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Day's Eye 森に捨てられたデイジー
私の花
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不思議な夢を見た。
私の頭を誰かが撫でる夢だ。その手は頬に降りてきて、カサカサの親指で私の頬を撫でる。それがむず痒くて振り払うのだが、今度は払った手を握られるのである。私よりも体温の高いそれは大きな手。
だけどすぐに私の意識は深いところに沈んでいく。まだまだ寝足りないのだ。身体が重くて、眠くて仕方がない。
眠り続ける私の手を握っている相手がなにか言っているような気がした。早く目覚めろ的ななにかを。
「──…」
私が目覚めたのは夜だった。起き抜けの頭がぼんやりする。いや、頭だけでなく体中こわばっている気がした。ゆっくり起き上がるとなんだか頭が痛い。……私はどうしていたっけ…
窓の外から月明かりが差してほのかに部屋を照らしている。私はそれをぼうっと見上げていた。
がちゃり、と扉の開く音が聞こえた。私が首を動かすと、そこにはハッとした顔をしたリック兄さんの姿。がぱっと開けられた大きなお口。それが間抜けに見えた。
「父さん母さんっ! デイジーが起きた!」
大げさじゃない? 私が起きたくらいで……あれから何時間経ったのかな。
「…私どのくらい寝てた?」
夕ご飯も食べずに寝てたから起こしに来たのだろうと思っていたのだが「馬鹿! お前3日ぶっ続けで寝てたんだよ!」と兄さんに怒られた。
…3日? …みっか……
私は衝撃を受けた。
貴重な長期休暇を寝て過ごすとは笑止千万。勉強に費やすと決めた時間を無駄に寝ていた自分を恥じた。ていうか落ち込んだ。
だけど家族にとってはそれ以前の問題らしく、私が死んでしまうんじゃないかってこの3日間不安でたまらなかったのだと怒られてしまった。
「頼むから心配掛けさせんな」
お父さんが私の頭を優しく撫でる。私は小さく「ごめんなさい」と謝った。
町の人間専門のお医者さんを村まで呼んで診てもらったところ、私の症状が魔力の使いすぎによる衰弱、昏睡状態であると診断したそうだ。子どものうちに無理な酷使をさせないように注意されたらしい。寝てれば自然と回復するとは言われたそうだけど、起きなきゃ水分も食事も摂れない。お母さんがちまちま果実水を私の口元に運んでくれていたとか。
どんな呼びかけにも私は反応せずに寝続けていたので、死んでしまうんじゃないかと恐ろしくてたまらなかったと言う。
「お前くらいの年齢の魔力持ちの子どもは自分の力を過信して衰弱することがあるんだと。ミアを助けたかったのはわかるが、お前が倒れたら元も子もないだろ? 反省するんだぞ」
私は温めたヤギミルクをちびちび飲みながら説教を黙って聞き入れた。
私はまだ魔力に目覚めたばかりだ。身体も成長しきっていない。だから魔力の使い方が下手くそなのだ。──死にはしない、ただ身体に多大な負担が来るだけ。…私が未熟なだけなのだ。
……もっと力が欲しいな。人ひとり転送術で運んでも平気になればいいのに。
「ほら、それ飲んだら寝なさい」
「お風呂に入りたい」
「明日にしなさい」
寝まくったので起きていたいのだが、お母さんは寝ろと言う。私を布団に寝かしつけて首の下まで布団を引き上げると、ポンポンと寝かしつけをする。私はもうそんな小さな子どもじゃないのに…
「近所の人も心配してるのよ、沢山お見舞い品頂いちゃってね。明日果物剥いてあげるからね」
「眠くない…」
「わがまま言わないで寝なさい」
そんな事言われても眠くない……
両親とリック兄さんは安心した様子で私の部屋を出ていく。私は布団に入ったまま天井をぼうっと見上げていた。
…勉強したら怒られるよな流石に。
私は何かをすることを諦めて天井をぼうっと見上げた。月明かりが漏れ入る部屋の中は静かで、外で虫の鳴く音が聞こえてくる。私はその音に耳を傾けながら考えていた。
そういえばあのガマガエル成金どうなったんだろ。私が証言せずとも警らの人に話を付けられたのであろうか。
ミアはもう大丈夫かな。
あぁそれと…予約受付したお客さんに薬作って届けなきゃ。もうすぐ学校が始まるから、予習もちゃんとしなきゃ……
やることがたくさんありすぎる。
なのだが寝すぎた私の頭はぼんやりとするだけで、全然眠くなかったはずなのに再び睡魔が襲ってきた。
眠くないんだけどなぁ…と思っていたのに、私はいつの間にか寝ていた。
■□■
翌日、私は普段自分が起きている時間前に目覚めた。お風呂に入りたくて仕方がなかったので、魔法で湯船に水を貯めて火の元素を使って温めていると、お母さんが後ろで心配そうにチラチラ様子を見に来ていた。
心配掛けさせたのは申し訳ないけど、もう大丈夫だって言ってるのに。
お風呂から上がってさっぱりした後は果物盛りあわせとスープとパンの朝食をいただく。これ全部村の人からのお見舞い品らしい。朝起きたら玄関の外にお供え物のように置かれているらしいのだが、どこかの遠い国の昔話みたい。
みずみずしい果実にフォークを突き刺してパクリと口に入れる。酸っぱいけど食べやすい。
「あぁそうだ、デイジーには話しておいたほうがいいかもしれないから話しておくな」
そう言ってお父さんはこの間の拉致事件のその後の話を教えてくれた。
私が土と草の魔法で拘束したガマガエル成金はあの後見張りを置いて一晩放置した後、朝イチで町の警ら隊に突き出したそうだ。
それでそこから捜査が入り、屋敷から見つかったのが違法薬物。叩けばホコリが出るかもしれないってことでいろいろ調べていたら出てくる仄暗い証拠の数々。
人身売買、婦女暴行、そして市場商品の不正取引など。
前の二件については以前から注視されていたそうだが、不正取引については新たにわかったことのようだ。
不正取引に関わったものは多岐にわたるが、気になるのが薬草を裏ルートで入手してどこかへと売り払っていた。という情報。裏取引の量が多すぎるらしい。恐らくそれが原因でここ最近材料費が値上がりしていたのだと思われる。
送り先がどこかは不明、現在調査中だという。いろんな余罪が出てきて、大きな事件になったので、国の偉い人もやってきて関連を調べてるそうだ。
あのおっさんから薬の原料の不正取引という言葉が連想できない。どう見ても不健康で、薬にも全く興味なさそうなのに。
流行風邪が流行る冬ならまだしも、夏のこの時期に大量に不正転売する必要なんかあるか? …一体どこに薬草を送ってたんだ?
考えたけど私には分からなかった。私はただの学生だ。魔法が使えてもそこまでは探れないのだ。
それ以上考え込むのは無駄だ、よそう。
これで薬の材料の卸値も安定するだろう。…薬といえば予約受付していた薬を作らなきゃ。
その翌日には町へ薬を売りに行った。売ったらすぐに帰ると約束したんだけど、心配性のお母さんは代わりにお父さんや兄さんに売りに行かせたら? と最後まで渋っていて説得するのが大変だった。
「きつくなったらすぐに言うんだぞ?」
「もう大丈夫、十分回復したから!」
リック兄さんがお目付け役として一緒に出向き、警らのジムおじさんに挨拶していつものように書類を書いた後にお店を開く。
お店を開く前から薬の購入希望者が押し寄せてきた。今回の薬はリック兄さんに手伝ってもらって(主に力仕事)気持ち多めに作ってきたけど、これはすぐに売りきれてしまうかもしれないな…
予約している人に薬を販売する係を兄さんに任せて、私は新規のお客さんをさばいていく。ありがたいことに注文したいという声がかかったが、私はもうすぐ学校が始まるため難しそうだ。
「すみません、来週から王都の学校に行くので次の注文は受けられないんです、ごめんなさい」
売れたらいい儲けになるんですけどね。王都からじゃ難しい。私は勉強しなきゃいけないし。
心の奥底で残念がっていると、目の前にパッと白と黄の花が現れた。
「あげる!」
その子は薬販売初日に目の前でずっこけた男の子だった。彼の斜め後ろにはお母さんと赤ちゃんがおり、どうやらお礼に来てくれたらしい。
「僕の怪我治してくれてありがとう」
偶然なのだろう、その花はデイジーの花だった。太陽の目と呼ばれるその名は捨てられていた私の始まりの花だ。
私の顔が自然と緩んだ。
「…ありがとう」
花を受け取ると、男の子は照れくさそうに笑っていた。
小さなことだけど、こうして人に感謝されるとやっぱり気持ちがいい。
薬作っててよかったな。
私の頭を誰かが撫でる夢だ。その手は頬に降りてきて、カサカサの親指で私の頬を撫でる。それがむず痒くて振り払うのだが、今度は払った手を握られるのである。私よりも体温の高いそれは大きな手。
だけどすぐに私の意識は深いところに沈んでいく。まだまだ寝足りないのだ。身体が重くて、眠くて仕方がない。
眠り続ける私の手を握っている相手がなにか言っているような気がした。早く目覚めろ的ななにかを。
「──…」
私が目覚めたのは夜だった。起き抜けの頭がぼんやりする。いや、頭だけでなく体中こわばっている気がした。ゆっくり起き上がるとなんだか頭が痛い。……私はどうしていたっけ…
窓の外から月明かりが差してほのかに部屋を照らしている。私はそれをぼうっと見上げていた。
がちゃり、と扉の開く音が聞こえた。私が首を動かすと、そこにはハッとした顔をしたリック兄さんの姿。がぱっと開けられた大きなお口。それが間抜けに見えた。
「父さん母さんっ! デイジーが起きた!」
大げさじゃない? 私が起きたくらいで……あれから何時間経ったのかな。
「…私どのくらい寝てた?」
夕ご飯も食べずに寝てたから起こしに来たのだろうと思っていたのだが「馬鹿! お前3日ぶっ続けで寝てたんだよ!」と兄さんに怒られた。
…3日? …みっか……
私は衝撃を受けた。
貴重な長期休暇を寝て過ごすとは笑止千万。勉強に費やすと決めた時間を無駄に寝ていた自分を恥じた。ていうか落ち込んだ。
だけど家族にとってはそれ以前の問題らしく、私が死んでしまうんじゃないかってこの3日間不安でたまらなかったのだと怒られてしまった。
「頼むから心配掛けさせんな」
お父さんが私の頭を優しく撫でる。私は小さく「ごめんなさい」と謝った。
町の人間専門のお医者さんを村まで呼んで診てもらったところ、私の症状が魔力の使いすぎによる衰弱、昏睡状態であると診断したそうだ。子どものうちに無理な酷使をさせないように注意されたらしい。寝てれば自然と回復するとは言われたそうだけど、起きなきゃ水分も食事も摂れない。お母さんがちまちま果実水を私の口元に運んでくれていたとか。
どんな呼びかけにも私は反応せずに寝続けていたので、死んでしまうんじゃないかと恐ろしくてたまらなかったと言う。
「お前くらいの年齢の魔力持ちの子どもは自分の力を過信して衰弱することがあるんだと。ミアを助けたかったのはわかるが、お前が倒れたら元も子もないだろ? 反省するんだぞ」
私は温めたヤギミルクをちびちび飲みながら説教を黙って聞き入れた。
私はまだ魔力に目覚めたばかりだ。身体も成長しきっていない。だから魔力の使い方が下手くそなのだ。──死にはしない、ただ身体に多大な負担が来るだけ。…私が未熟なだけなのだ。
……もっと力が欲しいな。人ひとり転送術で運んでも平気になればいいのに。
「ほら、それ飲んだら寝なさい」
「お風呂に入りたい」
「明日にしなさい」
寝まくったので起きていたいのだが、お母さんは寝ろと言う。私を布団に寝かしつけて首の下まで布団を引き上げると、ポンポンと寝かしつけをする。私はもうそんな小さな子どもじゃないのに…
「近所の人も心配してるのよ、沢山お見舞い品頂いちゃってね。明日果物剥いてあげるからね」
「眠くない…」
「わがまま言わないで寝なさい」
そんな事言われても眠くない……
両親とリック兄さんは安心した様子で私の部屋を出ていく。私は布団に入ったまま天井をぼうっと見上げていた。
…勉強したら怒られるよな流石に。
私は何かをすることを諦めて天井をぼうっと見上げた。月明かりが漏れ入る部屋の中は静かで、外で虫の鳴く音が聞こえてくる。私はその音に耳を傾けながら考えていた。
そういえばあのガマガエル成金どうなったんだろ。私が証言せずとも警らの人に話を付けられたのであろうか。
ミアはもう大丈夫かな。
あぁそれと…予約受付したお客さんに薬作って届けなきゃ。もうすぐ学校が始まるから、予習もちゃんとしなきゃ……
やることがたくさんありすぎる。
なのだが寝すぎた私の頭はぼんやりとするだけで、全然眠くなかったはずなのに再び睡魔が襲ってきた。
眠くないんだけどなぁ…と思っていたのに、私はいつの間にか寝ていた。
■□■
翌日、私は普段自分が起きている時間前に目覚めた。お風呂に入りたくて仕方がなかったので、魔法で湯船に水を貯めて火の元素を使って温めていると、お母さんが後ろで心配そうにチラチラ様子を見に来ていた。
心配掛けさせたのは申し訳ないけど、もう大丈夫だって言ってるのに。
お風呂から上がってさっぱりした後は果物盛りあわせとスープとパンの朝食をいただく。これ全部村の人からのお見舞い品らしい。朝起きたら玄関の外にお供え物のように置かれているらしいのだが、どこかの遠い国の昔話みたい。
みずみずしい果実にフォークを突き刺してパクリと口に入れる。酸っぱいけど食べやすい。
「あぁそうだ、デイジーには話しておいたほうがいいかもしれないから話しておくな」
そう言ってお父さんはこの間の拉致事件のその後の話を教えてくれた。
私が土と草の魔法で拘束したガマガエル成金はあの後見張りを置いて一晩放置した後、朝イチで町の警ら隊に突き出したそうだ。
それでそこから捜査が入り、屋敷から見つかったのが違法薬物。叩けばホコリが出るかもしれないってことでいろいろ調べていたら出てくる仄暗い証拠の数々。
人身売買、婦女暴行、そして市場商品の不正取引など。
前の二件については以前から注視されていたそうだが、不正取引については新たにわかったことのようだ。
不正取引に関わったものは多岐にわたるが、気になるのが薬草を裏ルートで入手してどこかへと売り払っていた。という情報。裏取引の量が多すぎるらしい。恐らくそれが原因でここ最近材料費が値上がりしていたのだと思われる。
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あのおっさんから薬の原料の不正取引という言葉が連想できない。どう見ても不健康で、薬にも全く興味なさそうなのに。
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それ以上考え込むのは無駄だ、よそう。
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予約している人に薬を販売する係を兄さんに任せて、私は新規のお客さんをさばいていく。ありがたいことに注文したいという声がかかったが、私はもうすぐ学校が始まるため難しそうだ。
「すみません、来週から王都の学校に行くので次の注文は受けられないんです、ごめんなさい」
売れたらいい儲けになるんですけどね。王都からじゃ難しい。私は勉強しなきゃいけないし。
心の奥底で残念がっていると、目の前にパッと白と黄の花が現れた。
「あげる!」
その子は薬販売初日に目の前でずっこけた男の子だった。彼の斜め後ろにはお母さんと赤ちゃんがおり、どうやらお礼に来てくれたらしい。
「僕の怪我治してくれてありがとう」
偶然なのだろう、その花はデイジーの花だった。太陽の目と呼ばれるその名は捨てられていた私の始まりの花だ。
私の顔が自然と緩んだ。
「…ありがとう」
花を受け取ると、男の子は照れくさそうに笑っていた。
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