ……少し行儀が悪いが、私は隣に座っている慎悟の肩にもたれ掛かった。

「お祖父さん、中々強敵だね」
「……はじめから上手くいくとは思ってなかったから、想定済みだよ」
「でもさ慎悟、ちょっと焦ってるでしょ」

 終始、彼は落ち着き払っている様に見えたが、実際にはすごく緊張したに違いない。
 お祖父さんにいい返事をもらえないことで焦りが生まれているように見える。

「焦らずとも大丈夫。待とう」

 慎悟の手に指を絡めて握ると、しっかり握り返された。
 私はこの手の温もりを手放したくない。
 お祖父さんが反対すると言うなら、本家に通って拝み倒してくるよ。

 慎悟だけに頑張らせないよ。だって2人の未来のことじゃないの。一緒に頑張ろうよ。
 そう言って慎悟の顔を下から覗き込むと、慎悟はいつもの落ち着いた表情であったが、その瞳は少しだけ不安に揺れていた。
 珍しいな。慎悟がこんな風に弱るのは。

「…ねぇキスしてもいい?」
「……」

 私の問いに返事することなく、慎悟は唇に噛み付いてきた。角度を変えてされるキスはいつもよりも少しだけ荒々しかった。
 背中に回された腕にきつく抱きしめられた私は、慎悟の首に両腕を回して、彼の熱い唇を自ら求めたのである。

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