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第一部 第四章 夢の灯火─揺らぐ灯火、残るは残火編─

崩壊 3

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「ま、待て霧野郎!! まだジェシカとヨーコが!!」
(誰だそれは!?)
「あ、あそこだ! あそこにいるんだ!!」

 ノヒンが指差した先──次元の裂け目がビキビキと広がり、魔素が溢れ出している。

(馬鹿か貴様!? あそこは次元崩壊の爆心地だ!!)
「離せっ!! 離しやがれっ!! くそっ! くそっ!! ジェシカ!! ヨーコ!!」
(諦めろ!! 運が良ければ別次元で生きているはずだ!! もう会うことはないだろうが……死ぬよりはマシだろう!!)
「なに言ってんだよ! 死なねぇんならあそこに突っ込めよ!!」
(運が良ければと言っただろうが!! とにかく離脱するぞ!!)
「くそっ! っざけんな!! 戻れ! 戻れよ!! ジェシカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!! ヨーコォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!」
(ちっ! 五月蝿くて集中出来ん! 『アクセプト』)

 黒い霧──ヴァンガルムの目の前に、『/convertコンバート blackoutブラックアウト Van’sヴァンズ bloodブラッド』と白く輝く文字が浮かび、ノヒンが意識を失う。

(この程度の導術で意識を失うとは……こやつ相当弱っていたようだな。さて……久しぶり過ぎてこの世界のことはほとんど分からん。こやつの記憶を少し覗かせて貰おうか……『アクセプト』)

 ヴァンガルムの前に、『/convertコンバート outputアウトプット Van’sヴァンズ bloodブラッド dataデータ』と白く輝く文字が浮かぶ。

(ふむ……ここから近いのは……ニャール……イルネルベリ……どちらも次元崩壊の規模によっては巻き込まれるな……。となると……エロラフ……であれば安全そうだ。ここのルイスとやらのところに行けばよいか……おおっ! NACMOが安定してきおった!! これならば!!)

 ヴァンガルムが漆黒の毛並みの巨大な狼の姿へとなる。

(まあここまではいいのだが……NACMOの量的にこの姿を保つのは数刻が限度だな……。ちっ……またあのみすぼらしい子犬の姿にならねばならんのか……。損傷した魔石の修復をしたいが……こちらにアースガルズがあればいいのだが……見たところ技術的にアースガルズがある痕跡がない)
「……っざけん……な……戻……れ……戻り……やが……」
(もう意識が覚醒したのか!? さすがはヴァンの血族。超速再生、損傷強化、敵対強化、事象崩壊魔術と使えてはいるようだな。だがあの事象崩壊魔術は不完全だった。もしや魔術刻印に損傷でもあるのか……? であれば他の魔術の発動は期待出来んかもしれんが……)
「……降ろし……やがれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ! 戻れ! 戻れよっ!! ジェシカァァァァァァァァァァァァァァッ!! ヨーコォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!」
(ちっ……五月蝿くてかなわん! 少し黙らんか!!)
「てめぇっ!! いいから戻れっ!! ぶっ殺すぞ!! つーかなんだぁ? でけぇ犬みてぇになりやがって!! とにかく戻れやっ!!」
(もう遅い。あの辺り一帯は次元崩壊に巻き込まれた。後ろを見てみろ)

 ヴァンガルムに促され、ノヒンが背後を確認する。そこには巨大な黒い球体が見え、全てを飲み込むように徐々に範囲を広げていた。

「くそっ! なんだよ! なんなんだよ!! ジェシカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!! ヨーコォォォォォォォォォォォォォォォッ!!」
(ぐぅ……耳元で叫ぶなっ!! ……だがあの球体……次元崩壊にしては安定しているな……。まさかあの規模を……? いや……そんな訳は……)
「なんだ!? おいわん公!! あの球体がどうかしたのか!?」
(いや、次元崩壊にしては安定している。内部で何者かがコントロールしようとしているのかもしれん。だがそんなことが出来る奴など……全盛期のオーディンやヴァンが力を合わせれば何とかなるだろうが……)
「あの中にはラグナスがいる! ラグナスはオーディンの生まれ変わりだ! しかもヴァンってのはレイラの先祖か!?」
(ああそうだ。レイラはヴァンの子孫。貴様はそのレイラの子なのだろう?)
「ああそうだ! ラグナスもな!!」
(なんだと!? ではそのラグナスとやらはオーディンとヴァンの力を受け継いでいるというわけか。ならば通常では有り得ん導術を使えるやもしれん……)
「つまりなんだぁ!? あそこに戻れんのか!?」
(それは出来ん! あくまで内部で安定させている者がいるかもしれんということだ! あの球体に突入して無事でいられる保証はない!!)
「んなこたぁどうでもいい!! 可能性があるなら戻れやわん公!!」
(貴様は馬鹿なのか? あそこに戻るよりも、安定するならば待った方が可能性が高い! あの内部にいる者に会いたければ待つことだな!)
「待ったら会えんのかよ!!」
(なんとも言えん。現段階で死んでいるやもしれんし……ぐあっ!! 何をする貴様!!)

 ノヒンがヴァンガルムを殴り付ける。

「言葉には気を付けろやわん公! ぶん殴るぞ!!」
(もう殴ったではないか! ちっ……ヴァンやレイラと違って貴様は口も悪く気性も荒いな)
「ちっ! 悪かったなぁ? けどよ……」

 「……待てば……いいんだな?」と、ノヒンが消え入りそうな声を絞り出す。

(なんだ? 急に聞き分けがいいではないか。まああくまで可能性が高いのは待つという選択肢だ。貴様の言うラグナスとやらは敵らしいが……そいつを信じることだな)
「色々あり過ぎてよ……暴れたって仕方ねぇのは分かってんだ。それによ……ラグナスは敵……なんだろうが……あいつが簡単に死ぬとは思えねぇ」
(色々と聞くのが面倒だな。『アクセプト』)

 ヴァンガルムの前に、『/convertコンバート outputアウトプット Van’sヴァンズ bloodブラッド dataデータ』と白く輝く文字が浮かぶ。

「なんだぁ……? 胸が……熱ぃ……」
(貴様の魔石のデータ……まあつまり記憶を読んでいる。さっきは貴様にゆかりのある地理データを選んで読んだだけなのでな。ほう……なるほど……ヨーコに……ジェシカ……ラグナス……か。これから会うルイスは……普通の人間のようだな)
「勝手に人の記憶を覗いてんじゃねぇっ! ぶっ殺すぞわん公!!」

 ノヒンがヴァンガルムの背中を殴りつける。どんな状況だろうと人の記憶を勝手に見ていい道理などない。ましてや記憶を見るということは、ヨーコのあの無惨な姿を見られるということだ。

(ぐぅ……暴れるでない! 落ちるぞ!!)
「っざけんなっ! 見られたくねぇ過去だってあんだよ!! わん公にはんな事も分かんねぇのかっ!!」
(いやすまない。時間が惜しいのでな。それにしても貴様……大変だったのだな……)
「知ったような……」

 ノヒンがギチギチと拳を握る。

「……わん公が知ったような口きいてんじゃねぇっ!! 俺が大変だっただぁ? 『俺が』じゃねぇっ! 抵抗する力もねぇ奴らが大変なんだ! この世界は腐ってやがんだよっ!!」
(……口は悪いが心根は優しいのだな)
「あぁ? うぜぇこと言ってんじゃねぇよっ!!」
(これはこれで悪くないな。貴様……いやノヒンか。我がこの姿でいられる時間が少ない。聞きたいことがあれば今のうちに聞いておけ)
「聞きてぇことなら山ほどあんだ!! 時間がねぇなんて言わせねぇっ!!」
(よく叫ぶ奴だな)
「てめぇは頭ん中に話しかけて気持ち悪ぃ奴だな!」
(この姿は発声器官がまだ損傷中でな。そのうち直るだろうが……と、そろそろエロラフに着くぞ)

 気付けばフリッカー大陸、鍛冶場町エロラフが目と鼻の先まで迫っていた。ルイスの工房はエロラフから少し離れた山の中。記憶を読んだヴァンガルムが人目を避けながら──

 ルイスの工房まで向かう。



 ──第四章 夢の灯火─揺らぐ灯火、残るは残火編(了)
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