お嬢様なんて柄じゃない

スズキアカネ

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お許しあそばして。お嬢様なんて柄じゃございませんの。

やってきたクラスマッチの季節! 私、バレーやります!

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 9月も下旬に差し掛かったある日、教壇に立ったクラス委員長がクラスメイト全員に向けて言った。

「では、この時間を使って、来月頭に行われるクラスマッチの種目決めを行います」
「はいっ私バレーボールやります!」
「ちょっと待っててくださいね、二階堂さん」

 今年もこの時期がやってきた。そう、クラスマッチである! その単語だけで心がウキウキと弾む。私は意気込んで立候補したのだが、クラス委員長に制止されてしまった。
 バレーボールは何故か毎年人気がない。去年も一昨年も、じゃんけんで負けた人がバレーボールチームに編成されていたんだ。
 今年もそうなるんだろうなと思っていたが、今回は意外な結果であった。

「二階堂様、今年もよろしくおねがいしますね」
「一昨年一緒に戦わせて頂いた時、すごく楽しかったので立候補しちゃいました」

 なんと、去年、一昨年共闘した元チームメイトが自ら立候補してくれたのだ。女子チーム補欠含めての8人、すぐに枠は埋まった。中には私の友人たちもちゃんと収まっている。
 なんだよなんだよ、バレーの魅力にみんなハマっちゃってるじゃないの~! 嬉しいな! クラスマッチが楽しみになってきたぞ!

「二階堂さん、僕もバレーなんだ。よろしくね」

 音もなく近寄ってきたサイコパスの言葉に私は寒気に襲われた。同じバレー担当といえど、試合は別だぞ。あんたとはよろしくもしない。

「僕初心者だから色々と教えてほしいな」
「集中的にスパイクかましてもいいなら、練習してあげてもいいよ」

 一昨年の春休み期間中、この上杉を自主練習に付き合わせたことがあるが、まぁ…筋は悪くなかった。育てれば、慎悟ばりにプレイできるようになるかもしれないが……
 触らぬ上杉に祟りなしだ。なるべく近づかないようにしなければ。それよりも慎悟だ。

「今年もバレーなんだね! 慎悟がバレーを好きになってくれて、私嬉しいよ!」

 私は今年も同じバレーチームになった慎悟の手を取ってはしゃいだ。
 去年もだけど、慎悟は種目決めで自ら挙手していた。私を通じてバレーを好きになってくれているようで嬉しい。

「いやいや、加納君はエリカと一緒にいたいから、バレー選んだだけだって」
「微笑ましいですわね」
「うるさいぞお前ら」

 ぴかりんと阿南さんが冷やかして来たので、慎悟が2人をキッと睨みつけていた。顔は怒っているが、その頬は赤いため迫力に欠ける。
 いつも一緒にいるのに可愛い奴め。私は慎悟の手に指を絡めてしっかり握った。

「二階堂さぁん、わたし頑張るね♪」
「…瑞沢さんは基礎練習から頑張ったほうがいいかもね」

 さり気なくバレーチームにいる瑞沢嬢も毎年バレー専攻してるんだよなぁ…バレーが好きってわけじゃなさそうなのに立候補していた。
 慎悟と手を繋いでいない方の腕に瑞沢嬢が抱きついてきたが、そのまま放置しておく。

「二階堂様、今年はクラスマッチの夜を空けておきましたので! 両親にも許可をもらっていますわ!」
「ん? ……あぁ、打ち上げか。そうだね、今年もクラスマッチの後にみんなで打ち上げに行くのもいいかもね」

 クラスメイトの子からすごいワクワクした顔で、夜は空けておく宣言された私は一瞬何を言っているのか理解できなかったが、どうやらクラスマッチ後の打ち上げの話をしているようだ。
 そういえば彼女は一昨年の打ち上げでは急な話だったので親からの許可がもらえずに参加できなくて残念がっていたな。そうと決まれば、二階堂グループのお店を予約させてもらって、送迎バスの手配もしておかなきゃ。

「また焼肉ですか!?」
「菅谷君は焼肉が好きだねぇ」
「はい! 焼肉楽しみにしてます!」
 
 バレーを選んだ理由が打ち上げの焼肉だったりしないよね菅谷君。確かにバレーチーム限定の打ち上げだから、他の種目になったらありつけなかったかもしれないけど…そんなに肉に飢えているのか君は。

 
 高校生活のクラスマッチは去年一昨年とは違う雰囲気になる気がする。はじめからメンバー全員が前向きな気持ちでいるので、団結するのも早いかと思われる。
 練習は早めに始めたほうがいいということで、早速翌日から予定を合わせて練習に入ることにした。
 みんながきつくならないよう、無理のない程度に、楽しくをモットーにして、基礎練習から始めよう。普段バレーしている私と違って、他の子達はバレーの感覚を忘れているであろうから。

 一足早く自主練習に入った私達と違って、他の種目の人達は普段通り過ごしていた。この学校の人は学校行事に本気出さないからもうその辺は諦めている。
 私としてはこうして和気あいあいと学校行事に参加するのがいい思い出になっているけど、その他の人はそうではない。そもそもの価値観が違うのであろう。価値観の穴は中々埋まらないね…
 …今年の文化祭も、去年みたいに空中分解するのかなと予想している。

 なにはともあれ、今はクラスマッチの練習である。

「よし慎悟、もっと高い打点からスパイク打ってみようか!」
「…まだ打つのか…」

 スパイク練習を続けていたから手の平が痛いと慎悟が手を握ったり開いたりしている。慣れていないうちは痛みが気になるよね。
 慎悟は運動神経がいい。もっともっと強いスパイクが打てるはずだ。バレー熱に火が灯った私は慎悟に対してスパイク指導をしていた。改善点を指摘すればそれを吸収していく。教え甲斐があってイイね! 
 私は慎悟にお手本を見せる。高さが足りないというツッコミは受け付けない。…やっぱり男子は筋力があるから、跳ぶねぇ…生前の私と身長そこまで変わんないのに、当時の私よりも高く跳んでる気がするよ…
 上手になって嬉しい反面、嫉妬してしまうぞ。

「ちょっと二階堂さん! あなたね、偉そうに慎悟様に指図するんじゃなくてよ! 失礼だと思わないの!?」

 ソフトボールに決まった巻き毛は私達の練習場所に現れては、私に苦情を訴えてくる。ほぼ無視しているが、ちょっとやかましいな。
 そんなとこに突っ立ってたら流れ弾に当たるかもしれないよ。責任取らないからね。

「櫻木さんもバレーがしたいの?」
「そんなわけないでしょう! 慎悟様のおわすところには必ず私がいますのよ! あの女狐の魔の手から彼を守るために!」

 阿南さん指導の元、ボールに慣れる練習をしていた瑞沢嬢がズレた質問すると、巻き毛はストーカーチックな発言を堂々としていた。妙に自信満々に宣言されたが、当の慎悟は無視している。
 いつものことなのでスルーしているのか、怖いから関わりたくないのか…どっちなんだろう。

「二階堂さん、僕にも教えてよ」
「いいよ、じゃあ向こう側に立って。私がスパイクを打つから、それをレシーブしてみようか」
「加納君に対する態度と差がありすぎじゃないかな」

 上杉がクレームを付けてきたが、気のせいだよ。

 
 私達3-3バレーチームの練習は順調であった。
 加納ガールズの中の誰かが必ず出没しては、慎悟に熱い声援と私への野次を飛ばしてくるが、それ以外特に何の問題もなかった。

 ただ、私が気になっているのは、慎悟が少し元気がないことだ。
 大方二階堂のお祖父さんとの食事会で、婚約話への色よい返事がもらえず、まだまだ認めてもらえないような言い方をされたから凹んでいるんだと思う。
 慎悟はMr.パーフェクトだが、その分裏で努力してきたのだ。努力してきたからその分成果を得られた。彼もそれが当然だと考えているようだ。
 だけど私との婚約話はどうにも進展がなく……前から焦っている様子はあったが、自信喪失しているようにも見えるのだ。

 とはいえ、慎悟がその事にやけくそになっているわけでもないし、私も一緒に頑張るといっている。慎悟1人に頑張らせるつもりはない。
 手始めに私はお祖父さんあてに手紙を書いた。今どき手紙か? とも思われるかもしれないが、電話やメールでこの気持ちを伝えるのは憚られるし、お祖父さんは忙しい立場なので呼び出したりは出来ない。
 手紙ならいつでも読めるし、返事を催促される感じはしないでしょう? 
 まずは自分に出来ることからである。
 手紙に何を書けばいいかちょっと迷ったけど、とりあえず慎悟のことを書いておいた。あ、流石にファビュラスの一言だけで片付けてないよ。
 家庭教師の井上さんに相談しながら、自分の思いを込めたお手紙をお祖父さんに送ったんだ。
 ちゃんと届いたかな。お祖母さんに燃やされていたらどうしようかなとちょっとだけ不安に思っている。

 宝生氏のことがなければこんなことにはならなかっただろうけど、婚約破棄しないと慎悟とこうしてお付き合いできなかったし、どっちにせよ避けられないことだったのかな。
 お祖父さんが何を考えているのかイマイチわからない。


■□■


「ボール取ってくるから、ネット張り頼む」
「わかった」

 バレー部なのでネット張りは任せてくれ。慎悟は1人で体育倉庫へボールを取りに向かった。
 その日も放課後は、3-3バレーチームメンバーがグラウンドに集結していた。各々体慣らしに準備運動をしていたが、慎悟がなかなか戻ってこない。
 校舎に埋め込まれた時計を見たが、恐らく5分以上は経過している。体育倉庫はそんなに遠くにあるわけじゃないのに、一体どうしたのだろうか。

「加納君遅いね。どうしたんだろう」
「様子見てくるよ」
 
 校内で迷ってるとかないよね。もう3年生だもの。慎悟がそんなドジっ子要素を持っているなんて知らないぞ。
 小走りで体育倉庫のある場所まで駆けていくと、そこには捜していた慎悟の姿があった。体育倉庫の中でバレーボールの入ったカゴに手を掛けていたが、彼は1人ではなかった。
 体育着姿の慎悟は、制服姿の女の子と一緒にいた。リボンタイの色は1年生の色で、エリカちゃんのこの体よりも小柄で、男が守ってあげたくなるようなふわふわした感じの可愛い女の子だった。彼女の潤んだ瞳は、慎悟に向かって熱く注がれていた。

「…もしも、彼女のことで悩んでいるなら、私が相談に乗りますよ?」

 今までどんな会話をしていたのかは知らないが、漏れ聞こえてきた女の子の言葉に私はピタリと足を止めて、とっさに身を隠した。
 別に堂々と出ていっても良かったけど、告白だったらなんか気まずいなと思ったので、様子見がてら2人のやり取りを静かに見守ることにしたのだ。
 
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