お嬢様なんて柄じゃない

スズキアカネ

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お許しあそばして。お嬢様なんて柄じゃございませんの。

ダメです、場所を考えて!

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 パーティ会場内のビュッフェコーナーには新たなデザートが追加されていた。そこにいた配膳の人に声をかけると、いろんなモノを少しずつ盛り付けてくれた。

「…慎悟、なんでさっき止めたの。私はあのオッサンに言い返したかったのに」

 お皿に小さなケーキがいくつか載せられている。配膳の人が盛り付けてくれたそれを差し出してきた慎悟に不満を訴えると、彼はムスッとした顔を返してきた。

「あんたは感情的になりすぎていただろ。あそこで短気起こされたら困るからだよ……それに俺もあの男には言いたいことがたくさんあったからな」

 慎悟はそう言ってなにもない方向を苛立たしげに睨みつけていた。
 だからって! 私はとってももやもやしているんだよ、あの場で口止めせずにガツンと言わせてくれても良かったじゃないのよ!

「それにあんたは十分やり返しただろ……ふふっ」

 慎悟は男なので、センシティブな髪の毛問題に関しては同情するかなと思っていたけど、そうでもなかった。むしろ思い出して笑っていた。…彼は、オッサンのカツラがふっ飛んだ瞬間をしっかり目撃していたらしい。

「カツラのことは仕方ないでしょ!? 私だってデリケートな部分に踏み込みたくなかったけど、あのオッサンがふざけた行動に出るから!」

 大体叩いただけで吹っ飛ぶのが悪いんだ! なんでペシーンと叩いただけで簡単に吹っ飛ぶんだよ。サイドの髪にピンで固定するタイプのカツラはなかったのか?
 私はフンフンと鼻息を荒くさせながらケーキをつついた。うん、美味しい!
 
「だけど笑さん、ああいう場合は逃げろ。あの男の前で逃げても失礼には当たらないから、呼び止められても逃げろ」

 慎悟のアドバイスに私はフォークを噛み締めた。
 今となってはそうすればよかったと思うけど、いざとなると反応しちゃうんだよ。敵前逃亡みたいでなんか……性に合わない。

「正々堂々と相手するのがあんたの性格だと知っているが……世の中善人ばかりじゃない。二階堂の娘だからこそ、利用してやろうって考えている輩もいるんだ」
「……肝に銘じる」

 足の引っ張り合いの世界だものね。どの世界でも人の足を引っ張って、上に登り詰めようとする人間が多数いるってことだ。ただでさえ二階堂エリカはセレブのお嬢様、しかも美少女ときた。羨望の的なだけでなく、妬まれ嫉まれる存在なのだ。
 …ずっと慎悟がそばにいてくれる訳でもないので、自分の身は自分で守るために立ち回り方を覚えねば。

「まずあんたは上杉をどううまく回避するか、だな」
「あのさ、あいつは人の常識の外に生きているの。私がどうこうって問題じゃないと思うな」

 慎悟が難題を突きつけてきた。
 エリカちゃんに憑依して以来、この数年間ずっと上杉を回避しようと努力してきたのよ。時に暴力、時に暴言。……普通の男なら、そこで「やばい女だ」と思って避けるはずなのに、あいつは余計に執着するんだ。
 だからといってソフトに接して、やんわり避けようにもあいつは寄ってくるに違いない。私の想定しないところに待ち構えているんだよ。大学部も同じ学部のようだし、接点が途切れないのがきつい。
 ……大体私のことを言うけど、慎悟だって人のこと言えないよ。

「慎悟だって女の手綱しっかり握っていないじゃないの。加納ガールズが過激派になったのは慎悟が放置していた結果でしょ!」
「人聞きの悪い…」
「じゃあなによ。最近巻き毛たちったら全く慎悟の言う事聞かなくなったじゃない」

 私だけが悪いみたいな言い方しないでほしい。私の指摘に慎悟は気まずそうな顔をしていた。

「…小・中の時は三浦が側にいたから静かだった。……笑さんが現れてから、あいつらはああなったんだよ」
「私のせいだって言いたいの?」
「そういう訳じゃない。俺の不手際だ。笑さんには申し訳ないと思ってる」

 慎悟が今加納ガールズの対処に手こずっているのは見ているからわかる。そして私に被害が向かうことを申し訳ないと感じているのもわかってる。
 私も慎悟に迷惑かけているからきついこと言えないけど、お互い様だよ。

「私だっていつも上杉から庇ってもらって有り難いと思っているよ。これでお互い様! これでこの話は終わり!」

 私はチョコレートケーキを一口分フォークに取ると、慎悟の口に突っ込んだ。それに慎悟は目を白黒させていたが、すぐにショートケーキをお返しされた。
 せっかく化粧直ししたのに、リップが落ちてしまったではないか。


■□■


 2度目の社交パーティも嫌な予感の通り、何かが起きてしまった。
 私は社交パーティとは縁がないのだろうか。そう、肝試しのようになにか事件が起きる星の下に生まれてしまったのであろうか……3度目の社交パーティでもなにか起きるのかな…やだなぁ。

 私が慎悟にそうぼやくと、たまたまだろ、タイミングが悪かっただけ。と言い切られた。
 だといいけど、3度目もなにかあったら私は心折れそうだよ……


「お気をつけてお帰りくださいね」

 帰り際には丸山さんがお見送りしてくれた。それと丸山さんのお父さん直々に謝罪をされた。招待客同士の事件だが、ホスト側として見過ごすわけには行かなかったのだろう。
 とりあえず瑞沢父の元へは“お礼”をしておくと言われたが……瑞沢嬢にまでなにか影響があるのは微妙な気分だなと思った。
 とはいえ、これは丸山家主催のパーティでの出来事。主催者が決めたことなので何も言わないけどさ。後々のリスクを考えてその判断をしたのかもしれない。
 


 帰りは行きと同様、加納家の車に乗って家まで送ってもらった。加納家の送迎用車は、何故かインターコムがある。すぐ目の前に運転手さんがいるのになんで電話、使ってるシーンは一度も見たことない。
 あー、しかし座り心地のいいシートですこと。シートに深々凭れると、眠くなりそうだ。昼間にエステされながらお昼寝をしたというのに、高級車というものはこうも眠気へと誘う…。

 手を傍らに放り出して眠気にぼんやりしていると、その手の上から手を重ねられた。それに反応して私が隣を見ると、慎悟の顔が目と鼻の先にあった。

「…んっ」

 声を出す前に唇を塞がれてしまった。
 念のためにもう一度言っておくが、ここは車の中だ。運転席では加納家の運転手さんが運転真っ最中。
 …なのに、なにをしているんだ!
 
 私は顔を反らしてキスを拒否した。
 駄目だぞ慎悟、節度をもたねばならん! 私達は婚約者同士になったけども、人様にラブシーンを見せるなんてそんなふしだらな真似は……ダメだって!
 唇と再び奪おうとする慎悟に小さな声で駄目だと叱ったけども、彼は不満そうな顔をするだけだ。言葉を紡げぬよう唇を塞がれる。

 ──グイーン…
 どこからか起動音が鳴り響き、私はその音源を探して顔を動かす。私の視界に入ってきたのは、色付きのガラスだ。……運転席と後部座席の間に色付きガラスの仕切りで視界を遮断されたのだ。
 ……こんなことってある? ていうかこの車にはそんな機能が搭載されていたの!?

 運転手さんに気を遣われてしまった…! 恥ずかしい!

「…後部確認はサイドミラーとナビで確認するから大丈夫」
「そういう問題じゃないよ!」
 
 慎悟は恥じらいのかけらもなく、先程よりも行動が大胆に変わった。私の頬を固定すると、強引にキスをしてきたのだ。
 彼の手が首筋をなぞり、上に羽織っているドレス用のコートの中に手を差し入れた。鎖骨から肩のラインを撫で擦る。指で肌の感触を楽しむかのように撫でられると、体の中が粟立つような感覚に襲われた。

 だが流されてはいけない。
 私は慎悟の胸板を押して、拒否の意を示す。駄目だ、こんな場所で、こんなふしだらな真似をするわけには…!

「婚約しただろ、…責任は喜んで取る」

 囁くようにして言われたその言葉に、私はカァッと身体が燃えるように熱くなった。
 確かに! 婚約するまではお預けと言ったけど、こんな急じゃなくて…!
 胸を触るな、太ももを撫でるな…なんていやらしい事をするんだこの青少年!! 馬鹿、馬鹿、馬鹿! なんでここでそんな真似をしてくるんだ!
 いくら私が脳筋のバレー馬鹿でも、理想くらいあるんだよ!
 
「初めてが車の中とか絶対に嫌!!」

 はしたない! はしたないぞ慎悟!!
 私は恥ずかしさ余って、慎悟のそのおきれいな顔にビンタをお見舞いした。バチーンと破裂音が車内に響き渡る。
 このガラス仕切りはどの程度音が遮断されるのであろうか。
 


 その後、片頬を赤く腫らした慎悟は不機嫌な顔で頬杖をつき、窓の外を睨みつけていた。対する私も膝の上で拳を握ってプンスカ怒っていた。
 私は悪くないぞ! 場所を考えろ!
 私は怒っているんだぞ慎悟、わかっているのか!

 しばしの無言のドライブの後、車がゆっくり停まるとインターコムが鳴り、運転手さんから冷静な声で『二階堂様のお宅前に到着いたしました』と連絡があった。
 きっと運転手さんは私と慎悟が如何わしい真似をしていたのだと誤解しているに違いない。否定したいけど、否定したらおかしな方向に話が流れそうだし、運転手さんにしてみたら婚約者同士だからおかしくないよねってあまり気にしていないかもしれないと……

 私一人が焦って慌てて恥ずかしがっているようでなんだか悔しかった。
 
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