傀儡使いと獣耳少女の世界遍歴

トンボ

文字の大きさ
84 / 119
第三章 コルマノン大騒動

82 彼女の血

しおりを挟む
「獣人じゃないって……それじゃ、その耳の説明がつかないような……」

 シアンから発せられた言葉を前にして、シルヴァの困惑は必至だったといえる。彼女の頭には獣人特有の――詳細には彼女はクォーターであるけれど――猫の耳がついているのだ。それなのに獣人ではないとはどういうことなのか。

「……まあそうなんだけど……」

 シアンはシルヴァの隣に来て、屋上の柵に手をつけて未だにさっきの通路にいるサラとバロットを見据える。シルヴァもそれにならい、彼女の隣で柵に手をかけた。

「獣と人……私がその両方の血を引いてるのは確かだよ。でもそれだけじゃない」

 彼女はぼーっと、暗闇に立つ二人から視線を外さずに、手すりを握る手に力を入れてぎゅっと握りしめた。

「……『魔族』。獣と人と『魔族』――その三種類の血が、私の中に流れてる」

 冷たい風が過ぎ去る夜、シルヴァはシアンの知らない一面を知ったのだった。




 『魔族』とは。
 シルヴァ達が住む世界から見て、その裏側に存在すると云われている世界がある。その名も『魔界』。その世界に住んでいる知的生命体が、俗に『魔族』と呼ばれている。

 『魔族』は人間よりも生命力・戦闘力に長けており、さらに好戦的だ。故に、歴史上において人間界側と魔界側との間で、領地の奪い合いなどの争いが何度も勃発している。現在では停戦の条約を結んだことで、表立った争いは起こっていないものの、こちらの世界と魔界を繋ぐ、いくつかのゲートには特定の人しか近づけないようになっているみたいだ。

 そのような背景があってか、『魔界』そして『魔族』について不明瞭な点が未だに多くある。それを埋めるためにも、ゲートを有する国が魔界側に使者を送ったりなどをして、世界間の友好を保とうとしているとかなんとか。

 正直なところ、魔界の情報は本当に全くといっても良いほど一般人には流れてこない。シルヴァもその一般人に含まれるので、そこまでよく知っているわけではないのだ。

 一説では『魔獣』も魔界由来の生物だと云われているけれど、その真相を知る者はいないだろう。ただ魔界にも王たる立場の者がいて、人間のように統治を行っているようだ。

「えっと……ということは、シアンはゲートの向こう側から来たの?」

 シルヴァは困惑と共に、シアンに問う。今この場所でこの質問が適切かは分からないけれど、彼女の言葉に混乱したシルヴァの頭ではこれ以外のことを問うことができなかった。

 『魔族』がこちらの世界にいるなんて、普通は考えもしないことだ。子供が読むような絵本にも、魔族という存在が強大で人間の脅威となることが描かれているほど。つまるところ、人間にとって『魔族』は強大な脅威であるのだ。

「……ううん。生まれはこっち」

 シアンは首を横に振ってシルヴァの質問に答える。

 彼女のいつもの声を聴いていると、何となく頭が落ち着いてきた。シアンは人間、獣、魔の三種類の血を引いているミックスであること。恐らくそれに由来して、さっきシルヴァへ施した治癒行為みたいなことが行えたのだろう。ということは、シアンが持っている『未来視』の能力も魔族由来だったりするのだろうか。

 そして、それを彼女が隠していた理由。獣と人間の二つの血を引いているだけでも迫害を受けてしまうようなこの世界で、魔族の血も引いてるとなれば、どうなるか考えたくもない。

「……オルレゾーにいたのは……」

「……うん。色々とあって……何も持てずに、最後に流れ着いたのがそこ」

 シアンは手短にそう言ってのけるけれど、その『色々』と簡単に省略されたその部分はシルヴァには到底思いつかないほどに悲惨なものであろうことは明白だった。

 気づくとシルヴァは、手すりから手を離し、あろうことかシアンを優しく抱きしめていた。

「……やっぱり、君はこんなことをしてるよりも……」

 彼女を腕の中に入れて、シルヴァは小さくぼやく。過去にどれほどの悲運を受けたシアンを、このままシルヴァと共に命の危険と隣り合わせにしても良いのだろうか。そんな思いがシルヴァの頭をよぎっていた。

 その思いは以前にも感じたことがある。アレンのところにいたときのことだ。だから、その戸惑いはすでに解決済みのはずなのだ。けれど、それでもシルヴァは再び迷いを感じていた。彼女の過去を知るほど、彼女にこれほどの不自由を強いて良いのかと思ってしまう。

「こうしていたいんだよ」

 シアンもシルヴァをぎゅっと抱きしめ返した。

 シルヴァのシアンを危険から遠ざけたいという気持ちは、シルヴァの弱さでもあった。守り抜く自信がないから、それを遠ざけて隠して、見えないようにする。例え壊れたとしても見えないのだから、シルヴァは永遠とわにそこにるものとして安心できるのだ。

 つまりその行為は現実に目隠しをし、都合の良い過去の偶像を幻視し続けるだけの、心が満たされたように感じる現実逃避に過ぎない。

 それは彼女の望みとは相反するものだ。それをシルヴァは知っていた。

「……そうだよね。僕は、知ってたはずなんだ」

「うん。ちゃんと教えたもん」

 顔を上げて、えへへと笑うシアン。その微笑みを見て、シルヴァは改めて決意する。

 失わなせない覚悟。一度死にかけたこの状況で、シルヴァは確固とした心情を再び確立させたのだった。

「――っ!」

 その瞬間、シルヴァの全身に身の毛のよだつような冷たい殺気が通った。それはシアンも同じだったようで、二人して離れるとすぐに遠くにいる例の二人の方を見据える。

「……感知された?」

「……分からない。けど……」

 シアンはごくりと喉を鳴らして、『こちらの方角に向けて歩き出した』バロットとサラを見ていた。

「嫌な予感がする……」

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう! 公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ

幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
アルファポリス様より書籍化! 転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。 どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。 - カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました! - アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました! - この話はフィクションです。

異世界召喚は7回目…って、いい加減にしろよ‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
『おぉ、勇者達よ! 良くぞ来てくれた‼︎』 見知らぬ城の中、床には魔法陣、王族の服装は中世の時代を感じさせる衣装… 俺こと不知火 朔夜(しらぬい さくや)は、クラスメートの4人と一緒に異世界に召喚された。 突然の事で戸惑うクラスメート達… だが俺はうんざりした顔で深い溜息を吐いた。 「またか…」 王族達の話では、定番中の定番の魔王が世界を支配しているから倒してくれという話だ。 そして儀式により…イケメンの正義は【勇者】を、ギャルっぽい美紅は【聖戦士】を、クラス委員長の真美は【聖女】を、秀才の悠斗は【賢者】になった。 そして俺はというと…? 『おぉ、伝承にある通り…異世界から召喚された者には、素晴らしい加護が与えられた!』 「それよりも不知火君は何を得たんだ?」 イケメンの正義は爽やかな笑顔で聞いてきた。 俺は儀式の札を見ると、【アンノウン】と書かれていた。 その場にいた者達は、俺の加護を見ると… 「正体不明で気味が悪い」とか、「得体が知れない」とか好き放題言っていた。 『ふむ…朔夜殿だけ分からずじまいか。だが、異世界から来た者達よ、期待しておるぞ!』 王族も前の4人が上位のジョブを引いた物だから、俺の事はどうでも良いらしい。 まぁ、その方が気楽で良い。 そして正義は、リーダーとして皆に言った。 「魔王を倒して元の世界に帰ろう!」 正義の言葉に3人は頷いたが、俺は正義に言った。 「魔王を倒すという志は立派だが、まずは魔物と戦って勝利をしてから言え!」 「僕達には素晴らしい加護の恩恵があるから…」 「肩書きがどんなに立派でも、魔物を前にしたら思う様には動けないんだ。現実を知れ!」 「何よ偉そうに…アンタだったら出来るというの?」 「良いか…殴り合いの喧嘩もしたことがない奴が、いきなり魔物に勝てる訳が無いんだ。お前達は、ゲーム感覚でいるみたいだが現実はそんなに甘く無いぞ!」 「ずいぶん知ったような口を聞くね。不知火は経験があるのか?」 「あるよ、異世界召喚は今回が初めてでは無いからな…」 俺は右手を上げると、頭上から光に照らされて黄金の甲冑と二振の聖剣を手にした。 「その…鎧と剣は?」 「これが証拠だ。この鎧と剣は、今迄の世界を救った報酬として貰った。」 「今迄って…今回が2回目では無いのか?」 「今回で7回目だ!マジでいい加減にして欲しいよ。」 俺はうんざりしながら答えた。 そう…今回の異世界召喚で7回目なのだ。 いずれの世界も救って来た。 そして今度の世界は…? 6月22日 HOTランキングで6位になりました! 6月23日 HOTランキングで4位になりました! 昼過ぎには3位になっていました.°(ಗдಗ。)°. 6月24日 HOTランキングで2位になりました! 皆様、応援有り難う御座いますm(_ _)m

ずっとヤモリだと思ってた俺の相棒は実は最強の竜らしい

空色蜻蛉
ファンタジー
選ばれし竜の痣(竜紋)を持つ竜騎士が国の威信を掛けて戦う世界。 孤児の少年アサヒは、同じ孤児の仲間を集めて窃盗を繰り返して貧しい生活をしていた。 竜騎士なんて貧民の自分には関係の無いことだと思っていたアサヒに、ある日、転機が訪れる。 火傷の跡だと思っていたものが竜紋で、壁に住んでたヤモリが俺の竜? いやいや、ないでしょ……。 【お知らせ】2018/2/27 完結しました。 ◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。

異世界転生日録〜生活魔法は無限大!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
☆感想の受付開始しました。 【あらすじ】   異世界に転生したルイは、5歳の高熱を境に、記憶を取り戻す。一度は言ってみたい「ステータス・オープン」で、ステータスを見れることに気付いた。スキル「生活魔法∞(無限大)」を発見。その意味を知るルイは、仄かに期待を抱いた。  それと同時に、今世の出自である農家の四男は、長男大事な両親の態度に、未来はないと確信。  家族に隠れて、ステータスにあったスキルの一つ「鑑定」を使い、村のお婆(薬師)相手に、金策を開始。  十歳の時に行われたスキル鑑定の結果を父に伝えたが、農家向きのスキルではなかったルイは「家の役には立たない」と判断され、早々に家を追い出される。   だが、追放ありがとう!とばかりに、生活魔法を知るべく、図書館がある街を目指すことにしたルイ。  最初に訪れた街・ゼントで、冒険者登録を済ませる。だがそのギルドの資料室で、前世の文字である漢字が、この世界の魔法文字だという事実を知ることになる。  この世界の魔法文字を試したルイは、魔法文字の奥深さに気づいてしまった。バレないように慎重に……と行動しているつもりのルイだが、そんな彼に奇妙な称号が増えて行く。  そして、冒険者ギルドのギルドマスターや、魔法具師のバレンと共に過ごすうちに、バレンのお師匠様の危機を知る。  そして彼に会いにいくことになったが、その目的地が、図書館がある魔法都市アルティメットだった。  旅の道中もさることながら、魔法都市についても、色々な人に巻き込まれる運命にあるルイだったが……それを知るのは、まだ先である。 ☆見切り発車のため、後日変更・追記する場合があります。体調が不安定のため、かける時に書くスタイルです。不定期更新。 ☆カクヨム様(吉野 ひな)でも先行投稿しております。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  週二回更新になります。お気に入り・感想、宜しくお願いします。

御家騒動なんて真っ平ごめんです〜捨てられた双子の片割れは平凡な人生を歩みたい〜

伽羅
ファンタジー
【幼少期】 双子の弟に殺された…と思ったら、何故か赤ん坊に生まれ変わっていた。 ここはもしかして異世界か?  だが、そこでも双子だったため、後継者争いを懸念する親に孤児院の前に捨てられてしまう。 ようやく里親が見つかり、平和に暮らせると思っていたが…。 【学院期】 学院に通い出すとそこには双子の片割れのエドワード王子も通っていた。 周りに双子だとバレないように学院生活を送っていたが、何故かエドワード王子の影武者をする事になり…。  

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

巻き込まれた薬師の日常

白髭
ファンタジー
神に選ばれ、魔素の循環する界へと送り込まれたのは――現代の薬師。 剣も魔法も扱えない彼が憑依したのは、戦闘力ゼロの商人見習いの少年だった。 彼の武器は、知識と経験。商品を生み出し、人脈を築き、産業を広げていく。 「居場所を見つけたい」その願いが、やがて世界を変える力となる。 これは、一人の薬師が紡ぐ研究と開発、そして成長の物語。 【カクヨムでも掲載しています】 表紙は紹介文をもとに、ai【adobe firefly】で作成したものです。(参考程度に……)

処理中です...