46 / 113
連載
STAGE12-10
しおりを挟む
――ああ、全くなんてことだ。
廃人プレイヤーだった私が、こんな単純な乗っ取りイベントに引っかかってしまうなんて!
(性格悪いとか言ってごめん、妹さん! 貴女も被害者だったのね)
彼女に会った時に感じた嫉妬は本物だった。きっと彼女はクロヴィスのことが好きで、実の姉に対して嫉妬していたのも事実だ。
でも、だからといって、奥さんや赤ちゃんを害する気はなかったのだろう。――少なくとも、今ここにいる青い目の誰かよりは、マシだったはずだ。
『逃げて』と彼女は訴えてくれたのだから。
サリィの体を使っている誰かは、ニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべたまま、こちらの様子を眺めている。
全身が泥まみれだというのに不快感の一つも見せないのは、泥に関わる存在だからなのか。
――とにかく、こいつは敵だ。間違いなく、私たちの敵だ。
「今すぐ彼女の体から出ていきなさい」
思わず口をついて出た声は、自分のそれとは思えないほどに低かった。
どうやら自覚しているよりも私は怒っていたらしい。使えないとわかっているのに、メイスを掴んでしまうほどに。
『――――はあ?』
クロヴィスに嘲笑を向けていた青い目が、ぐりんと私のほうへ動いた。
体はひどく汚れているのに、その部分だけは妙に美しく輝いている。
私が魔物たちの中に何度も見かけた、あの眼球と同じように。
『出ていけ、ですって? それを、“よりにもよって貴女が”言うなんて……はっ! あははははははははは!!』
「なっ!?」
私を一睨みしたかと思えば、青目の泥女は突然大声で笑い始めた。
先ほどまでの意味深なものではない。本当に、心から笑ってしまったという感じだ。……ちょっと引くぐらいに。
「な、何がおかしいの。笑うところなんてなかったわよ!?」
『おかしいわよ! おかしいに決まっているわ!! だってその台詞は――貴女にこそ言うべき台詞だもの』
「はあ?」
そして今度は、わけのわからないことを言い出した。
『今すぐ彼女の体から出ていけ』――これが、私にこそ言うべき台詞ですって?
「悪いけど、私は産まれてからずっと私よ。この体以外なんて知るわけもないし、貴女みたいに誰かを襲う予定もないわよ」
『それは嘘だわ。だって貴女は『偽者』だもの』
「にせ……」
ふと、その名を呼び続けるカールの顔がよぎった。初めて会った時から今もなお、彼は私を決して名前で呼ばない。
アンジェラは別にいて、そちらが本物である。お前は〝偽聖女〟だと。
――私の他に、本当に『聖女アンジェラ』が存在すると?
「……バカバカしい。アンジェラ・ローズヴェルトはこの私よ」
『貴女がどう思おうと、事実は事実よ。ねえ、貴女は誰なの? いつ自分の体へ戻るの?』
「お生憎様。私はアンジェラ以外の何者でもないし、どこへも行く予定はないわ」
ぎっと泥女を睨み返せば、ニヤニヤと笑っていた彼女からも笑みが消えていた。
頭上には【混沌の下僕】とハッキリ表示されている。こいつは魔物で、私たちの敵だ。
……たとえ思うところがあっても、話に耳を傾けてはいけない。
(全く、カールのせいでちょっと動揺しちゃったじゃない!! そりゃ、聖女様らしくはないけど、この世界のアンジェラは私しかいないわ)
だいたい、私だってなりたくてアンジェラに転生したわけではないのだ。叶うなら、もっと前衛向きの体で産まれたかったとも。
それでも、神様も皆も今の脳筋な私を受け入れてくれている。こんな魔物に怯む理由はないわよ!
『……ああ、全く腹立たしい。良かったわね、クロヴィス。貴方への嫌がらせはここまでよ。と言っても、最初から殺すつもりはないから安心なさい。ただ、貴方のせいで苦しむ人がいるのだと教えてあげたかっただけよ』
「……ッ!!」
そっと自らの体をなぞるように見せつける泥女に、クロヴィスは悔しそうに奥歯を噛み締めている。
彼に嫌な思いをさせるためだけに、サリィの体を泥まみれにして、奥さんや赤ちゃんを襲ったりしたわけか。
この泥女こそ、性格が歪みきっているわね!
「……サリィは、無事なんだろうな」
『無事なように見えるのなら、貴方は頭だけではなく目も悪いのね』
「俺が嫌いなら、俺を狙えばいいだろう!!」
『嫌よ。貴方になんて、触りたくもないわ』
ふん、と心底嫌そうに泥女は目をすがめた。
……確かに、サリィはどう見ても無事ではないけど、今すぐに泥を落とせれば助かる可能性はある。『浄化』の魔法を持っている私もいるからね。
「……ノア、さっきの魔術、まだ撃てる?」
「いつでも」
チラッと視線を向ければ、賢者様から頼もしい返答が聞こえた。
こういうお喋りなヤツは、まず話をさせないことが最善策だ。こいつの正体が泥なら、雷の魔術が効くはず。
サリィを殺してしまう魔術ではないことを信じて、とにかく泥女を黙らせ――
『――ねえ』
「……ッ!?」
ほんの一瞬だった。
ノアへ意識を向けた私の目の前に――泥女が迫っている。
抵抗するヒマもなく、広げられた手のひらがぱんっと私の目元に叩きつけられた。
「痛っ!?」
『私ね、貴女のことは――――殺したいぐらい大嫌い』
「アンジェラ!!」
すぐ傍のジュードが慌てて引き寄せてくれたけど……泥が目に入ったのか、視界はどんどん真っ黒になっていく。
(くっ見えない! 早く浄化の魔法を……!)
視界と共に意識まで落ちていく。ダメだ、私がいないと、サリィが――
『さよなら、偽者のアンジェラ』
とぷん、と粘つく音を最後に、そこで私の意識は途切れた。
廃人プレイヤーだった私が、こんな単純な乗っ取りイベントに引っかかってしまうなんて!
(性格悪いとか言ってごめん、妹さん! 貴女も被害者だったのね)
彼女に会った時に感じた嫉妬は本物だった。きっと彼女はクロヴィスのことが好きで、実の姉に対して嫉妬していたのも事実だ。
でも、だからといって、奥さんや赤ちゃんを害する気はなかったのだろう。――少なくとも、今ここにいる青い目の誰かよりは、マシだったはずだ。
『逃げて』と彼女は訴えてくれたのだから。
サリィの体を使っている誰かは、ニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべたまま、こちらの様子を眺めている。
全身が泥まみれだというのに不快感の一つも見せないのは、泥に関わる存在だからなのか。
――とにかく、こいつは敵だ。間違いなく、私たちの敵だ。
「今すぐ彼女の体から出ていきなさい」
思わず口をついて出た声は、自分のそれとは思えないほどに低かった。
どうやら自覚しているよりも私は怒っていたらしい。使えないとわかっているのに、メイスを掴んでしまうほどに。
『――――はあ?』
クロヴィスに嘲笑を向けていた青い目が、ぐりんと私のほうへ動いた。
体はひどく汚れているのに、その部分だけは妙に美しく輝いている。
私が魔物たちの中に何度も見かけた、あの眼球と同じように。
『出ていけ、ですって? それを、“よりにもよって貴女が”言うなんて……はっ! あははははははははは!!』
「なっ!?」
私を一睨みしたかと思えば、青目の泥女は突然大声で笑い始めた。
先ほどまでの意味深なものではない。本当に、心から笑ってしまったという感じだ。……ちょっと引くぐらいに。
「な、何がおかしいの。笑うところなんてなかったわよ!?」
『おかしいわよ! おかしいに決まっているわ!! だってその台詞は――貴女にこそ言うべき台詞だもの』
「はあ?」
そして今度は、わけのわからないことを言い出した。
『今すぐ彼女の体から出ていけ』――これが、私にこそ言うべき台詞ですって?
「悪いけど、私は産まれてからずっと私よ。この体以外なんて知るわけもないし、貴女みたいに誰かを襲う予定もないわよ」
『それは嘘だわ。だって貴女は『偽者』だもの』
「にせ……」
ふと、その名を呼び続けるカールの顔がよぎった。初めて会った時から今もなお、彼は私を決して名前で呼ばない。
アンジェラは別にいて、そちらが本物である。お前は〝偽聖女〟だと。
――私の他に、本当に『聖女アンジェラ』が存在すると?
「……バカバカしい。アンジェラ・ローズヴェルトはこの私よ」
『貴女がどう思おうと、事実は事実よ。ねえ、貴女は誰なの? いつ自分の体へ戻るの?』
「お生憎様。私はアンジェラ以外の何者でもないし、どこへも行く予定はないわ」
ぎっと泥女を睨み返せば、ニヤニヤと笑っていた彼女からも笑みが消えていた。
頭上には【混沌の下僕】とハッキリ表示されている。こいつは魔物で、私たちの敵だ。
……たとえ思うところがあっても、話に耳を傾けてはいけない。
(全く、カールのせいでちょっと動揺しちゃったじゃない!! そりゃ、聖女様らしくはないけど、この世界のアンジェラは私しかいないわ)
だいたい、私だってなりたくてアンジェラに転生したわけではないのだ。叶うなら、もっと前衛向きの体で産まれたかったとも。
それでも、神様も皆も今の脳筋な私を受け入れてくれている。こんな魔物に怯む理由はないわよ!
『……ああ、全く腹立たしい。良かったわね、クロヴィス。貴方への嫌がらせはここまでよ。と言っても、最初から殺すつもりはないから安心なさい。ただ、貴方のせいで苦しむ人がいるのだと教えてあげたかっただけよ』
「……ッ!!」
そっと自らの体をなぞるように見せつける泥女に、クロヴィスは悔しそうに奥歯を噛み締めている。
彼に嫌な思いをさせるためだけに、サリィの体を泥まみれにして、奥さんや赤ちゃんを襲ったりしたわけか。
この泥女こそ、性格が歪みきっているわね!
「……サリィは、無事なんだろうな」
『無事なように見えるのなら、貴方は頭だけではなく目も悪いのね』
「俺が嫌いなら、俺を狙えばいいだろう!!」
『嫌よ。貴方になんて、触りたくもないわ』
ふん、と心底嫌そうに泥女は目をすがめた。
……確かに、サリィはどう見ても無事ではないけど、今すぐに泥を落とせれば助かる可能性はある。『浄化』の魔法を持っている私もいるからね。
「……ノア、さっきの魔術、まだ撃てる?」
「いつでも」
チラッと視線を向ければ、賢者様から頼もしい返答が聞こえた。
こういうお喋りなヤツは、まず話をさせないことが最善策だ。こいつの正体が泥なら、雷の魔術が効くはず。
サリィを殺してしまう魔術ではないことを信じて、とにかく泥女を黙らせ――
『――ねえ』
「……ッ!?」
ほんの一瞬だった。
ノアへ意識を向けた私の目の前に――泥女が迫っている。
抵抗するヒマもなく、広げられた手のひらがぱんっと私の目元に叩きつけられた。
「痛っ!?」
『私ね、貴女のことは――――殺したいぐらい大嫌い』
「アンジェラ!!」
すぐ傍のジュードが慌てて引き寄せてくれたけど……泥が目に入ったのか、視界はどんどん真っ黒になっていく。
(くっ見えない! 早く浄化の魔法を……!)
視界と共に意識まで落ちていく。ダメだ、私がいないと、サリィが――
『さよなら、偽者のアンジェラ』
とぷん、と粘つく音を最後に、そこで私の意識は途切れた。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
側妃は捨てられましたので
なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」
現王、ランドルフが呟いた言葉。
周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。
ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。
別の女性を正妃として迎え入れた。
裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。
あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。
だが、彼を止める事は誰にも出来ず。
廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。
王妃として教育を受けて、側妃にされ
廃妃となった彼女。
その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。
実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。
それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。
屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。
ただコソコソと身を隠すつもりはない。
私を軽んじて。
捨てた彼らに自身の価値を示すため。
捨てられたのは、どちらか……。
後悔するのはどちらかを示すために。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。