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番外編・SSなど
2巻発売記念SS『お姫様抱っこリレー』
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「小説家になろう」様の活動報告にて2018年5月29日から公開しているものと同じです
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「なあ、アンジェラちゃんってさ。そんなに軽いのか?」
「おっと、ダレンさん。女にそういうことを聞いちゃいますか」
旅路の途中、本日の休憩地として訪れた街の宿にて。
ラウンジでくつろいでいたら、突然ダレンが変なことを聞いてくるものだから、思わず顔をしかめてしまった。
彼は軽い印象だけど、これでも騎士だ。女性や子どもには礼節を持って接していると思っていたんだけど、どうやら私はその対象外だったらしい。
「女の体重や年齢を気にする男はモテませんよ」
「そうだよ、ダレン。だからいつまで経っても独身なんだよ」
「オレに対して容赦ないな君たち! 殿下も、もう少し部下を労わって下さいよ!」
不満を口にすれば、王子様も便乗してダレンをいじり始める。多分、彼が独身なのは仕事ばっかりしてるからだと思うけど、今は言わないでおこう。
「そういうのじゃないってば。ほら、さっきもジュード君が君を抱いて走ってただろう? しょっちゅうそんなことしてるから、少し気になっただけだよ!」
「ああ、さっきの」
ちらと視線を向ければ、ジュードが「なあに?」と一歩私に近付いてくる。
ダレンが言っているのは、街に入る直前での魔物との戦闘のことだ。うっかり私が転んでしまい、それを隣にいたジュードが抱き上げて助けてくれた……という出来事だったんだけど。
「私が軽いわけじゃなくて、単にジュードが力持ちなだけだと思いますよ。ねえ?」
元々ジュードは私と違い、強化魔法なしで戦える殺戮兵器だもの。カチッとしたデザインで、かつ濃い色の制服を着ているから細く見えるけど、体はかなり筋肉質だしね。
「アンジェラは軽いよ? ずっと抱いていてもいいぐらい」
「やめて。私が恥ずかしいからやめて」
「そう? お姫様抱っこって、女の子は喜ぶものだと思ってた」
意外だ、とジュードは目を瞬いている。もしや彼は、私を喜ばせるために姫抱きをしていたんだろうか。
そりゃまあ、乙女としては夢見るシチュエーションの一つではあるけど。ジュードの場合、本当にしょっちゅうやるからときめきも何もなくなってしまったのよね。
そういうイベントは、ここぞという時に魅せるものだぞ、我が幼馴染よ。
「ほら」
「わ、ちょっと!?」
そんなことを考えていたら、突然ジュードに抱き上げられてしまった。慌てて首元にしがみつけば、彼のしっかりとした腕が支えてくれる。……実に慣れた動きだ。
「いきなりやらないで、びっくりするから!」
「ごめんごめん。でも、いきなりできるぐらい軽いよって」
「実地で見せなくていいから!!」
慣れてはいるけど、意味もなくやって欲しいわけではない。ここには仲間の他にも人がいるのだし。
抗議代わりに頬をひっぱってみても、彼は嬉しそうに笑うばかりだ。おのれ、これだから攻略対象って生き物はもう! ここ現実なのに!!
「僕はこんな感じですが、気になるならダレンさんも試してみますか?」
「え、いいのか?」
「変なところを触ったら、即削ぎ落しますけど」
「何を!?」
怒る私をよそに、ジュードとダレンの間では何やら譲渡の話が進んでいる。貴方たち、仮にもヒロイン様を荷物扱いとは、本当にいい度胸してるわね……!
「アンジェラちゃん、ちょっと失礼してもいいか?」
「はいはい、どーぞ」
まあ、男の人って重いものを持ったり、力比べしたりするの好きだものね……主に男児が。
この状態では言っても無駄かと諦めて、大人しくジュードの腕からダレンの腕へと移る。十センチ以上身長差があるから、体重の移動には気をつけて……
「……あら?」
不安定で揺れるだろうと覚悟したのだけど、意外にもアッサリと移動は完了した。
ジュードよりはぎこちないものの、ダレンの腕もしっかりと私を抱き上げてくれている。震えたりもしていない。
「意外。やりますね、ダレンさん」
「オレも一応騎士だからね、アンジェラちゃん。でもまあ、思ったよりは全然軽いよ。女の子ってこんなに軽いのか」
「そ、それはどうも」
ジュードにはよく言われていることでも(むしろ言われ慣れた)他の男の人に言われると、ちょっと照れくさい。
もっとも、暗に『筋肉が少ない』と言われているのだから、私としては喜んじゃいけないことなんだけど。
「ずっと姫抱きは無理だけど、これぐらいならオレでも走れそう」
「しなくていいです。ジュードが過保護なだけで、私はこんな風に守ってもらうほど弱くありませんからね!」
「それは充分すぎるほどわかってるから大丈夫だ。……それに、実際にやると心臓に悪いこともわかったしな」
「心臓?」
改めてダレンの顔を覗きこめば、彼は一瞬驚いた後、すぐに目を逸らした。頬が赤いし、やっぱり無理をしているのかしら。
「重いなら重いって、正直に言ってくれていいんですよ?」
「違うって。アンジェラちゃんは、顔は本当に可愛いから。中身を知っていても、独り身には刺激が強すぎるんだよ」
「あら」
……なんだ、私に照れていたのか。
そりゃ、抱き上げているのだから体はくっついているし、顔だってかなり近い。ジュードがしょっちゅうするものだから、すっかり慣れてしまっていたわ。
「〝顔は〟っていうのが失礼ですよねえ」
「誤魔化してないと恥ずかしいんだ、察してくれ。とにかく、確認させてくれてありがとな。おろすよ?」
「はーい」
いそいそと慌てた様子で腕を傾けるダレンに合わせて、私も足をずらす。これでしょーもない検証も終わりだと思ったのだけど、
「アンジェラ殿、こっちこっち」
私の足が地面につく前に、すぐ近くから呼ばれてしまった。
視線を向ければ、王子様が両手を広げて私に笑いかけている。金色の瞳をキラキラと輝かせながら。
「え、えっと殿下? なんでしょう?」
「ダレンの挑戦が許されたのだから、当然私にもやらせてくれるよね?」
「やりたいんですか!?」
お姫様抱っこってそんなにやりたいものか!? それも、されるほうじゃなくてするほうを!?
思わず言葉を失ってしまった私に、王子様はなおもキラキラと笑いながら両手を差し出している。これは多分、彼が試すまで諦めないやつだ。
「殿下って、変なところで好奇心旺盛ですよね……アンジェラちゃん、移動するよ?」
「……いいんですかね、本物の王子様に変なことをさせて」
「その王子様がご所望なんだから、いいんじゃないか?」
直属部下であるダレンも、上司の様子に呆れているようだ。こっそりため息をつきながら、私の体をゆっくりと王子様の腕に移動していく。……配送用の段ボール箱って、こんな気持ちなのかしらね。
「お姫様抱っこといったら、おとぎ話でも王子の役目だろう? さあさあ、どうぞ」
確かに、白馬の王子様とか騎士とか、女の子が一度は憧れる夢でしょうけど。しかも、彼らは外見的にも問題ないどころか、むしろ夢の具現化みたいな人たちだけど!
「その相手が脳筋ってのが、ちょっと……」
「君も外見は間違いなくお姫様だよ。よっと……あ、本当だ。見た目以上に軽いねアンジェラ殿」
「アリガトウゴザイマス」
ダレンから難なく私を受け取った彼は、何故か嬉しそうにはしゃいでいる。
まあ、華やかな容姿からは想像しにくいけど、彼は軍部に務める戦う王子様だもの。見た目よりはずっと力もあるだろう。できればそういうことは、私じゃなくてちゃんとしたお姫様とやって欲しいところだけど。
「ふんふん……いいね、これ。久しぶりに自分が王子だって思い出せた気がする」
「こんなことをしなくても、殿下は殿下ですよ? もしかして、私が遠慮なく戦わせるから怒ってます?」
「まさか。気軽に接してくれるのは、ありがたいよ。だけど、たまにはそれらしいことをしてみたいってだけさ」
照れて目を逸らしたダレンとは違い、王子様はむしろ私を口説く勢いで笑顔を返してくる。確かに、この部隊の中で一番こういう動作が似合うのは彼かもしれない。
ジュードもダレンも感心した様子でこちらを見ているし、端から見たらさぞ絵になることだろう。私から見えないのが残念だわ。
「……あの、満足したらおろしていただけます? さすがに殿下にご迷惑をおかけするのは、ちょっと」
「全く迷惑じゃないから、もう少しこのままで。それとも、ジュード殿以外にその役目はやらせたくないかな?」
「その役目?」
私を荷物代わりに持つのに、役目も何もないと思うんだけど。
よくわからないので首をかしげて返せば、王子様は困ったように小さく笑っている。彼の後ろでは、ジュードが少しだけ眉をひそめた。え、私を運ぶ役目って意味があるの?
「ま、詳しくは彼に直接聞くといいよ。楽しいひと時をありがとう」
「は、はあ」
よくわからないけど、ジュードと王子様の間では会話が成立しているようだ。
とにかく、王子様も満足したようなので、姫抱っこリレーはこれで終わりだろう。今度こそおりようと体を起こしたところで、
「……ふむ。では、ここで我の出番か?」
「は?」
「え、嘘だろう……うわああああっ!?」
がくん、と体が反対側に揺れて、慌てて王子様にしがみつく。しかし、彼もまた慌てた様子だ。
――王子様の腕の向こうに、もう二本腕が見えている。
「うっそお……ディアナ様、マジですか!?」
「ハッハッハ!! 王子と姫を守るのは騎士の務めであろう?」
先ほどよりもはるかに高くなった視界。背中側を見れば、勇ましく笑う赤髪の騎士の顔が見える。
体を支えているのは、がっしりとした丸太のような筋肉質な腕……まさかとは思ったけど、間違いない。
「私を抱いた殿下ごと姫抱きとは! さすがすぎますディアナ様!!」
「か、勘弁してくれディアナ……私の立場がないだろう」
さっきまでイキイキとしていた王子様は、自分がされる側にまわったことで、頬を染めて縮こまっている。
そういえば、彼が恥ずかしがったりする様子は初めて見たかもしれない。なんだかんだで王子様は、肝の据わった方だからね。レア顔美味しいです。
「やってみるまでは不安でしたが、これなら有事の際も二人は問題なく担げそうですな。万事我にお任せ下され!」
「きゃー!! ディアナ様素敵!!」
「ああもう、そうやってすぐ良いところを持っていくのだから! 減給するよディアナ」
あまりのたくましさに感激する私とは裏腹に、王子様は怒りながらディアナ様の腕をどかそうとしている。男の人は普通なら抱かれる側にはならないものね。
「ふふ、貴重な体験ができましたね、殿下」
「……二度目がないように、気をつけるよ」
ようやくおろしてもらえば、彼はしょんぼりした様子でダレンに慰めてもらいに行った。
乙女の夢の一つである『お姫様抱っこ』だけど、この部隊ではときめくまでが大変ハードルの高いイベントになりそうだ。
だって、比較対象が筋肉の女神様なんだから!
「はあ……ディアナ様はやっぱり最高のお方です! アンジェラは一生ついていきますね!!」
「ハッハッハッハ!!」
「……あーあ」
うっとりと女神を崇める私の背後で、三人分の深いため息が響いた。
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「なあ、アンジェラちゃんってさ。そんなに軽いのか?」
「おっと、ダレンさん。女にそういうことを聞いちゃいますか」
旅路の途中、本日の休憩地として訪れた街の宿にて。
ラウンジでくつろいでいたら、突然ダレンが変なことを聞いてくるものだから、思わず顔をしかめてしまった。
彼は軽い印象だけど、これでも騎士だ。女性や子どもには礼節を持って接していると思っていたんだけど、どうやら私はその対象外だったらしい。
「女の体重や年齢を気にする男はモテませんよ」
「そうだよ、ダレン。だからいつまで経っても独身なんだよ」
「オレに対して容赦ないな君たち! 殿下も、もう少し部下を労わって下さいよ!」
不満を口にすれば、王子様も便乗してダレンをいじり始める。多分、彼が独身なのは仕事ばっかりしてるからだと思うけど、今は言わないでおこう。
「そういうのじゃないってば。ほら、さっきもジュード君が君を抱いて走ってただろう? しょっちゅうそんなことしてるから、少し気になっただけだよ!」
「ああ、さっきの」
ちらと視線を向ければ、ジュードが「なあに?」と一歩私に近付いてくる。
ダレンが言っているのは、街に入る直前での魔物との戦闘のことだ。うっかり私が転んでしまい、それを隣にいたジュードが抱き上げて助けてくれた……という出来事だったんだけど。
「私が軽いわけじゃなくて、単にジュードが力持ちなだけだと思いますよ。ねえ?」
元々ジュードは私と違い、強化魔法なしで戦える殺戮兵器だもの。カチッとしたデザインで、かつ濃い色の制服を着ているから細く見えるけど、体はかなり筋肉質だしね。
「アンジェラは軽いよ? ずっと抱いていてもいいぐらい」
「やめて。私が恥ずかしいからやめて」
「そう? お姫様抱っこって、女の子は喜ぶものだと思ってた」
意外だ、とジュードは目を瞬いている。もしや彼は、私を喜ばせるために姫抱きをしていたんだろうか。
そりゃまあ、乙女としては夢見るシチュエーションの一つではあるけど。ジュードの場合、本当にしょっちゅうやるからときめきも何もなくなってしまったのよね。
そういうイベントは、ここぞという時に魅せるものだぞ、我が幼馴染よ。
「ほら」
「わ、ちょっと!?」
そんなことを考えていたら、突然ジュードに抱き上げられてしまった。慌てて首元にしがみつけば、彼のしっかりとした腕が支えてくれる。……実に慣れた動きだ。
「いきなりやらないで、びっくりするから!」
「ごめんごめん。でも、いきなりできるぐらい軽いよって」
「実地で見せなくていいから!!」
慣れてはいるけど、意味もなくやって欲しいわけではない。ここには仲間の他にも人がいるのだし。
抗議代わりに頬をひっぱってみても、彼は嬉しそうに笑うばかりだ。おのれ、これだから攻略対象って生き物はもう! ここ現実なのに!!
「僕はこんな感じですが、気になるならダレンさんも試してみますか?」
「え、いいのか?」
「変なところを触ったら、即削ぎ落しますけど」
「何を!?」
怒る私をよそに、ジュードとダレンの間では何やら譲渡の話が進んでいる。貴方たち、仮にもヒロイン様を荷物扱いとは、本当にいい度胸してるわね……!
「アンジェラちゃん、ちょっと失礼してもいいか?」
「はいはい、どーぞ」
まあ、男の人って重いものを持ったり、力比べしたりするの好きだものね……主に男児が。
この状態では言っても無駄かと諦めて、大人しくジュードの腕からダレンの腕へと移る。十センチ以上身長差があるから、体重の移動には気をつけて……
「……あら?」
不安定で揺れるだろうと覚悟したのだけど、意外にもアッサリと移動は完了した。
ジュードよりはぎこちないものの、ダレンの腕もしっかりと私を抱き上げてくれている。震えたりもしていない。
「意外。やりますね、ダレンさん」
「オレも一応騎士だからね、アンジェラちゃん。でもまあ、思ったよりは全然軽いよ。女の子ってこんなに軽いのか」
「そ、それはどうも」
ジュードにはよく言われていることでも(むしろ言われ慣れた)他の男の人に言われると、ちょっと照れくさい。
もっとも、暗に『筋肉が少ない』と言われているのだから、私としては喜んじゃいけないことなんだけど。
「ずっと姫抱きは無理だけど、これぐらいならオレでも走れそう」
「しなくていいです。ジュードが過保護なだけで、私はこんな風に守ってもらうほど弱くありませんからね!」
「それは充分すぎるほどわかってるから大丈夫だ。……それに、実際にやると心臓に悪いこともわかったしな」
「心臓?」
改めてダレンの顔を覗きこめば、彼は一瞬驚いた後、すぐに目を逸らした。頬が赤いし、やっぱり無理をしているのかしら。
「重いなら重いって、正直に言ってくれていいんですよ?」
「違うって。アンジェラちゃんは、顔は本当に可愛いから。中身を知っていても、独り身には刺激が強すぎるんだよ」
「あら」
……なんだ、私に照れていたのか。
そりゃ、抱き上げているのだから体はくっついているし、顔だってかなり近い。ジュードがしょっちゅうするものだから、すっかり慣れてしまっていたわ。
「〝顔は〟っていうのが失礼ですよねえ」
「誤魔化してないと恥ずかしいんだ、察してくれ。とにかく、確認させてくれてありがとな。おろすよ?」
「はーい」
いそいそと慌てた様子で腕を傾けるダレンに合わせて、私も足をずらす。これでしょーもない検証も終わりだと思ったのだけど、
「アンジェラ殿、こっちこっち」
私の足が地面につく前に、すぐ近くから呼ばれてしまった。
視線を向ければ、王子様が両手を広げて私に笑いかけている。金色の瞳をキラキラと輝かせながら。
「え、えっと殿下? なんでしょう?」
「ダレンの挑戦が許されたのだから、当然私にもやらせてくれるよね?」
「やりたいんですか!?」
お姫様抱っこってそんなにやりたいものか!? それも、されるほうじゃなくてするほうを!?
思わず言葉を失ってしまった私に、王子様はなおもキラキラと笑いながら両手を差し出している。これは多分、彼が試すまで諦めないやつだ。
「殿下って、変なところで好奇心旺盛ですよね……アンジェラちゃん、移動するよ?」
「……いいんですかね、本物の王子様に変なことをさせて」
「その王子様がご所望なんだから、いいんじゃないか?」
直属部下であるダレンも、上司の様子に呆れているようだ。こっそりため息をつきながら、私の体をゆっくりと王子様の腕に移動していく。……配送用の段ボール箱って、こんな気持ちなのかしらね。
「お姫様抱っこといったら、おとぎ話でも王子の役目だろう? さあさあ、どうぞ」
確かに、白馬の王子様とか騎士とか、女の子が一度は憧れる夢でしょうけど。しかも、彼らは外見的にも問題ないどころか、むしろ夢の具現化みたいな人たちだけど!
「その相手が脳筋ってのが、ちょっと……」
「君も外見は間違いなくお姫様だよ。よっと……あ、本当だ。見た目以上に軽いねアンジェラ殿」
「アリガトウゴザイマス」
ダレンから難なく私を受け取った彼は、何故か嬉しそうにはしゃいでいる。
まあ、華やかな容姿からは想像しにくいけど、彼は軍部に務める戦う王子様だもの。見た目よりはずっと力もあるだろう。できればそういうことは、私じゃなくてちゃんとしたお姫様とやって欲しいところだけど。
「ふんふん……いいね、これ。久しぶりに自分が王子だって思い出せた気がする」
「こんなことをしなくても、殿下は殿下ですよ? もしかして、私が遠慮なく戦わせるから怒ってます?」
「まさか。気軽に接してくれるのは、ありがたいよ。だけど、たまにはそれらしいことをしてみたいってだけさ」
照れて目を逸らしたダレンとは違い、王子様はむしろ私を口説く勢いで笑顔を返してくる。確かに、この部隊の中で一番こういう動作が似合うのは彼かもしれない。
ジュードもダレンも感心した様子でこちらを見ているし、端から見たらさぞ絵になることだろう。私から見えないのが残念だわ。
「……あの、満足したらおろしていただけます? さすがに殿下にご迷惑をおかけするのは、ちょっと」
「全く迷惑じゃないから、もう少しこのままで。それとも、ジュード殿以外にその役目はやらせたくないかな?」
「その役目?」
私を荷物代わりに持つのに、役目も何もないと思うんだけど。
よくわからないので首をかしげて返せば、王子様は困ったように小さく笑っている。彼の後ろでは、ジュードが少しだけ眉をひそめた。え、私を運ぶ役目って意味があるの?
「ま、詳しくは彼に直接聞くといいよ。楽しいひと時をありがとう」
「は、はあ」
よくわからないけど、ジュードと王子様の間では会話が成立しているようだ。
とにかく、王子様も満足したようなので、姫抱っこリレーはこれで終わりだろう。今度こそおりようと体を起こしたところで、
「……ふむ。では、ここで我の出番か?」
「は?」
「え、嘘だろう……うわああああっ!?」
がくん、と体が反対側に揺れて、慌てて王子様にしがみつく。しかし、彼もまた慌てた様子だ。
――王子様の腕の向こうに、もう二本腕が見えている。
「うっそお……ディアナ様、マジですか!?」
「ハッハッハ!! 王子と姫を守るのは騎士の務めであろう?」
先ほどよりもはるかに高くなった視界。背中側を見れば、勇ましく笑う赤髪の騎士の顔が見える。
体を支えているのは、がっしりとした丸太のような筋肉質な腕……まさかとは思ったけど、間違いない。
「私を抱いた殿下ごと姫抱きとは! さすがすぎますディアナ様!!」
「か、勘弁してくれディアナ……私の立場がないだろう」
さっきまでイキイキとしていた王子様は、自分がされる側にまわったことで、頬を染めて縮こまっている。
そういえば、彼が恥ずかしがったりする様子は初めて見たかもしれない。なんだかんだで王子様は、肝の据わった方だからね。レア顔美味しいです。
「やってみるまでは不安でしたが、これなら有事の際も二人は問題なく担げそうですな。万事我にお任せ下され!」
「きゃー!! ディアナ様素敵!!」
「ああもう、そうやってすぐ良いところを持っていくのだから! 減給するよディアナ」
あまりのたくましさに感激する私とは裏腹に、王子様は怒りながらディアナ様の腕をどかそうとしている。男の人は普通なら抱かれる側にはならないものね。
「ふふ、貴重な体験ができましたね、殿下」
「……二度目がないように、気をつけるよ」
ようやくおろしてもらえば、彼はしょんぼりした様子でダレンに慰めてもらいに行った。
乙女の夢の一つである『お姫様抱っこ』だけど、この部隊ではときめくまでが大変ハードルの高いイベントになりそうだ。
だって、比較対象が筋肉の女神様なんだから!
「はあ……ディアナ様はやっぱり最高のお方です! アンジェラは一生ついていきますね!!」
「ハッハッハッハ!!」
「……あーあ」
うっとりと女神を崇める私の背後で、三人分の深いため息が響いた。
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