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第一部 第一章

15話

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 ルリと別れて左の道を進んでいたエルクは、無理矢理立てかけられた木造の戸の前に立っていた。

『ギー、ギャギャ』

『『『『『ゴブ、ギャギーギャ』』』』』

「何だか中が騒がしいな。何か宴会とか宴の様なことでもしてるのか」

 その様に疑問に思ったオエルクは音を立てない様にしてついたて状態の悪い木造の戸を少し開けようとしたが、少し開けただけで「ギー」と言う大きい音がなってしまった。

「あ、やばい」

 エルクはとっさに正面を向いて部屋の中の様子を伺ったが中にいたゴブリンたちは全て怒りの表情で突然入って来た侵入者のエルクを凝視していた。

 そのまま数秒、エルクとゴブリンたちは睨み合い続けていたが、痺れを切らしたのか一番奥の豪華ないすの様な物に座っていたゴブリンキングと思われる一番でかいゴブリンがエルクに向けて大声をあげながら威嚇して来た。

「うっ、うるせえな。そんなに吠えるなよ。犬っころじゃあるまいし」

 エルクが耳を抑えながらゴブリンキングを馬鹿にした様なことを言うと馬鹿にされたことがわかったのか更に怒りの感情が激しくなり傍らに置いてあった巨大な戦斧を持ち上げ掲げると更に大きな声で叫びだした。

 ゴブリンキングが戦闘態勢に入るとキングの周りを囲んでいたジェネラルやウォーリア、ナイトと言った上位種も自分の武器を持ってエルクへと敵意をむき出しにして威嚇して来た。

「まあそう慌てるなって。お前たちはこれから仲良くあの世に行ってもらうんだから今からそんなに慌てたって意味がないだろ? 」

 エルクはゴブリンたちの決死の威嚇等どこ吹く風といった感じでゴブリンたちに話しかけると腰に差していた雷刀【雷切】を抜き放ちゆっくりとゴブリンたちへと近づいて行った。

 エルクが歩いてゴブリンたちに近づくとゴブリンキングは「ギー、ガー」と叫んでジェネラルたちに指示を出したのかキング以外のゴブリンが武器を構えて一斉に襲いかかって来た。

「お、そっちからわざわざ来てくれるのか。こっちから攻撃を仕掛ける手間が省けてラッキーだわありがとうな」

 エルクは襲いかかって来るゴブリンたちにお礼を言いながら流れる様に最小限の動きだけでゴブリンたちの首をスパスパと切り落として行った。

「よう、ゴブリンキングこれでこの巣で残っているのはお前だけだぜ。はぁ~、それにしてもやっぱりゴブリン種程度には仙術無しでも余裕で勝てる様になっちゃったな。おいゴブリンキング、お前は俺に仙術を使わせる位には強いんだろうな。はぁ~、まあいいルリや村人たちを余り待たせる訳にもいかないからそろそろ戦いを始めようか」

 ゴブリンキングを挑発したエルクは、怒り狂っているキングに冷静になる時間を与えないために【雷切】を右手で握りしめて駆け出し未だ冷静な判断がつかず乱暴に大剣を振り回しているキングに切りかかった。

 エルクは力任せに大剣を振り回していたゴブリンキングと何度か剣を合わせてキングが大剣を大上段に構えて力の限り振り下ろして来た所を半身になって余裕で避けた。

 その後、エルクは大剣が地面に突き刺さり引き抜くのに四苦八苦しているキングの背後に素早く回り込みキングが反応する隙すら与えずに首を切り飛ばした。

「ふう、まあ少しは手ごたえがあったけどやっぱりこのレベルの魔物じゃもう物足りなく成って来ちゃったな。さてと、ルリの所に行きますか」

 エルクはゴブリンキングとその取り巻きのゴブリンたちを無限収納にしまい込むと、ついたての悪い戸を潜ってルリの向かったもう一つの道に向かって行った。

 ゴブリンたちがいた最奥の部屋から道の分岐点まで戻って来たエルクはもう片方の右の道を進んでルリを追いかけていた。

「結構な数の牢屋があるな。まあ全部扉が開いてて中に誰も居ないけどな。もうルリが救出した後だな。それにしても所々にゴブリンの死体が転がっているな。帰る時に邪魔になるし今の内に無限収納の中に入れておくか」

 エルクはルリの下へと向かいながら道中で転がっているゴブリンの死体を無限収納に仕舞いながら進んで行くと、暫くして奥の方からゴブリンの叫び声の様な物がしたので急いでそちらの方へ向かうと、そこには丁度三体のゴブリンを倒したルリとその後方でルリのことを見守っている村人の姿があった。

「よう、ルリ今戻ったぞ。どうやら粗方片付いた様だな。囚われていた村人たちはこれで全部か大体三十人位か」

「ええ、これで囚われていた村人は全部よ。それとそこの部屋に宝石とかの宝物があったから無限収納に仕舞っておいてね」

「おお、わかった」

 エルクはルリに返事をしてルリが言っていた部屋へと向かおうとすると、それまでルリの後ろで静かにこちらを伺っていた村人たちの中から十代半ば位の男が一人前に出ていてエルクに言いがかりを付けて来た。

「おい、さっきから聞いてればルリさんに何気安く話しかけてるんだよ。お前みたいな冴えない奴がルリさんに近づくんじゃねえよ。なあルリさん、いや、ルリこんな奴の相手なんてしないでオレと楽しく話しようぜ。それで今夜はオレの家で楽しく過ごそうぜ」

 空気の読めない男に話しかけられたルリはしかし、その男のことなど完全に無視でエルクと一緒に宝の置いてある部屋へと入って宝の回収の手伝いをしていた。

 そして、エルクとルリに完全に無視されてしまった男は顔を真っ赤にし怒りの形相で奥歯を噛みしめながら村人たちの集団の中へと静かに戻って行った。

 宝を回収し終わったエルクとルリは部屋から出ると部屋の外でエルクたちのことを待っていた村人たちと合流すると村人たちを連れてぞろぞろと洞窟を出た。

 洞窟から出たエルクは一先ずブロンに念話で連絡を取ることにした。

「ブロン、俺だけどそっちの様子はどうなっているか報告を頼む」

『お、これは主殿。承知しました。それでは報告させていただきます。我々は各自発見したゴブリンの住処を殲滅後、その住処に囚われていた村人数名を保護して只今エスト村にて待機しております』

「そうか、ご苦労だった。俺たちもたった今ゴブリンの住処を潰して村人たちを保護して洞窟から出て来た所だ。これからエスト村に帰る。村人は全員無事だ。一足先に村にいる村人たちに全員無事と伝えておいてくれ」

『はっ、承知しました。ご帰還をお待ちしております』 

 ブロンとの念話を終えたエルクは自分の隣にいるルリと保護した村人たちを連れてエスト村へと帰路についた。

         
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