転生しました、脳筋聖女です

香月航

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STAGE12-02

 馬車に揺られること三日ほど。途中で立ち寄る宿場にて、身分やら何やらを誤魔化しながら続けた旅は、ひとまずの目的地である街・ドネロンにてようやく小休止を迎えた。

「おお……王都からそんなに離れていないのに、ガラッと雰囲気が変わったわね」

 距離だけならキュスターともそう変わらないのだけど、さすがに邪神信仰を根底に置く村とはおもむきが違っている。
 それなりに大きな街だけど、王都と比べて雰囲気がとても長閑だ。建物も高くても二階建てまでで、全体的に平たい印象を受ける。

「ああ、なるほど。この辺りは風の精霊の加護があるのか」

 馬車の窓からひょこっと覗いたノアが、眼鏡を光らせて呟く。そういえば、街道を走っていた時から風が気持ちよかったわね。
 神様以外の加護はあまり見ないのだけど、ここにあるのが風の精霊が与えた加護なら、空気の心地よさも納得かもしれない。
 周囲をよく見れば、丘の辺りに風車がいくつも建っている。地球のように発電目的ではないのなら、風を農業に使うためのものだろう。

「この辺りは『鳥』が主産業だからな。空気管理が重要だし、ぴったりなんだろう」

 ゆったりと景色を眺めていれば、ダレンが馬車に近付いて教えてくれた。
 鳥……つまり養鶏ようけい産業だ。一応地球のニワトリとは違う鳥だけど、お肉の味はよく似ていたし、外見もニワトリなので同じ扱いとしよう。
 ダレン曰く、今見ている一般的な『街』の部分はだいたい半分ぐらいで、残りは養育場らしい。

「……ということは、ここでのご飯は鶏肉と卵に期待しても良い感じですかねっ!!」

「おう、大丈夫だと思うぞ。クロヴィスも鶏肉料理だけはやたら上手かったしな」

 年頃の女子らしくない発想とはわかっているけど、私に女子力がないことなど周知の事実。はっきりと願望を伝えれば、ダレン以外の皆からも笑いがこぼれた。

 別に私の食い意地がはっているわけではなくてね。地域によっては入手しづらい食材もあるわけよ、この世界。お城では何でも食べられたけど、外に出てしまえばそうはいかない。
 だが、特産品なら量にも味にも期待できるというもの! 楽しみに思うのは当然でしょう。
 グルメ旅をしているわけではないけど、せっかく長旅に出たのだから、その土地の美味しいものを食べたいじゃない。皆の士気も上がるはずだわ。

「さっ、とりあえず宿を探しましょうか! できれば、ご飯の美味しい店に近い宿を!」

「そうだね。ちなみに、皆さんはそのクロヴィスさん? のお宅はご存じなのですよね?」

「確認してきたから大丈夫だ。宿はそのまままっすぐ行って右に曲がってくれ」

 ここまで平和にこられたせいか、私たちの雰囲気まで『久々の知人に会いに来た』小旅行のようなノリになっている。
 ラスボス退治の旅とはとても思えない会話を交わしながら、馬車はゆっくりとドネロンの通りを走っていった。



 それからすぐに宿は見つかり、馬車を預けたり手続きをしている最中のこと。

「おーい、お前たちー!!」

「ん?」

 なんだか妙に元気な声に呼ばれて、部隊の全員がそちらへ視線を向ける。
 視界に飛び込んできたのは、ディアナ様によく似た燃えるような赤い髪だ。

「おっ、わざわざ来てくれたのか」

 ダレンの弾んだ声に続いて、ディアナ様や王子様も手をふって挨拶を返す。

(あれは……やっぱり)

 さすがに騎士団の制服は着ていないけれど、私服でもわかるがっしりと鍛えられた体格。
 一つに結んだ髪は肩を少しすぎる程度。男らしい精悍な顔つきは、ややキツイ印象だけど整ったものだ。
 ――彼の『ゲームでの役割』を考えれば当然だろう。

「久しいな、クロヴィス」

「姐さんも元気そうで何よりだ!」

 近付いて来た彼は、ディアナ様と熱い握手を交わしている。
 かつての乙女ゲームでは、『戦隊もののレッド』なんて呼ばれていた彼――元攻略対象のクロヴィスは、正しくヒーローっぽい人好きのする笑みを見せてくれた。

「……なんというか、熱そうな人だね」

「体育会系ってだいたいこんなものじゃない?」

 騎士たちが再会を喜ぶ中、面識のない私とジュードは一歩下がって様子を見守っている。
 クロヴィスなんてきれいな名前だけど、彼は『もっと熱くなれよ!!』とか口にしたら似合いそうな、体育会系キャラだった男だ。
 同じ前衛でもジュードは技量系の剣士だから、ちょっとノリが違うのよね。

 ちなみに私たちの他、ノアとウィリアムもちょっと距離をとっている。特にウィリアムなんて、真逆の陰キャラ属性だから少し困惑気味だ。
 逆に、カールはそこそこ近い場所で見守っているので、ちょっと意外だわ。

(……それにしても)

 ――にぎやかに再会を喜ぶ彼らに、違和感を覚えてしまうのは何故だろう。
 彼はクロヴィスで間違いないだろう。整った顔立ちも、どこかで聞いた声も、かつてプレイヤーだった私は知っている……はずなんだけど。

(――――何かが、“違う”)

 それは、仲間になってくれなかったからとか、そういう単純なものではない。
 なんというか……空気というか、存在感というか、そういうものの違いだ。
 私の仲間たちは皆、そういう〝輝き〟があるのだ。人混みの中にいても見つかってしまう芸能人のように。

(だけど……クロヴィスには、それがない?)

 一応でも恋愛を題材としたゲームの攻略対象だもの。つい惹かれてしまうような魅力があって当然なのに、彼にはそういうものが感じられない。
 ちょっと顔のきれいなイベントキャラというほうが納得するぐらいに。

 なんとなく不可解な気持ちを抱きつつも、手招くダレンに頷いて、私とジュードも彼に近付いてみる。
 ――ふと、視界の端に見えたカールが、どこか寂しそうに笑っていた。
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