太陽のデイジー 〜私、組織に縛られない魔術師を目指してるので。〜

スズキアカネ

文字の大きさ
22 / 209
Day's Eye 森に捨てられたデイジー

私の花

しおりを挟む
 不思議な夢を見た。
 私の頭を誰かが撫でる夢だ。その手は頬に降りてきて、カサカサの親指で私の頬を撫でる。それがむず痒くて振り払うのだが、今度は払った手を握られるのである。私よりも体温の高いそれは大きな手。
 だけどすぐに私の意識は深いところに沈んでいく。まだまだ寝足りないのだ。身体が重くて、眠くて仕方がない。
 眠り続ける私の手を握っている相手がなにか言っているような気がした。早く目覚めろ的ななにかを。


「──…」

 私が目覚めたのは夜だった。起き抜けの頭がぼんやりする。いや、頭だけでなく体中こわばっている気がした。ゆっくり起き上がるとなんだか頭が痛い。……私はどうしていたっけ…
 窓の外から月明かりが差してほのかに部屋を照らしている。私はそれをぼうっと見上げていた。

 がちゃり、と扉の開く音が聞こえた。私が首を動かすと、そこにはハッとした顔をしたリック兄さんの姿。がぱっと開けられた大きなお口。それが間抜けに見えた。

「父さん母さんっ! デイジーが起きた!」

 大げさじゃない? 私が起きたくらいで……あれから何時間経ったのかな。

「…私どのくらい寝てた?」

 夕ご飯も食べずに寝てたから起こしに来たのだろうと思っていたのだが「馬鹿! お前3日ぶっ続けで寝てたんだよ!」と兄さんに怒られた。
 …3日? …みっか……
 私は衝撃を受けた。
 貴重な長期休暇を寝て過ごすとは笑止千万。勉強に費やすと決めた時間を無駄に寝ていた自分を恥じた。ていうか落ち込んだ。
 だけど家族にとってはそれ以前の問題らしく、私が死んでしまうんじゃないかってこの3日間不安でたまらなかったのだと怒られてしまった。

「頼むから心配掛けさせんな」

 お父さんが私の頭を優しく撫でる。私は小さく「ごめんなさい」と謝った。
 町の人間専門のお医者さんを村まで呼んで診てもらったところ、私の症状が魔力の使いすぎによる衰弱、昏睡状態であると診断したそうだ。子どものうちに無理な酷使をさせないように注意されたらしい。寝てれば自然と回復するとは言われたそうだけど、起きなきゃ水分も食事も摂れない。お母さんがちまちま果実水を私の口元に運んでくれていたとか。
 どんな呼びかけにも私は反応せずに寝続けていたので、死んでしまうんじゃないかと恐ろしくてたまらなかったと言う。

「お前くらいの年齢の魔力持ちの子どもは自分の力を過信して衰弱することがあるんだと。ミアを助けたかったのはわかるが、お前が倒れたら元も子もないだろ? 反省するんだぞ」

 私は温めたヤギミルクをちびちび飲みながら説教を黙って聞き入れた。
 私はまだ魔力に目覚めたばかりだ。身体も成長しきっていない。だから魔力の使い方が下手くそなのだ。──死にはしない、ただ身体に多大な負担が来るだけ。…私が未熟なだけなのだ。

 ……もっと力が欲しいな。人ひとり転送術で運んでも平気になればいいのに。

「ほら、それ飲んだら寝なさい」
「お風呂に入りたい」
「明日にしなさい」

 寝まくったので起きていたいのだが、お母さんは寝ろと言う。私を布団に寝かしつけて首の下まで布団を引き上げると、ポンポンと寝かしつけをする。私はもうそんな小さな子どもじゃないのに…

「近所の人も心配してるのよ、沢山お見舞い品頂いちゃってね。明日果物剥いてあげるからね」
「眠くない…」
「わがまま言わないで寝なさい」

 そんな事言われても眠くない……
 両親とリック兄さんは安心した様子で私の部屋を出ていく。私は布団に入ったまま天井をぼうっと見上げていた。

 …勉強したら怒られるよな流石に。
 私は何かをすることを諦めて天井をぼうっと見上げた。月明かりが漏れ入る部屋の中は静かで、外で虫の鳴く音が聞こえてくる。私はその音に耳を傾けながら考えていた。
 そういえばあのガマガエル成金どうなったんだろ。私が証言せずとも警らの人に話を付けられたのであろうか。
 ミアはもう大丈夫かな。
 あぁそれと…予約受付したお客さんに薬作って届けなきゃ。もうすぐ学校が始まるから、予習もちゃんとしなきゃ……

 やることがたくさんありすぎる。
 なのだが寝すぎた私の頭はぼんやりとするだけで、全然眠くなかったはずなのに再び睡魔が襲ってきた。
 眠くないんだけどなぁ…と思っていたのに、私はいつの間にか寝ていた。


■□■


 翌日、私は普段自分が起きている時間前に目覚めた。お風呂に入りたくて仕方がなかったので、魔法で湯船に水を貯めて火の元素を使って温めていると、お母さんが後ろで心配そうにチラチラ様子を見に来ていた。
 心配掛けさせたのは申し訳ないけど、もう大丈夫だって言ってるのに。

 お風呂から上がってさっぱりした後は果物盛りあわせとスープとパンの朝食をいただく。これ全部村の人からのお見舞い品らしい。朝起きたら玄関の外にお供え物のように置かれているらしいのだが、どこかの遠い国の昔話みたい。
 みずみずしい果実にフォークを突き刺してパクリと口に入れる。酸っぱいけど食べやすい。

「あぁそうだ、デイジーには話しておいたほうがいいかもしれないから話しておくな」

 そう言ってお父さんはこの間の拉致事件のその後の話を教えてくれた。
 私が土と草の魔法で拘束したガマガエル成金はあの後見張りを置いて一晩放置した後、朝イチで町の警ら隊に突き出したそうだ。
 それでそこから捜査が入り、屋敷から見つかったのが違法薬物。叩けばホコリが出るかもしれないってことでいろいろ調べていたら出てくる仄暗い証拠の数々。
 人身売買、婦女暴行、そして市場商品の不正取引など。
 前の二件については以前から注視されていたそうだが、不正取引については新たにわかったことのようだ。

 不正取引に関わったものは多岐にわたるが、気になるのが薬草を裏ルートで入手してどこかへと売り払っていた。という情報。裏取引の量が多すぎるらしい。恐らくそれが原因でここ最近材料費が値上がりしていたのだと思われる。
 送り先がどこかは不明、現在調査中だという。いろんな余罪が出てきて、大きな事件になったので、国の偉い人もやってきて関連を調べてるそうだ。
 あのおっさんから薬の原料の不正取引という言葉が連想できない。どう見ても不健康で、薬にも全く興味なさそうなのに。
 流行風邪が流行る冬ならまだしも、夏のこの時期に大量に不正転売する必要なんかあるか? …一体どこに薬草を送ってたんだ?

 考えたけど私には分からなかった。私はただの学生だ。魔法が使えてもそこまでは探れないのだ。
 それ以上考え込むのは無駄だ、よそう。
 これで薬の材料の卸値も安定するだろう。…薬といえば予約受付していた薬を作らなきゃ。


 その翌日には町へ薬を売りに行った。売ったらすぐに帰ると約束したんだけど、心配性のお母さんは代わりにお父さんや兄さんに売りに行かせたら? と最後まで渋っていて説得するのが大変だった。

「きつくなったらすぐに言うんだぞ?」
「もう大丈夫、十分回復したから!」

 リック兄さんがお目付け役として一緒に出向き、警らのジムおじさんに挨拶していつものように書類を書いた後にお店を開く。
 お店を開く前から薬の購入希望者が押し寄せてきた。今回の薬はリック兄さんに手伝ってもらって(主に力仕事)気持ち多めに作ってきたけど、これはすぐに売りきれてしまうかもしれないな…

 予約している人に薬を販売する係を兄さんに任せて、私は新規のお客さんをさばいていく。ありがたいことに注文したいという声がかかったが、私はもうすぐ学校が始まるため難しそうだ。

「すみません、来週から王都の学校に行くので次の注文は受けられないんです、ごめんなさい」

 売れたらいい儲けになるんですけどね。王都からじゃ難しい。私は勉強しなきゃいけないし。
 心の奥底で残念がっていると、目の前にパッと白と黄の花が現れた。

「あげる!」

 その子は薬販売初日に目の前でずっこけた男の子だった。彼の斜め後ろにはお母さんと赤ちゃんがおり、どうやらお礼に来てくれたらしい。

「僕の怪我治してくれてありがとう」

 偶然なのだろう、その花はデイジーの花だった。太陽の目と呼ばれるその名は捨てられていた私の始まりの花だ。
 私の顔が自然と緩んだ。

「…ありがとう」

 花を受け取ると、男の子は照れくさそうに笑っていた。
 小さなことだけど、こうして人に感謝されるとやっぱり気持ちがいい。
 薬作っててよかったな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完結】身代わり皇妃は処刑を逃れたい

マロン株式
恋愛
「おまえは前提条件が悪すぎる。皇妃になる前に、離縁してくれ。」 新婚初夜に皇太子に告げられた言葉。 1度目の人生で聖女を害した罪により皇妃となった妹が処刑された。 2度目の人生は妹の代わりに私が皇妃候補として王宮へ行く事になった。 そんな中での離縁の申し出に喜ぶテリアだったがー… 別サイトにて、コミックアラカルト漫画原作大賞最終候補28作品ノミネート

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

【完結】シュゼットのはなし

ここ
恋愛
子猫(獣人)のシュゼットは王子を守るため、かわりに竜の呪いを受けた。 顔に大きな傷ができてしまう。 当然責任をとって妃のひとりになるはずだったのだが‥。

愚かな側妃と言われたので、我慢することをやめます

天宮有
恋愛
私アリザは平民から側妃となり、国王ルグドに利用されていた。 王妃のシェムを愛しているルグドは、私を酷使する。 影で城の人達から「愚かな側妃」と蔑まれていることを知り、全てがどうでもよくなっていた。 私は我慢することをやめてルグドを助けず、愚かな側妃として生きます。

処理中です...