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第二章 大魔道書『神々の終焉讃歌録』
28 演じ
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林の中を、二人の男たちは進んでいた。
落ち葉と枝を踏みながら、深い林の中を虎視眈々を見つめている。鎧を身にまとったその雇われ兵たちは、ある目標を必死に探しているのだ。
彼らは一度、その目標であるカレンを攫うことに失敗している。
彼らの雇い主の口からは直接話されていないが、もう一度の失敗は許されないという暗黙の了解が彼らの直感を支配していた。
だから彼らは、注意深く木々の合間をギンギンとした目つきで睨み、見落としのないようにずんずんと進んでいく。
彼らの行く先に、猫耳の少女が仁王立ちをしているとも知らずに。
「……」
シアンは結界の内側からその二人組を見ていた。
結界の内側にいるシアンは外側から見えないようになっている。それ故、こんなに堂々と真ん前にいても、彼らの視界にはシアンが映っていないのだ。
そして、シアンはただ考えもなしに二人組の行く先で仁王立ちをしているわけではない。
彼女の視線は、二人がそれぞれ腰に携帯している、剣に向いていた。カレンを襲っていた人たちは槍を携帯していたが、今目の前にいる雇われ達はどうやら剣を扱う者のようだ。
「……」
彼らは一歩ずつ、結界へと近づいて来る。
刻々と、シアンが彼らを襲うまでの時間が迫ってきている。
シアンは緊張で思わず息を呑んだ。
私は非力だ。でも、役に立ちたい。その心意気だけは、人一倍なんだ。
ゆっくりと歩いていた二人組はとうとう、シアンの前に到達する。
そして、彼らが知らず結界の中に踏み込む一歩――その動作の開始の瞬間に、シアンの腕が動いた。
「――!」
まずは彼らの腰に携えてあった剣を引き抜き、そのまま後ろへと放り投げた。
そんな結界の中からの奇襲。
その奇襲は結界の外側にいる彼らたちからすれば、見えない何かに剣を抜かれ、一瞬のうちにその剣は消えてしまった、という体験として処理される。
それは摩訶不思議な事態として混乱を呼んだ。困惑し、歩みを止める二人。その判断が命取りだ。
シアンは半獣人特有の身体能力を存分に使い、彼らの頭上を跳んで超えて、背後を取った。
その着地の際に落ち葉を踏んだ音で、二人組にシアンの存在が気づかれる。
しかし、その時はもう遅い。
「――くうっ!」
シアンは後ろから二人の鎧を抱き、前方へ飛び込んだのだ。何せ鎧は重い。蹴りなどでは動かせないのだろう。
だからシアンは、不意をついて背後を取った後、全体重と地面を蹴った勢いを利用し、二人分の鎧を前方へ押し出した。
後ろから突然に飛びつかれるなんて、雇われの二人組が想定していたはずもない。そのまま二人は、シアンに飛びかかられて、前のめりに倒れこむ。
そして、彼らはあと一歩で結界に入れるという位置にいたのだ。
その場所から押し出されれば、距離的にも完全に結界の中へ入ることになる。
これで、二人組を結界を認知させずに、防音効果のある結界内へ押し込むことができた。一応、第一段階は成功だ。
押し込んだシアンは、そのまま彼らの前に飛び、そのご尊顔を拝見する。
「き、貴様! 何者だ……!」
前方にシアンを見つけた二人は、警戒しつつ立ち上がり、拳を構える。ここはすでに結界の中。どれだけ大きな声を出そうが、外には聞こえない。
だからこれで、結界に接触することのないルートを通る襲撃者たちの他の組が、戦闘音で彼らの異常に気づくことはなくなった。
シアンも、戦闘態勢に入った二人を前にして、身を低くとって構えた。
そして無言でにらみ合う中で、一歩ずつじりじりと後退していく。
それに倣い、その二人組も一歩ずつじりじりと前進する。
雇われの二人からすれば、シアンはいきなり現れて、武器を消し飛ばしたという、とても奇異な存在として認識されていた。
故に、武器のないこの状況でシアンに襲い掛かるというのは、とても無謀なことに思われているのだ。だから、彼らは思うように攻めることができず、様子見でシアンとの距離を保っている。
シアンもシアンで、鎧を着た男二人に勝てるような力は持っていない。
だから、こう後退するしかなかった。変に戦おうとして弱いことがバレてしまえば、お終いなのだ。
シアンはその二人の前で『得体の知れない強者』を演じることで、けん制していた。
シアンが動かなければ、二人も動かない。じりじりとけん制し合う中で、経過していくのは時間のみ。
そしてその時間は――。
「……っ!」
突然、地面へと伏せた雇われの二人組。
彼らは、まるで抗うことのない重力のような力に押さえつけられているかのように、プルプルと体を振るえせている。
それを見たシアンはふう、と安心して息をついた。
「時間、稼いだよ」
「ああ、助かった。ありがとう」
そこに現れた男。
それはすでに襲撃者たちを支配下に置き、シアンの持ち場へ駆けつけたシルヴァだった。
「どう? 私だって、役に立つでしょ?」
頬に伝う汗をぬぐいながら、シアンは気丈に笑ったのだった。
落ち葉と枝を踏みながら、深い林の中を虎視眈々を見つめている。鎧を身にまとったその雇われ兵たちは、ある目標を必死に探しているのだ。
彼らは一度、その目標であるカレンを攫うことに失敗している。
彼らの雇い主の口からは直接話されていないが、もう一度の失敗は許されないという暗黙の了解が彼らの直感を支配していた。
だから彼らは、注意深く木々の合間をギンギンとした目つきで睨み、見落としのないようにずんずんと進んでいく。
彼らの行く先に、猫耳の少女が仁王立ちをしているとも知らずに。
「……」
シアンは結界の内側からその二人組を見ていた。
結界の内側にいるシアンは外側から見えないようになっている。それ故、こんなに堂々と真ん前にいても、彼らの視界にはシアンが映っていないのだ。
そして、シアンはただ考えもなしに二人組の行く先で仁王立ちをしているわけではない。
彼女の視線は、二人がそれぞれ腰に携帯している、剣に向いていた。カレンを襲っていた人たちは槍を携帯していたが、今目の前にいる雇われ達はどうやら剣を扱う者のようだ。
「……」
彼らは一歩ずつ、結界へと近づいて来る。
刻々と、シアンが彼らを襲うまでの時間が迫ってきている。
シアンは緊張で思わず息を呑んだ。
私は非力だ。でも、役に立ちたい。その心意気だけは、人一倍なんだ。
ゆっくりと歩いていた二人組はとうとう、シアンの前に到達する。
そして、彼らが知らず結界の中に踏み込む一歩――その動作の開始の瞬間に、シアンの腕が動いた。
「――!」
まずは彼らの腰に携えてあった剣を引き抜き、そのまま後ろへと放り投げた。
そんな結界の中からの奇襲。
その奇襲は結界の外側にいる彼らたちからすれば、見えない何かに剣を抜かれ、一瞬のうちにその剣は消えてしまった、という体験として処理される。
それは摩訶不思議な事態として混乱を呼んだ。困惑し、歩みを止める二人。その判断が命取りだ。
シアンは半獣人特有の身体能力を存分に使い、彼らの頭上を跳んで超えて、背後を取った。
その着地の際に落ち葉を踏んだ音で、二人組にシアンの存在が気づかれる。
しかし、その時はもう遅い。
「――くうっ!」
シアンは後ろから二人の鎧を抱き、前方へ飛び込んだのだ。何せ鎧は重い。蹴りなどでは動かせないのだろう。
だからシアンは、不意をついて背後を取った後、全体重と地面を蹴った勢いを利用し、二人分の鎧を前方へ押し出した。
後ろから突然に飛びつかれるなんて、雇われの二人組が想定していたはずもない。そのまま二人は、シアンに飛びかかられて、前のめりに倒れこむ。
そして、彼らはあと一歩で結界に入れるという位置にいたのだ。
その場所から押し出されれば、距離的にも完全に結界の中へ入ることになる。
これで、二人組を結界を認知させずに、防音効果のある結界内へ押し込むことができた。一応、第一段階は成功だ。
押し込んだシアンは、そのまま彼らの前に飛び、そのご尊顔を拝見する。
「き、貴様! 何者だ……!」
前方にシアンを見つけた二人は、警戒しつつ立ち上がり、拳を構える。ここはすでに結界の中。どれだけ大きな声を出そうが、外には聞こえない。
だからこれで、結界に接触することのないルートを通る襲撃者たちの他の組が、戦闘音で彼らの異常に気づくことはなくなった。
シアンも、戦闘態勢に入った二人を前にして、身を低くとって構えた。
そして無言でにらみ合う中で、一歩ずつじりじりと後退していく。
それに倣い、その二人組も一歩ずつじりじりと前進する。
雇われの二人からすれば、シアンはいきなり現れて、武器を消し飛ばしたという、とても奇異な存在として認識されていた。
故に、武器のないこの状況でシアンに襲い掛かるというのは、とても無謀なことに思われているのだ。だから、彼らは思うように攻めることができず、様子見でシアンとの距離を保っている。
シアンもシアンで、鎧を着た男二人に勝てるような力は持っていない。
だから、こう後退するしかなかった。変に戦おうとして弱いことがバレてしまえば、お終いなのだ。
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シアンが動かなければ、二人も動かない。じりじりとけん制し合う中で、経過していくのは時間のみ。
そしてその時間は――。
「……っ!」
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彼らは、まるで抗うことのない重力のような力に押さえつけられているかのように、プルプルと体を振るえせている。
それを見たシアンはふう、と安心して息をついた。
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