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第一部 第五章 夢の残火─喪失編─
ノヒンとルイス 2
しおりを挟む「……ぷは……(や、やってしまった……)」
「何してんだよ……そんなことされたら止まれなくなるじゃねぇかよ……頼むから俺に……人肌とか思い出させねぇでくれよ……」
「ノヒン……」
涙ぐむノヒンにルイスが唇を重ねる。
「……止まらなくていいぞ?」
「ルイス……。くそっ……こんなのよくねぇ……よくねぇって分かってるけどよ……」
気付けばルイスがベッドへと押し倒され、ノヒンが覆いかぶさっていた。
「私が誘ったんだノヒン。お前が気にするな……」
「それは違ぇ。俺もルイスが欲しいって思っちまってる。はは……最低だな俺ぁ……なにやってんだよ……」
「それは違う。私が弱っているお前につけ込んだんだ……(だがどうする……このままでは女だとバレてしまう……。いや、もうバレてもいいのか……? ダメだ……頭が回らん……)」
「悪ぃルイス……もう止まれねぇ……」
ノヒンがルイスに唇を重ね、強く抱き締める。
「……んん……(ダメだ、頭が回らない……。ここで私が女だと判明するのはノヒンにとって意味が分からないはずだ……。これ以上こいつを混乱させたくはないが……どうすれば……)」
ここでルイスがヴァンガルムとのデータ共有を思い出す。
「(そ、そうだ……そうだ! 私は異性化魔術が使えるサキュバスの力も手に入れたはずだ! よし! よしよし! だ、男性としてならジェシカにも申し訳が……立たないよな……。はは……私もおかしくなっているな……)……一度目を閉じてくれノヒン」
「……ここまで来て恥ずかしいのか?」
「私はお前と違って初めてなんだ。察してくれないか?」
そう言ってルイスがノヒンに唇を重ね、体から黒い霧を滲ませて異性化魔術を発動。
「……ぷは……なんだぁ? なんかルイスの体ぁ……急に硬くなったか?」
「……興奮して筋肉が締まったんじゃないか? 私の筋肉は質がいいらしいからな(怪しまれたか……?)」
「まあ確かに細っちぃのに力はあるもんな。マジで女みてぇな細さだよな……こことかもよ……」
ノヒンがルイスの首筋に唇を当て──
「……んん……(大丈夫だった……ようだな……)」
「……さっきのお返しだ」
「……ダ、ダメだ……ノヒン……」
そのままゆっくりとお互いを求め合う二人。
考えなければならないことや、やらなければならないことは多くある。
絶望的な状況が二人の精神を蝕んでいるせいなのかもしれないが、お互いに最低なことをしているという自覚もある。
だが今は全てを忘れ、お互いの体温をしっかりと感じ合った──
---
「……大丈夫か?」
「……ちょっと痛くて立てないな。それよりノヒン。本当に男だというのは気にならなかったのか……?」
「それを言ったらおめぇもだろぉが。まあ……ルイスだからじゃねぇか? 『男を』じゃなくて『ルイスを』好きなんだ。なんかどう表現していいか分かんねぇけどよ、大事なもんは大事だし、好きなもんは好きだ。世の中そんなもんでいいんじゃねぇかと思うんだよな……って……んぐぅ……」
ルイスが嬉しそうにノヒンに唇を重ねる。
「ぷは……なんだぁ? まだやりたりねぇのか?」
「……いや、今の言葉が嬉しくてな。例えばだが……もし仮に私がジェシカよりも先に『ノヒンを恋愛対象として好きだ』と伝えていたら……どうなった……?」
「あぁ? ……難しい問題だな。まあだけど……気持ちに応えてたんじゃねぇのか? 今ルイスを抱いてはっきり分かったけどよ、男とか女とかやっぱ関係ねぇや。割と最初からルイスのことは好きだったからよ」
「そうか……(……本当にこいつは裏表がないな……)」
ノヒンを好きになってよかったと、ルイスが心の底から感じる。
「なんでぇ? あんまいい反応じゃねぇな」
「……いや、本音を言えばジェシカに申し訳ないと思ってな」
「やっちまったよな……。マジで最低だよ俺ぁ」
「……いや、私から誘ったからな。悪いのは私だ」
「それは違うぜ? 前からルイスのことは本気で可愛いって思ってたしよ。距離が近ぇ時はいつもドキドキしてたぜ? まあ……タイミングによっちゃあ俺から行ってたかもしんねぇな」
「好きだぞノヒン……」
再びノヒンとルイスが唇を重ねる。
「……ぷは……俺もだぜ?」
「なあノヒン……(くそ……私が女性だと伝えたい……意思が弱すぎだろ私は……)」
「なんでぇ?」
「(いや、ちょっと待てよ……。私が女性だと言うタイミングを失っていないか……? ここで言ったらなぜ男性化して行為をしたのかということになってくる……。くそ……ダメだ……。こいつのことになると頭が回らない……)……いや……なんでもない」
「なんでもねぇこたぁねぇだろ? つーか言いてぇことは分かってるつもりだ。だけど悪ぃけど……俺はジェシカを愛してる。めちゃくちゃ好きだ。ってもルイスのことも好きだぜ? 愛してる……ってことになんだろぉな。あぁ……マジで糞野郎だな。ジェシカに会えたらちゃんと話してあいつに判断して貰うつもりだ。まあ……会えねぇ可能性の方が高ぇんだろうけどよ、諦めるつもりはねぇんだ。だから悪ぃルイス」
「……気にするな。ジェシカにも正々堂々と戦うと言ってあるからな」
「そういやぁ……ライバルとか言ってたな? もしかしてジェシカは知ってたのか? ルイスが俺を好きだってことをよ」
「ああ、私は負けてしまったようだが……まだ諦めたわけじゃないぞ? (最悪私は二番目でも……いや、一番にはなりたいが……。ジェシカは嫉妬深いからな……殴られるだろうな……)」
ルイスの脳裏に怒り狂って泣き叫ぶジェシカの姿が浮かぶ。場合によっては豹魔の餌食となり、細切れにされるかもしれないなと思った。
「ああくそっ! 殴ってくれルイス! おめぇのことマジで傷付けてるよな? 本当にすまねぇ!」
「……私から誘ったと言っただろう? まあ悪いと思っているなら無事でいてくれ。無茶はするなよ?」
「こっから先は無茶するしかねぇだろ? 俺が無茶して傷つく奴が減るならそれに越したこたぁねぇからよ」
「だが無茶をしてお前がピンチだと分かれば……私は迷うことなく力を使うからな?」
「その時は……そうだな。つーかそろそろ服着ねぇか? 男二人でいつまでも裸なのは笑えねぇだろ?」
「……そうだな。では私からも一つお願いしてもいいか? お前のわがままばかり通っては不公平だからな」
「いいぜ」
「もう一度……もう一度抱いてくれ。それが終わったらいったん元の関係に戻ろう。色々と考えるのはジェシカを助け出してからだ。ダメ……か……?」
「……ダメなわけねぇだろ?」
そうして再び二人はお互いを求め合い、疲れからか──
しっかりと抱き合いながら、眠りについた。
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