転生しました、脳筋聖女です

香月航

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連載

STAGE12-03

「しっかしこれはまた、ずいぶん豪華な面子めんつの部隊だなあ!」

 宿に馬車と荷物を預けた私たちは、そのままクロヴィスに案内されて彼の自宅へと向かっている。
 つい先ほど名前を教え合ったばかりだというのに、もう昔馴染みのような軽い調子なのだから、コミュ力の高い人間って尊敬するわ。
 大抵リーダー役でもある『戦隊もののレッド』という呼び名は、こういうところからもきていたのかもしれない。

 ……それにしても。

(言われてみれば、確かに色物部隊かもしれないわね)

 今更気付くのも何だけど、実力重視で集められたおかげで、私の仲間たちは統一性皆無だ。
 まず、人間を軽く卒業していらっしゃる筋肉の女神・ディアナ様は誰から見ても目立つだろう。男性よりも遥かに高い身長に、甲冑では隠しきれない筋骨隆々の美しいボディライン。注目の的になってしまうのも当然よね!

 次いで目立つのは多分ジュードとノアの黒白コンビ。ジュードの『色』が珍しいのはもちろんだけど、二人とも顔がきれいすぎて女性の注目を集めまくっている。華やかな容姿の王子様も、こちら側かしらね。
 あとは全身をすっぽり黒ローブで覆っているウィリアムも目立つかもしれない。こちらは逆に怪しいほうの意味で。

「……そう考えると、馴染みやすいダレンさんや、パッと見は子どもにしか見えない導師。あとはただの修道女な私も、もう少し色物になる努力をするべきなのかしら」

「絶世の美少女がなんか言ってるんだけど、オレつっこむべき?」

「お前は背負っているそれが何なのか思い出せ」

 独り言のつもりだったのに、何故か周囲の皆から呆れたような目とツッコミをもらってしまった。
 ああ、そうか。普通の修道女ってメイスを背負っていないのだったわ。うっかりうっかり。それなら私も、ちゃんと色物枠ね。

「道行く男どもの九割が君に見惚れているのに、全く気にもしていないとか。僕は怒ればいいのか安心すればいいのか困るな」

「女子の視線を釘付けにしてる人に言われたくないわね」

 呆れたような他の皆とは違い、隣を歩いていたジュードはちょっと不服そうに呟く。
 実は宿を出た頃から不機嫌だったのだけど、どうやら私たち――いや、多分私を街の人が見ていることを気にしていたようだ。私が関わるとジュードはすぐに心が狭くなるのだから、困ったものだわ。
 ……しかし、これから人様のお宅にお邪魔するのに、むくれっ面というのも失礼だろう。

「そんなに視線が気になるなら、私と手でも繋ぐ?」

「え、いいの!?」

 多少は気がまぎれるだろうと提案してみれば、彼は一瞬で笑顔になった。
 ……ねえ、ジュード。貴方さすがにチョロすぎないかしら。幼馴染は心配になってきたよ。

「おお、なんだそこの二人はそういう関係かっ! 恋愛はいいぞ……人生を色鮮やかにしてくれる最高のものだ!」

「うわあっ!? な、なんですか!?」

「俺もシエンナと出会って、世界が美しいことを初めて知ったんだ……忘れもしない三年前のあの時……」

 いつの間にか距離を詰めていたクロヴィスが、私たちをそれぞれ眺めた後、恍惚とした表情で何かを話し始めた。
 いきなり始まったなれ初め語りに、私もジュードもつい反応が遅れてしまう。もしかして、恋愛面も暑苦しい感じなのか、この人。

「クロヴィス、その話はさすがに聞き飽きたぞ。それより、嫁さんとお子さんは元気か?」

「なんだよ、何度でも言わせてくれよ!! ……まあ、いいけど。シエンナは今のとこ体調も安定しているし元気だぞ。そして娘は天使だ!!」

「あー……元気なら何よりだ」

 困惑していた私たちをフォローするように、ダレンが話題を変えてくれている。さりげなくクロヴィスの肩を掴んで、私たちから離しながら。

 どうやら彼の奥さんはシエンナというようだ。だが、ゲームの時のキャラクターで思い当たるような人はいない。
 やはりクロヴィスは、この部隊への参加を辞退した時点で攻略対象から外れて、“一国民”という程度の扱いに変わったのかもしれない。
 ……いや、私を含めた全員が国民なんだけど。少なくとも『ゲームシナリオの強制力』なんてものはないと考えてよさそうだ。
 ともあれ、体が弱いと聞いていた奥さんが、産後も体調が安定しているのは良かったわ。

 それからさらに十数分ほど皆で歩いて、ようやくクロヴィスの家に辿りついた。
 二階建てのチョコレート色レンガの家はとても可愛らしい外見で、まるで遊園地にでもありそうなファンシーな造りをしている。

「……お前の家、こんなだったか?」

「子どもが産まれるから改装したんだよ。どうだ、可愛いだろ?」

 なるほど、わざとファンシーに仕上げた家なのか。お子さんは娘だと言っていたし、これならきっと物心ついた頃にはかなり喜ぶでしょうね。

「クロヴィスさんは、ご家族思いの素敵なお父様なのですね」

「はは、ありがとな! 俺が全てをかけられる相手は、もうこの二人しかいないからな」

「あ……」

 ……ということは、クロヴィスの両親や親族はもう亡くなっているのだろう。
 失言だったかと慌てて口をつぐめば、彼は気にした様子もなくニカッと笑った。

「まあ、うまくいけばもう二、三人増えるかもしれないけどな!」

「そ、それはまた、仲がよろしいのですね」

「おう! ほんと、自分の子ってあんなに可愛いんだな……何人でも欲しくなるぞ!!」

 心から嬉しそうに、クロヴィスは大きな声で笑う。
 合流してからずっと元気なクロヴィスに、距離をとっていた仲間たちもいつの間にか警戒を解いているようだ。
 笑うことは体に良いというし、もしかしたら奥さんの体調が安定しているのも、彼の体育会系な元気のよさが作用しているのかもしれない。

 それからも色々と話しながら、私たちは彼の自宅の中へお邪魔していく。
 一般家庭に一度に八人も来て大丈夫なのかとちょっと焦ったものの、どうやら杞憂だったらしい。

 家の中は見た目よりもずいぶんと広い造りになっていて、無駄なものが全くない機能的な造りだった。
 殺風景というわけではなく、恐らく妊娠中の奥さんでも動きやすいようにバリアフリー改装をしたのだろう。通路は広いし、段差などにも気を遣っている。
 彼は攻略対象ではなくなってしまったけれど、その分のステータスが家族のために働いたのかもしれない。良い夫であり、良い父親であるなら、それはそれで素晴らしいわ。

「シエンナはこの奥の部屋だ。あんまり大声出したりはしないでくれよ?」

「あっちょっと待って下さい!」

 そのまま一階の突き当り、一番大きな部屋へ案内しようとしたクロヴィスを慌てて引き留める。
 続けて魔法を発動。効果は『浄化』の魔法だ。今回は身なりを清める目的で。

 赤ちゃんのために環境を整えた病院ならまだしも、私たちは旅をしてきたままだし、その間に魔物とも戦っている。
 当然そんな体で、産後の奥さんや産まれたての赤ちゃんに会うわけにはいかない。

「完全にではありませんが、皆さんの体を清めました」

「へえ、神聖魔法ってこんなこともできるんだ」

 小さな光の粒子が舞って、皆の姿が清潔になっていく。
 ……どこかの誰かさんが『汗くさいからくっつくな』って頼んでも聞いてくれないものだから、戦闘以外の魔法も頑張って覚えてしまったわ。
 せっかくなのでもう少し精度を高めて、お風呂に入れない時などに重宝する魔法にしていきたいわね。

 そんなこんなで、私の目的の一つであった『攻略対象の赤ちゃん』とご対面になったのだけど――

「かっ……可愛いいいいいい!!」

 はい、正直言います。舐めてました。
 おっとりとした優しげな奥さんに抱かれていたのは、この世のものとは思えないほど可愛いイキモノ。天使なの? 妖精なの? そりゃあクロヴィスも親バカになるわよ!!

「なにこれ、ほんっとに可愛い!! 頭からつま先まで全部可愛い!! これはもうおがむべきかしら!?」

「落ち着いてアンジェラ、赤ちゃんびっくりしちゃうからね」

 うっかり我を忘れてしまった私の肩を、どうどうとジュードが撫でてくる。そう言われても、可愛いものは可愛いのだから仕方ないわよ!
 くりっとした白目の少ない焦げ茶色の目が、きょとんとした様子で私を見つめ返してくれる。髪はまだぽやぽやだからわからないけど、目の色はクロヴィスゆずりらしい。
 可愛すぎて、もう上手く説明できない。『可愛いは正義』本当にこれにつきるわ。

「……なんというか、お前にもちゃんと女らしい部分はあったんだな」

「聞こえてるわよ、外見詐欺師! ほら、よく見てみなさいよ、この可愛さ! ふわっふわのぷにっぷによ!? 天使以外の何だというの!?」

「そうだそうだ!! 俺の娘は天使だぞ!!」

 若干引いた様子のカールに、思わず頭の悪い反論をしてしまう。クロヴィスの親バカを増長させるつもりはないけど、本っ当に可愛いもの。
 小さい手、小さい足、体の割りに合わない大きな頭。どこもかしこももっちりぷにぷにな肌で、思わず頬擦りをしたくなってしまう。

「アンジェラがここまで子ども好きとは思わなかったが……おい黒いの、これは期待できるかもしれんぞ?」

「いや、でも……僕の子だと多分、肌も髪も僕の色が出てしまうでしょうから……」

 テンション高く天使を眺めていたら、背後からノアとジュードの微妙な会話が聞こえてきた。
 確かに、遺伝は基本的に濃い色が優性だ。全体的に薄い色の私とジュードなら、髪も肌も目もジュードの色が出やすいだろう。
 けど、それが嫌かと聞かれれば、私はむしろ大歓迎だ。

「ジュードも可愛い子作れる? このもちぷにな天使を作れる?」

「君の子なら間違いなく可愛いと思うよ。その子に負けないぐらい」

「よし、作ろう!!」

「つくっ……アンジェラ!?」

 勢いで親指を立てて見せれば、ジュードはもちろん他の皆までざわっと驚きを見せた。
 だって最近、魔物とか死体とかロクなものと会っていないんだもの。カールはおばけちゃんを譲ってくれないし、正直そろそろ癒しの存在が欲しい。
 戦うのは嫌いじゃないけど、そこに癒しはないからねえ。

「アンジェラ殿、子作りは馬車で止めたよね?」

「私も癒しが欲しいんですよ、殿下……」

 ……ま、当然子作りは冗談だけど。
 癒しが欲しいのは本当なので、戦う旅に連れて行っても平気そうなペットとか、そろそろ見繕うのもありかもしれない。

(赤ちゃんかあ……いいなあ、可愛いなあ)

 視線を戻せば、小さな天使はあうあうと赤ん坊特有の声を出しながら、奥さんの手にじゃれている。その光景はどこまでも平和で、幸せそうで……守りたいと思えるものだ。
 ――いつか、私もあんな母親になれる日がくるのだろうか。

「……今はまだ、戦わなくちゃ。この可愛い可愛い天使の未来のためにもね」

「ん、そうだね」

 思ったよりも重い声が出てしまったと思えば、ジュードの手が肩から頭へ移動していた。
 ぽんぽんとあやすように撫でる手つきが温かくて……きっと彼も良い父親になれると思う。娘が産まれたら、とんでもない親バカになりそうだけどね。


 それからしばらく、私たちは可愛い可愛い天使と交流をして、問題もなく宿へ戻る――――はずであった。

「クロヴィス! クロヴィス、いないかしら!?」

 玄関の扉がノックもなしに勢いよく開けられ、クロヴィスを呼ぶ女性の声が響き渡る。

 突然のことに私たちも慌てて部屋から出れば、そこには二十代ぐらいの女性が立っていた。
 白茶色の短めの髪に、色白でやや細身。ゲームでは見たことのない人だけど、どことなく雰囲気が奥さんに似ている気がする。
 肩で息をする彼女は、ずいぶんと慌てた様子だ。

 ――――ああ、そして、そこには。

「サリィじゃないか。そんなに急いでどうした?」

 私たちから少し遅れる形でクロヴィスが顔を見せると、女性……サリィとやらの顔がぱっと喜びに染まった。

「よかった居てくれて! 街外れでまた魔物が出たみたいなの。近所の人たちが対応してくれているけど、手伝ってもらっていいかしら!?」

「おいおい、またかよ! 仕方ない……悪いがお前たちも手伝ってくれないか?」

「そりゃもちろん。オレたちは魔物を倒すための部隊だからな」

 来た時は平和な街に見えたのに、“また”と呼ぶような頻度で魔物が発生しているのだろうか。
 ほのぼの空気はかき消えて、皆の顔が凛々しいものになっていく。クロヴィスも親バカから騎士らしい顔つきに変わっており、応えたダレンもやる気十分な雰囲気だ。

「せっかく遊びに来てくれたところ悪いな。もう少し付き合ってくれ。サリィはここでシエンナたちと留守番を頼む」

「わかったわ。気をつけてねクロヴィス」

 どうやら彼らは親しい間柄のようだ。ごく当たり前のように、奥さんと赤ちゃんを彼女に任せた彼を見て――

「ディアナ様、すみません。ここに残ってもらえますか?」

 それを遮るように、私は提案を口にした。

「む? 我が残るのか?」

「はい。女性だけのお宅に、男を置いていくわけにはいきませんから。ディアナ様は、クロヴィスさんの同僚だったと聞いていますし」

「それはそうだが……」

 まさかの人選に、クロヴィスも言葉を濁している。
 ディアナ様は外見の素晴らしさはもちろん、実力も随一のお方だ。当然本来ならば、戦場の最前線に行ってもらうべきなのだけど。

「――――」

 理由をこっそりと耳打ちすると、ディアナ様はほんの少しだけ眉を動かした後、しっかりと首肯を返してくれる。
 さすがは私の女神様。状況の把握が早くて助かるわ。

「……あいわかった、引き受けよう。そちらも気をつけてな、アンジェラ殿」

「はい。急いで戻りますので、あの可愛い天使とそのお母様をお願いいたします」

「うむ、任された!」

 ドンと叩かれた胸の甲冑から大きな音が響く。
 我が部隊の最強戦力を置いていくのだ。これで彼女たちの身は確実に安全だろう。
 二人でしっかりと頷きあい、残りの皆とともにファンシーなお宅を後にする。

(全く、腹立たしい話だわ。せっかく天使と楽しい時間をすごしていたっていうのに!!)

 街の中は来たばかりの頃とは違い、不安げにざわついている。これが私たちの仕事とはいえ、憩いの一時を邪魔されるのはやっぱり面白くないわ。
 ――ましてや、“本来ならば何も起こらなかった”ということなら、なおさらに。

「【混沌の下僕】……こんなところでまでお目にかかるなんてね」

 状況の深刻さにかぶりを振って、私は走る足を少しだけ速めた。
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