リナリアの幻想〜動物の心はわかるけど、君の心はわからない〜

スズキアカネ

文字の大きさ
111 / 137
断ち切れぬ想い

親友たちとの再会

しおりを挟む
「リナリアー!」

 満面の笑みで抱きついてきた彼女は大人になったように見えて、あの頃と全く変わらなかった。

「心配していたけど元気そうでよかったわ」

 そして普段は感情の機微があまりわからない彼女もあの頃と変わらない態度で接してくれた。
 私は2人を騙した形で失踪したのに、再会をこんなに喜んでくれるとは思わなかった。

 今日は私の無事を知ったイルゼとニーナが遊びに来てくれた。
 私が発見された直後に2人にはルーカスから連絡が行っていたそうなのだが、途中ドロテアさんによる事件に巻き込まれたので私の近辺が落ち着くまではそっとしておいてくれたらしい。

「妊娠して困っていたのなら私を頼ってくれてもよかったのに。本当に心配したのよ。あなたってば完璧に隠してしまうのだもの」
「迷惑かけちゃうと思って」

 今思えば、2人を頼っても良かったかもしれないとも思っている。
 ただ、あの頃の私はお腹の中にいたフェリクスを守ることに必死で、周りの人を信用できなかった。誰かひとりに知られたら全員に秘密がバレると思って怖かった。なので誰にもバレずに姿を隠すことだけを考えていたんだ。

「大巫女様に保護されていたのなら見つからないはずだわ。あのお方は口が硬くいらっしゃるから」

 捜索依頼が出ている行方不明者を発見した場合は、発見者が通報しなきゃいけないのだが、大巫女様に限ってはそれに縛られない。
 彼女のもとには訳アリの人が救いを求めてくる。身柄を親族のもとへ帰してしまったら命の危険があるような人もいるのだ。大巫女様はそんな人達を保護して隠してくださっているのだ。
 もちろん、帰してもなんら問題なさそうな人であれば大巫女様も報告するそうだけどね。例えば親と喧嘩して勢いで家出してきただけの子どもとかは問答無用で帰されてる。

「それはそうと、クライネルト君のことは全快した暁に殴りに行くわね!」

 なにかを思い出したイルゼがぐっと拳を握って私に宣言してきた。
 なんと彼女は、回復して問題がなくなったらルーカスを襲撃しに行くつもりらしい。

「いや、そんな事しなくていいよ…大丈夫、気持ちだけで」

 怒ってくれる気持ちはありがたいが、あの件に関してはすれ違いもあったことだし、ルーカスは十分制裁を受けた。もう彼が殴られている姿を見たくない…

「イルゼは魔術師なのよね?」
「そうよ?」
「てっきり格闘技家にでもなるのかと思ったわ」

 相変わらず魔法より拳で戦おうとするイルゼを見たニーナは呆れを隠さなかった。
 現在は社会人として魔法魔術省でお仕事しているふたりだけど、別々の地で働いているので学生の時のようには会えていないらしい。だけど3人揃うとあの頃に戻ったみたいで懐かしくなる。

「ふやっ」

 傍らに置いていたベビーソファで微睡んでいたフェリクスがぐずったと思って顔を見ると寝ている。どうやら寝言だったらしい。
 むにゃむにゃと口元を動かすその仕草が可愛くて私は自然と笑顔になっていた。

「かわいい、クライネルト君に似てるね」

 イルゼは先程より声小さめに話しかけてきた。フェリクスを起こさないように配慮してくれたのだろう。

「大巫女様の元にいたとはいえ、ほぼ自活していたんでしょ? よく1人で頑張ったね」
「支えてくれた人達がいるから。この子の面倒を見てくれて……私は1人じゃなかったのよ」

 もちろん孤独を感じたこともある。
 自分の判断で失踪したくせに、後悔したこともあるし、こんな時この人がいたらって寂しくなって、会いたくなったこともある。
 それでもなんとか頑張れたのはたどり着いた地で優しい人達に出会えたからだ。

「いい人達に出会えたのね」

 ニーナが確認するように聞いてきたので、私は笑顔で頷いた。
 私の立てた失踪計画は曖昧で、いきあたりばったりだった。初っ端から王都では危うく人売りにさらわれそうになったけど、あそこで転送術を使って緊急回避をしなければ、優しい人達とは出会えなかったかもしれない。

「あーっ見てみて、指を握ったわ! ちっちゃい!」
「イルゼ、起こしてしまうからもう少し声を潜めて」

 フェリクスに指を握られて感激するイルゼをニーナが窘めている。
 口を抑えて「ごめーん」と焦るイルゼも、さっきからずっと呆れているニーナも前と変わらない態度で接してくれる。私はそれにホッとしていた。親友たちに自分の大切な子と会わせることができて嬉しい。

「あ、そうだリナリア、昨日発売の新聞は読んだ?」
「……読んでない。事実と捏造が交えた記事が載っていたんでしょ、どうせ」

 ルーカスが読んでいた新聞を目にしてから、あの類のものを避けている。
 私は誰とも結婚しないのに、近所の人から「結婚おめでとう、いつ頃嫁ぐの?」と声をかけられる私の身にもなって欲しい。
 
「じゃああの人が釈放されたという情報は知らないの?」

 眉間にシワを寄せたニーナの言葉に私は軽く顔をしかめた。

「…知ってるよ、ルーカスから連絡貰ったから」

 ドロテアさんが釈放されたという話は彼から事前に聞かされた。
 本来であれば殺人未遂で裁判を受けて、有罪となり刑を執行されるはずなのに、彼女は貴族の権力と金の力でそれら全てを免れた。

 当初は私とフェリクスを殺そうとしたが、結果的にルーカスを傷つけて殺しかけた。それなのに罪を償う気がないらしい。
 あんなにも愛していると言って憚らなかった男性を殺しかけたのにも関わらずだ。

 そんな彼女の態度にクライネルト一家はもちろんお怒りだ。
 ドロテアさんの父親であるフロイデンタール侯爵が家の門の前まで謝罪に来ていたらしいが、クラウスさんたちはそれを拒否して「金輪際ルーカスに近づかないでくれ」と突っぱねたそうだ。

 その流れで親交のあった貴族らもフロイデンタール家と距離を置くようになっている状況なのだとか。…打算で動く貴族らしいっちゃらしいけど。

「…あの人、結婚するんですって。この事は知ってる?」

 ドロテアさんがよその貴族男性と結婚することになったという一面記事を見せられて、私は首を横に振る。その事は聞いていなかった。

 ニーナから例の新聞を手渡され、ざっと内容を確認する。
 結婚相手はグラナーダの貴族らしい。シュバルツだと肩身が狭いから隣国へ逃げるのだろうと遠回しな表現で記事には書かれていた。

 実際のところはどうなんだろう。彼女のことはルーカスやクライネルト夫妻に気軽に聞けることでもないし、もう関わらないほうがいいだろうから、やぶ蛇をつつかないほうがいいのかもしれない。

「罪を償わずに逃げるのね。いいご身分だこと」

 ここにはいないドロテアさんに腹を立てているのか、ニーナが嫌悪感を隠さずに呟く。

「本当よ、反省した様子がないようね。リナリアには一切謝罪がないんでしょう?」

 フンッと鼻を鳴らして不満を訴えるイルゼの問いかけに私は苦笑いしてしまった。

「それは元々期待していないから。……私が妊娠して行方をくらましたのはドロテアさんに知られたらただじゃ済まないとわかっていたのが1番なの……もう関わりたくないわ」

 あそこまで憎まれたら、ドロテアさんの謝罪よりも2度と会いたくない気持ちのほうが大きい。それに、彼女から心からの謝罪の言葉をもらえるとは思えない。きっと彼女は今でも私を責めていることだろうから。

 今度会えば次こそ殺されてしまうかもしれない。
 そしてそうなっても、貴族だから金を積んで大目に見られるんだと思う。そう、今回のように。
 影響力を持った旧家出身のルーカスが被害に遭ってもそうだったのだもの。平民の私が被害にあっても、きっとすぐに闇に葬られるだけ。

 それなら関わらないのが無難なのである。

 世の中は不公平でできている。
 私のような平民はどうあがいても貴族に敵わないのだとそんなことをふと思った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

時間を止めて ~忘れられない元カレは完璧な容姿と天性の才能を持つ世界一残酷な人でした 【完結】

remo
恋愛
どんなに好きになっても、彼は絶対に私を愛さない。 佐倉ここ。 玩具メーカーで働く24歳のOL。 鬼上司・高野雅(がく)に叱責されながら仕事に奔走する中、忘れられない元カレ・常盤千晃(ちあき)に再会。 完璧な容姿と天性の才能を持つ世界一残酷な彼には、悲しい秘密があった。 【完結】ありがとうございました‼

猫になった悪女 ~元夫が溺愛してくるなんて想定外~

黒猫子猫
恋愛
ディアナは欲深く、夫にも結婚を強いた悪女として知られた女王だ。当然のように人々から嫌われ、夫婦仲は悪く、病に倒れた時も誰も哀しまなかった。ディアナは、それで良かった。余命宣告を受け、自分の幸せを追い求める事などとうに止めた。祖国のためにできる事は全てやった。思うままに生きたから、人生をやり直せると言われても、人間などまっぴらごめんだ。 そして、《猫》になった。日向でのんびりと寝ている姿が羨ましかったからだ。いざ、自堕落な生活をしようと思ったら、元夫に拾われてしまった。しかも、自分が死んで、解放されたはずの彼の様子が妙だ。 あなた、隙あらば撫でようとするの、止めてくれる? 私達は白い結婚だったでしょう。 あなた、再婚する気がないの? 「お前を愛したりしない」って嬉しい事を言ってくれたのは誰よ! 猫になった孤高の女王×妻を失って初めて色々気づいてしまった王配の恋のお話。 ※全30話です。

お兄ちゃんは、ヒロイン様のモノ!!……だよね?

夕立悠理
恋愛
もうすぐ高校一年生になる朱里には、大好きな人がいる。義兄の小鳥遊優(たかなしゆう)だ。優くん、優くん、と呼んで、いつも後ろをついて回っていた。  けれど、楽しみにしていた高校に入学する日、思い出す。ここは、前世ではまっていた少女漫画の世界だと。ヒーローは、もちろん、かっこよくて、スポーツ万能な優。ヒロインは、朱里と同じく新入生だ。朱里は、二人の仲を邪魔する悪役だった。  思い出したのをきっかけに、朱里は優を好きでいるのをやめた。優くん呼びは、封印し、お兄ちゃんに。中学では一緒だった登下校も別々だ。だって、だって、愛しの「お兄ちゃん」は、ヒロイン様のものだから。  ──それなのに。お兄ちゃん、ちょっと、距離近くない……? ※お兄ちゃんは、彼氏様!!……だよね? は二人がいちゃついてるだけです。

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜

瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。 まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。 息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。 あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。 夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで…… 夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。

一途な皇帝は心を閉ざした令嬢を望む

浅海 景
恋愛
幼い頃からの婚約者であった王太子より婚約解消を告げられたシャーロット。傷心の最中に心無い言葉を聞き、信じていたものが全て偽りだったと思い込み、絶望のあまり心を閉ざしてしまう。そんな中、帝国から皇帝との縁談がもたらされ、侯爵令嬢としての責任を果たすべく承諾する。 「もう誰も信じない。私はただ責務を果たすだけ」 一方、皇帝はシャーロットを愛していると告げると、言葉通りに溺愛してきてシャーロットの心を揺らす。 傷つくことに怯えて心を閉ざす令嬢と一途に想い続ける青年皇帝の物語

【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜

椿かもめ
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。 【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】 ☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆ ※ベリーズカフェでも掲載中 ※推敲、校正前のものです。ご注意下さい

処理中です...